ナタリー PowerPush - 菅野よう子×AKINO

「アクエリオン」を彩る音楽の秘密

7月25日、菅野よう子の新作「LOVE@New Dimension」がリリースされた。同作は、菅野が手がけた2005年放送のテレビアニメ「創聖のアクエリオン」と、2012年の「アクエリオンEVOL」のサウンドトラックから、ボーカルナンバーを中心に収めたコンピレーションアルバム。

「一万年と二千年前から愛してる」というパンチラインと、どこまでもアップリフティングなサウンドが話題を呼び、CDセールス25万枚以上、音楽配信でのダウンロード数300万超を誇った「創聖のアクエリオン」など、AKINO with bless4(AKINO from bless4)の歌うシリーズ2作品のオープニングテーマやエンディングテーマはもちろん、牧野由依による第1作のエンディングテーマ「オムナ マグニ」や、多田葵による挿入歌「鳥になって」などが収録されている。

今回ナタリーでは、その生みの親である菅野と、シリーズ2作のオープニングテーマとエンディングテーマのほぼすべてを歌っているボーカリストAKINOを直撃。2人の出会いや、アクエリオンサウンドの誕生秘話、そして菅野のボーカルプロデュース術まで、大いに語り合っていただいた。

取材・文 / 成松哲

底知れぬ才能を感じて

──おふたりの出会いはいつなんですか?

AKINO 7年前。自分が14歳で「創聖のアクエリオン」のオーディションを受けに行ったときですね。

菅野 もう7年も前か。「『創聖のアクエリオン』ってアニメの音楽を」ってお話があったとき、実はAKINOちゃんの弟で、bless4っていうグループを一緒に組んでいるAIKIくんを見つけていまして。そのときはbless4やAKINOちゃんではなくて、AIKIくんに歌ってもらおうと思っていたんです。そのとき彼は13歳で、素晴らしいボーイソプラノだったので「彼でちょっと何かやってみたいな」なんて思っていたところ……。

AKINO AIKIが声変わりをしてしまって。ボーイソプラノじゃなくなってしまったんです。

菅野 ちょっと声がガラガラし始めちゃってね(笑)。「これは録音が間に合わないかも」ってことになっちゃったんで「最初はコーラスをお願いするつもりだったんですけどbless4の皆さんも、ちょっとオーディションに来てください」なんて呼んで。ほかにもいろいろオーディションをしていたので、その人たちと同じように歌ってもらったんですよ。

AKINO で、菅野さんが私の高い声が好きだって言ってくれたんです。

菅野 高音もそうだし、あとなんというか、底知れぬ才能を感じて。「彼女だったらAIKIくんの代わりじゃなくて、別の地平に行けるかな」と思ってお願いしました。

──底知れぬ才能?

菅野 伸びしろを感じたんです。実はオーディションの前、「AIKIくんで」って考えてたころにbless4のパフォーマンスを六本木に観に行ったことがあって。

AKINO そうだったんですか!? ベルファーレでやったヤツですよね。初めて知りました。

菅野 実はあれをのぞきに行ってたんですよ(笑)。そしたらもう、すっごい踊るんですよ! 飛んだり跳ねたりとか、脚をビョーって上げたりとか。もちろん声もいい。4人ともそれぞれ表現が素晴らしかったので、それを観て結構たまげたんですよね。「なんだこの人たち!?」「私の知らないところにこんな人たちがいたんだ!」って。そして、オーディションのときにも「まだまだ底が見えないな」とも思って。ただ、逆にあまりに肉体的に素晴らしすぎるから「この人たちの存在は、日本という器には大きすぎるな」とも思ったんですよ。

日本人向けにするには、なにか足かせをハメなきゃいけない

──そんなAKINOさんをどうやって日本人仕様に?

菅野 彼女は普段は英語を話すバイリンガルなんですけど「とにかく日本語がうまくならないでくれ」と(笑)。

AKINO 確かに言われました(笑)。最初のレコーディングのとき、私の日本語がおかしかったので、お兄ちゃん(AKINOの所属プロダクションの代表取締役も務める、bless4のAKASHI)が菅野さんに「次のレコーディングまでに日本語直します」って言ったら「直さないでくれ」って言われててビックリしました。だから、直さなかったんです。

菅野 あはははは(笑)。素晴らしい! 多分ホントはもっとキレイに歌いたいと思うの。だからそこはAKINOちゃんにとって難しい判断だったとは思うんですけど、でも、聴いた人に「この人は何人だろう?」と思わせるところは、ちょっと残してほしかったんですよね。「一生懸命日本語を歌ってる感じが欲しいな」と思ったんですよ。これはプロデュースのテクニカルな部分の話なんですけど、この人たちの身体能力がすごすぎて日本人向けじゃないとなったら、これを国内のお客さんに届けるには、なにか足かせをハメなきゃいけない。すごすぎるこの人には、何かご苦労をしていただかないといけなかったんです。ほら、私を含め、日本人って堪え忍ぶ姿が好きだから(笑)。

AKINO 実際、結構大変でした(笑)。

菅野 でも、AKINOちゃんが英語の曲を余裕をもって歌っちゃうと、もう完璧すぎちゃうから、聴いている人は「なんかもう勝手にやってればー」ってなっちゃうんですよ。芸事や芸術って実はなんでもそうで。バレエなんかでも、脚をわっと上げたままの姿勢を保てるだけ保っているのを「うわーっ」って観るみたいな部分ってあるじゃないですか。苦しそうだし大変そうなんだけど、それをやってのける、胸のすくような技術を楽しむところがあると思うんですよ。そういうものを自然に魅せるっていうのがプロデュースのキモでしたね。なのでこの人に関しても、誰もが憧れる音の跳躍や、誰もがすごいと思うロングブレスのような圧倒的な技術を見せつけながらも、自分の言葉じゃない言葉で歌っていただくという無理をしてもらいたかったんです。

──しかも、その日本語の歌詞っていうのが、かなり独特の魅力をもっていますよね。「全力で未完成(「君の神話~アクエリオン第二章」より)」「一万年と二千年前から愛してる(「創聖のアクエリオン」より)」「逆光の降る丘で愛の起源を説いて(「Go Tight!」より)」など、力強い半面、抽象度の高いフレーズを効果的に使っています。

菅野 漢字が多いですよね(笑)。

──日本人すらも「あれっ、どういう意味だ?」と一瞬立ち止まらせてしまうあたりも、人気の秘密のひとつだとは思うんですけど、母語が日本語ではないAKINOさんの場合、言葉の解釈という壁も立ちはだかるのでは、という気がするんですが。

AKINO 確かにすごく不思議な言葉がいっぱいありましたけど、そんなに戸惑いはなかったですね。逆に全部の曲を聴いて、歌詞を見て「すごく印象的だな」と思いました。「アクエリオンEVOL」のオープニングテーマの「パラドキシカルZOO」だったらサビの部分、「絶望的に君はきれいさ」とかってインパクトがあるじゃないですか。かつ菅野さんの作ったメロディが合わさると、絶対に忘れられないフレーズになっていて。聴いたときのことは本当に忘れられないですね。

──ただ、ボーカリストって歌詞のインパクトを楽しむだけではなくて、その「すごく不思議な言葉」に込められた意図や物語が聴き手に伝わるように表現しなければならないわけですよね。

菅野 しなくていいんですよ、そんなの(笑)。

──へっ?

菅野 こっちが伝えようと思わなくても人は受け取るし、伝えようと思っても受け取らないし。リスナーの方が曲を聴いて、成長するなり、感動するなり、イヤだなと思うなり、そういうことは私たちにはコントロールできないこと。こっちの意図なんてさらにどうでもいいんです。伝わるかどうかは聴く側次第。結局のところ、伝えるんじゃなくて、伝わればいいんです。

日本人の歌う日本語とは違う響き

──そして、実際に「創聖のアクエリオン」がアニメソングとしては異例のビッグヒットになり「一万年と~」というフレーズがネットを中心にちょっとした流行語になり、シリーズ第1作の後期オープニングテーマ「Go Tight!」も話題になるほど、きちんとリスナーに伝わった、と。

菅野 だから自分の普段使っている言葉じゃないかもしれないけど、AKINOちゃんの日本語が全然伝わらなかったかといったら、そんなことは全くなくて。むしろものすごく伝わったんですよね、この人の日本語は。それにもしも日本人に「絶望的に……君はきれいさ!」とかって、言葉の意味をわかった上で歌われると、多分キツくなりすぎるんですよ。アクエリオンの詞は言葉が強いから、ややもすると哲学的になりすぎたり、重くなりすぎたり、怖くなりすぎたりしちゃう。でも、この人が歌うとそれがキラめくんです。キラキラするの。この人の歌う日本語って、日本人の歌う日本語とは全然違うと思うし、その響きがすごくチャーミングなんです。すごい魅力なんだから、発音を直さないで。これ以上日本語がうまくならないでね(笑)。

AKINO わかりました(笑)。ただ「創聖のアクエリオン」を多くの人が聴いてくれるようになったばかりの頃は、ヒットしているって感覚がちょっとわからなかったですね。それからちょっとして、友達と道を歩いているときに曲が流れてきたりするようになって、やっと「あっ、自分の歌なんだ!」って思うようにはなりました。うれしいような恥ずかしいような気持ちではありましたけど。

菅野 「私、別にアクエリオンだけの人じゃないし」とは思わなかった?(笑) 「あれ歌って」ってしつこく言われるでしょ。

AKINO ああ、言われますね。

菅野 「私、しばらくこの歌いいわ」みたいにならなかった?(笑)

AKINO 逆に、そういうふうにみんなが聴きたいと思ってる歌だから、ちゃんと歌わなきゃってプレッシャーになって歌えなくなっちゃった時期はありますね。

菅野 マジメだねえ。ホントマジメなんですよ、この人(笑)。

CD収録曲
  1. 君の神話~アクエリオン第二章(「アクエリオンEVOL」前期OPテーマ)
  2. 荒野のヒース(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  3. Go Tight!(「創聖のアクエリオン」新OPテーマ)
  4. パラドキシカルZOO(「アクエリオンEVOL」後期OPテーマ)
  5. 創聖のアクエリオン お兄さまと (「創聖のアクエリオン」OPテーマ[アルバムver.])
  6. プライド~嘆きの旅(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  7. オムナ マグニ(「創聖のアクエリオン」EDテーマ)
  8. ニケ15歳(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  9. a tot(「アクエリオンEVOL」より)
  10. 鳥になって(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  11. Unforgettable(「アクエリオンEVOL」より)
  12. 昇天唱歌(「アクエリオンEVOL」より)
  13. イヴの断片(「アクエリオンEVOL」挿入歌)
  14. 光のカデンツア(「アクエリオンEVOL」より)
  15. 月光シンフォニア(「アクエリオンEVOL」前期EDテーマ)
  16. 残響encore(「アクエリオンEVOL」より “シュレードのピアノ曲”)
  17. ZERO ゼロ(「アクエリオンEVOL」挿入歌)
  18. Genesis of LOVE~愛の起源(「創聖のアクエリオン」OPテーマ[EVOL版New Ver.])
[M01, 04, 05, 18]
歌:AKINO with bless4
[M02, 03, 06, 08, 13, 17]
歌:AKINO from bless4
[M07]
歌:牧野由依
[M10]
歌:多田葵
[M12]
歌:聖天使学園男子部有志
[M15]
歌:AKINO&AIKI from bless4

全作曲・編曲:菅野よう子

菅野よう子(かんのようこ)

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作曲家 / 編曲家 / プロデューサー。早稲田大学在学中にロックバンド、てつ100%のキーボーディストとしてデビュー。バンド解散後より作曲 / 編曲 / プロデュース業を行うようになる。SMAP、今井美樹、坂本真綾、小泉今日子、T.M.Revolution、湯川潮音、元ちとせといったさまざまなアーティストを手がけるほか、CM音楽のジャンルで多数の広告音楽賞を受賞。アニメ作品のサウンドトラックも数多く手がけ、国内外で熱狂的なファンを獲得。2005年には作・編曲を手がけたアニメ「創聖のアクエリオン」のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」が大ヒットを記録した。2012年にはこの続編となるアニメ「アクエリオンEVOL」で再び音楽を担当。7月25日には両シリーズのテーマソングや挿入歌などを収めたアルバム「LOVE@New Dimension」がリリースされた。

AKINO(あきの)

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1989年生まれ。沖縄出身の両親を持ちながらもアメリカで生まれ育つ。1997年に帰国後、兄AKASHI、姉KANASA、弟AIKIとのユニット「bless4」として2003年5月にメジャーデビューを果たし、2005年にはアニメ「創聖のアクエリオン」のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」でソロデビュー。2012年1月より放送された続編アニメ「アクエリオンEVOL」では、AKINO with bless4名義によるオープニングテーマ「君の神話~アクエリオン第二章」「パラドキシカルZOO」や弟AIKIとのデュエットによるエンディングテーマ「月光シンフォニア」などでボーカルを担当した。