生に対する獰猛なまでの執着は、一旦あきらめた人でないとなかなか湧かない感情
の子 今回、戸川さんに何を歌ってもらうか考えたときに、「グロい花」を歌っているところを想像したら一番しっくりきたんですよ。結果的に想像以上のものができあがりました。
戸川 「歌ってください」と言われたときは、正直「私でいいの?」って不安でした。熱狂的なファンをお持ちのバンドなので、の子さん以外の声、とくに私なんかはいらないと思っている人も多いんじゃないかって。でも、私が大阪でライブをした日に情報解禁の日時を合わせてくれたので、かまってちゃんの曲に参加するってそのライブ中に告知したら、客席から拍手が起きまして。
みさこ うれしい……!
mono(Key) 何よりです。
戸川 あとでXを見たら「戸川純が『グロい花』を!」みたいな反響がたくさん並んでたから安心しました。
の子 ちゃんとXって言うんですね(笑)。
戸川 お客さんの言葉を参考にするために、ライブが終わったらXをチェックしてるんですよ。昔はレビューとか一切読めなかったんですけどね。いいことばかりズラーッと書いてあっても、1個でもけなしてるコメントがあるとすごくつらくなっちゃうから。
みさこ わかります! 99%いい意見がある中で、1%ネガティブな言葉があるだけで気になっちゃう。
の子 戸川さんは過去にもカバーをよくやっていて、僕はThe Velvet Undergroundの「All Tomorrow's Parties」のカバー(2000年発表の「20th Jun Togawa」収録)がすごいなと思っていたんです。だから今回も絶対すごいものになるだろうと確信してました。レコーディング中も戸川さんからは学びがありましたね。
みさこ 歌詞を1つひとつものすごくしっかり解釈して歌ってくれて。私、2サビを聴いているときに泣いちゃったんです。
の子 そう、隣で泣き始めるから僕もつられて……(笑)。
──自分たちの曲を大好きな人に歌ってもらえている、という感慨もあったんですかね?
みさこ いや、いちファンとして聴いていたので、自分たちの曲というよりただ「好きな曲を歌ってくれてる」って感覚でした。
の子 そうね。もう、完全に戸川さんの曲、戸川さんの表現になっていたので……この人を好きになってよかったなって思いました。
戸川 純粋にうれしいなあ(笑)。
mono 僕も戸川さんのレコーディングのときに「うわー! なんだ今の! すげえ!」って気持ちになったんですよ。そしたらまったく同じタイミングでみさこさんが泣いてて(笑)。だからたぶん、これを聴く人はみんな同じ部分でグッとくるだろうと思う。それくらいのエネルギーがあった。
ユウノスケ(B) 自分はほかの人のボーカル録りを見せてもらう機会が今までなかったんですけど、立ち会わせてもらってすごいなと感じたのは、戸川さんの表現力と、その使い方というか。「ここでそういう歌い方をするんだ!」という。
の子 ああ、「表現の使い方」っていうのはすごくわかるな。戸川さんってすごくかわいい人で、そこが独自なんですよ。ロックやパンクの人がただガチャガチャ暴れるのとは違って、戸川さんはかわいさをも解放する。かわいさって、僕はすごく大切な要素だと思うんです。
みさこ そうそう、演技をするようにいろんな歌い方をしていても、戸川さんは根っこの部分にずっと少女がいるんですよね。だから「グロい花」を聴いていても「なんでこんな純粋な人がかわいそうな目に……」って悲しい気持ちになってしまう(笑)。
の子 確かに「少女」っていうワードはすごくしっくりくるね。
──戸川さんは1曲の中でも歌い方や声色をどんどん変えていくイメージがありますが、それは歌詞に合わせて演じている部分もあるんでしょうか?
戸川 演じるというよりも、曲に忠実に歌おうとしてるだけ。「グロい花」の場合は、ファルセットとかビブラートとかそういう技術的なことをすべて取っ払って、何も飾らずに歌おうとしたら子供みたいな声になりました。
mono それが本当に素晴らしかったです。
戸川 例えば部分的にオクターブを変えた声を重ねるとか、そういうのも違うなと思ったんです。ただただまっすぐ伸びやかに歌ったほうが、嘘のない無垢な心が伝わると思って。で、最後の「もうどーでもいいんですけどねっ」だけラジオボイスにもしてもらって別人のように歌いました。もちろんどっちの声も自分なんだけど、あきらめたときの私はこういう人格になる、というイメージ。「この歌い方でいいのかな?」と迷ってたんですけど、リハをやってるときにみさこちゃんがこの部分を「すごい絶望的……」と言ってくれたので、私はその歌い方でいくことにしました。
──なるほど。
戸川 で、録り終わったのを聴いてみたら、リズムを無視して歌ってたんですよ。「ああ、絶望すると私はオンタイムで歌わなくなるのか」って気付きました(笑)。リズムセクションの人に申し訳ないから、歌い直そうかなと一瞬思ったんですけど、の子さんたちが泣いてくれてるから「いや、これでいいのかな……?」って(笑)。
みさこ 私はドラマーの立場で見て、逆に「ボーカルは縦にそろえないほうが心に響くこともある」と思ってるんですよ。だからミックスの作業のときに「ここは声が遅れたままのほうが感情が伝わるはずなので、そのままにしてください」ってよく言ったりします。自分の演奏も、ラストのサビにかけてもっと盛り上げたいときに、あえてテンポを落としたりしますし。
戸川 そうなんだ! 落とすのは意外だな。私はそういうのしたことなかったから。でも確かに、2コーラス目が終わってからの間奏で、曲調が激しくなって、私がちょっとリズムキープできなくなってるのと相まってるのがすごく好き。
みさこ 崩壊しつつあるというか。
戸川 そうそう、崩壊しかけてる感じ。うまいこと言うね(笑)。
──「あきらめ」といえば戸川さんが書く曲も、「諦念プシガンガ」しかり、あきらめを感じさせる歌が多い印象があります。
戸川 「赤い戦車」で「赤く輝く血は源泉 死人じゃないってこれほどまでに確信する色」と歌っているように、私は生に対する獰猛なまでの執着を曲にしているんですけど、でもそれって、一旦あきらめた人でないとなかなか湧かない感情だと思っていて。人間も動物である以上、どんなにあきらめても生存本能を持っているものですからね。
の子 ああ……それはよくわかります。神聖かまってちゃんの曲もまさにそんな感じなんです。代弁していただいてるみたいな気持ちになりました。
戸川さんの歌が乗っかったときにどう化けるかが何より重要
みさこ 今回は戸川さんの歌がより映えるように、編曲もかなり変えてるんです。「整えるところは整えつつ、なるべく狂気は減らさない方向で」って話し合いながら。
の子 それによって楽曲がますます素晴らしいものになりましたね。
戸川 すごく豪華なアレンジにしてくれてありがとうございます。私もこの曲にはストリングスが入るとよさそうだと思っていたので、解釈が一致した感じです(笑)。ビョンビョンビョン、っていうピッチカートも大好き。
の子 それはよかったです。
戸川 ただ、ほとんどの人は聴き慣れたアレンジを良しとするじゃない? 原曲は頭からノイジーなギターがジャーン!って鳴ってたけど、あれがないのは寂しいと思う人もいるのかな?と思って。
みさこ でも、かまってちゃんの曲って、けっこうそういうこと言われがちなんですよ。「バンドで演奏した音源よりも、の子さんが1人で作ったデモのほうが好き」とか。
の子 今回はやっぱり、戸川さんの歌が乗っかったときにどう化けるかが何より重要だったので。実際に戸川さんのボーカルが乗ったら我々の想像を超えるミラクルがあったので、よかったですよ。
ユウノスケ ベースもストリングスに馴染むように、2サビのあとのフレーズとかけっこう変えましたね。スタジオで聴かせていただいた戸川さんの歌声も意識しながら弾かせてもらいました。