木村カエラ「MAGNETIC」インタビュー|豪華メンバーと引かれ合い、引き寄せ合って完成した約3年半ぶりアルバム (2/2)

私ってこういう歌も歌えるんだ

──「ノイズキャンセリング」と「ありえないかも」の作詞作曲はカエラさんです。この2曲はご自宅にいたときに感じたことがそのまま反映された、プライベートな質感のある作品だなと感じました。

まさに「ノイズキャンセリング」を思い付いたのは、家の台所で鼻歌を歌ってるときでした。さっき「ニュースを見て悲しい気持ちになりそうなときは、そういうものを見ないようにする」とお話しした通り、そういう意味合いでノイズキャンセリングという言葉が出てきたんです。「ノイズキャンセリング機能駆使して出かけた」という歌詞も、よく考えるとヘンテコだと思うんですけど、そういうメロディと歌詞が鼻歌で出てきて、そのインパクトが強すぎたからこのままいくことにしました。私はデビュー当時からずっと“心”をテーマに歌詞を書いているんですけど、「ノイズキャンセリング」は心ともう一度向き合った曲でもあります。ピンチのときは心が「もうやめて!」と言ってるはずなんだけど、そういうときにノイズキャンセリングしないで無理すると心が石になって固まったりどっかに行っちゃったりする感じがして。だから自分で自分を保つために書いた曲でもありますね。

──「ありえないかも」はどのようなシチュエーションで作られた曲なのでしょうか。

これはお休みの日にベランダに洗濯物を干して、ピアノを弾いてたら雨が降ってきて。「げ!」と思って。もういいやーって感じになったのをそのまま歌にしました(笑)。

──日常の風景を切り取った素敵なラブソングだと思いました。

本当ですか? よかった。女の人はみんな「この歌すごくいいですね」と言ってくれるんですけど、バンドメンバーや男性は「不安になる」って言うんです。アレンジしてくれたテリー(中村圭作)にも「最後の音、めちゃくちゃ曖昧だね」と言われて。「この曲は相手のことが好きなのか嫌いなのかわからなくて不安になる。浮気の歌?」みたいに言ってくる人もいて。私は日常から生まれる究極のラブソングだと思ったんだけど、人によって捉え方が全然違うので面白いですね。

木村カエラ

──「たわいもない」はiriさんをゲストに迎えた楽曲です。

この曲は「MAGNETIC feat. AI」の次にレコーディングしたんですけど、またコロナの感染者数が増えているときだったので、リモートで打ち合わせをしてデータのやりとりをさせてもらいました。なので直接はお話ししてないんですけど、もともと同じ事務所だということもあって近しい人がたくさんいるから、そんなに離れている感覚はなかったですね。「カエラさんには突拍子もない、もうわけわかんないリズムのものを歌ってもらいたい」と、言ってくれて。

──タイトルの「たわいもない」という言葉が歌詞にたくさん登場しますけれども、同時に「愛」という言葉も出てきますね。

ねえ? iriちゃんは何を思ってこの言葉を書いたんだろう。「たわいもない」と「愛」で音遊びをしてるのか、iriちゃんが私から感じ取ったイメージなのか……歌詞の意味を自分なりに読み取りながら歌いましたね。今度会ったときに直接真意を聞こうと思ってます。

──「MAGNETIC feat. AI」もそうでしたが、言葉をいろんなリズムに乗せていくところもカエラさんの新たな挑戦の1つかなと思いました。

BIMくんと一緒にやった「ZIG ZAG feat. BIM」で初めてラップに挑戦したときに「めちゃくちゃ面白いじゃん!」と思って。昔からおまじないみたいな言葉がすごく好きなんですけど、「韻を踏めるか踏めないか」とか「1回つまずいたらもう言えない」みたいなところが、「まるでおまじないみたい!」と思って。「たわいもない」はノリが後ろで、あまり歌ったことのないグルーヴ感の曲なので、ムズっと思いながらも(笑)、いろいろ勉強になりました。「あ、私ってこういう歌も歌えるんだ」という新しい発見がありましたね。

──おまじないといえば、7曲目の「ABRACADABRA」なんてタイトルからして、まさにおまじないですね。

笹川真生さんの「食虫植物」という曲が大好きで、今回初めてオファーさせてもらったんですけど、めちゃくちゃ難しいメロディを作ってきてくれて。リモートで打ち合わせをしたときに「カエラさんがどんな詞を書いてくれるのか本当に楽しみで、盛り上がったらこうなっちゃいました」と言ってました(笑)。しかもボカロで作られているメロディで、そもそも人間が出してる音じゃないから、歌詞を書くのが難しくて。音が人間の声になったときにどういう歌詞ならきれいに聞こえるのか、すごく苦労した挙げ句、結局おまじないが出ました(笑)。ボカロに合わせて歌詞を書くのも初めてだったので、この曲も新しいことに挑戦した曲ですね。

木村カエラ

GREAT3オリジナルメンバー集結

──8曲目は「カスタネット」です。玉置周啓さん(MONO NO AWARE、MIZ)との出会いもとても面白いものになりましたね。

MONO NO AWAREの曲を聴いて、「現実なのか夢なのかわからない感じがいいよね」と思っていて、以前からずっとご一緒したかったんです。それで今回お願いしたら、すぐに曲を上げてきてくれて。最初はすごく短い部分しかなかったんですけど、聴いたらやっぱりヘンテコで最高でした(笑)。しかも、そのあと届いたデモで玉置さんが歌っていた仮歌に「カスタネット」という言葉が入っていたんですよ。「えっ? これマグネットと同じ青と赤じゃん!」と思って。

──偶然だったんですか。

そうなんです。私、何も言ってないんですよ。あまりにぴったりすぎるから、これも運命だなと思って、そのまま使わせてもらうことにしました。コロナ禍以降のライブで、みんなが声を出せない光景をステージから見てきたので、カスタネットをグッズで作って、みんなでカチカチ鳴らせる歌にできればいいな。超うるさいだろうけど(笑)。「カスタネット」はライブを意識して作った曲なので、この曲でみんなに「今日はいい日だったねー!!」と伝えられればいいなと思います。

──GEZANのフロントマンであるマヒトゥ・ザ・ピーポーさんとのコラボ曲「Color Me feat. マヒトゥ・ザ・ピーポー」は、tvk開局50周年ソングとしてすでに耳にされている方も多いと思います。この曲はレコーディングの参加メンバーも超豪華ですね。

そうなんですよ。気付きました?

──サウンドプロデュースが片寄明人さん、ドラムが白根賢一さん、ベースが高桑圭さんとGREAT3のオリジナルメンバーがそろったうえに、キーボードが堀江博久さん、ギターが名越由貴夫さんとマヒトさん、ミックスがzAkさん、マスタリングがテッド・ジェンセンという豪華な顔ぶれです。

マヒトくんとはプライベートでも親交があるので、2人で何時間も話し合いながらすごく自然な形で作っていくことができました。アコギで作ったデモ音源しかなかったときに「この曲はちょっとGREAT3っぽさがあったらいいよね」という話になり、片寄さんにプロデュースをお願いしようと。だったら、演奏をGREAT3にお願いできないかな?と思い切って相談してみたら、GREAT3が集結したんです! みんな「ひさしぶりー」みたいな感じで和気あいあいとした素晴らしいレコーディングでした。

──この曲はメロディのよさに加えて、ギターの轟音もたまらないものがあります。

最初は片寄さんがギターを弾くはずだったんですけど、結局マヒトくんが弾くことになったり、けっこうめちゃくちゃで面白かったです。片寄さんが「僕ギター下手なんだよね。絶対マヒトくんのほうがうまいから、マヒトくん弾いてよ」と言っていて、気付いたらマヒトくんが弾いてました(笑)。マヒトくんは、最初はとっつきにくい感じがしたんですけど、何回も家に遊びに来るうちに、「あ、すごい純粋な人なんだな」「優しい人なんだな」というのがだんだんわかっていって。この曲もマヒトくんのおかげでとても素敵な曲になりました。

2024年は20周年なんです

──1曲目の「ワレワレワ?」とラストの「S↔N」は、Open Reel Ensembleが手がけた摩訶不思議な曲です。この「S↔N」はどう発音すればよろしいですか?

「エスからエヌ」と読みます。もともと私は、Open Reelさんに作ってもらった曲を2つに分けて、オープニング曲が「ワレワレワ? S」、エンディング曲が「ワレワレワ? N」というタイトルで、その間に挟まれてるのが“MAGNETICに捕まった楽曲たち”というイメージを持っていたんです。でも作っているうちに、この曲は分割しないで1曲丸ごとのほうがカッコいいんじゃないかという結論に至りまして。それで急遽新たなオープニング曲として「ワレワレワ?」を作ってもらいました。Open Reel Ensembleは同じ事務所なんですけど、私はそれを知らなかったんですよ。「最近面白い人、誰かいるかな?」みたいな話をしてるときに、オープンリールのテープレコーダーを楽器として演奏する人がいると聞いて。しかも同じ事務所だと知って、びっくりしました。会ったときに私が「ワレワレワ」と言ったら、それをOpen Reelさんが気に入ってそのまま使ってくれたんです。このコラボもすごく楽しかったですね。

──アルバムを聴いているとライブへの期待も膨らみますし、ピースフルな気持ちになれる作品なので、クリスマスプレゼントにしていただきたいですね。

いいこと言いますね(笑)。たくさんの人に聴いていただけたらうれしいです。

──今年を振り返る時期ですけれども、2023年の活動に向けてどんなことを考えていますか?

2022年はひさしぶりに有観客ライブができて、とにかくお客さんの前で歌を歌えたことが自分にとってめちゃくちゃ元気が出るきっかけになりました。コロナで2、3年何もしなかった時期もあって、いつの間にか再来年がデビュー20周年になっちゃうので、19周年は今まで応援してくれた人たちに感謝の気持ちを込めて、コロナで回れなかった地域にも行けたらいいなと思っています。ライブでもいいし、なんでもいいんですけど、とにかく「2024年は20周年なんです」と言いに行きたいなと考えているところです。

木村カエラ

ツアー情報

木村カエラ ライブハウス Tour 2023"MAGNETIC"(仮)

  • 2023年5月11日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • 2023年5月25日(木)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2023年6月7日(水)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2023年6月9日(金)福岡県 DRUM Be-1
  • 2023年6月18日(日)北海道 cube garden
  • 2023年6月23日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

木村カエラ(キムラカエラ)

東京都出身の女性シンガー。テレビ番組「saku saku」への出演をきっかけに、2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビュー。2005年3月発売の3rdシングル「リルラ リルハ」が大ヒットを記録し、一躍全国区の人気を獲得する。2006年には再結成したサディスティック・ミカ・バンドにボーカルとして参加した。2007年6月に初の東京・日本武道館公演を成功させたほか、2009年7月に神奈川・横浜赤レンガパーク野外特設ステージにてデビュー5周年記念ライブを行い、約2万2000人を動員。同年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場し、ヒット曲「Butterfly」を披露した。2013年にはビクターエンタテインメント内にプライベートレーベル・ELAを設立。2019年6月にメジャーデビュー15周年を迎え、デビュー日である6月23日に日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)にてアニバーサリー公演を行った。2022年12月に11thアルバム「MAGNETIC」をリリースした。

衣装協力
ジャケット、スカート / Vivienne Westwood RED LABEL
シューズ / FABIO RUSCONI

2022年12月15日更新