自分の経験があったから創れた作品
──アルバムの初回限定盤Aに付属するマンガは、じんさんと共に「NIRVANA-ニルヴァーナ-」を手がけているZOWLSのメンバーである沙雪さんが作画を担当しています。
マンガで描かれているテーマも、沙雪先生に描いてもらったことにもちゃんと意味があって。3年ぐらい前にすごく落ち込んでいて、作品を創ることに対する意味が見出せなくなってしまった時期があったんです。その時期に沙雪先生との対談のお話をいただいて。沙雪先生はマンガ版の「カゲロウデイズ」を連載していた「コミックジーン」で活躍していた方で、もちろん僕も作品を読んでいたから対談させてもらったんです。そのときに沙雪先生から「一緒に何かやりませんか?」と誘っていただいて……当時の僕は「世界中から嫌われてる」と思ってしまうほどの精神状態だったので、声をかけてもらったことですごく救われて。僕が今こうやって音楽を創れているのは、ホントに沙雪先生のおかげだと思っています。
──初音ミクのお話のときにもちょっと出てきましたが、じんさんはなぜ「周りに嫌われている」と思ってしまうんでしょうか? 傍から見れば「カゲロウプロジェクト」のメディアミックスで大成功を収めたクリエイターであり、たくさんの人にじんさんの作品が受け入れられたと思うのですが。
なんででしょうね(笑)。応援してくれる人やファンの方がたくさんいるのもわかってるんです。でも、僕って作品を創るためにけっこう周りのことを疎かにしてきた人間でもあって、例えば田舎の友人とはずっと連絡を取ってないし、同窓会にも呼ばれないし、かと言ってクリエイター仲間の人もそんなにいないし……すみません、なんだか暗い話になってしまって。
──いえいえ。
それこそ「カゲプロ」を始めてから、周囲の人が僕とちょっと距離を置いているなって感じるようになって。プロジェクトがどんどん大きくなって毎日忙しくなっていく中で、僕の周囲2mだけが真っ暗だなって思うようなときもあった。その2mから外に出れば人はたくさんいるんだろうし、友人もたくさん創れたかもしれないんですけど、なんだか僕は疎外感があって自分から手を伸ばすようなことはしなかったんです。
──そこで手を差し伸べてくれたのが沙雪さんだった。
はい。僕、声をかけてもらってすぐに沙雪先生に「僕はいろんな人に叩かれてますよ? いいんですか?」って聞いたんです。それでも沙雪先生は「一緒にやろう」と言ってくださって。
──そのお誘いがあって、じんさんと沙雪さんによるユニット・ZOWLSが原作を手がけるマンガ「NIRVANA-ニルヴァーナ-」が生まれるわけですね。
はい。「NIRVANA」は主人公の春秋八千夜が“十二始”と呼ばれる仲間を集める旅へと繰り出す物語でしたが、今回沙雪先生に描いていただいたマンガの内容も人と人とのつながりを意識した内容になっています。メカクシ団の面々が「友達って何?」ということを考える内容なんですけど、ここ5年の自分の経験があったから創れたマンガだと思うんです。すごく読み応えがあるので、興味のある人にはぜひ読んでもらいたいですね。
世界一いいメロディを書く
──お話を伺っていて、じんさん自身の状態がいいのはもちろん、制作に集中できる環境が整っている印象を持ちました。
今だから言えますけど、実は「メカクシティレコーズ」って、すごくバタバタした時期に創った作品だったんです。僕としてはもっと時間をかけてアルバムを創り上げていきたかったんですけど、回りの大人たちが「作品を発表するためには妥協も必要なんだよ」みたいなことを言ってて。そのとき僕は「絶対にそんなことねえ」って思ってたんです(笑)。必ず時間をかけて妥協なく、やり切ったと思える作品は創れると確信してたし、それが今作「メカクシティリロード」で実際にやれたと思っているんですね。現時点でこれ以上の作品は創れないと言い切れるし、自分の中の大事なものは全部出し切りました。僕自身が好きな曲ばっかり入っている、最高のアルバムになったと思います。
──文筆業に専念していたとは言え、持ち前のメロディーの強さはまったく衰えていないどころか、もっと強力になっている感じすらありました。
こんなこと言うとおこがましく聞こえるかもしれないんですけど、僕は自分で自分を世界一いいメロディを書く人間だと思っているんです。これは自分がすごいだろって言ってるわけではなくて、自分の好みは自分が一番よく知っているわけだから、その好みに合ったメロディーを創れば世界一好きなメロディーが生まれるはずで。
──なるほど。
僕は自分の一番好きなメロディを曲にして皆さんに聴いてもらっているだけなんですよね。そうやって音楽をやっている中で、僕と趣味が一緒だなって思える人たちとたくさん出会えたし、その方たちに期待していただける限り、僕は音楽を創り続ける意味があるなって思っているんです。
※「VOCALOID(ボーカロイド)」ならびに「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。
- じん「メカクシティリロード」
- 2018年11月7日発売 / EDWORD RECORDS
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初回限定盤A [CD+漫画]
3218円 / TYCT-69133 -
初回限定盤B [CD2枚組]
3218円 / TYCT-69134~5 -
通常盤 [CD]
2160円 / TYCT-69136
※初回プレス分のみ
三方背スリーブケース仕様
- DISC1 収録曲
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- エバーユースロードショー(Instrumental)
- イマジナリーリロード
- 失想ワアド
- マイファニーウィークエンド
- アディショナルメモリー
- ロストデイアワー
- リマインドブルー
- 忘れてしまった夏の終わりに
- グッバイサマーウォーズ(Instrumental)
- 初回限定盤B DISC2 収録曲
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- 失想ワアド(Acoustic)
- ロストデイアワー(Acoustic)
- リマインドブルー(Acoustic)
- 忘れてしまった夏の終わりに(Acoustic)
- じん
- 1990年10月生まれ、北海道出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でデビュー。瞬く間にニコニコ動画ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。「カゲロウプロジェクト」と題したメディアミックスプロジェクトを展開し、自身で執筆を担当した小説版「カゲロウデイズ -in a daze-」で小説家としてもデビューを果たした。2013年5月には、音楽版の「カゲロウプロジェクト」完結版として2ndアルバム「メカクシティレコーズ」をリリース。2016年6月には、マンガ家の沙雪とタッグを組んで原作を担当するコミックス「NIRVANA-ニルヴァーナ-」の連載がスタートした。2018年11月、約5年半ぶりのアルバム作品として「メカクシティリロード」がリリースされた。