ゼリ→|10年越しの活動再開、4人で決めた20周年の迎え方

まずはKOHEIと向き合いたかった

──ゼリ→はYAFUMIさんが舵を取って、KAZUKIさんとYUTAROさんが支えてた部分もありましたよね。ただ今回のミニアルバムはすべての作詞、作曲をYAFUMIさんが担当されていて。

1人でやるからには、ある程度パーソナルな内容であるべきだと思っていて。ただ、作詞は全部俺なんですけど、サウンド面はKAZUKIと一緒に作っているんですよ。

──曲は1人でやると決めてから、少しずつ作っていったんですか?

そうでしたね。わりとLAID BACK OCEANらしい曲もあるし、全部で30曲ぐらい作って、そこから絞り込んでいきました。

──制作は順調に進みましたか?

はい。でもどうしてもマイナーキーの曲が多くなって。自分の人生を投影すると、マイナーキーの曲になるんですよ(笑)。

──そこはよくも悪くもなんでしょうけど。

YAFUMI(Vo)

ただ曲自体はいいけど、なんか違うなと思ったんです。マイナーキーの曲に自分の気持ちがノらないんですよね。そうなったとき、メジャーキーで8ビート、BPMも180以上の曲を作ったら、しっかり気持ちが乗る曲ばかりできて。

──歌詞は止まった時計の針を動かした理由を伝え、ざらついた感情をぶつける内容が多いですよね。

これを言っちゃうのはどうかなとも思うけど、まずはKOHEIと向きあって、そこを通過してファンのみんなにも届けたいという思いがあって。もちろん、俺とKOHEIの関係性だけで完結してるような内容ではないんだけど、そこを必ず通過しているんです。

──KOHEIさんはゼリ→が再始動した理由の1つですからね。

歌詞を書いていくうちに「俺はまずこれをしたかったんだな」と思えたし、スタッフとも熱量と必然性があるからいいんじゃないかという話になりました。

──ゼリ→の歌詞は、1つひとつが物語調だったり、どんなときでも精いっぱいカッコつけるイメージが強かったんです。だから、「+×(plus times)」を聴いたときは驚きもありつつ、覚悟や意志を感じました。今までにない照れくささもありましたか?

めっちゃあります(笑)。正直な気持ちを歌ってるから、日記を読まれてるような感覚があって。そういう意味では……なんかこう、「このミニアルバムをぜひ聴いてください」と渡す気に全然なれないんです。

──リリースする立場として、それはどうなんですか(笑)。

だって、自分の日記を積極的に誰かへ渡したりしないじゃないですか(笑)。もちろん、聴いてくれた人から「よかったよ」と言ってもらえるとうれしいんですけど……その反面「この作品がどう思われようと知ったこっちゃねえ」みたいな気持ちもあって。

──「悪魔の証明」でそのようなことも歌ってますね。

はい。この活動は、俺の人生において絶対にやっておかないといけないことだというメッセージを込めました。ずっとロックバンドをやってて、本当にいろんなことがあって……思いもよらない形でバンドが止まったり。でもその10年後には1人でバンドを再開させることになって。「20年の間、本気でロックバンドをやってきたヤツが言うことがこれです」という歌詞の曲を聴いて何かを思ってくれたり、人生のヒントになったらいいなとは思うけど、それ以上は何も望んでないんですよ。

緻密な楽曲制作

──今回、ライブのサポートメンバーであるSxun(ex. Fear, and Loathing in Las Vegas)さん、勝田欣也(STANCE PUNKS)さん、SHOHEIさん、ISHIMARU(ex. SNAIL RAMP)さんのみならず、レコーディングでは真太郎(UVERworld)さん、Kuboty(ex. TOTALFAT)、HISAYO(tokyo pinsalocks、GHEEE、a flood of circle)さん、YU-KI(dustbox)さんといった多彩なミュージシャンが参加してますよね。

1人になってみて、普段やれないことをやってみてもいいなと思ったんです。とは言ってもただ誘うのは嫌だから、ゼリ→の歴史に関わっていたり、思い入れがある人。もしくは、何か喪失感みたいなものを抱えたことのある人という視点で考えました。例えば欣也くんはずっと一緒にツアーを回っていたり、ISHIMARUくんはSNAIL RAMPを終え、第2の音楽人生を歩んでいたり。Sxunくんも、Fear, and Loathing in Las Vegasを辞めてから初めての場にゼリ→を選んでくれたり。

YAFUMI(Vo)

──KubotyさんやYU-KIさんは何か接点があったんですか?

Kubotyはもともとゼリ→を聴いていてくれていたし、LAID BACK OCEANの初ライブでTOTALFATと対バンしてるんですよ。で、YU-KIくんはゼリ→のコピーをずっとやっていて、初めて行ったライブもゼリ→らしくて。だからめっちゃ気持ちが熱いんですよ。

──副産物かもしれないですが、さまざまなミュージシャンと肌を合わせたことは財産ですね。

本当にそうなりましたね。レコーディングにはKAZUKIもいてくれたから、俺たちが何をやってきたのかすごく伝わったし。世間からはそう思われてないかもしれないけど、ゼリ→ってめちゃめちゃ緻密に楽曲制作してるんですよ(笑)。完璧なデモを仕上げてから、本番のレコーディングをしたり。そういった部分を今回参加してもらったミュージシャンに認めてもらえるようなことがあって、KAZUKIとも「ありがたいね」とよく話していました。

俺はボーカリストじゃない

──「+×(plus times)」について伺いますが、これは選りすぐりの全6曲だそうですね。

自分の気持ちが乗るベスト6曲です。完全にそれだけ。相対的なことは考えてないし。やっぱり、音やビートを作っていると、時代とのマッチングがすごく気になるんです。バランスとかBPMとか、自然と空気を読んじゃう。だけど、よくも悪くもそういうことをするためのアルバムじゃないので。

──冒頭を飾る「世界と自分の本当の距離」は、宣戦布告というか、犯行声明みたいな語りから始まっていますよね。

曲を作るとき、まず自分の家にあるブースで適当に歌ってみるんですけど、「世界と自分の本当の距離」はとりあえず自分が思ってることをしゃべったフレーズが、そのまま残ったんです。

──その場で気持ちを吐露したものがそのまま。

もちろん録り直してはいるんですけど、内容はほとんど一緒。マスタリングの際に曲順の話になって、あの語りこそ俺が最初に言いたかったことだから「これは1曲目でいく」と言いました。

──この曲がアルバムの幕開けにあるのがグッときました。活動が止まった理由がメンバーの不祥事でしたから、自戒を込めつつも、開き直りと捉えられる可能性もあるわけじゃないですか。でも、すべてをさらけ出した歌詞に覚悟を感じました。加えて、叫びのようなボーカルも胸を打ちます。

そうなんですよね。というか俺、ボーカリストじゃないんですよ。

──どういうことですか?

俺、ゼリ→ではボーカリストじゃなくて、音に合わせて叫んでいる人という役割なんだと思います。今回、そこは改めて気付いたところでもあって。

──なるほど。「キミのヒビ」は「ゼリ→ 20th Anniversary Live "BAD PHILOSOPHY"」でも披露された際、サビで「RADIO」と連呼してるのが印象的でした。

このフレーズは、「俺が一番連呼したい言葉はなんだろう?」と考えて、それが「RADIO」というだけなんです(笑)。ほかにも“FUCK”とか“BANANA”とかいろいろ試してみたんですけど、一番楽しく連呼できるのがRADIOでした。

──歌詞はストレートに愛をぶつけている内容ということもあって、Rancidの「Radio」からインスピレーションでも受けたのかと想像していました。

いや、そんな深い意味はまったくないです(笑)。

──パンクロッカーって“RADIO”という言葉が好きですよね(笑)。Rancid以外でも、Ramonesも歌っていますし。

日本のバンドでもTHE STAR CLUBや横山健さんとか、みんな“RADIO”のことを歌いますよね。何か特別な高揚感が出ているんですよ、“RADIO”からはたぶん(笑)。

──そういった遊び心が曲になったことを聞くと、使命感に押しつぶされそうになりながらやっているわけじゃないことが伝わってきてうれしいです。

確かに、ゼリ→が止まった理由もそうだし、始める形もこうなってしまったから、どうしても誠実さみたいなことばかり考えてしまうところもあって。ただ、俺の音楽はそれだけじゃないから、こういうことも表現したいんですよ。

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