俺だって何回も怒られた

逹瑯　MAVERICKの話をするときに必ず引き合いとしてエクスタシー（EXTASY RECORDS）とフリーウィルの名前が出てくるじゃない。どの事務所も、みんな姿勢としてはさっき話してた感じに近いと思うよ。トミーさん（ダイナマイト・トミー。フリーウィル代表）なんて、音楽というより不器用に生きているバンドマンが大好きだから、「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」とアドバイスしてくれる人だし。商売でやっている人だったらそこまではタッチしないよ。

団長　そういう部分では確かに共通していますよね。主宰者の熱量が高すぎるぐらいに高いという。

Tetsu　大石さんはドラムの音作りに定評があって、あの人が関わると特徴的な音になるというブランドがあったぐらい。俺はJOEさん（44MAGNUMのドラマー）の音で育っているけど、大石さんがタッチするとあの音になったし、ほかのバンドにエンジニアとして行くとあの音になっていたりもして。ドラムにすごくうるさい人だから、俺だって何回も怒られたことがあるよ。

団長　実際、D'ERLANGERのステージで大石さんがいじることはあったんですか？

Tetsu　最初の頃はあったね。

団長　すごいなあ。バンドマンあがりの事務所の社長さんってほかにもいるかと思いますけど、エンジニアをやっている人は確かに珍しいですね。

逹瑯　Tetsuさんも社長に怒られたことがあるんですね。

Tetsu　怒られたよ。「LA VIE EN ROSE」（D'ERLANGERの1stアルバム。1989年にDANGER CRUE RECORDSから発売）を録っているときも、「お前、（レコーディングに）時間がかかりすぎたらJOEを呼ぶからな」って言われたから。

逹瑯・団長・SORA　おお……。

Tetsu　そう言われて、俺は半分「JOEさんが叩く『LA VIE EN ROSE』、聴いてみてえな」と思って（笑）。でも、そうやってMAVERICKの歴代ドラマーは大石さんに鍛えられてきたんだと思うよ。

団長　ちなみに、SORAくんも大石さんに鍛えられているの？

SORA　鍛えられたというか、事務所に入ってから初めてのレコーディングはドラム録りのときに大石さんが来て。

逹瑯　マジで!?

SORA　監修というか全部見てくれて、「ここはもっとこうじゃないの？」「スネアがちょっと低い。もっと高くして」とアドバイスしてもらいました。で、終わってから一緒に飲みに行って。

団長　ボーカル録りはどうなの？

逹瑯　MUCCは現場に大石さんがいた記憶がないんだよなあ。うちのサウンドメイクはミヤさんがうるさいから、大石さんが来てちょこちょこ口を挟んでもぶつかるから来ないんじゃない？ DEZERTはあんまりサウンドメイクをこだわる人いないの？

SORA　いや、みんなこだわりますけどね。うちの場合、大石さんは「とりあえずドラムRECは行く」と言ってくれて、むしろドラム以外のときは来なかったです。

逹瑯　MAVERICKに入るまでの音源を聴いて、「うちで新譜を録るなら、ドラムをこういうサウンドにしたい」ってイメージがあったんじゃない？

SORA　うん、そう言ってました。だから、最初に「スティックを変えろ」と言われましたし。そのときはTetsuさんモデルのスティックを使って叩いていたので「もういい加減そういうのはやめろ。自分のモデルを作れ」と言われて、Pearlに「自分のモデルを作れと社長に言われたんですけど」と伝えたら話が進んでいって、自分モデルが生まれました。

逹瑯　へえ、よかったね。でも、SORAモデルでTetsuさんモデルをまるっきりトレースしてもよかったんじゃない？（笑）

SORA　実はデザインが変わってるだけで、ほぼTetsuさんモデルなんです。

団長　それが使いやすいんだもんね。

Tetsu　大石さん、以前BLAZEっていう自分のバンドを再開させたじゃない。アー写も撮ったりしてけっこう本気でやっているから、これは逆襲のダメ出しできるチャンスだと思うんだよ。

団長　なるほど、バンドとしては後輩だから（笑）。

Tetsu　後輩もいいとこだから、「やっとわかったか、この野郎！」って逆襲したいよね（笑）。

逹瑯　レコーディングで「お前、これ以上時間がかかったらSEELA（D'ERLANGERのベーシスト）を呼ぶぞ！」とか言って（笑）。

団長　あれ、BLAZEって過去に「JACK IN THE BOX」に出たことありましたよね？

Tetsu　何回か出てるよね。あと、2年前の「Trigger In The Box」では大石さんが44MAGNUMでベースを弾いたじゃない。あのときの楽屋での緊張でうろたえた感じ？ 自分でやってみて、バンドをやってる側の気持ちがやっとわかったんじゃない？（笑）

「JACK IN THE BOX 2021」フィナーレはTetsu仕切り

団長　会社が大きくなっても代表が現役でステージに立つというエンタメ精神を含めて、MAVERICKってすごいですね。こう聞くだけでも、大石さんってすごく愛され社長というか。ここまでアーティストと社長の関係値が深い会社って、最近では少ないんじゃないですか？

逹瑯　コロナでここ1、2年はないけど、毎年決まって年末のイベントがあって、そのあとに忘年会的な打ち上げがあってという、みんなが関わる機会があるのはデカいと思うよ。で、そこで失態を犯す大石さんをみんな見ていて、恐怖とリスペクトと「この人ダメだ」といういろんな感情が渦巻くから、親近感も湧くんじゃない？

団長　本当に外から見ていて、MAVERICKの先輩後輩のつながりというのはほかのレーベルさん、事務所さんと比べてもすごく強いなと思うんです。毎年日本武道館のイベントを観てきて、同期もMAVERICKに入ったからこそ、よりうらやましく感じます。しかも、自分たちがガキの頃に憧れていた人たちと一緒にセッションする機会なんて、そうそう巡ってくるものじゃないですし、そういうことを大石さんはあえて若手に与えようとしているから、「優しすぎだろ！」と思うんですよ。で、武道館での「JACK IN THE BOX」は3年ぶりですが。

Tetsu　去年は何やったの？

逹瑯　去年はそのタイミングにMUCCのワンマンを日本武道館でやって。その前が代々木で「Trigger In The Box」。「JACK IN THE BOX」は3年ぶりだけど、毎年何かやってるんだ。

Tetsu　ってことは、2年に1回呼ばれているペースだ。じゃあ、再来年の準備をしておこうかな。

団長　これから今年の本番じゃないですか！（笑） でも、「Trigger In The Box」はほぼ逹瑯さん仕切りで、その前の「JACK IN THE BOX」ではシド仕切り。今回はどんなテーマがあるんですか？

逹瑯　今回は40周年のお祭りというのもありつつ、やっぱりこのイベントの大変なところって最後のセッションをどう取り仕切るかだから、それを今年はTetsuさんがやってくれるという。めちゃくちゃすごいと思いますよ。

Tetsu　いやいや、そんなに大したことはやってないけどね。

逹瑯　だって、俺にまですごく丁寧に「こういうことをやろうと思うんですけど」というお誘いの連絡を送っていただいたから。俺に対してこれなんだから、先輩に対してはもっと丁寧なんだろうなって。だから、みんな気持ちよく出てくれるんじゃないかと思います。

Tetsu　だといいね（笑）。

逹瑯　そんなね、Tetsuさんが一生懸命やってくれるMDC 40th Anniversary SUPER ALL STARSのセッションを、こいつ（団長）はこないだのラジオで「僕の出番、“最悪”そこでもいいんで」とか言いやがって（笑）。

団長　えーっ、ちょっと！（笑）

Tetsu　なるほど（笑）。

SORA　（笑）。

団長　いやいやいや、むしろ最優先で！ チラッとでもいいんで！

Tetsu　ほかに何か枠があったかなあ？ “最悪”出たいみたいだから（笑）。

団長　あれは今年一番の失言ですから（笑）。あのセッションって、初期の「天嘉」（「JACK IN THE BOX」の前身イベント）の頃からすでにあったんですか？

逹瑯　最後のセッションは毎年あったかもしれない。

本気でケンカもするし、本気で尊敬している

団長　今年の「JACK IN THE BOX」、当然ですけど、まだお客さんは声出しNGですもんね。

逹瑯　それは団長次第じゃない？

団長　俺にそんな権限あります？（笑）

逹瑯　そのために来たんでしょ？

SORA　そんなことできるなんて、神じゃないですか。

逹瑯　神じゃないよ、NoGoDだから（笑）。

団長　だとしたら、やっぱり安全第一でやっていただきたいので声出しNGで。

SORA　そこはそうなんですね（笑）。

団長　演者もなるべくディスタンスを取っていただいて。楽屋でも。

逹瑯　でも、毎年あの楽屋が楽しいんだよな。

団長　「Trigger In The Box」のときもそうでしたし。俺が今でも忘れられないのは、D'ERLANGERさんの演奏中、大部屋のモニター前でHYDEさんがかぶりつきで観ていたこと。「スピーカーの音をもっと上げてくれ」とか言って、1人でテレビを占領するお父さんみたいな姿を見て、本当にHYDEさんってD'ERLANGERが好きなんだなって。

Tetsu　HYDEが好きなのはGASTUNKだよ（笑）。

団長　GASTUNKも好きと言ってましたけど！（笑） やっぱりL'Arc-en-CielがMAVERICKに入って、事務所の雰囲気は変わりましたか？

Tetsu　その頃は俺、もういないんだよ。D'ERLANGERのあとにBODYというバンドをやって、そのあと完全に事務所を出ちゃったから。D'ERLANGERとBODYの間もちょっと空いているしね。ただ事務所からは離れていたけど、MUCCが入ってからはMUCCがイベントに呼んでくれたりして。その空白の期間というのはMUCCとのつながりだったよね。スタッフもかぶっていたし。

逹瑯　kyoさんもソロはMAVERICKでやっていたし、そのあとにBUGもあったので、D'ERLANGERチームとのかぶりはけっこう多くて。だから、個人的にはDANGER CRUEってD'ERLANGERのイメージが大きかったです。

団長　D'ERLANGERでDANGER CRUEにいたのは2、3年くらいだったんですか？

Tetsu　そうだね。でも、D'ERLANGERは来年で再結成15年なんだけど、その15年間は裏で大石さんにお世話になってきたから。

逹瑯　だから、大石さんと関係が深いというイメージがありますよね。それこそ本気でケンカもするし、同じくらい本気で尊敬もしているだろうし。うちらが築けない関係性を、大石さんとD'ERLANGERは築いていると思う。だって、うちらなんて大石さんとケンカできないし。

団長　SORAくんは大石さんとケンカできるの？

SORA　いやいや（笑）。

逹瑯　うちらができるのはせいぜい、大石さんの言うことを聞かないことぐらいだから（笑）。

SORA　ケンカはできないですけど、思っていることは言っていきたいなとは考えていて。といっても、主に音楽のことについてなんですけど。

Tetsu　でも、大石さんはDEZERTのことをすごく褒めちぎっているよ。「楽曲が最高」と言っていたし。

SORA　ありがたい話です。