入野自由「CHEERS」インタビュー|TENDREとPEARL CENTERが楽曲提供、音楽と声が溶け合う挑戦の1枚 (2/2)

明るく前を向いていたい

──入野さんは声優だけでなくさまざまな分野に活動を展開されているし、海外留学も経験されて、すごく特別な道を歩まれていると思うんです。端から見て、すごく独立した個性を感じるというか、“自由な人”というイメージもある。ご自身では、自分自身の表現活動や人生の特別さ、特殊さを感じられますか?

あまり、そこまで特別な生き方をしているとは感じていなくて。とは言いつつ、入野自由という存在、その見え方も含めて、「よくわからない」ということは大事なのかなと思っていますね。なので、何かと一緒にならないように、何かに埋もれないようにということは考えますが……かと言って、自分がすごく特別だとも思わないんですよね。人にそう言われることもありますけど、どちらかというと、自分は至って普通というか、特別なものが何もないし、「どうしたらもっとオリジナリティや個性を表現していけるんだろう?」と考えています。

──「LIFE」の歌詞はMATTONさんによるものですが、この歌詞の中にある「新しくありたい」というフレーズが、すごく入野さんという人の在り方を示しているような気がしました。

確かに、あまりほかの人がやっていないことを率先してやりたいと思いますね。Kiramuneとしても新しいことに挑戦していく存在でありたいと思うし、入野自由という役者としても、ノンジャンルでありたい。新鮮な自分でありたいですね。

──先ほどのお話の中で、「自分が歌いたいことや言いたいことのベースは一緒だ」とおっしゃっていましたが、そのベースにあるものとは何だと思いますか?

“前向きさ”ですかね。明るく前を向いていたい、ということ。いいも悪いも楽しみたいし、「全部を全力でやっていきたい」というのがベースには常にあると思います。

──あまりネガティブな表現はしたくない?

いや、表現したくないことはないんです。自分で曲を書いてみても思うんですけど、意外とあっけらかんと前向きにはならないんですよ。ちょっと憂いが出てくる。なので、ネガティブなものは絶対に自分の中にあると思うんですよね。その中で「でも……」という。

──「でも……」の部分が、表現としては強く出てくる。

そう、「結局はね」っていう。ネガティブの中での前向きさというか。そういうものが自分からは出てくるなと思います。恐怖や不安は常に付きまとうけど、それをそのまま抱えていいと思います。それも受け入れて、“それでもなお!”が大切だと。

言葉自体が音楽

──3曲目の「トワイライト」に関してはPEARL CENTERにお任せしたということですが、楽曲を受け取ってどんなことを感じましたか?

これは提供していただいた3曲ともに言えるんですけど、グッときたのはトラックの雰囲気ですね。自分が今までやったことのない雰囲気なので、ワクワクしたし、同時に「難しいな」とも思いました。今回の3曲って、言葉自体が音楽のような雰囲気があるんですよね。日本語って少し硬く聴こえがちですけど、今回のトラックはちょっと英語っぽいというか、歌い方に柔らかさが求められる。音楽に寄り添った歌い方ができないといけなくて、それが難しかったです。僕がTENDREさんやPEARL CENTERの真似をして歌っても、ただフワフワしたものになってしまうので、そこをどうやって、音楽に寄り添いながらも自分らしさを出していくか、言葉を大切に歌っていけるかという、そのバランスがすごく難しかったです。

──TENDREさんもPEARL CENTERも、すごく現代的なポップスのサウンドを作り出している方々だと思うんですけど、入野さんご自身の音楽的な興味自体、そうした方向にあるのでしょうか?

そうですね……と言っても、僕、けっこうなんでも聴くんです。ジャンルとかも知らないですし、「いいな」と思ったものを聴いているという感じで。

──最近はほかにどんな音楽がお好きですか?

NiziU、好きですね(笑)。Silk Sonicもよく聴くし、あと、No Busesも聴いていますね。

──入野さんはどんなふうに音楽を掘りますか?

人に教えてもらうこともありますし、よく行く音楽に精通したお店があって、そこで流れているものを「この曲、誰ですか?」って聞いたりもします。古いものから新しいものまで流れるお店なんですけど、No Busesはそれがきっかけで知りました。

──入野さんはレコードでも音楽を聴かれるんですよね?

聴きます。最近、レコードでよく聴くのは、Vulfpeckとテオ・カッツマン。あとは、両親や祖父母の代からあるレコードも聴いたりします。Silk Sonicはカセットでも買ったんですよ。近々届く予定なので楽しみなんです(笑)。カセットテープは海外で数年前から流行っていますけど、この先もっと流行ると面白いですよね。今回の僕のシングルの抽選特典にも、カセットテープがあるんです。

──いいですね!

写真もフィルムが増えていくと面白いし、レコードやカセットのようなアナログなものがまた普及するといいですよね。

──さまざまな音楽を聴かれる中で、軸として好きな音楽の傾向はありますか?

どうだろう……ファンクかな。ファンクは、聴いているとワクワクします。説明はできないんですけど、好きな音楽を言葉にしてもらうと「それはファンクだよ」と言われることが多くて。ただ、ファンクって聴いていると楽しいんですけど、歌ってみるとめちゃくちゃ難しいんですよね。

前に向かっている感覚を持てた1年

──シングルの表題曲「CHEERS」は作曲がTENDREさん、作詞がPEARL CENTERのMATTONさんです。歌詞の内容は、明確にコロナ禍を前提にされたものですよね。

そうですね。基本的にはお任せだったんですけど、大まかに「明るめな曲がいい」ということはお伝えしていたんです。そこでいただいたデモが、自分が想像していたよりもゆったりとした、チル要素が大きな曲だったんですよね。だとしたら、歌詞のラインもそっちに合わせたほうがいいのかなと思って。そこから、「ゆるっとしたパーティーソング」という感じを意識した歌詞をお願いして、この曲はできあがりました。

──チルしすぎるわけでもなく、ゆるやかにパーティ感があるのがいいですよね。

実は歌詞のメッセージ性は強いんだけど、TENDREさんのトラックとメロディラインの雰囲気が絶妙なバランスで、押しつけがましくない、とても理想的な形になったなと思います。今回「April」以外の3曲は、ミックスの段階でボーカルがトラックに溶け込むようなものを意識していたんです。いつもよりも、声を音楽に馴染ませることを意識してミックスしてもらっていて。なので、BGM的に聴いてもらうと、自分の意識をどこに持っていくかで聞こえてくるものが違うシングルになったのかなと思います。

──入野さんのように、声をメインにしたお仕事もされている方の音源で、声を主張させないという選択肢をとるのは、すごく特殊ですよね。そういう部分でも、入野さんの独自性を感じます。

今回は特に、自分を前に出すというよりも、曲を前に出そうという意識が強かったです。

──先ほども言ったように、「CHEERS」の歌詞は強くコロナ禍を前提にしたものだと思うんですけど、この歌詞に関しては、どのように向き合われましたか?

どストレートな歌詞だと思うんです。だからこそ、あまり意識せずに歌おうと思いました。僕が「この曲はこういう曲だ」と答えを出してしまうのは、もったいない。なので、自分が手を下すのではなくて、聴いている人に自由に受け入れてもらえたらいいなと思います。

──最後に、早いもので年の瀬ですが、入野さんにとって、2021年はどういった1年でしたか?

今年もいろいろ挑戦したなあと思います(笑)。ドラマと舞台を2作品、オンラインライブもやって、アニメもいろいろ出演できて……自分の中で「戻っていけるかもしれない」という可能性を見出せた1年でした。まだまだ厳しい状況ではありますが、沈みがちだった去年と比べると、ちょっとずつ前に向かっている感覚を持てた1年でしたね。

──来年以降に対しては、どんな展望を持っていますか?

Kiramuneで言うと、まだやったことのないことにチャレンジしたいです。サブスクも解禁しましたし、時代の波にうまく乗っていきながら音楽活動をやっていけたらいいなと。コロナ禍関係なく、時代として、すごく難しい時代だと思うんです。そういう中で、どうやって作品を作っていくのか、どうやってマネタイズしていくのか……そういうことを全部考えながら、時代に飲まれないよう、それすら楽しみながらやっていきたいです。

プロフィール

入野自由(イリノミユ)

1988年2月19日生まれの声優、俳優、アーティスト。2001年にアニメ映画「千と千尋の神隠し」でハク役に抜擢され、注目を浴びる。2009年6月に1stミニアルバム「Soleil」でアーティストデビュー。2017年1月にライブツアー「Kiramune Presents 入野自由 Live Tour 2017 "Enter the New World"」を行ったあと、海外留学のため活動を休止する。帰国後、2018年6月に向井太一とコラボレーションしたシングル「FREEDOM」を発表。2019年3月にミニアルバム「Live Your Dream」をリリースし、8月よりライブツアー「入野自由 Live Tour 2019」で過去最多となる全国8都市を回った。2020年11月に3rdフルアルバム「Life is…」をリリース。2021年9月に配信シングル「April」をリリースし、12月にシングル「CHEERS」を発表した。