「SUGIZO vs INORAN PRESENTS BEST BOUT 2021 ~L2/5~」特集|出会って35年、LUNA SEAの両雄が考える“ロックの在り方”

LUNA SEAのギタリスト、そしてソロアーティストとして活躍するSUGIZOとINORAN。2人は高校時代に出会い、1989年にLUNACYとしての活動をスタートさせる。1997年にはそれぞれがソロデビューを果たし、バンド活動と並行して独自の活動を展開してきた。そんな2人は2016年6月9日の“ロックの日”に「SUGIZO VS INORAN PRESENTS BEST BOUT~L 2/5~」と題した対バンライブを開催。「BEST BOUT」シリーズは過去3回行われており、コロナ禍の2021年6月に行われた最新回ではSUGIZO、INORANに加え、画家の荻野綱久がライブペインティングで参加。音楽とアートを融合させたステージが繰り広げられた。

音楽ナタリーでは、「BEST BOUT 2021」のライブ映像作品が発売されたことを記念して、SUGIZOとINORANにインタビュー。コロナ禍におけるライブでの新しい表現についてや、双方のステージを目のあたりにした率直な感想、今の音楽シーンとロックについて思うこと、出会って35年にもなる2人の関係性などにフォーカスして、話を聞いた。

取材・文 / ジョー横溝

コロナ禍で形を変えたSUGIZO vs INORAN

──2021年の“ロックの日”である6月9日に行われた通算3度目の「BEST BOUT」。コロナ禍での開催ということで、今回は無観客で配信のみでしたが、2人のパフォーマンスが交互に展開されたり、画家・荻野綱久氏がライブに合わせてドローイングをしたりと、今までにない試みでしたね。

INORAN 前回の「BEST BOUT」から数年。去年の6月は大変な状況だったんですけど、やっぱりやれることを探していた時期だったと思うんですよね。その中でSUGIちゃんとやる「BEST BOUT」という青写真がふと浮かんで。これはいいのではないかと、SUGIちゃんに話を持ちかけたのが最初です。

──INORANさんのほうから「やらないか?」と。

INORAN ……だったと思います(笑)。

──SUGIZOさんは当時の様子は覚えていますか?

SUGIZO コロナ禍になってひさしい状況でしたので、その状況下でどう表現を続けていくのか、どう広げていくのかずっと模索していました。ただ、もうすでに配信ライブというフォーマットがだいぶ定着してきた時期だったので、いわゆるリアルなライブができなくて、その代替のものであるというよりは、配信ライブでしかできない表現を追求して、それを満喫した気がします。格闘技でパンチを打ち合うように、1組2ステージを交互にやるのは、普通の対バン形式じゃなかなか不可能なことですから。この2人の出番の間にペインターが入り、一緒にライブを作っていくということも、無観客の配信ライブならではの方法が取れたかなと思っています。どちらかと言えば、この状況を逆手に取ったら何ができるか?ということをとても追求していました。

「SUGIZO VS INORAN PRESENTS BEST BOUT~L 2/5~」より。

「SUGIZO VS INORAN PRESENTS BEST BOUT~L 2/5~」より。

──確かにドローイングにおける細かい部分まで見せられるというのは配信ならではですね、大きなハコだとオーディエンス全員に見せられないですし。交互に演奏するうえで、INORANさんとSUGIZOさんは先攻、後攻をどうやって決めたんですか?

SUGIZO 僕のほうがアンビエント的なアプローチなので、先がいいんじゃない?って話をした記憶がありますね。1年近く前のことなのではっきりとは覚えてないですけど(笑)。

──先攻のSUGIZOさんのステージは静かな曲での立ち上がりからだんだんアグレッシブになっていきましたし、1曲1曲のメッセージも強烈でしたが、セットリストを組むうえでのコンセプトは?

SUGIZO 僕の場合は、このライブの半年前に「愛と調和」というアルバムを出したばかりだったので、そのオープニング曲を使って、荘厳な大自然に包まれるような方向で始まりたいなと思っていました。パンデミックに関しても多くの思いがあったけど、今思うとあのときに戦争は始まってなかったですよね。当時と今とでは戦前と戦中という感じがしますが、去年の「BEST BOUT」では自分の中でNo Warというイメージよりも、地球の環境、気候が破壊されていくことに対するメッセージを楽曲に込めた感覚です。それと、INORANの曲がいい意味でキャッチー、いい意味でドープなんです。素晴らしい歌モノなので、あえて真逆に位置するような選曲をしました。アンビエントとアッパーなトランスの対比を自分では試みました。

──確かに、SUGIZOさんの「NO MORE NUKES PLAY THE GUITAR」では「No War」というメッセージが出てきますが、当時は地球の自然破壊に対するメッセージだったのが、今このタイミングで映像を観ると違った響き方をして複雑な思いになりました。

SUGIZO 今観ると悲しいでよすね。しかもチェルノブイリのことに触れている映像だったりしますから……今の状況がとても残念でならないですね。

──それだけSUGIZOさんは普遍的なテーマの音楽をやられているんだなと認識させられました。

SUGIZO でも、それが普遍的じゃダメなんですよ。いつまで続くんだよこのメッセージは、と思うとやっぱり悲しいですね。

──INORANさんは、コロナ禍では今までのバンドサウンドとは違う打ち込みベースの作品を結果的には3枚リリースしました。「BEST BOUT」の時点では2枚までリリースしていましたが、最初からバンドでの演奏ではなく、Yukio Murata氏との2人のユニット・Los Cowboysで臨もうと?

INORAN そうですね。いくつか理由があるんですけど、やっぱりソロのバンドセットのメンバーは、この何年かは僕の中で不動のメンバーなんですよ。でも海外にいるメンバーもいて、コロナ禍で日本に来ることができず、メンバー全員が集まれないとなると、演奏自体は不可能なことではないんですけど、パフォーマンス上では不可能に近いんです。なので、このときはYukio MurataとのLos Cowboysでいこうと。

──対SUGIZOさんで意識したことありますか?

INORAN SUGIZOはちゃんとした芯があることをずっと続けているので、やるからには相手が持っていないものをイベントとして補完しようと思いました。特に入り際と切り際……互いのライブが交代するところは意識しました。言葉で説明しづらくて抽象的なんですけど、弾くような混ざるような、微妙なところ、1stセットと2ndセットの始めと終わりの選曲はすごく意識しましたね。

──お互いのステージを目の前で観ているわけですよね?

INORAN 次の準備があるのでフルではないですけど、観ている状況ですね。というのは、ウェイティングルームが、会場だったクラブの2階で、音が筒抜けなので、体を乗り出せば観られちゃう感じ。SUGIZOの音やバイブスをすごく感じてましたよ。

──SUGIZOさんの最初のステージはどうでしたか?

INORAN SUGIZOらしいって言っちゃったら簡単になっちゃうけど……やっぱり“らしい”よね(笑)。もちろん褒め言葉です。

──逆にINORANさんの最初のステージを観てSUGIZOさんはどんな感想でしたか?

SUGIZO INORANの新しいタイプの音楽にすごく感銘を受けました。それまで何度もステージを観てきたり対バンしてきたのが、いわゆる生バンド形式だったので。今回はそれとはサウンドとしては真逆のアプローチですよね。だけど核は変わらない。INORANの音楽の核を生の爆音で表現したものなのか、エレクトロニクスをベースとして表現したドープな方向に行くのかの違いなんだけで、今のINORANのサウンドのタイプは、僕と対バンしてすごくお互いのマッチングがいいと思いましたね。そして、音楽的に素晴らしいと思って聴いていました。

──最初のINORANさんのステージを観て、SUGIZOさんの2つ目のステージは何か影響を受けましたか?

SUGIZO 「超低音で、わあカッコいい」と思ったので、僕のほうも「ベースの超ローを出してほしい」とエンジニアににお願いをしましたね。

──一方INORANさんは、SUGIZOさんのステージを観て、プレイやモチベーションに変化はありましたか?

INORAN 2ラウンドあるっていうことが、今回の重要なポイントだったんですよ。2ラウンドあったおかげで、変な力が入らなかった。「1発目で決めなきゃ」とかいった変な気負いもなくて。フェスセットが2つあるみたいな感じの、いい意味でエナジー80%ぐらいで、フルスロットルにならず、すごく安定している感じでやれたんです。だからすごく気持ちよかったですよね。一方で、今回の2ラウンド制だと、抑えられない気持ちを煽られるような感じもあって。SUGIちゃんのああいう曲を爆音で演奏されたら、体が動かずにはいられない。そこも心地よかったです。

──荻野さんが描く絵はお二人とも視界に入ってきていたんですか?

SUGIZO ちょいちょい見てましたよ。ラッキーだったのが、荻野さんがもともと得意とするモチーフがドラゴンとフェニックスで、それがたまたまINORANと僕のシンボルでもあったんです。それで最初からマッチングがよかったんですよね。新進気鋭の画家さんなんですけども、もともとロックバンド出身で、LUNA SEAをすごく好きだと言ってくれたので最初からコンセプトはバチッと決まっていたんです。初めてだったけどすごく安心感がありました。

「SUGIZO VS INORAN PRESENTS BEST BOUT~L 2/5~」より。

「SUGIZO VS INORAN PRESENTS BEST BOUT~L 2/5~」より。

──描く前に荻野さんとの打ち合わせはありましたか?

SUGIZO こういうモチーフを表現してほしいっていう話はしました。それだけです。

──荻野さんもお二人の音に呼ばれるようにして完成していった?

SUGIZO そうです。もともとライブペインティングがすごく得意な人だったので、一緒に演奏をしているようなグルーヴをお互い感じながらやってもらっていたと思います。

──INORANさんも荻野さんのドローイングは視界に入っていましたか?

INORAN うん。でも遠かったので、ディテールまではわからなかったです。僕は過去にもペインターとライブをやったことがあるんですけど、絵自体というより、荻野さんの背中の動きや描く速さとかで煽られる部分というか、いい意味でグルーヴするような部分を感じながら演奏しましたね。

──今回ドローイングが入ることで、音楽の感じ方にも幅を持たせてくれたような印象がすごくあります。

SUGIZO 僕らの演奏が「絵を描くためのサウンドトラック」になった気がします。音を奏でる側とペインティングする側の引力を感じられる、素晴らしい体験だったと思います。

「SUGIZO VS INORAN PRESENTS BEST BOUT~L 2/5~」より荻野綱久。

「SUGIZO VS INORAN PRESENTS BEST BOUT~L 2/5~」より荻野綱久。

「2050」に未来への希望を込めて

──イベントの最後には2人の共演がありました。演奏したのは「2050」というタイトルの曲でしたが、INORANさんが原曲を?

INORAN はい。SUGIちゃんはずっと昔から一貫した活動をしてて、そこはすごくリスペクトしてる部分で。「BEST BOUT」で一緒にやるっていうことが決まった時点で、自分はやらない部分があるってことを思ったんです。いつの時代もそうかもしれないけど、ここ2年ぐらいは世界が揺れた時期だったから。コロナ、サステナブル、SDGs……そういう時代に、希望を込めた未来へ向けて、何か思いを乗せた音が一緒に作れればいいなって思ったんですよ。それで、「やろう」って言って作り始めたのかな。

──INORANさんによる原曲をSUGIZOさんはどう受け止めましたか?

SUGIZO 素晴らしくて感動しましたよ。僕は「もうこのままでいいんじゃない?」と思いましたから。エンディングは僕が作ったんですけど、イマジネーションがすごく広がる内容になったので、そのままエンディングを映画のエンドロールのようにしたいと思ったんです。で、曲を倍ぐらいの長さにしました。「2050」について言えば、国際社会的に2050年までにカーボンニュートラルを実現したいという目標があります。今世紀の中盤に世の中がどう変わっているのか。その前の2035年までには、EUがガソリン車を廃止することを表明しています。同時にどこまで、いわゆる平和な時代がそのときに訪れているのか。今よりよくなっているのか、今よりひどいのか。または気候変動も激しくなっているでしょうから、災害がどういう状況になっているのか。もしかしたらもうなくなっている島国もあるかもしれないとか、いろんな想像をしますよね。けれど、INORANが言ったように、未来に対してやっぱり希望をつなげたい。今から約30年後、今生まれた子が30歳を迎える次の時代のために、僕らの世代が何をできたのか? 僕らは何を残せたのか? それは子供や孫のためでもあるんですが、でも実は自分たちの生き様をちゃんと誇れるものにしたいんですよね。その感覚をそのまま、INORANが持ってきてくれた楽曲に対して自分の感情を乗せることができた。それってすごく自分にとっては感動的でした。結果として、感動的なエンディングがケミストリーとして生まれたんじゃないかなと思っています。