「頭の中のアイデアを100%具現化させたい」“超ギーク”なマルチクリエイター・iamSHUMの正体に迫る (2/2)

近所にマクドナルドができたから

──「ティロリハウス feat. Ry-lax」は何についての曲なんですか?

マクドナルドのポテトの歌(笑)。マックってポテトが揚がると「ティロリ、ティロリ」って音がするじゃないですか。あれをサンプリングしてハウスにした曲です。

──あー! あの音!

ちょっと前に近所にマックができたので普通に買いに行ったらあの“ティロリ音”が聞こえてきて。そのとき心の中で勝手にビートを刻んでいたんですよ。「これ面白い」と思って、勝手にサンプリングしてビートを作って、その日の夜に新宿のクラブでDJをやったときに、VJ用の映像まで自分で作ってプレイしたらバカウケしました。これはもうリリースするしかないと思って、さらにブラッシュアップした感じです。

iamSHUM
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──Ry-laxさんをフィーチャーされたのはなぜですか?

もともとは僕のパートしかなくて、リリースにあたって声をかけた感じです。Ry-laxは僕のレーベルWARNER HYPE MUSICに所属するトラックメイカーのT3N4が「Let You」という曲に参加したことがきっかけで、うちからリリースすることになって。彼はアングラからポップまでどんなラップでもできるじゃないですか。だから「これ興味ある?」って「ティロリハウス」に誘ってみたら「やりたいす!」と言ってくれたという。

──英語パートではどんなことを歌っているんですか?

ただ注文してるだけ(笑)。ビックマックにポテトにコーラ……みたいな。最後にスマイルちょうだいと言って終わる。

──本当に遊び感覚で作られた曲なんですね。

はい。でもMVはめっちゃ凝ってます。自分の出演パートはグリーンバックで撮って、店内を全部CGで作りました。今回のアルバム制作の中で一番大変だったかもしれない。

──このCGもご自分で作られたんですか!?

です(笑)。建物の間取りとかも全部自分で決めて、CGとVFXで作って。アングルもライティングも編集も全部僕がやってます。2024年は1日が36時間あったらいいのにって本気で思ってました。ずーっとスタジオにいてずーっと制作してました。2023年のカウントダウンが昨日のように感じます。プライベートの時間は皆無でした。

祖母の死と僕の体調不良

──制作はそこまで苦にならない?

ならないけど、今年祖母が亡くなってしまったときはさすがに制作できなかったです。

──それはつらいですね。

ちょっと不思議な話なんですけど、僕、2023年くらいから胃痛がひどくて1回スタジオで倒れてるんです。救急車で運ばれて、お医者さんに診てもらったら「ひどい胃潰瘍だ」と。その後も月1くらいで胃がねじれるように痛んだけど、締め切り続きだったので、処方された薬を飲んでずっとスタジオにこもってました。そんな中、2024年の夏に祖母が亡くなって。そのときもものすごく忙しかったんですが、なんとか納品して、沖縄に向かう飛行機に乗ったら、離陸した瞬間にあの胃痛が始まったんです。しかも今までで一番痛い。こりゃヤバいと思いつつなんとか2時間耐えて、沖縄に着いた瞬間に救急車。そしたら先生が「これは潰瘍じゃないね」と気付いてくれて、検査したら胆石があったんです。その日のうちに胆嚢摘出手術の予約をして、後日手術を受けて痛みから解放されました。祖母が亡くなったことは悲しかったけど、このきっかけがなかったらもっと大変なことになってたかもしれない。だから「ばあちゃん、ありがとう」と思いました。それで作ったのが「ぬちどぅ宝」です。祖母の死と僕の体調不良が、勝手にリンクしちゃって。

──それは縁みたいなものを感じちゃいますね。

そこに何の関連がないとしても、奇跡みたいだと思えることが大事だと思うんですよ。「ぬちどぅ宝」にはそんな気持ちが込められてます。MVは沖縄で撮りました。僕にとってすごく大切な曲です。僕は自分を変えられるのは自分だけだと思っていて。誰かの仲間になるんじゃなくて、自分の仲間を作るというか。

──ポジティブだし、何よりニュートラルですよね。その考え方が「H.Y.P.E」というアルバムの自由な雰囲気に表れている気がします。

僕は誰かに頼るよりも、自分でやるって意識のほうが強いです。そういえばWARNER HYPE MUSICを立ち上げたときに、移籍後1stアルバムのタイトルは「H.Y.P.E」で、1曲目を「HYPE」にすると決めてたんです。2年前にリリースした「HYPE」のMVでその伏線を張っていて。このMVの最後に僕がりんごを食べるんですけど、これが「THE GRIMM」のMVにつながってるんです。そのりんごには毒がある設定で、これも今後への伏線です(笑)。あと「THE GRIMM」のMVに蛇が出てくるのは2025年の干支を意味していて、「H.Y.P.E」への布石だったり。そういうのを2022年から考えてました。MVにはほかにも伏線を張り巡らせています。熱心なファンの方は独自に考察してくれるのですごくうれしいです。

──自分もそうですが、オタクは考察が大好きです。

間違いないです(笑)。さっき「ティロリハウス」のMVの話をしたけど、そういう「伏線としてこの言葉をこのシーンに入れたい」みたいな超細かいことって人に頼みにくいじゃないですか。だから自分でやっちゃうんですよ。「二次元」と「City Lights」のMVはアニメですけど、あれも全部僕が描いていて、ほぼすべてのシーンに意味や符号があるので細かく観てもらえたらうれしいです。「H.Y.P.E」のリリースによって、海外ドラマみたいにいろんな伏線が回収されてます。

──アルバムの最後に収録されている楽曲「フクロウの約束」に「孫から貰ったお気に入りの フクロウの置物も」という歌詞がありますが、先ほど話していただいた「ぬちどぅ宝」とつながっている?

そうです! 「フクロウの約束」は祖母に向けて書いた曲で、すごく気に入ってます。同時に自分を鼓舞するための歌でもあります。等身大の僕が出てると思うし、今の僕しか書けないと思う。

──お話を伺っているとまだまだ壮大な計画や目標がありそうですね。

むっちゃあります。根本的なところだと、音楽を始めたときからの夢である日本武道館公演を実現させたい。あとはアニメが大好きなので、アニソンを作りたいんですよね。さらには自分でアニメを作って、その主題歌も担当するのが大きな夢です。ほかにもあるんですけど、それはおいおい楽しみにしていただけたら。今はまず「H.Y.P.E」をたくさんの人に聴いてもらいたい。そして気に入った方はMVも改めて見返して、独自の考察をSNSとかにアップしてもらえたら超うれしいです。

──とはいえ、お体だけはご自愛くださいませ……。

ありがとうございます(笑)。

iamSHUM

プロフィール

iamSHUM(アイアムシュン)

1989年2月8日生まれ、沖縄出身。ボーカル、作詞、作曲、サウンドプロデュース、アニメ制作などさまざまな分野で活躍するマルチクリエイター。倖田來未、Kis-My-Ft2、SEAMO、RADIO FISH、lolら多数のアーティストに楽曲を提供しているほか、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、西武園ゆうえんち、ハウステンボス、イマーシブフォート東京などテーマパークの音源制作も手がける。2019年に初のフルアルバム「I AM THE BEST」を配信リリース。2022年、ワーナーミュージック・ジャパン内に新レーベル・WARNER HYPE MUSICを設立し、2025年1月に同レーベルより初のアルバム「H.Y.P.E」を発表した。