正解に導くAwich

──2020年には中王区初の楽曲「Femme Fatale」が発表されました。

小林　Reolさんに本当に素晴らしい楽曲を手がけていただきました。私自身、内閣総理大臣というキャラクターの設定はもちろんのこと、その背景も自分なりに考えまして、乙統女様はどうラップをするか、どんな思いを持っているのかを試行錯誤し続けました。

たかはし　「ヒプマイ」の物語の中で中王区のキャラクターは、男性たちが倒さなければいけない存在で、ヒールだと思うんです。でもドラマが進む中で、実は乙統女は有栖川帝統（シブヤ・ディビジョン“Fling Posse”）の母親だったり、合歓が碧棺左馬刻の妹ということや、無花果が男性を憎む理由が明らかになって、中王区がヒールになってしまった経緯が、ファンの皆さんにも伝わったと思うんですね。特に、女性のファンの方には、その理由に大きく共感できる部分もあったりして。敵側であっても、憎み切れない……みたいな。そして主要キャラクターが3人になったことも大きいです。ゆうちゃん、そしてのじょが加わって「3人そろった……ということは！もしかして…中王区ディビジョン⁉︎」と期待や葛藤が飛び交い、そこに「Femme Fatale」の発表ですからね。「ヒプマイ」にまた新たな歴史が生まれた瞬間だと思いました。

──そして「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 8th LIVE ≪CONNECT THE LINE≫」では、中王区初のCDリリースがアナウンスされ、客席から大きな拍手が上がりました。その表題曲となる、Awichがラップの制作を手がけた「Verbal Justice」は、3人のマイクリレー曲となりました。

小林　まさか中王区でCDを出させていただける日が訪れるなんて思ってもみなかったので、本当にうれしいです。しかもAwichさんが歌詞をお書きくださり仮歌まで歌ってくださったことにも驚きました。以前からAwichさんの曲が大好きで聴かせていただいていたので、「あのAwichさんが中王区に!?」と本当にびっくりして。

山本　仮歌を聴いたときに……。

たかはし　「この仮歌をCDにしていただいたら買います！」って思ったよね！それぐらい、もう素晴らしかったです。

山本　そうなんですよ！ だからプレッシャーが半端じゃなかった……（笑）。でも、合歓や中王区のキャラクターの思いが曲に組み込まれていたから、どう歌えばいいかという答えを用意してくださってたように感じたし、歌う覚悟を決めることがすぐにできて。自分だけで正解を見つけるまで葛藤するんじゃなくて、Awichさんに中王区の曲としての正解に導いていただいたような感じがしますね。

小林　貴重な仮歌を聴かせていただいたことだけでも光栄なのに、それを歌わせていただけるなんて、「なんて素晴らしい経験をさせていただいてるんだろう！」って。仮歌という名の宝物です。そのことを本当にありがたく思いながら、もう全力で楽しんで歌わせていただきました。当たり前のお話ですが、私は歌う際には乙統女様を演じることを第一に考えているのですが、「乙統女様の可能性を担わせていただく」という重みを感じてマイクの前に立たせていただいております。乙統女様は前の総理大臣をラップで倒してクーデターを起こしたんですけど。

たかはし　……本当にすごい物語ですよね（笑）。

山本　「総理大臣をラップで倒してクーデター……」それだけ聞くとすごい世界観ですね、「ヒプマイ」って。

小林　（笑）。でも、その経験を経て現政権の党首になられた方は、どんなふうにラップをされるんだろうって想像を膨らませて、そういう「乙統女様の可能性」を狭めるようなことがないように、むしろ広げていけるようになれたらと思いました。私は乙統女様のことが大好きなんです。乙統女様にはさまざまなバックボーンがあって、すごくおつらいことがあったり、たくさんの涙を流されてきた、とても孤高な方だと思います。大切な人を失い、たくさんの別れを経験せざるを得なかった東方天乙統女様という人の生き様と孤独に、寄り添わせていただけたらといつも願っています。そしてその覚悟をAwichさんが言葉に紡いで素晴らしい楽曲をお作りくださいました。Awichさんのリリックから生まれたこの素晴らしい楽曲は、中王区の正義を感じます。本当に大切に歌わせていただきました。

韻で感じる中王区の信頼関係

たかはし　「Femme Fatale」はどちらかというとキャッチーで、中王区のわかりやすい部分を表現した曲かなと思います。一方で「Verbal Justice」は中王区の……内面に隠された芯のような部分を感じますね。それをAwichさんが見事な曲にしてくださいました。中王区のことをすごく考えて作成していただいたのが歌詞からも滲み出ているし、同時にAwichさんらしさも感じられるんですよ。短い言葉で強く、インパクトのあるひと言で「ああ！ すみませんでした！」とひれ伏させるような強さがあります。

山本　私もひと言でぶん殴ってくるようなAwichさんのパンチラインが大好きなんですよ。「女は女らしくとか うるせぇんだよ Shut the fuck up」（「どれにしようかな」）とか、「お前誰」（「WHORU? feat. ANARCHY」）とか、「口に出して」（「口に出して」）みたいな。

たかはし　そうそう！「Verbal Justice」だと「勘解由小路、雑魚を料理」とか。

山本　「お行儀よく首を洗え」も、パンチラインですね。

たかはし　そういう日頃は口にしないような言葉って、キャラクターソングに限らず、歌詞にはたくさん出てきますよね。それがラップだとよりリアルに感じます。日頃の鬱憤をはらすかのように……めっちゃくっちゃ楽しくレコーディングさせていただきました！（笑）

山本　中王区の世界観が、Awichさんのリリックにどう反映されるかすごくワクワクしてたんですけど、予想を遥かに超える爆発力がこの曲にはあるんですよ。パンチラインのほかにもキャラクターの関係性が歌詞に織り交ぜられていて、本当にすごいなって。例えば合歓の「合歓の絶妙Flowは空前絶後」から、無花果の「ペスト滅亡デストラクション」の展開。「合歓の」「絶妙」「絶後」と合歓が母音「E/U/O」で踏んで、無花果も「ペスト」「滅亡」「デスト」と、同じ「E/U/O」ライミングを引き継ぐんですよ！

──なんて細かな分析……木村昴くんの「週刊ヤングジャンプ」の連載「HIPHOP HOORAY」かと思いました（笑）。

山本　その韻でバトンをつなぐような構成に、中王区の絆を感じました。その描写が韻でできるのもラップの魅力であり、Awichさんがその部分まで考えてくださったんだなって。ほかにも、乙統女の「一か八か」は有栖川帝統のことと同じ血を感じるな……みたいな。あとは「Femme Fatale」のフックは「右へ左へ」だったんですけど、今回は「中王へ（＝中央へ）」なんですよね。そういうふうに曲と曲とで物語がつながったり、ラップの情報量ならではの読み解きができるのも、「ヒプマイ」の魅力だと思います。

たかはし　そうそう、「ヒプマイ」は深いのよ！ やっぱり「ヒプマイ」って……声優が歌うキャラクターソングのコンテンツでは、だいぶ尖っていると思うんです。フィメールラッパーの方々に楽曲提供をお願いするキャラクターソングなんて前代未聞ですよね。「Verbal Justice」からもその尖った部分を感じるし、私たち中王区がその原点を改めて照らすような曲を歌えたことが、すごくうれしいしです。そしてリスナーの方にも、この尖った、鋭角な「ヒプマイ」をまた再認識してもらえるかなって。

──SIMI LABのMARIAが手がけた「Just do it」、大門弥生の手がけた「No Pain, Not to be Strong」、あっこゴリラの手がけた「Independence day」と、あえてこの言葉を使いますが“フィメールラッパー”が参加したソロ曲も、本当に素晴らしいものになっていて、「ヒプマイ」の新しい波を感じました。そして中王区はライブアクトとして、4月15日、16日に東京・有明アリーナで行われる「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 9th LIVE《ZERO OUT》」に参加します。

小林　「ヒプマイ」に携わらせていただいて3年経つのですが、いつも新鮮な感動をいただいていて、毎回圧倒的なクオリティの楽曲をご用意していただいて本当に驚きの連続です。たとえ今回のライブは合歓さんと離れていたとしても、私たち3人の心は1つです。無花果さんと一緒に、心の中の合歓さんとマイクリレーをする気持ちでがんばります。「ヒプマイ」さんを応援してくださるお客様に楽しんでいただけるよう、精一杯努めてまいりたいと思います。

たかはし　先ほどもお話したように、「ヒプマイ」の曲はキャラクターソングではあるんだけれども、それに留まらないような、いい意味で尖った魅力があります。そんな「ヒプマイ」の魅力を、私も中王区として、ファンの皆様に精一杯お届けできるように頑張ります！ 「うちら、ほかとは違うから！」みたいな、尖ったバイブスで（笑）。お楽しみに！

Awichコメント

「Verbal Justice」の楽曲制作でイメージしたこと、こだわったポイント

この曲は「中王区の正義」という視点で書きました。さまざまな構想がぶつかり合う中、ずっと彼女たちの中にある正義、それは「言葉」と武力による争いを断固阻止するための姿勢です。其々のディビジョンは其々の正義のために戦っている。だからこそこの曲は、中王区言の葉党のトップスリーの女性たちが今現在思っていることにフォーカスを当てました。きっと今の彼女たちが人々に対して発信する曲は、歌えば誰もが賛同し、一致団結してしまうような、怖いくらいのパワーを持った曲だろうと想像しながら作りました。

「Verbal Justice」の完成音源を聴いた際の心境

声優の皆さんの歌唱によって、キャラクターの個性が楽曲に宿り、中王区の作品として完成したと感じました。私の仮歌から、ここまで昇華していただけるのだな、と想像以上の仕上がりでうれしかったです。