「ハンブレッダーズの『ギター』は言葉にできない気持ちを表現してくれる」グランジ遠山大輔がメンバーを前に熱弁 (3/3)

違和感を言語化して納得させてくれる

遠山 「再生」の「僕の感動とお前の「エモい」を同じにすんな」って歌詞も大好き。まさにその通りだなと思ったもん! なぜエモーショナルな気持ちになっているのか。そのかけがえのなさをちゃんと歌ってくれているし、景色もしっかり見せてくれているし。「エモい」という言葉で片付けちゃうもったいなさを教えてくれる曲だよね。

ムツムロ やっぱり、みんなが同じものに偏った状態は恐いと思うんです。それを肌で感じることがすごく多くて。学生のときからそうでしたね。大人になった今振り返ると、多数決が恐かったのかもしれない。自分は少数派の意見を持っていても、多数派の意見が通るじゃないですか。結果、自分の存在がないことになるから。もちろん「エモい」を使うなと言いたいわけじゃないし、ずっとこういう気持ちで生きてるわけではないですよ。

遠山 そう感じるときがあるってことね。

ムツムロ ですね。「泣ける」とかも、うーん……と感じることがあって。泣ける=いいことなのか、と思ったりします。だとしたら、そうじゃない映画や音楽はいらないとされてしまうのかなって。「泣けるわけじゃないけど、すごく好きな雰囲気の映画」だってあるのに。

遠山 本当にそうだよね! 僕はハンブレッダーズのこういうところがたまらなく好きなんだよな。違和感を言語化して納得させてくれるから。

ムツムロ ちなみに遠山さん、エゴサーチってしますか?

遠山 番組関連のはするね。オンエア後の反応とか見たいし。自分のもときどきは気になるかな。

ムツムロ 僕はあまりできないんですよね。つぶやいてくれた人の意見は見られる一方で、つぶやきはしないけど心でいろいろ思ってくれている人の意見が見えないのが如実になるじゃないですか。それがなんか恐くて。

でらし クラスにいた声の大きいやつが嫌いだったんですけど、それと同じ感覚かもね。そいつの言うことがクラスの総意になっちゃう、みたいな。Twitterも何かを発している人の意見がすべてに見えてしまうので、僕もエゴサはしないですね。

ムツムロ つぶやかなくても大切に思ってくれてる人がいる。そう信じ続けてる感じはあるよな。

でらし 教室でもそうでしたからね。多くは語らないけど、いろいろ思っているタイプ。

ムツムロ たまにエゴサするときは、そう心がけてからやるようにしてるもん。目の前で十字を切る感じで(笑)。

遠山 となると、ライブってやっぱりめちゃくちゃ大事だよね! 目の前にお客さんがいて、自分たちが作った音楽をその場で聴いて、表情なり反応なりがダイレクトに伝わってくるわけだから。

ムツムロ そうなんですよ! マスク越しでも目でわかるので。お笑いのライブも同じじゃないですか?

遠山 どうだろう……ウケてうれしいとかはあるけど、1人ひとりの顔まで見る余裕はないかもな(笑)。ミュージシャンの高揚感って、もっとすごいと思うよ。やっていて「すげえな」と震えるライブ、あるでしょ?

ムツムロ あります。こないだの札幌もヤバかったよね?

でらし 「何やっても大丈夫」みたいなゾーンに入れました。

木島 僕は札幌のライブ、個人的にあんまりだったんですけど……。

遠山 それはどうして?

木島 移動の関係で自分の機材を持っていけなかったんです。リハは大丈夫だったんですけど、本番が想像以上にやりづらくてビビってしまって。緊張も相まって、密かに大変でしたね(笑)。でも、終演後に片付けしてるときも熱気がすごく残ってたんで、いいライブやったんやなと思ったよ。

遠山 同じライブでも感触はそれぞれ違うよね。それがバンドなんだろうし。

ムツムロ 確かに。僕はライブをやっている自分のことも俯瞰しちゃうことがあるんで、それはやめたいなと思ったりします。

プレイヤーとしての欲とリスナーとしての欲

遠山 このアルバムは何回聴いても飽きないし、ずっと気持ちよく聴けるよね。例外として、後半の「名前」「天国」「プロポーズ」と屈指のラブソングが続くところは、キャリアハイな名曲の連打がすごすぎて、さすがに「ちょっと待ってくれ!」と1回停止ボタンを押しちゃったけど。

ムツムロ めっちゃ褒めてくれますね。

遠山 本当にそう思ってるから。あ、また木島くんのドラムの話していい? 「君は絶対」はドラムが始めは奥にあるというか、遠くにいるイメージで。バンドサウンドが入るところで、一気に前に出てくるのが好きなんだよね。

木島 ありがとうございます。

遠山 ギターとベースとドラムだけのシンプルなサウンドなのに、どうしてこんなに飽きないアルバムなのかというと、実はそういったギミックが随所にあるからなんだろうなと思ったの。単純にずっと前にいるわけじゃなくて、いいタイミングで前線に出てくる「君は絶対」のドラムとか。「スローモーション」の最初のサビでテンポがグッと遅くなったりとか。

でらし マジで聴き込んでくださってる!

ムツムロ 「天国」のドラムはボリューム小さめで録ったよね?

木島 うん。「天国」は最初もっと出そうとしてたんですけど、メロディがすごくいい曲だったんで、聴いているうちにドラムはそこまで前に出なくていいかなと。「君は絶対」も合唱で始まって、でらしのベースが立つ流れがある中で、急にドラムが出てくるのはおかしいと思ったんです。ドラムが聴き手に違和感を持たせたらいけないっていうのは、僕の中でけっこうありますね。

木島(Dr)

木島(Dr)

遠山 さっきも「邪魔したくない」みたいなこと言ってたもんね。

木島 やっぱり、歌詞とメロディがメインやと思ってるんで。そこから意識を外してしまうような叩き方はしたくないです。学生のときにスピッツの「青い車」のドラムを聴いて「なんでこんなに歌詞とメロディが気持ちよく抜けてくるんだろう」と衝撃を受けて以来、スピッツのドラムを研究して自分なりのスタイルを作ってきた感じですね。保守的というわけでもなくて、ムツムロのデモは1回全部ぶっ壊すつもりでやってますよ。

遠山 えー、そうなんだ!

木島 歌詞やメロディに対して当てはめるリズムって、人それぞれ絶対に違うので。デモを聴くときはあくまで「ムツムロが思うリズムはこうなんやな」と受け止めるんです。もらったまま叩くと、自分が見えてこない感じになっちゃうから。ドラムに関しては一旦全部作り直して、それでしっくりこなかったら元に戻したりもしますね。「君は絶対」はいろいろ試した結果、デモの形を採用するパターンでした。逆に「スローモーション」はデモからすべて変えてます。

ムツムロ 木島はもともと歌を引き立たせるドラムを叩きたい人なんですけど、今回のアルバムはそれをあえて崩しているところもあるよね。

木島 「ドラムを少し崩したら、このバンドはどうなるんだろう?」というチャレンジもしてますね。それこそ「BGMになるなよ」の叩き方とか。

ムツムロ ロックは自己破壊ですから(笑)。

遠山 でらしくんもベースを弾くうえでそういうことを考えたりするの?

でらし しますね。特にこのアルバムは、プレイヤーとしての欲とリスナーとしての欲が入り混じっていて。「ガチャガチャ」はカッコいいベースを弾いてやろうという気持ちが強いし、「再生」は歌詞とメロディが一番耳に入ってきやすいようにひたすらシンプルに作ってます。僕もやっぱり変にマジメなところがあって、プレイヤーとしての欲を100%出したほうがロックなアルバムになるとも思ったんですけど、「リスナーとして聴きたいものってなんなんだろう」と悩んじゃう性格なんです。そう考えると「もっとシンプルな音楽のほうが響くよな」と思えてくる。

ムツムロ 「再生」はいろいろ考えた末、簡単な作りにしたんですよ。コピーしてほしい思いもあって。スピッツの話がさっき出ましたけど、スピッツって超変態で。やっていることは簡単そうに見えて、実はめっちゃ難しいじゃないですか。でも、なんて言うのかな……それっぽく弾くのは簡単なんですよ。だから、高校生とか「チェリー」をコピーするし。その領域に行きたいのはあります。チャットモンチーやアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)にしても、演奏は一見とてもシンプルなんですよね。それをカッコよく見せるのがロックバンドらしいなと思っていて。極論を言えば、簡単なことをどう難しい顔でやって騙すかみたいな(笑)。ハッタリをかけたような曲でもあるかもしれない、「再生」は。

でらし 学生の頃に好きだった曲って、案外どれも演奏はシンプルなんですよ。

ムツムロ 「この感じならできるな」と思ってほしいな。弾けた瞬間のうれしさとか、そういうものをコピーで味わってもらえたらいいよね。

遠山 なるほど、そういうことも思うんだね。

みんなで中本に

遠山 (「ギター」の初回生産限定盤に付属するブックレットを見ながら)これいいね! 雑誌っぽい作りになっていて。

でらし 4万5000字ぐらいあって。メンバー座談会とか、盛りだくさんです。

遠山 これは誰の発案なの?

ムツムロ みんなで話し合って決めました。缶バッジやステッカーを付けようかとなったときに、「もっといらないものがいいんじゃない?」みたいになるんですよ(笑)。以前は“イルミナティカード”を特典にしたり。ちょっと変わった感じのほうが面白くて。

遠山 遊び心がありつつ、マジメに凝って作ってるよねえ。

ムツムロ 物作りするうえでの矜持なんですかね。今は配信が主流で、いろんなことがネットで完結する感じになっているけど、「本当にそうか?」という疑いもあったりするし、物を触ったときのテクスチャーは画像で見るのとは全然違うから。実物ならではの迫力は意識してます。歌詞カードやブックレットも手に取ってうれしいと思えるものにしたくて。

遠山 ブックレットを見ててパッと目に入っちゃったんだけど、「ひねくれ みてくれ きいてくれ」(雑誌「音楽と人」でムツムロが連載していたコラム)の「蒙古タンメン」の話、気になるねー。中本(チェーン店の「蒙古タンメン中本」)、好きなの?

ムツムロ 好きです。上京後はまだ数回しかお店に行けてないんですけど。僕、カップ麺のほうを大阪でずっと食べてたんですよ。

遠山 あー! セブンイレブンで売ってるやつね。木島くんとでらしくんは食べたことある?

木島 いや、ないですね。

ムツムロ なんでないねん!

でらし 僕はカップ麺をよく食べてます。あれに塩にぎり飯を入れるのが大好きで。

遠山 え!? まったく同じ食べ方してるわ! 俺がラジオで言ったやつ、真似してるでしょ?

でらし してないしてない(笑)。

ムツムロ そんな偶然あります?

でらし たまにリッチな気分になりたいときは、温泉たまごを入れますね。

遠山 いやー! それは……真似したい。

でらし さらに、納豆を入れちゃうともうたまらないですよ。

遠山 それ聞いたことあるなあ。

ムツムロ めっちゃ盛り上がってる(笑)。遠山さん、完全に火点いちゃった。

遠山 お店に行ったときは何を食べたの?

ムツムロ スタンダードなやつだと思います。

遠山 それ、炎(辛さ)レベルが3から5くらいでしょ? 8以上じゃないと!

ムツムロ めちゃめちゃロックですね。今度連れて行ってくださいよ!

遠山 もちろん。ぜひ、みんなで行きましょう!

ハンブレッダーズと遠山大輔。

ハンブレッダーズと遠山大輔。

ツアー情報

ハンブレッダーズ ワンマンツアー2022“ギター!ギター!ギター!”

  • 2022年2月5日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2022年2月6日(日)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2022年2月12日(土)福岡県 BEAT STATION
  • 2022年2月13日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2022年2月18日(金)石川県 Kanazawa AZ
  • 2022年2月20日(日)香川県 DIME
  • 2022年2月25日(金)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2022年2月27日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2022年3月5日(土)大阪府 なんばHatch
  • 2022年3月6日(日)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2022年3月15日(火)東京都 TOKYO DOME CITY HALL

プロフィール

ハンブレッダーズ

2009年、高校の文化祭に出演するため結成。現在はムツムロアキラ(Vo, G)、木島(Dr)、でらし(B, Cho)の3人で活動を行っている。2016年8月にシングル「フェイクファー / コントレイルは空に溶けて」を会場限定でリリースし2017年8月にはオーディション企画「でれんの!? サマソニ!? 2017」を勝ち抜き「SUMMER SONIC 2017」に出演。2018年1月に1stアルバム「純異性交遊」を発表した。2020年2月に1stフルアルバム「ユースレスマシン」をトイズファクトリーよりリリースしてメジャーデビュー。2021年11月に2ndフルアルバム「ギター」を発売した。2022年2月から3月にかけて初の全国ワンマンツアー「ハンブレッダーズ ワンマンツアー2022 “ギター!ギター!ギター!”」を開催する。

遠山大輔(トオヤマダイスケ)

1979年5月10日生まれ、北海道札幌市出身。お笑いトリオ・グランジのボケ担当。両親の影響で小さな頃から音楽に触れて育ち、現在も国内外問わずロックを中心にさまざまなジャンルの音楽に精通している。TOKYO FM / JFN38局「SCHOOL OF LOCK!」にて10年にわたって“とーやま校長”としてパーソナリティを担当。2019年7月よりTOKYO MX「69号室の住人」(毎週火曜25:35~26:05放送)のMCを務めている。またTOKYO FM / JFN38系「SCHOOL OF LOCK!教育委員会」(毎週金曜23:00~23:30生放送)にも出演中。