ギターソロがない理由

──「ギターが苦手」というのは、どんなふうに苦手なんですか？

ギターがというより、ギターソロが苦手なんですよ。なんていうのかなあ、ギターソロの自由度というか、アドリブ感みたいなのが好きじゃなくて。それよりは整ったきれいなコーラスワークとか、うまく構成されたストリングスとかのほうが好きなんです。

──ああ、構築美からはみ出してしまう自由な感じが苦手ということなんですね。てっきりギターソロで前に出てくるような暑苦しさみたいなのが苦手なのかと。

いえ、ライブとかでギタリストさんが前に出てきてやってたら、私もきっと一緒になってウワーッてやりますけど（笑）。後半に伏線を張ったような整ったギターソロならいいのかな。メロディラインに意味がないと、なんとなく落ち着かないというか。それに気付いた辺りから、私の曲からはだんだんギターソロがなくなっていくんです（笑）。別にギターを否定してるわけじゃないんですよ！

──自由度の高い音楽よりも、もっと緻密に構築された世界観が好きだという。

はい。全部「ストリングスがこう」「ハイハットはこんな感じ」って音楽的に説明できる力があればいいんでしょうけど、「整った感じで……」とかつたない言葉でしか伝えられないから、最初の頃は伝わらないもどかしさを抱えながら必死で説明してました。

ガーリーな雰囲気と物語性

──ディレクターさんとの音楽的なやりとりで印象的なことはありますか？

3代目ディレクターの柏田さんという方は、ご自身でも音楽活動をされている方でいろんな音楽に詳しいんですけど、私が好きなガーリーな要素というのをすごく考えてくださってましたね。あとやっぱり声優なので声の作り方は大事だって。こういう……（手を伸ばしてジェスチャーで説明）。

──えっ？

ボーカルの声質をこうやっていろいろ試して、どうやったら一番きれいに声が録れるかをミックスの段階で説明してくれたり。

──あ、今のはミキサーのつまみを回す動作だったんですね（笑）。

あははは（笑）。なんかおかしかったですよね。EQを動かしてたつもり（笑）。

──これだけこだわりを持って音楽を作ってきて、はっきりとしたカラーを確立されているということは、きっと堀江さんご自身の中でも「堀江由衣の音楽はこうだ」というものがつかめたんだと思うんですね。もちろん声優アーティストとしての活動を始めた当初は右も左もわからない状態だったと思うんですけど、自分のカラーがつかめた瞬間、方向性を決定付けた作品などはありますか？

2ndアルバム（「黒猫と月気球をめぐる冒険」）のときには、結構自分の意見も取り入れてもらっていますね。物語好きな自分として、ただ曲がランダムに並んでいるアルバムじゃなくて、ちゃんと物語性のある構成で、全体を通して意味のある1枚にしたかったんです。それからはまず最初にテーマを決めて、そのときどきで自分が作りたいアルバムの世界観を提案しています。1曲で選ぶとしたら……「Darling」という6枚目のアルバムに入っている「ラララ愛の歌」は、ありきたりではなく、私らしい曲ができたなと思いました。でも毎回毎回、ガーリーな雰囲気だけは残しつつ結構自由に作っているので、はっきりとした方向性みたいなものは今もないですね。急にピコピコした曲を歌い始めたりとか（笑）。

──むしろ明確に方向性を打ち出そうとは思わない？

そうですね。それよりもそのときどきのテーマによって変わりたいっていう気持ちが強いですね。

ちゃんと四角いのだったから安心しました

──そもそも歌手として活動すること、歌うことそのものについては、デビュー前はどのように考えてたんですか？

学生の頃はカラオケが大ブームで、友達とカラオケに行くのは大好きだったんですね。友達も私も凝り性だから、きちんとパート分けをしてみたりとか、録音して聴いてみたりとか、遊びの一環として歌は元々大好きでした。声優という職業で歌を歌う機会がよくあるのは知ってたんですけど、初めてレギュラーで出演させていただた「フォトン」というOVAでいきなり歌を歌わせていただくことになって。抵抗感もない反面、覚悟する間もなく始めたという感じですね。最初はブース内のマイクに歌うことに抵抗があって。

──それはなぜ？

「カラオケみたいにマイク持ちたいよー」っていう（笑）。そのぐらい歌うこと、レコーディングすることに無自覚なまま始まったんですよ。そうやってキャラクターソングや作品の曲を歌わせていただいているうちに、1stアルバムのお話をいただいて。そのときもやっぱり歌うことに構えることもなく抵抗もなく。ただ、キャラクターの歌じゃない曲をどうやって歌うのかというのは最初迷いましたね。

──気が付いたら足を踏み入れていた歌手としての道が、今もこうして広がりを見せながら続いているという。「BEST ALBUM」はその積み重ねが記録された作品だと思いますけど、改めて振り返ってみるとどんな気持ちでしょうか。

古い曲はもう10年以上前になりますけど、それからずっと不定期ながら続けさせていただいていて。ゆったり時間をかけてやらせていただいてるのはすごく贅沢なことだなって思います。シングル15枚分、どの曲もそのときどきのこだわりを持ちながら贅沢に作らせていただいて。コツコツと積み重ねてきたものがようやくひとつの塔になったね、みたいな印象です。

──塔の先端から根っこのほうを見下ろすように、最初の頃の曲を改めて聴いてみるとどんな印象ですか？

なんだか根っこがフラフラしているなあって（笑）。「土台、大丈夫？」みたいな感じではあるんですけど（笑）。この中で一番最初に録った「桜」とかその後の「Love Destiny」は今でもライブで歌わせてもらっていますけど、聴き返してみると、やっぱり今では出せない空気感はありますね。お芝居も同じように「これはこのときの自分にしかできないな」って感じます。じゃあ今は何が違うかって言うと、爆発的に成長したりしているわけでもないんですけどね（笑）。

──当時のジャケット写真を見返してみたりもしましたか？

「Love Destiny」ってどんなんだったかな？ と思ったら、ちゃんと四角いのだったから安心しました。こういうのじゃなく（両手を使ったジェスチャーで）。

──ああ、8cmの細長い短冊シングルではなく（笑）。

はい。ちゃんと四角いCDだったので「良かった！」って（笑）。やっぱり懐かしいですね。「こんな服着てたなあ」とか「こういうイメージだったんだ」とか。曲に関してはライブのために聴き返すことはあっても、CDの中身とかブックレットまで見返す機会はあまりないので。