【後編】
ミュージカルヒーリングアニメ「ヒーラー・ガール」が持つ、癒しの力とは
キャラクターに沿った歌声でなくてもいい
──アニメ「ヒーラー・ガール」の劇中歌アルバム「Singin' in a Tender Tone」は全12曲で、曲順がそのまま全12話のアニメの話数に対応していますね。
一同 そうなんです。
──シングル「Feel You, Heal You / Believe like Singing.」と同様に全曲の作詞が松井洋平さん、作曲が高橋諒さんですが、皆さんのクレジットは各々が演じるキャラクター名になっているので、いわゆるキャラソン集でもある?
吉武 キャラソンではあるけれど、「ヒーラー・ガール」の監督の入江(泰浩)さんがレコーディングのときに「あんまりキャラクターに沿った歌声で歌おうと思わなくていいです」とおっしゃってくださって。私たちも今こうやってしゃべっているときと歌っているときの声が違うのと一緒で、私が矢薙ソニアを演じているからといって「私はソニア!」という歌声ではないというか。
熊田 表現の幅があった。
吉武 そう、それも新鮮でした。
熊田 入江監督は本当にアニメ愛の強い方で、私たちのライブもご自分でチケットを取って観に来てくださったばかりか、グッズまで購入してくださって。私も劇中歌の収録のときは「この声の出し方は、キャラソンとして大丈夫かな?」とちょっと心配だった部分もあったんですけど、入江監督は「大丈夫です。表現として、中身は(熊田が演じる森嶋)響ちゃんだった」と。そういうふうに声よりも感情を優先してくださったので、めちゃめちゃレコーディングしやすかったです。
堀内 劇中歌のレコーディングのときは、ミュージカルのようにお芝居の延長で歌うというか、感情がたかぶって自然とセリフが歌になるみたいな感覚を重視していましたね。特に「Nesting birds」という、私が演じている(五城)玲美のソロ曲があるんですけど、この曲は玲美の家でずっとメイドを務めていた(鳥野)葵さんの巣立ちを描いていて。なので決して自分1人で歌わずに、1つひとつの言葉がしっかり葵さんに届くように歌うことを心がけました。
──難しい歌ですよね。葵との別離はとても悲しいが、祝福しなきゃいけないという。
堀内 そうですね。この曲で一番大事なのは葵さんに前を向いてほしいと願う気持ちなので、どう歌えば葵さんが笑顔になるかを考えて。難しかったんですけど、アニメ本編の映像を観ながらレコーディングできたので、より玲美に寄り添って歌えたと思います。
礒部 みんなの言う通り、入江監督が歌い方に幅を持たせてくれたので自由に歌えた反面、迷うところもあって。
──選択肢が多いから?
礒部 そうなんです。でも結果的にいろんなことにチャレンジできた、すごく実のあるレコーディングでしたね。自分が思う「キャラソン」という枠内では選ばなかった表現も臆することなく表に出せたり、特に第7話で歌った「Resonance」がそうなんですけど、(礒部が演じる)藤井かなの限界を定めずに歌えたのは大きかったです。インタビュー前編で千颯ちゃんが言ってくれたように、私は歌声と話し声のギャップが大きいんですけど、以前「声だけじゃなくて人格も違う」と言われたことがあって。「じゃあ、私の本当の声って、本当の姿ってどれなんだろう?」と悩んだこともあったんです。それを、「ヒーラー・ガール」という作品を通して入江監督も肯定してくれたようで。自分もそうであったように、かなだって「この歌い方じゃなきゃダメ」なんてことはないんだなって。
同じ歌でも、使われるシーンによって意味合いが変わってくる
──この12曲の中で、それぞれお気に入りの曲を挙げるとすれば?
堀内 難しいですね……。
吉武 全部好きだから、どうしよう?
熊田 私は第5話の……。
礒部 私もあの歌、すごい好き!
熊田 いいよね。夏休みにみんなで響ちゃんの実家に行って、山に登って蛍を見に行ったときに歌った歌なんですけど。
──「山には素敵なものがある~てっぺんまで登ろう~星と蛍」という組曲形式になっている楽曲ですね。第5話の山登りのシーンは「サウンド・オブ・ミュージック」感がありました。
熊田 そうなんですよ。実は劇中歌は、レコーディングブースで録ったものと、アフレコ現場で録ったものの2種類あるんです。ちなみにお芝居でも歌うようにセリフを言うシーンがあるんですけど、台本にはセリフのあとに「♪」マークが書かれていただけで。
──つまり、アドリブでセリフにメロディを付けていた?
熊田 ですです。第3話の運動会のシーンとかは全部アドリブで。ちょっと話が逸れちゃいましたけど、山登りの歌はアフレコ現場で録っていて、なおかつ全劇中歌の中で一番登場人物が多くて、みんなでスキップしているような楽しい気持ちでレコーディングしたので、それを思い出すたびに胸が高鳴ります。
──楽しかったのは、舞台が響の実家だからというのもありました?
熊田 ありました! 響ちゃんはみんなを包み込むような優しさを持っていて、一見するとお姉さんキャラのようだけど、パパとママの前では肩の力が抜けているというか、周りに頼ることができる普通の高校生らしい一面が垣間見られて。私も家で両親と接しているときと、お仕事の現場でスタッフさんと接しているときの姿勢は全然違いますし、そういう違いが歌声にも反映されたなあと思います。
堀内 柔らかい表現というのが響ちゃんの特徴の1つとしてあったと思うんですけど、よりかわいらしいというか。
熊田 そうそう。柔らかいけど、いつもよりちょっと「ルン!」みたいな。
──先ほど礒部さんが、劇中歌はリプライズ的な使われ方もしているというお話をされていましたが、「星と蛍」は第3話と第9話でも流れますし、「てっぺんまで登ろう」も物語の終盤で重要な歌になってくるという。
熊田 そうなんです。終盤の「てっぺんまで登ろう」は響ちゃんたちの師匠である烏丸理彩役の高垣彩陽さんとのデュエットで、アルバムには収録されていないんですけど、そちらはレコーディングブースで録っていて。同じ歌でも、使われるシーンによって意味合いが変わってくるんですよ。
──僕は先に取材用の音源だけを通して聴いたのですが、アニメを全話観てから聴き直すと、やはり印象が変わりますね。特に手術室で歌われた曲などは、より緊張感が増しているように聞こえました。
礒部 ミュージカルなんでね。
堀内・吉武・熊田 ね。
“新感覚ミュージカルヒーリングアニメーション”は伊達じゃない
──では、礒部さん、堀内さん、吉武さんのお気に入りの曲は?
礒部 私は、やっぱり「やわらかな音のなかで」ですかね。第1話の歌でしたし、すごくかなを感じながら、かなの言葉で歌えたので特別な曲になりました。
──「やわらかな音のなかで」も最終話で効果的に使われていますね。
礒部 本当にリプライズの使い方が巧みで、“新感覚ミュージカルヒーリングアニメーション”は伊達じゃない。同じ音楽が、作中での使われ方によって楽しい音楽にも悲しい音楽にもなり得るのがミュージカルの面白いところだと思っているので、皆さんにもそれを味わっていただけたらうれしいです。
堀内 私は第9話の手術室のシーンで歌った「SONG FOR LIFE」がすごく好きで。かなと響と玲美、そして烏丸師匠の4人で歌うんですけど、この曲には「ほら、風は呼んでいます」というフレーズが2回出てくるんです。師匠の歌声は、1回目の「ほら、風は呼んでいます」では自然とこちらの目線が上向くような、柔らかい風を感じて。でも2回目はすごくつらい状況で、何もかも吹き飛ばされそうな突風の中で、しっかり手を握ってくれるような力強さを感じるんですよね。そこに師匠の歌の素晴らしさが表れていますし、実際に私もその歌声を聴いて救われる思いでした。
──「SONG FOR LIFE」の主役は師匠で、玲美たちはバックコーラスを担当している形ですよね。
堀内 そうですね。玲美は低音のパートだったんですけど、たぶん今まで歌った曲の中で一番低い音だったと思います。その分、玲美としても踏ん張って「患者さんを救うぞ! 私は絶対に揺るがないから!」と、歌声に力強さを乗せられたと思います。
吉武 私は、第2話で妊婦さんを治療するために歌った「ちいさな声、おおきな世界」です。ソニアにとって初めての治療シーンで使われた音楽でもありますし、そのシーンに至るまでにソニアと幼馴染の(穂ノ坂)しのぶの関係性が描かれているのもすごく好きで。歌自体もソニアの独唱から始まって、かなとのデュエットになり、最後に烏丸理彩が歌うという流れがあって、このシーンは何回観てもゾクゾクしちゃいます。あともう1曲、第3話の「Run!Run!Run!」も、ソニアが運動会で玲美ちゃんと張り合っている歌なんですけど、めっちゃ好きです。
──コミカルかつミュージカル色の濃い曲ですね。
吉武 この曲は治療の歌ではなくて、ソニアと玲美のありのままの感情のぶつけ合いになっているので、ほかの劇中歌とは違った色があるんじゃないかなと。個人的な話をすると、「Run!Run!Run!」は私が唯一アフレコブースで録った楽曲だったので、そういう意味でも印象深いですね。
堀内 ソニアは表情豊かだからね。
吉武 そうなの。コロコロ表情が変わるのに合わせて歌うのもめちゃくちゃ楽しかったです。
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高垣彩陽さんはアニメでも現実でも“師匠”だった