はしメロ「aero」特集|日常に溶け込む26曲の物語を解説、著名人7組からのメッセージも (2/3)

14. routine
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:chillingcat]

ソウル / R&B色の強い、チルなエレクトロポップナンバー。中間パートでアンビエント風味にも展開するなど、そのスタイリッシュなごった煮感は渋谷系のムードもほのかに感じさせる。タイトル通り、ルーティンのように同一のコード進行をひたすら繰り返しながらメロディラインが変化していくブラックミュージック然とした構造となっており、そのうえで「R&Bを好きなフリ」と言ってのけるシニカルさもどことなく渋谷系っぽい。次曲以降の展開を鑑みると、“嵐の前の静けさ”を担う1曲でもある。

15. トリキの系列です
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:Sippy Blu]

クールに張り詰めたミニマルなトランスビートに乗せてウィスパーラップが畳みかけられ、ある種のASMR的な喜びも得られるドラッギーな楽曲に仕上がっている。できれば、まずは言葉を聴こうとせずにスリリングかつダンサブルな音世界に身を委ねたうえで、そののちに別途歌詞を確認して「こんなこと言ってたんか!」とノリツッコミの作法でそのギャップを楽しんでもらいたい。日本語ネイティブではない人がどんな感想を持つのかも非常に気になる1曲だ。

16. 渋谷のオナゴ気が強い
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:illdo]

前曲と双璧をなすような、キラキラしたハウストラックに乗せてドラッギーなリリックがリフレインするトリッピーなダンスチューン。すべての行が漏れなくパンチラインであり、しかもほぼ意味らしい意味を持たず、そのうえ全フレーズが執拗なまでに繰り返され続けるという、暴力的なまでに快楽的な構造が着実に左脳を麻痺させる。この連続する2曲がアルバム最大の山場と言っても過言ではなく、聴き終えた瞬間に「今、何かあったっけ?」と煙に巻かれる快感は何物にも代えがたい。

17. tan tan tan
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:ELYSIAN]

楽しげな曲名の印象とは裏腹に、抑えの利いたクールでムーディなトラックが場を支配する繊細なスウィートソウルナンバー。フックパートでメカニカルに細かく上下するメロディラインなどは、そのオートチューン感も含めていわゆる王道ディーヴァ的な味わいがあり、ボーカリストとしての振れ幅の広さをまたひとつ思い知らされる。ラップパートでさりげなくフィーチャーされるジャージークラブビートなども“味変”として非常に効果的だ。前2曲からの流れを受けて“我に返る”ための1曲と捉えることもできよう。

18. mine
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:Origamibeats]

チルホップ的なサウンド感で紡がれる、メロウかつ繊細なスローナンバー。ひとり言のような温度感でつぶやかれる“半径の狭い”歌で、その意味においては「en-en」などにも通ずるが、こちらはよりディープでダウナーな色彩をまとっている。ラップパートも含めて全体的に平板なメロディラインで統一されており、であるがゆえにフックパートで一瞬だけ叩き付けられる「mine I know that mine」のシンボリックなメロディが強烈に際立つ構造。ここぞの一撃で確実に仕留めるアウトボクサーのような楽曲といえる。

19. ヨロヨロ(feat. 7co)
[作詞:はしメロ、芦田菜名子 / 作曲:はしメロ、RYUJA、芦田菜名子 / 編曲:RYUJA]

芦田菜名子(Vo)とRYUJA(プロデューサー)による音楽プロジェクト・7coとのコラボレーションで生み出された、本作で唯一クレジット表記が「作詞・作曲:はしメロ」ではない1曲。サンバやボサノバなどを想起させるフィンガーピッキングスタイルで奏でられるエレクトリックギターのループを軸に展開するミディアムポップチューンで、「routine」などと同様の循環コード構造が採用されている。アルバム全体の流れとしてはひさびさの明るい曲でもあり、ここでクライマックスへ向けてギアが入れ替わるイメージだ。

20. YOKAZE replay
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:WICSTONE]

エレクトリックギターの繊細なアルペジオで幕を開ける、ミディアムテンポのメロウなオルタナティブポップナンバー。テンションコードを多用したアーバンでジャジーなハーモニーが鮮烈に響く1曲で、準ループ構造によって意図的に抑えられた抑揚が独特の浮遊感と焦燥感を醸成する。「深夜の残像」「とうに4am」といったフレーズからも想起されるような、日中と比べて変化の少ない深夜帯ならではの静けさと不気味さ、それゆえの不思議な親密感のようなものが、音として具現化しているかのようだ。

21. f=ma
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:seekx]

コンビニの入店メロディをリハーモナイズして引用した、サンプリング精神あふれる挑戦的なメロウチューン。楽曲そのものは王道J-POP感が強いが、カウンターメロディとして入店音を強引に配置することで、強烈な違和感と音楽的幸福感を同時に呼び起こすアンビバレンスな構造となっている。開かれたポップネスとラジカルな実験性を同居させながらも、小難しさを完全に排除した“ただの悪ふざけ”に昇華してしまう手腕は、端的に言って驚愕に値する。

22. yosumi
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:⌘ハイノミ]

テレビドラマ「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる 2nd Stage」オープニング主題歌として書き下ろされた、印象的な付点8分のコードリフが牽引するダンスポップチューン。生み出すメロディが(おそらくは本能的に)マイナースケールに偏りがちな傾向のあるはしメロとしては比較的珍しい、メジャー寄りの調性感を持つ開放的な1曲だ。音像は現代的なデジタルポップながらリズム構造はサンバなどに近く、体が自然に揺れてしまうような陽のエネルギーが強く感じられる。

23. テイクアウト
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:knoak]

変幻自在にさまざまなジャンルを横断し続ける本作の全26曲の中でも、ひときわ異彩を放つドリーミーなギターポップ。たっぷりとリバーブを効かせたエレクトリックギターのリードがメインボーカルに肉薄する勢いで存在感を主張しており、センターフォワード+シャドーストライカーのような2トップ体制を敷いているところがユニークな1曲だ。特に冒頭のギターリード→Aメロ→ギターリード→Aメロと掛け合う、近年あまり聴かれないような非常に“バンドっぽい”構成は注目に値する。

24. ひめすぎる
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:MIMiNARI]

ガチャガチャしたおもちゃ箱のような音像が耳に楽しい、ハイテンションなテクノポップナンバー。中毒性の高いリフレインを得意とするはしメロのソングライターとしての特性がここでも遺憾なく発揮されており、「めひめひめひめひお嬢さん」なる“意味はわからないが思わず口にしたくなるキラーフレーズ”が繰り返し叩き付けられる。サウンドデザインと呼応するようにキッチュさを強調したボーカルワークとも相まって、一種のトリップ感を生み出している。

25. 安泰
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:山本匠]

「YOKAZE replay」のセルフオマージュかのようなエレクトリックギターの寂しげなアルペジオで幕を開ける1曲。しかしイントロの入り以外は何もかもが異なると言ってもよく、ブレイクビーツ風のリズムセクションと和楽器テイストの5音音階フレーズがブレンドされた、ハイブリッドな味わいの音像が楽しめる。七五調に近いリズムで歌われる「まちどおしい ゆえ さめざめしい」の雅やかさは、その独特のボーカル表現とも相まって強烈なインパクトをもたらしている。

26. 浴す
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:石田勇喜]

ミニマルかつ穏やかな音像でぽつりぽつりと心情を語るようなパートと、激しくトランシーな轟音パートが入れ替わり立ち替わり現れる、いうなればエレクトロ版「Smells Like Teen Spirit」とでも表現できそうなダイナミックなエレクトロワルツ。優雅さをたたえたワルツのリズムを基調に、極めてパーソナルな心象風景が描き出される。音響的な必然性や諧謔性を重視した軽やかな言葉選びをシグネチャーとするはしメロの、比較的むき出しの言葉を浴びることができる貴重な楽曲だ。