珀が表現する“アニメ・マンガのキャラクターの新解釈”、作品に寄り添った音楽を届けるSSWの魅力に迫る

珀の新曲「Grieve」が配信リリースされた。

珀は「アニメ・マンガのキャラクターの新解釈」をコンセプトに作詞、作曲、編曲、歌唱までを1人で手がけるシンガーソングライター。テレビアニメ「キングダム」第4シリーズのエンディングテーマ「眩耀」を筆頭に、さまざまな作品をモチーフにした楽曲を発表しており、新曲「Grieve」もまた、話題のアニメ作品の主人公にインスピレーションを受けて制作された。この特集では、新曲「Grieve」を含む楽曲の魅力を紐解きながら、珀というアーティストの特徴を詳らかにしていく。

文 / 杉山仁

アーティストが楽曲制作の際にインスピレーションを受けるものはさまざまで、自身の経験から曲を書く人もいれば、架空の物語を想像して曲を書く人もいる。珀が特徴的なのは、アニメやマンガなど、自分以外の誰かが作ったものにインスパイアされて楽曲を生み出していること。それが活動コンセプトの1つでもある「アニメ・マンガのキャラクターの新解釈」で、もともと彼女が曲作りを始めた経緯も、好きなキャラクターをモデルに二次創作的な感覚で曲や歌詞を書き始めたことがきっかけだったという。つまり、「自分が何かに触れて経験した感動」が、アーティスト・珀の創作の原点になっているようだ。

珀は作詞作曲だけでなく、アレンジやミックスも自ら行う。歌のニュアンスの引き出しが多彩なため、さまざまなスタイルの楽曲を自分だけで完結できるのも特徴で、音楽性の幅の広さがインスピレーション源となった作品のよさを伝える表現力につながっているように思える。音楽的にできることが多いからこそ、幅広い作品からインスパイアされた楽曲を制作できる。そんな珀というアーティストの魅力が最大限に生かされているのが、アニメやドラマとのタイアップで制作された楽曲の数々だ。

「Grieve」ジャケット

「Grieve」ジャケット

実際にいくつかの楽曲を紹介したい。まず印象的だったのは、アニメ「キングダム」第4シリーズのエンディングテーマ「眩耀」。この楽曲は主人公の信と飛信隊をイメージして作られており、雄大なスケールのギターロックに二胡を使った中国音階を取り入れることで、古代中国の春秋戦国時代を舞台にした壮大な物語の雰囲気を表現すると同時に、信が多くの人々から託された思いの輝きをタイトルの「眩耀」(げんよう:まばゆく光り輝くこと)になぞらえている。この楽曲がリード曲となる1stシングル「眩耀」は、ほかの収録曲も「キングダム」の特定のキャラクターからインスパイアされた楽曲になっている。

また、BS松竹東急で放送中のテレビドラマ「商店街のピアニスト」の主題歌となった「邂逅の旋律」も印象深い。「商店街のピアニスト」は、幼い頃に父親の会社が倒産したことでピアニストの道をあきらめることになった主人公・澤本蓮が、商店街で思い出のピアノにもう一度出会い、ヒロインの梶原美鳥や周囲の人々との交流の中で成長していく姿を描いたヒューマンドラマ。ストリートピアノをテーマに据えて、ピアノや音楽そのものの魅力に焦点を当てた作品になっている。

そんな作品の魅力を表現するように、「邂逅の旋律」はギターロックやワルツ、ブレイクビーツなど音楽性が多岐にわたっている彼女の楽曲の中でも珍しく、ストリングスなどを加えつつピアノの魅力を引き立てたアレンジになっている。中盤の間奏やアウトロなど、随所にピアノの音を丁寧に聴かせるパートが用意されているのもポイントだ。また、「手を触れた瞬間に / 駆け巡る記憶の / 深く遠い何処かで / 誰かが呼んだ」と歌われる楽曲の冒頭は、ピアノに指を置く瞬間=音楽が始まる瞬間を連想させると同時に、ドラマ序盤の印象的なシーンを描いたものにもなっている。まるで主人公の蓮がピアノに指を置くシーンが目の前に浮かんでくるようなテーマ設定や言葉の選び方が絶妙で、蓮の頭の中をそのまま覗いているような感覚になる。加えて、歌声は1つの楽曲を通して徐々に記憶を取り戻しながら温かい感情を表現するような雰囲気になっていて、この構成もドラマの魅力をリアルに伝えてくれるようだ。ドラマを観たことのある人ならば、楽曲を通して蓮という人物が解像度高く表現されていることに驚くことだろう。

そして12月7日にリリースされたばかりの最新曲「Grieve」は、作品名は明かされていないものの、話題アニメの主人公にインスピレーションを受けて制作されたという楽曲。これまで同様、珀は歌だけでなく作詞、作曲、編曲を自ら行っている。まず印象的なのは、エディットされたピアノにブラスが割り込んで始まる序盤から、突然静謐なストリングスと切ないメロディが顔を出す楽曲中盤。グルーヴの感じられる前半パートから一転、悲しみや葛藤、孤独を体現したような音楽に変わっていく。細切れになったピアノ音には時折不規則なノイズなどが加わっており、まるで幸せな毎日にヒビが入っていくかのような雰囲気が表現されている。1曲の中で徐々に何かが崩れていく様子が、構成によってリアルに伝わってくるのが印象的だ。

また、ブラスは勢いよくエンジンを吹かす様子、ストリングスは作品に登場する壮大な雪景色をそれぞれイメージさせる。加えて、「その扉は開くなよ」という歌詞に対応して挿入される扉の音を筆頭に、電話の音やカチャッという銃の動作音など、原作の世界観を表現するための効果音も加えられている。こうした音の工夫によって、音楽ではあるものの、むしろどこか作品を「観ている」感覚になるようなアレンジに仕上がっている。

加えて、彼女自身のボーカルの表情の変化も印象的だ。「Grieve」では、Aメロなどでは極力抑えた歌い方が意識されており、それが「熱を帯びてく / 感情をただ噴かすように / 心が叫ぶ」というサビの頭から、一気に情熱的な歌声に変わっている。歌の熱量の高低差を意識することで、サビでの感情があふれ出すような雰囲気が大切に表現されているようだ。1曲の中で表現の幅やダイナミックな感情表現を楽しめる楽曲になっている。

幅広い音楽性を体現できるスキルの高さに加えて、作品の魅力を丁寧に読み解くような珀の楽曲は、アニメやマンガ、ドラマといったさまざまな作品との相性が非常によく、今後活躍の舞台はさらに広がっていくことだろう。深夜アニメを含むアニメ作品がユースカルチャーの中心の1つになってひさしい現在、「作品に寄り添って生まれる音楽」という、ある意味アニソン的な手法で生まれる彼女の音楽には、さまざまなリスナーを巻き込める間口の広さが感じられる。と同時に、音楽自体はアニソンのマナーとはまた別のもので、より幅広い音楽性が表現されているのも印象的だ。丁寧な筆致で描かれる「作品や感情に寄り添う音楽」として、さらに人気を広げていきそうだ。

オンラインライブ情報

珀 2nd Anniversary Online Live

2022年12月21日(水)21:00~

視聴はこちら

プロフィール

(ハク)

「アニメ・マンガのキャラクターの新解釈」をコンセプトにした楽曲を発表するシンガーソングライター。2020年12月にYouTubeで音楽活動をスタートさせて以来、作詞、作曲、編曲、歌唱、ミックスを1人で手がけた楽曲を多数発表している。2022年10月に、テレビドラマ「商店街のピアニスト」の主題歌「邂逅の旋律」を配信リリース。同年12月に最新曲「Grieve」を発表し、同月21日には2回目となるYouTubeでの配信ライブを行う。