バーチャルシンガーHACHI インタビュー|奥深くにある感情をさらけ出した4thアルバム「Revealia」 (2/2)

代わりに死んでくれる楽曲を作ろう

──歌詞で言うと「∞」も強烈ですよね。

「∞」は、アルバムの中で一番重たい楽曲ですね。自分の楽曲の歌詞で、最後まで一切救いがないのは初めてです。これまではどんなに苦しい感情を表現していても、最後には希望を描いていたけど、「∞」ではずっと死にたがっている状態で。

──水玉先生がこういう歌詞を書くんだ、と最初に聴いたときはかなり驚きました。

でも、水玉先生も、私と同じところまでメンタルが落ちた経験がある人なんです。だからこそ、こういう深い歌詞が書けるんだろうなと思っていて。「死にたい」と思ったことがある人じゃないと、この歌詞は書けないし、歌えない。この曲の制作中、水玉先生と「死にたくても死ねないときってありますよね」って話していたんですよ。もうどうしようもなく消えてしまいたいのに、理性がそれを必死に止めてくる感覚といいますか。衝動的なものとは違う「今すぐ全部捨てて消えたい」という感覚なんですよね。でも、人は簡単には死ねないし、死んではいけない理由もたくさんあるから「代わりに死んでくれる楽曲を作ろう」という話になりました。

──そう聞くと、なおさら重い楽曲に感じます。

それでもアルバム自体は、どん底から少しずつ上がっていって、最後にちゃんと立ち直るような構成になっています。後半に向けて、少しずつではありますが。その象徴がアルバムの最後に収録した「Brand New Episode」ですね。最初に先行配信した楽曲なんですけど、そうしたのは「もう乗り越えてるからね」というメッセージを先に伝えたかったからなんです。アルバムを通して聴くと、1本の映画を観たような気分になれる構成だと思います。

──ストーリー性を感じられて聴きやすい作品ではあるものの、アルバム全編を通してかなり強い言葉が使われているのが印象的です。

言葉を濁しちゃいけないなと思ったんです。「自己開示」をテーマにしているのに、ここで濁しちゃったら、今後もずっと変わらないままだろうなって。先ほどお話しした通り、今までは少し含みを持たせた表現に逃げてきたところがあったんですけど、今回は直接的な言葉を意識しました。実際に楽曲の歌詞のように思っていた時期もあったし、メンタルが落ちているときって、何を言われても気持ちは簡単に変わらないんですよ。実際、ちょっとした希望も楽曲に差し込めないくらい、悩んで追い込まれていました。

──アルバムを完成させるまでに立ち直るきっかけがあったんですか?

はい。いつも変わらずライブに会いに来てくれるBEESたちの存在が大きかったです。BEESからもらった手紙を読み返しましたし、あとはエゴサをしたり、配信で届くコメントを見たり、みんなの言葉を目にして安心していました。そういうものに支えられて、少しずつゆっくり立ち直っていきました。

ラブソング「Chère amie」が生まれた背景

──12月のカルッツかわさき公演「HACHI Live Tour 2025 "Unlockture"」で初披露された「Chère amie」が特に印象的というか、聴いていて圧倒されました(参照:HACHI、ニューアルバムの新曲を惜しみなく披露!力強い歌声で観客の心を揺らす)。ポエトリーリーディングを取り入れた楽曲で。

「Chère amie」もかなり重たい背景があるんですけど、ジャンルとしてはラブソングですね。ポエトリーを取り入れた理由は、単純に私がポエトリーの入った楽曲が好きで、やってみたいという気持ちがあったからです。楽曲を制作してくださった澤⽥空海理さんの作品には、最初から最後までポエトリーの楽曲もあって、「この人になら相談できるかもしれない」と思ってお願いしました。正直、ライブでは噛まないかめちゃくちゃ不安でした(笑)。

──ラブソングとのことですが、歌詞にはどのようなメッセージが込められているんですか?

ありのままを話すと、過去に友達を1人亡くしまして。その人のことを忘れたくなくて作った曲なんです。人って忘れたくないことがあっても、どうしても忘れてしまうし、その状況に慣れていく生き物じゃないですか。知り合いを亡くした直後は何もできなくなるくらい苦しいのに、いつか「大丈夫になってしまう瞬間」が来ますよね。それが、すごく寂しかったんです。その人がいなくても大丈夫になっていく自分が、どうしようもなく寂しい……。声とか、匂いとか、少しずつ記憶が薄れていく中で、「忘れたくない大事なものがあった」という話を澤⽥さんにしたら、ものすごく愛にあふれた曲を返してくれました。

──なるほど。それをラブソングとして落とし込んだんですね。

そうですね。結果的に暗い感情だけじゃなく、大切な人を思う気持ちが詰まった歌詞になりました。亡くなった相手が、概念のように存在して笑いかけてくるような、そんな愛しさのある楽曲になったと思います。メロディもすごく耳に残るし、歌を録っているときはずっと泣きそうでした。

──今のお話を踏まえて歌詞を読むと、「ゆっくりしていけばいいのにね」というフレーズにかなり考えさせられます。

「ゆっくりしていけばいいのにね」の部分は、本当にいろんな感情を込めました。「そうすればよかったのにね」という後悔の言葉にも聞こえるし、少し乾いた笑いが混ざったようなニュアンスもあって。曲の中で一番気持ちを込めて歌っている部分ですね。これまでの人生、命に限らず縁やつながりなど、失ったものがたくさんありました。「Chère amie」は、そういう人やものに向けて歌っている側面もあります。

「HACHI Live Tour 2025 “Unlockture”」神奈川・カルッツかわさき公演の様子。(Photo by Kenta Umeda)

「HACHI Live Tour 2025 “Unlockture”」神奈川・カルッツかわさき公演の様子。(Photo by Kenta Umeda)

自分をさらけ出したことで、逆に安心感が生まれた

──アルバムの中で、個人的に一番好きなのは「Before anyone else」です。

「Before anyone else」はカルッツかわさき公演のアンコールで歌いました。実は、このライブはしんみり終わらせないと決めていたんですよ。次につなげていくから安心してね、という気持ちも込めていて。私もこういうお腹から声を出す曲が大好きなんですけど、HACHIに対するバラードのイメージが強くなりすぎた結果、「こう歌うべき」という固定観念に縛られてしまって、大きな声で歌えなくなっていたんですよね。それを全部ぶち壊す勢いで作ったのが、「Before anyone else」です。

──固定観念を壊すという意味で言うと、「誰も知らない」は今までにない高音の楽曲ですよね。

そうですね。ここまで高い音程でのアプローチは、カバー以外では初めてでした。しかも、ハモリを一切入れていないんですよ。声だけで成立させることを意識して完成させた楽曲です。

──改めて「自己開示」というコンセプトも含め、チャレンジの多いアルバムになりましたね。

今回のアルバムを通して、表現の幅がかなり広がったと感じています。肩の力が抜けて、自分の歌をもう一度好きになれたというか。活動が長くなるに伴い、ファンの方が離れていく経験もしてきましたし、チームが変わる時期もありました。その中で、自分にずっとプレッシャーをかけ続けていたんですけど、「ここまで力を抜いてもいいんだ」と思うことができた。自分をさらけ出したことで、逆に安心感が生まれました。でも、アルバムを作る過程は、本当に苦しかったです。13曲分、自分の過去や感情を掘り起こして言葉にしなければならなくて、泥だらけの部分を人に見せる怖さもあったし、自分のことを何度も話しながら楽曲を制作していくのは、正直かなりきつかったです。

──それを乗り越えたからこそ、ここまで深みのあるアルバムが作れたんですね。最後に、今後の活動に対する展望を聞かせてください。

たくさんの人に知ってもらいたい、という気持ちは変わらないんですけど、腰を据えて、長く活動していきたいと思っています。今そばにいてくれている人たちと、もっと深い関係を築いていきたい。そして日本武道館に立ちたいという夢はずっと変わりません。目標向けて、今はとにかくなんでもやっていく時期だと思っています。このアルバムを出したあと、次に何を作ればいいんだろうという不安は正直あります。でも、好きな音楽を、好きな形で出せていければ、それで幸せなんだろうなと感じています。

プロフィール

HACHI(ハチ)

2019年に活動をスタートさせたバーチャルシンガー。透明感のあるシルキーボイスとエモーショナルな表現力が特徴。海外公演を含むツアーや有観客 / オンラインライブを開催しつつ、YouTubeで週2回の定期配信を実施して歌を届け、親近感のある語り口のトークも含めてリスナーの心に寄り添い続けている。2024年11月にアルバム「for ASTRA.」でキングレコードよりメジャーデビュー。2026年2月に4thアルバム「Revealia」をリリースした。