goomiey|バンドの新たな一歩を示す新作「ゼロドラマ」レビュー&著名人7人のリリース記念コメント

茨城県水戸市発のガールズバンドgoomieyが、3月4日に新作ミニアルバム「ゼロドラマ」をリリースする。

メンバー全員が18、9歳の同級生で、結成から約2年8カ月というタイミングで発表される「ゼロドラマ」。“あなたが踏み出すその1歩に贈る、わたしたちからのゼロドラマ”というキャッチコピーを掲げた1年ぶりの新作で、タイトルには自由を表すゼロと、「“0”から始まる私たちのドラマを作っていく」というバンドの思いが込められている。

今作の魅力を多角的な視点から紐解くべく、音楽ナタリーでは音楽や文学、映画などのカルチャーをメインに取り扱うライター・山田宗太朗によるレビューを掲載。さらに地元・茨城のライブハウス店長やgoomieyと接点のあるバンドメンバー、水戸出身のスポーツ新聞社デスクなど幅広いジャンルの7名からの「ゼロドラマ」発売に寄せたコメントも併せて掲載する。

goomiey「ゼロドラマ」ジャケットgoomiey「ゼロドラマ」ジャケット

文 / 山田宗太朗

この若いバンドの音源を聴いたとき、まず初めに惹かれたのは、平山舞桜(G, Vo)の突出した歌の表現力だった。繰り返し何周も音源を聴き続けている今でもその印象は変わっていない。goomieyという一風変わった名前のバンドがほかの若手ガールズバンドと一線を画していると言える理由の1つは、彼女の歌にあると言えそうだ。声は伸びがあってよく通り、低音と高音の使い分けもうまい。が、注目すべきはそこではなく、歌詞やメロディと歌い方をリンクさせている点だ。

平山のボーカルは、あくまでもその曲が持つメッセージを伝えることを第1の目的としているように聞こえる。この若い歌手は、おそらく“何を歌っているか”に自覚的なのだろう。だから、内容によって歌い方を微妙に変える。声を張って高らかに歌い上げることもあれば、その歌い方を崩すこともあり、あえて弱々しさや無邪気さを前面に押し出すこともある。2ndミニアルバム「ゼロドラマ」の収録曲だけを挙げても、「ステレオタイプ」「118号線」の強弱と憂い、「マガジン」「gloomy」の軽やかさと無邪気さを比べてみると、おそらくその極端な違いがわかるだろう。

若手の実力派ボーカリストは自分の歌のうまさに酔い、そのうまさを聴き手に押し付けてしまうことがあり、一方で歌のうまくない場合は演奏に甘えることがある。平山はそのどちらでもなく、すでに適切な歌い方を心得ているように見える。つまりそれが技術である。歌が技術によって支えられているから、彼女の声は聴き手の心に、しっかりと意味を持った言葉として届く。歌詞カードを読み込まなくとも意味を感じ取れるから、聴き手は自然と、届けられた歌を自分の個人的な物語に変換するわけだ(若いと繰り返し書いたが、平山は1歳の頃に歌を歌い始めたのだという。彼女は現在19歳なので、すでに18年のキャリアがあると考えることもできる)。

平山が表現力のあるボーカリストとして存在感を放っていることがこのバンドの大きな特徴だが、もちろんそれだけではない。彼女のボーカルに、大久保林香(Dr)と岩堀聖奈(B)のコーラスが絶妙なバランスでハモってくる。2人のコーラスはそれほど主張が強いわけではないが、適切な場所で適切に混じり合うため、主旋律の美しさをより際立たせる。ちょっとクセになってしまいそうな高音は心地がよく、そのバランスの妙で、平山の歌声はより遠くへ届く。「本人」のようにやや毒っ気のある曲ですらポップに響くのはコーラスによるところが大きいのではないか。

goomiey

彼女たちがバンドを結成して最初にカバーした曲は、yonige「さよならアイデンティティー」とリーガルリリー「リッケンバッカー」だったという。なるほど、両バンドの初期の曲とgoomieyの楽曲には近しさがある。ほかにもHump Backやthe peggies、あるいはSHISHAMOなど、ここ数年の間にシーンに登場したガールズバンドが持つポップさや聴き手に訴えかけるエモーショナルな要素をgoomieyにも感じることができるだろう。

結成してたった1カ月でライブを行い(結成時、岩堀には楽器経験がなかったという)、1年で茨城県水戸市のmito LIGHT HOUSEを満員にするなど、地元ではすでに強いプレゼンスがある。「水戸を背負っていきたい」という思いで地元に根付いた活動をする中、2019年に初の全国流通盤「Arms」を発売し、1年かけて関東各地や東名阪でツアーを行い、地力を蓄えてきた。今回の「ゼロドラマ」を経て、彼女たちの名はさらに広まっていくに違いない。

ちなみに、歌詞は平山と大久保が曲によって書き分けているが、共通しているのはどちらも“1人のための歌”を書いている点だ。誰かとつながろうとするのではなく、たった1人でもこの世界を生きていけるためにほんの少しだけ寄り添いたい、そのような姿勢が貫かれているように思う。「ゼロドラマ」の1曲目に置かれた「マガジン」は、そのことを示す象徴的な一節で締められている。

「難境だらけの夜を越えていく 世界に君がいなくてもなんとかやっていける気がしてる」

goomieyの音楽は、依存ではなく自立のための音楽だと言ってもいいかもしれない。

「ゼロドラマ」というタイトルには、「ゼロからはじまる私たちのドラマを作っていく」という意味が込められているそうだ。しかし、もうゼロではない。すでにドラマは始まっているのだ。彼女たちの中でも、このバンドのリスナーの中でも。