GOOD ON THE REEL「交換日記」特集 千野隆尋(Vo)×住野よる|2人が交わした交換日記から生まれる新しい物語

GOOD ON THE REELが4月28日に新曲「交換日記」を配信リリースした。

「交換日記」はGOOD ON THE REELが約4年ぶりに発表するオリジナルアルバム「花歌標本」のリード曲で、千野隆尋(Vo)と作家の住野よるがそれぞれ想像上の男女になりきり交換日記を交わし、その内容をもとに歌詞を書いた楽曲。アルバムには「交換日記」のほか、テレビドラマ「左ききのエレン」のエンディングテーマ「あとさき」、テレビドラマ「俺たちはあぶなくない 〜クールにさぼる刑事たち」のオープニングテーマ「ノーゲーム」などの計10曲が収められる。

音楽ナタリーでは千野と住野の対談を実施。新曲制作の経緯や2人が交わした交換日記の内容について話を聞いた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 笹原清明

いつもそこにいてくれる、どこにもいないバンド

──住野さんは以前からGOOD ON THE REELの音楽を聴かれていたそうですね。

住野よる はい。小説家になる前からいろんなバンドの音楽が好きだったのですが、小説家・住野よるになってから(住野は2015年6月に「君の膵臓をたべたい」でデビュー)、最初に好きになったのがGOOD ON THE REELだったんです。初めて観に行ったライブもよく覚えてます。夜の本気ダンスとのツーマン(2015年7月に大阪・梅田CLUB QUATTROで開催された「GOOD ON THE REEL presents 『HAVE A "GOOD" NIGHT』」)ですね。

千野隆尋(Vo) 大阪ですよね。初日は対バン、2日目はワンマンという企画で。

──2015年の7月、ちょうどミニアルバム「七曜になれなかった王様」をリリースした時期ですね。

住野 自分のTwitterで「GOOD ON THE REELがすごくいい」とつぶやいていたら、宇佐美(友啓 / B)さんから連絡をいただいて、その後、ご挨拶させてもらったんです。「小説家として好きなバンドのメンバーさん達に会う」ということにすごく緊張しました。

千野隆尋(Vo)
住野よるの“本体”

住野よるの“本体”

──住野さんにとって、GOOD ON THE REELの魅力とはなんでしょうか?

住野 GOOD ON THE REELは僕にとって、“いつもそこにいてくれる、どこにもいないバンド”なんですよね。ほかのどんなバンドにも似ていない稀有な存在なのに、自分の日常に自然に沁み込んできてくれるというか。

千野 ありがたいです。

住野 曲から景色が見えてくるのもいいんですよね。例えば「素晴らしき今日の始まり」という曲のMVは、花火を使った演出が特徴的なのですが、その映像とは別に、自分の中に“いつか見たかもしれない景色”が浮かんでくる。それは千野さんの歌詞の力によるところが大きいと思います。

千野 プロの小説家の方にそう言ってもらえるのはすごくうれしいです!

他業種のアーティストとコラボしたい

──GOOD ON THE REELの15周年記念サイトには千野さん、住野さんが想像上の男女になりきって書かれた交換日記が掲載されています(参照:GOOD ON THE RELL×住野よる | GOOD ON THE REEL オフィシャルホームページ)。

千野 住野さんとの交換日記のやりとりは本当に緊張しました。「文章のプロの人に、自分が書いたものを見せるのか」と(笑)。普段書いている歌詞とは全然違うし、僕らの曲を好きでいてくれてることも知っていたので、さらにプレッシャーがかかって。

──お二人が交換日記を交わすというアイデアはどんなにふうに生まれたんですか?

千野 GOOD ON THE REELが15周年を迎えるにあたって、「これまで関わりがあった人、出会ってきた人たちと何か面白いことをやりたい」と思って。CDジャケットのイラストを描いてくれていた森俊博くんもそうですけど、他業種のアーティストとコラボしたいねという話になったんです。その中で住野さんにもお声がけしたらOKをいただいて。打ち合わせのときに、住野さんが出してくれたのが交換日記というアイデアだったんですよ。

住野 その前に「往復書簡はどうだろう」という話があったんですが、交換日記だったら、始める時点で2人の関係性がある程度できていますからね。

千野 わかりやすくていいなと思いました。男女でキャラクターを分けられるし、読みやすいんじゃないかなと。あと、コロナ禍で人と人とのつながりが軽薄になっていることも意識していて。会うことすらしなくなった時代だし、手書きの文章をやり取りすることの温かさを感じてほしかったというか。今の若い人たちは交換日記というものを知らないかもしれないけど(笑)、これをきっかけにして、また流行ったらいいですね。

──交換日記では、付き合い始めの時期、数年経った時期の男女それぞれの心情を垣間見ることができます。日記は千野さんがなりきる男性側から始まりますね。

千野 僕らの企画なので、まず僕が先に書くほうがいいだろうなと。情景を想像しながら、「この男性は、どういう人だろう?」と練って、何度も書き直しました。お互いのキャラクターを決めてなかったので、住野さんから戻ってきた日記を読んで、「なるほど、こういう感じか!」と驚きましたね。それはたぶん、住野さんもそうだったと思うんですけど。

住野 まったくそうですね。予想してなかったさまざまな要素が盛り込まれてて。

千野隆尋(Vo)

歌詞に反映された女の子の本音

──お二人が描いた男性と女性は、キャラクターがはっきりしてますよね。男性はちょっと優柔不断。女性のほうは意志が強くて、2人の関係をリードしている。

千野 僕が書いた男性のほうは、自分に近い感じかも(笑)。あとは「世の中の男性って、こういう感じだよな」というのもありましたね。女性のほうは確かに芯があって、意思がはっきりしてますね。そのあたりはうまく描けているのかなと。

住野 千野さんから最初の日記が送られてきたときに、「この男の子を好きになるのは、どんな女の子だろう」と考えたんです。そのうち女の子に感情移入してきて、「この男はなんなんだよ」と腹が立ってきたり(笑)。

千野 はははは(笑)。

──最初のやりとりには付き合い始めの初々しさがすごくありますが、数年後という設定の交換日記では2人の関係がかなり変化してますね。

住野 そうですね。4周目の女の子の日記に関しては、ちょっと変なことをやりたくなって。女の子の気持ちを書いた文を線で消すむちゃぶりをしてみました。

千野 冒頭の文章に二重線が引いてあって、その後に「書いた時の気持ちも嘘ではないので勇気が出たら読んでください」と書かれていて。そこに女の子の本音の部分が表れていたし、相手に伝わってほしいけど、口では言えないから、ヘンなことをしてしまった、みたいな感じもあって、人間らしいなと思いました。あの部分があったからこそ、2人は本音で話し合えたと思うし、それは僕が書いた歌詞にも出てますね。

住野 そう、二重線の部分もちゃんと歌詞にしてくださっていて。感動しました。

千野隆尋(Vo)
千野隆尋(Vo)

爆弾が埋まってる!

──交換日記をもとに歌詞を書くとき、どんなことを意識しました?

千野 文章の中で描かれているストーリーや感情をもとに歌詞を書くのは、もちろん初めての作り方で。何度も読み返して、「どこか大切なところなんだろう?」と考えて、キーワードを紙に書き出したんですよ。たとえば“キーホルダー”とか“映画”とか。

──2人で鎌倉に行ったときに買ったおそろいのイルカのキーホルダー、その帰りに観た映画のことですね。

千野 そういうわかりやすいキーワードを日記に入れておいたのはよかったですね。それがなかったら2人の気持ちだけを書かなくちゃいけなかったし、もっと悩んだと思うので。“キーホルダー”や“映画”に2人の感情を反映できたし、歌詞としてもうまくつながったのかなと。住野さんが日記に書いてくれた「私のイルカのキーホルダーは今でも私の鍵についています。色も落ちてしまったけど、ちゃんと私のところにしがみついていてくれました」という部分もポイントでしたね。めちゃくちゃエモいなと思って(笑)。

住野 ありがとうございます。

千野 男の子のほうは、途中でキーホルダーを使わなくなっちゃうんですよ。最初は付けていたんですけど、恥ずかしくなって。

──おそろいのキーホルダーですからね。しかも2つ合わせるとハートになる。

千野 女の子のキーホルダーは使い込んで色褪せてるんだけど、男の子のほうはそうじゃない。その描き方にグッときたし、そこは歌詞にも汲み取りたかったんですよね。

千野隆尋(Vo)

住野 “キーホルダー”と“映画”のことを書いてくださったのは千野さんで、打ち合わせではまったく話してなかったんです。なので最初に読んだときは「爆弾が埋まってる!」と思った(笑)。「この爆弾をお前はどう扱って、どう返すんだ?」と言われている気がしたというか。いや、千野さんは爆弾とは考えてなかったと思いますが(笑)。

千野 僕の中ではフリだったんですよね。「このフリに対して、どう返してくるんだろう?」と思っていたので、住野さんの言う通り、日記の中に爆弾を埋めたのかもしれません(笑)。

住野 そう考えるとこの文章のやり取りは、想像上の男の子、女の子の交換日記であり、その奥には僕と千野さんの会話がちゃんとあったんだと思います。お互いの文章を読んで、相手の意図を汲み取りながら書いていたので。

千野 僕のフリに対して、文章を返すのは大変だったと思います。もちろん戻ってくるたびに「すごい! こう来たか!」という感じだったんですけど。

住野 交換日記なんて大人になってから触ったこともなったので、楽しかったです。自分以外の人になって書くのもそうだし、「楽曲のもとになる」という前提もあって。GOOD ON THE REELが好き」という自分自身の気持ちもあるんだけど、それが強くなりすぎると、女の子の気持ちから離れてしまうし……すごくスリリングな経験でしたね。