ゴールデンボンバー「イイね」特集|鬼龍院翔が伝えたい現代社会へのメッセージ (2/2)

まったく進化しない鬼龍院翔の制作スタイル…その理由は

──ご自身の音楽的欲求に忠実である一方で、鬼龍院さんはミュージックビデオに楽曲を無料ダウンロードできるQRコードを配した「#CDが売れないこんな世の中じゃ」のようにプロモーションでも毎回面白いことを考えてますよね。いい楽曲を作ることと、楽曲を届ける方法って本来は別物だと思うんですが、両立している。

別物ですが、どちらも大事だと思います。いい曲を作ったのに誰にも聴かれないということは往々にしてあるので。わかりやすい例だと「女々しくて」は2009年にリリースしたとき、オリコンシングルランキングで初登場77位でしたから。熱心なファンの方がCDを買ってくれただけで、すぐランキング圏外になってそのまま埋もれる曲になるはずだったんです。ヒットしたのは2011年から12年にかけて。リリースしてから2年ぐらい経ってのことです。うちの事務所の会長がすごくて、あの曲の持つパワーを見抜いて2011年にもう1回リリースしたんです(シングル「女々しくて / 眠たくて」)。そのタイミングでテレビで何度か歌わせてもらったらヒットしたという。

──ハウス食品「メガシャキ」のCMソング用に歌詞を変えた「眠たくて」も当時深夜に頻繁に耳にしました。

あのCM、3連続で流れたこともあるらしいです(笑)。誰かに聴いてもらう機会を作ることの大切さを僕は痛感しているので、いいものを作ったらそれをどうやって届けるか頭をひねることは本当に大事だと思います。本来ミュージシャンはいい曲を作って、歌うこと、演奏することが仕事で、宣伝は事務所スタッフの仕事なんですけど、僕はけっこうなインターネット中毒なので(笑)。インターネットで目立つにはこうしたほうがいいとか、どういったものが受けやすいか思いつくとすぐスタッフに提案しちゃいます。

──「女々しくて」がヒットして以降、ゴールデンボンバーにはいい曲がたくさんあることが一般の方に伝わったと思います。

確実にあの曲を入り口にファンが増えて、ほかの曲も聴いてくれましたね。

鬼龍院翔(Vo)

鬼龍院翔(Vo)

──20年の間に、曲の作り方や制作機材は変わりましたか?

これがまったく進化してないんです(笑)。いまだに僕が作曲に使っているのはYAMAHA「SOL2」(2003年発売)というサポートが10年ぐらい前に終わっている古いソフトで、Windows 10では動作しない機能があったりするんです。なぜ制作環境を進化させないんだって感じですけど、面倒臭がりなので。新しいソフトウェアを使ってるときに、「あれやるのどうすればいいだろう」とか悩んでる間に曲の発想が丸みを帯びてくのもイヤだから「SOL2」から抜け出せない。ちゃんとやってる人は新しいソフトにどんどん移行して、便利な機能をいっぱい使って効率よく楽曲制作してるらしいですけど、僕は遅れを取っております。

──最近は音楽生成AIの登場で作曲の意味も変わりつつある中、同じ機材をずっと使い続けて楽曲を作る鬼龍院さんは1つのロールモデルになりそうですね。

話がちょっと変わってしまうんですが、僕は中島みゆきさんが大好きで。みゆきさんはデビュー時からご自身で作詞作曲されて、歌われて、生き様自体がカッコいいんですよね。桑田佳祐さんしかり、自分で作詞作曲して歌い続けるシンガーソングライター人生に僕は憧れがあるので、自分もできる限りそうやっていきたいなと思っております。

喜矢武豊(G)

喜矢武豊(G)

──楽曲を作ることを苦痛に感じたり、全然書けなかったりする時期もない感じですか?

波はありますけど、全然書けないことはないですね。

──それはすごい。

結局すべては反動なんです。明るい曲を書いたら暗い曲を書きたくなる。アップテンポな曲を書いたらゆっくりした曲を書きたくなる。その繰り返しをずっとやってるだけなんです。あとは制作のペースが落ちても気にしないことが大事。自分が納得できるものさえ作れていれば、去年と比べて曲数が減っても別にいいと思います。

評価しながら音楽を聴くなんてつまらない

──鬼龍院さんの作る曲は、実験的な要素も多いですよね。最近だとケルト音楽を取り入れた「Yeah!めっちゃストレス」という曲があります。

以前からケルト音楽が好きだったんですが、ある日「今までちゃんと掘り下げてなかった。これはミュージシャンとしていかんな」と思ったんです。ケルト音楽ってインストゥルメンタルで、わかりやすく言うとロールプレイングゲームの酒場とか街の音楽。誰に聴かせても好きと言われるジャンルだったので、これを曲に取り入れたらみんな気に入ってくれるのでは?という発想から作ったのが「Yeah!めっちゃストレス」です。ケルト音楽は音楽ジャンルの中ではかなりニッチなのに、好きな人は多い。ケルト音楽に限らずこの世界にはいろんな音楽があふれているじゃないか! そう思ったときに、まだ音楽家としてやれることはたくさんあるということに気付いたんです。日本国内の音楽ですら僕はすべてを知っているわけじゃないですけど、自分がもっと興奮できて「これ最高じゃん! 日本人も絶対好きだろう」というジャンルにまだ出会えるし、それを自分の曲に取り入れることもできる。それができる音楽人生は楽しいだろうなと思ってます。

──ちなみに「Yeah!めっちゃストレス」と「人間だ」のMVが同時公開されたときは、両曲の振り幅の大きさに驚きました。

それも反動だと思うんですよね。これはゴールデンボンバーに限らず、推し文化すべてに通じると思うんですけど、長年推してると、いつしか“評価”するほうになっちゃうんです。なぜかプロデューサー目線になって、ゆっくりした曲が出たら「速い曲がよかった」とか言っちゃうし、速い曲が出たら「ネタ曲っぽいから、ゆっくりした曲のほうがいい」と思う。同時に真逆のものを出せば、評価するのがアホらしくなるかなって(笑)。そもそも音楽はリラックスして楽しんだほうがいいんですよ。評価しながら音楽を聴くなんてつまらないじゃないですか。

ステージに立てるんだったら立ち続けよう

──先日、来年1月に結成20周年アリーナライブが開催されることも発表されました。

普段のライブツアーは20公演ぐらいやるんですけど、今回は大きな節目ということでアリーナを2日間借りて、その日だけのメニューを用意します。1日目と2日目で内容はガラッと変えるつもりです。テーマは「旧作」と「新作」。まあ、往々にしてみんな昔のほうがいいとなるんですが、「新作」のライブも面白いものになるようがんばります。

──先日フジファブリックがメジャーデビュー20周年のタイミングで活動休止を発表しましたが、その理由が金澤ダイスケさんから「この20年間でバンドに対してすべてを出し尽くした」という申し出があったからと目にしました。20年というのはそういう心境になる方もいる一方で、鬼龍院さんのようにまだやれることがあるとおっしゃるアーティストもいるキャリアなんですね。

おそらくどのバンドも続いてること自体が奇跡なんです。ただ、昨今のヴィジュアル系ロックバンド界隈では伝説的な先輩方の急な不幸が多くて。そのときに僕はもちろん悲しいですけど、ファンの方々はもっと悲しいだろうと思ったんです。だから自分たちはステージに立てるんだったら立ち続けようという気持ちでいます。以前から1つのことを続けるのが何より大事だとは思ってるんですけど、その思いがより強くなってますね。ほかのメンバーはわからないですが(笑)。

歌広場淳(B)

歌広場淳(B)

──ゴールデンボンバーを続ける中で見えてきたものはありますか?

見えてきたものというよりは、変なことやってもだんだん怒られなくなってきましたね。活動歴がまだ浅い頃は仕事もらったときにふざけていいのかわからなくて。業界の先輩から一度助言をいただいたんです。「あなたたちがふざける人だってことを世間の人は知らないんだから、いきなりふざけたことやっても笑えないんだよ」と。それで、どんな場所でもなるべくふざけることを貫いてきた結果、ゴールデンボンバーは変なことをするバンドだと思われるようになった。

──自分のやりたいことを体現しやすくなった?

うーん、音楽に関しては自分のやりたいことは以前からできていたんです。ただライブイベントとかになると、いろんな人が関わるのでそうもいかない。昔は対バンのお客さん、もしくは対バン相手に激怒されたこともあって。よくわからないやつがすごく無礼なことやってると。今でも無礼なのは変わらないんですけど「まあ、ゴールデンボンバーだしな」という慣れというか、あきらめられるようになったことが一番ありがたいです。フェスとかイベントに呼ばれたときは、盛り上げることが使命だと思って全力で盛り上げます。逆に求めてないところは呼ばないでくださいと言っておきたい(笑)。

樽美酒研二(Dr)

樽美酒研二(Dr)

──あれだけ毎回新しいネタを用意して、アイデアが枯渇することはないんですか?

枯渇しっぱなしですよ!(笑) なのでなるべくいろんなエンタメに触れるようにしてます。いろんなものを観ると何かしら浮かぶものなんですよ。音楽は時代関係なく自分の好きなものを作ってますけど、パフォーマンスとなるとそのときの話題を取り入れて、どうにかネタが尽きないようがんばっていくスタイルですね。これはこの先も変わらないと思います。

──ちなみに今回のシングルの反動で次は暗い曲が来るんでしょうか?

おそらくそうなります。わかりやすく行ったり来たりしながら作っていっているので。制作時期が被って2曲同時進行することもあるんですけど、そういうときは大体真逆のテイストのものを作ってたりするんです。前にもインタビューで話したことがあるんですけど、マンガ家の奥浩哉先生が「GANTZ」を連載してるときに同じ雑誌で「め~てるの気持ち」というメルヘンなマンガの連載も同時に始めたんです(「週刊ヤングジャンプ」にて2006年40号から2007年27号まで連載)。当時、僕はコンビニでアルバイトしていて、休憩中にその話になったとき、絵本作家もやっているバイトの先輩が「反動じゃない?」と言ったんです。「GANTZ」で銃を撃って内臓ぶちまけるみたいな絵をいっぱい描いてたら、真逆のもの書きたくなるんだよと。そのとき僕もバンド活動をしていたんですが、当時はあまり実感できなくて。のちに表現者にはそういうことがあるんだということを理解しました。あと、ほかのバンドさんでも中性的な魅力のある方が何年か経つとゴリゴリの男らしさを出してるのもきっと反動だと思います。ただ、あるミュージシャンの先輩が長かった髪をそれまでの反動でモヒカンにしたら全然評判がよくなかったそうで「見た目に関しては反発する必要ない」とおっしゃってました。なので僕は見た目での反動はありません(笑)。

ゴールデンボンバー

ゴールデンボンバー

ライブ情報

ゴールデンボンバー 20周年アリーナライブ

旧作-kyusaku-

2025年1月7日(火)神奈川県 ぴあアリーナMM
OPEN 17:30 / START 18:30

新作-shinsaku-

2025年1月8日(水)神奈川県 ぴあアリーナMM
OPEN 17:30 / START 18:30

プロフィール

ゴールデンボンバー

鬼龍院翔(Vo)、喜矢武豊(G)、歌広場淳(B)、樽美酒研二(Dr)からなるヴィジュアル系エアーバンド。2004年に鬼龍院翔と喜矢武豊を中心に結成される。ライブでは鬼龍院翔以外は楽器を弾かず、踊ったり寸劇を演じたりするなど、さまざまなパフォーマンスを行うのが定番となっている。エアーバンドというコンセプトや、麗しいビジュアルと“笑撃的”な歌詞のギャップで注目を浴び、2013年に楽曲「女々しくて」が当時のカラオケの連続首位獲得週数歴代1位を獲得。シングル・アルバムともにオリコン初登場1位を獲得するなどインディーズ史上初の記録も持つ。「NHK紅白歌合戦」には4度出場。2019年4月には新元号に合わせ新曲「令和」を発表した。同年には全国ツアーの一環で無人島で無観客ライブを行い、その様子を全国へ生配信。2023年2月にはオリジナルアルバム「COMPACT DISC」を発表する。2024年4月から7月にかけて全国ツアー「『金爆はどう生きるか』~意外ともう結成20周年ツアー~」を行い、7月にCDシングル「イイね」をリリースした。2025年1月に神奈川・ぴあアリーナMMで結成20周年ライブを行う予定。