GeTOインタビュー|「三文芝居」リリース記念、マスクで隠したSSWの素顔に迫る (2/2)

うまいもんとうまいもんをかけ合わせたらおいしいに決まってる

──新曲「三文芝居」はどういう着想から作り始めたんでしょうか?

去年の冬ぐらいにはもう原型ができていた曲でして。まず「ある程度ちゃんとロックな曲を作ってみよう」という思いが大元にあったのと、それと同時に「バズる」とか「キャッチーであること」をすごく意識していた時期でもあったので、まずはキャッチーに韻を踏んだサビだけが最初にできあがったところから始まりました。

「三文芝居」ジャケット

「三文芝居」ジャケット

──そのサビというのはどの部分のことですか? この曲って、サビと呼べそうなセクションが2種類あるじゃないですか。

はいはいはい。後ろのほうですね。2段階目のサビというか(笑)。

──付点8分リズムのところ。

そうですそうです。

──となると、Aメロのすぐあとに来るサビっぽいセクションはBメロ扱いなんですね。

そうなんです。そこは面白い仕掛けとして楽しんでもらいたいポイントでして、レコーディングのときもあえて「B」と表記して作業を進めました。

──それこそ“聴いたことのないもの”になっていますよね。Bメロなしでサビに入るタイプの曲なのかと思って聴いていたら、急にもっとサビっぽいメロがあとから出てきて「さっきのがサビと違うんかい!」とノリツッコミみたいなことをさせられる曲で。

ありがとうございます(笑)。普通にA、B、サビと展開してもつまんないなと思っていたときに、たまたまBメロがけっこうキャッチーにできたんで「これをサビっぽくしちゃえ」と。なので、わざとA、B、A、Bと繰り返す形にしました。そのあとにやっとサビが来るっていう、最近あまり耳にしないような構成になっています。

──このサブスク時代、「サビが来るタイミングは早ければ早いほどよい」とされていますよね。その風潮を逆手に取ったような作りというか。

その逆張りをしたかったというのもちょっとありますし(笑)、1曲を通してどこを切り取ってもずっとノっていられる曲ができたという手応えもあったので、そういう遊びを安心して入れられる余地もあったという感じです。

──それと、個人的にはイントロのギターリフがとても印象的でした。「リフから作った曲です」と言われても信じるくらいの強烈なリフですけど、それがキャッチーな歌メロと違和感なく融合しているのが不思議だなと。

このリフとメロディの関係性を成立させるのは、実際かなり苦労しました。やっぱり「聴いたことのないものを聴いてみたい」という思いが強いので、もともと四つ打ちのエレクトロっぽい音で作っていたこの曲にカッコいいギターのリフが乗ったら、「僕そんなの絶対好きじゃん!」と思って。うまいもんとうまいもんをかけ合わせたらおいしいに決まってるでしょ、みたいな(笑)。

きれいなものは信用ならない

──歌詞についてはどういうイメージで?

この曲を作っていたとき、自分のルーツみたいなものがけっこう迷子だったというか……。

──迷子?

「自分のルーツってなんなんだろう?」「自分が音楽をやる理由はどこにもないのかも」みたいなことですごく悩んでいた時期で。もともとサビが先にできていた時点で歌詞もそのままできあがっていて、その時点では全然なんでもない言葉だったんですけど、その後フル尺に広げていく過程でその言葉がどんどん自分の心情とリンクしていったんですよ。僕は基本的にメロディに言葉を当てはめていく作業が苦手なほうではあるんですけど、この曲に関してはけっこうスルスルと書けたような気がします。

──「表面に出ている自分は芝居に過ぎない」、つまり「本来の自分ではない」というような感覚が強くあったわけですか?

けっこう身を置く環境に左右されがちな性格ではあるので、ふと「自分は空っぽなんじゃないか」という思いにかられて不安になることがあって。音楽活動にしても、「ルーツも何もないところで何か感じのいいものを寄せ集めてやってるだけなんじゃないか」みたいなことを感じるときはありますね。この曲ではそういう、自分の中にある人には言えないような感情を開き直って吐き出しているのかなと。それが特に現れているのがDメロの「私が私じゃなくなるまで 私のために芝居を続ける 意味などないとわかっててもいい それこそが 私の三文芝居」という一節ですね。

──でも、その「自分は空っぽの偽物です」みたいな感覚をそのまま歌にするって、よほど芯のある人にしかできないことだと思いますけどね。

あー、なるほど(笑)。

──本当に空っぽの人だったら、たぶんもっと取り繕ったような当たり障りのない歌を書くと思うので。あるいは完全な虚飾にしちゃうとか。

そういう意味で言うと、僕が曲を作るときは芯の芯、苦しい部分とか人に見せたくないところを出していますね。この曲では本当に底の底というか、これ以上は裏もないってところまで行けた感覚はあります。ボーカル的にも、別に叫んでいるとかではないんですけど、ちゃんと体重の乗った感情的な歌い方ができたなっていう感触もあって。

──ですよね。「芝居です」と言っているわりに本当のことしか言っていないという、その矛盾がこの曲の最も美しいところだなと感じました。

ありがとうございます。

──実際、「きれいに整った嘘の世界を作り上げて見せよう」みたいな思いはないわけですよね。

そうですね。きれいなものってあんまり信用ならなくて(笑)。どこか汚れていたり、いびつなものでないと僕は受け入れられないんですよ。だからやっぱり自分が作品を作るときは表面的に美しいものではなくて、もっと内側の暗い感情とか恥ずかしい部分、「人から見たら脆いかもしれないけど、それが本当の意味で美しいものなんだよ」みたいなものを1つずつ伝えたいなと思っています。

GeTO

満たされてしまうと曲が作れなくなる

──今後アーティストとしてどんな存在になっていきたいとか、そういうビジョンは何かありますか?

なんですかね……華々しい存在になりたいとか、脚光を浴びてキラキラしてる感じに見られたいというよりは、なかなか人に言えないような鬱屈した思いを僕を介してみんなが分かち合えるような存在であれたらいいなとは思っています。そういう場を提供できるアーティストになりたいというか。

──「めっちゃ売れてビッグマネーをつかみたい」とか、そういうんじゃないんですね。

逆に、僕は豊かになると曲を作れなくなるだろうなとなんとなく思っていて。感情的な意味でも、物質的な意味でも。

──なるほど……!

僕の創作における動力源はやっぱり劣等感であったり、内に何かを抱えている人たちとわかり合いたいという気持ちであったりするので、満たされてしまうと面白い活動ができなくなりそうな気がします。実際、いい曲ができた次の日はもう気持ちが軽くて、まったく曲を作れないんですよ。

──でも、それもしばらくしたらまた作れるようになるわけですよね。たぶん成功者には成功者の苦悩があると思いますし、なってみないとわからない部分は多々あると思いますよ。

そうですね、それはわからないです。ただ、“売れる”ことを目的に活動することはないかなって感じですかね。とはいえ、もちろん聴いてくれる人や共感してくれる人が増えること自体はうれしいですし、今は数字が可視化される時代なので、それに一喜一憂はしています。そういう意味では、広くたくさんの人に聴いてもらえるような曲を作っていきたいとは思っているんですけど……。

──それが“売れる”ということなんですけどね。

結果的にはそうですよね(笑)。

プロフィール

GeTO(ゲト)

シンガーソングライター、トラックメーカー、映像作家。アーティスト名には、集団から孤立してしまった人々を肯定するメッセージが込められている。2023年に音楽活動を開始し、2024年4月に楽曲「バームクーヘンエンド」、5月に「メリーゴーランド」、10月に「三文芝居」を配信リリースした。