「ゲットイットPresents “はたらくこと、つくること”」|マツザカタクミ、廣田優輝、世一英佑、俵万智が語る「創作活動と仕事の両立」

バンド一筋で自分は豊かだったのか?

──一方、「ゲットイットPresents “はたらくこと、つくること”」のメインパーソナリティを務めるマツザカさんは、ご自身でメンバーを集めて結成したバンド・Awesome City Clubを去年8月に脱退しました。そのきっかけはなんだったのでしょうか?

マツザカタクミ

マツザカ オーサムは自分の思い描いた世界観を表現するのと同時に、音楽業界のどの立ち位置で活動したいかも狙って結成したんです。2013年にバンドをスタートさせて、ある程度形になったタイミングで、徐々にメンバーやスタッフとの間に意識のズレが生じているなと感じて。とは言いつつメジャーデビューをしていたので、決まった締め切りで作品をリリースしなければいけないし、利益も出さなければいけない。そんな状況の中で、“音楽で食べること”を漠然と目標にしていた自分に気付いたんです。それって「東大に入りたいけど、学びたいことは特にない」という感じに近いので、食べていくこと、音楽をやることをもう少し切り分けてもいいかもしれないと。「ほかの仕事でお金を稼いで、音楽を続けていく方法もあるのかな」と思ったとき、僕とほかのメンバーでは活動のビジョンが違ってきているなと感じたんです。そこで「長いタームで音楽を続けていくために、どういうことをしていこうかな?」と考えて脱退に至りました。

──マツザカさんにとってAwesome City Clubはバンドであり、自ら作った会社に近いものだったわけですよね。そこを抜けるのは、とても勇気のいる決断だったと思います。

マツザカ 周りからは「もったいないよ」と言われたんですけど、それまでは何をするにもバンドの名前が先行して「Awesome City Clubのマツザカくんだよ」というふうに捉われていたんです。そうじゃなくて「マツザカタクミがやっているバンド」という状況に変えたかった。あとはバンドだけである程度暮らしていける分は稼げていたんですけど、自分が30代に差し掛かったときに「めちゃくちゃ豊かだったのか?」と考えたらそうじゃなかった。で、僕は大学を出てから一度も就職をしたことがなかったので、経験してみてもいいかなと思ったんです。それに音楽業界が少しずつ縮小している中で、もうちょっと資金のある場所へ行ってみたかった。あとはレコード会社に所属していたとき、タイアップは空から降ってくるような感覚で、自分でコントロールできないのが歯がゆくて。じゃあタイアップを生み出す所で働いてみよう、と考えて広告系の仕事を始めたんです。

──タイアップ曲を提供するところから、タイアップを作る立場へシフトチェンジしたと。

マツザカ 今は株式会社チョコレイトというコンテンツスタジオで働いているんですが、YouTuberやアニメーターなど、いろんなクリエイターや広告業界の人間が集まって、作品の制作や発信を行っていまして。その中に音楽制作をしている人がいなかったので、「音楽業界に新しい風を吹かせたいんです」とプレゼンテーションをして「じゃあ、やってみようか」とあと押ししてもらいました。音楽活動を継続できるよう、会社とは半分フリーランスの立場で関わり、作業時間をコントロールできる環境を作ってもらったんです。それからプランナーとして働くことにチャレンジしてみたくて、今は企画力を上げられるよう修行中で。ここで得たものは、音楽活動に還元していきたいです。新しいターゲットや予算感でトライしてみて「今まではこんなこと、できるわけない」ということが可能になったり、フレッシュな気持ちでゼロから学べたりすることもあるし、そこから得た知識を発信する機会もありますね。

創ることも働くことも楽しめる社会とは

世一英佑

──本日は皆さんのさまざまな働き方についてお話を聞かせていただきました。最後に、自分の創作をどのような人に届けたいか教えてください。

世一 ゲットイットに関してお話しすると、私はキッチン事業部という部署にいて、自分たちが惹かれたキッチン用品やカトラリーを日本に輸入して卸しています。自分たちの扱う商品すべてがどう世の中に幸福を与えられるのかを考えることを大事にしていますね。小説家としてだと、私は高校生のときにあまり友達ができない時期がありまして。当時は本ばっかり読んで、作品の登場人物に自分を重ねて救われていたんです。その頃の僕と同じように、突如対人関係がうまくできなくなったり、やりたいことがわからなくなったりした人の友達になれるような作品を書きたいと思ってます。

 人生の大事な場面で私の歌をふと思い出して、励まされたり、共感できたり、思いを共有してもらえたらうれしいです。「よみ人しらず」という言葉がありますが、誰が作ったのかわからないけど作品が残っている、というのが一番美しいと言いますか、自分の歌もそうなったらいいなと思うんです。私が大学生のとき、机に「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり」と書いてあって、「これはすごい歌だな。この大学はなかなか侮れんな」と思ったんですよ(笑)。それは寺山修司の歌だとあとでわかったのですが、寺山修司がすごいから覚えていたのではなくて。誰が書いたのかわからないけど、ずっと心に残っていたんです。自分もそんな作品を作りたいですね。

マツザカ 僕は今、社内にいるYouTuberの音楽プロデュースをやっているんですけど、まだYouTuberってアーティストとして認知されていない気がしていて。例えばHIKAKINさんが歌っていると、「どうして歌っているのかな?」と考える人が多いと思うんです。そこで役割分担が大事だなと。昨年末にあさぎーにょさんの映像作品「もう限界。無理。逃げ出したい。」がYouTubeで公開されたんですけど、僕は曲を作らせてもらったんです。「予想してなかったけど、すごくいい曲だった」という意見がある中で、「エンドロールにマツザカタクミの名前を見つけてすごくビックリした」という反応もあったんですね。それは僕にとって一番いい形だなと思うんです。Awesome City Clubのフィルターを外しても、いい音楽を届けることができた。そこで多くの人が触れるコンテンツに曲を当てれば、たくさん聴いてもらえるんだなと気付きました。ただその考えは、ある人にとってはダサいことかもしれない。「自作自演じゃなきゃダメ」という人もいるかもしれないですけど、僕は痛快だと思うし、アイデア一発勝負で状況を変えていけるのは、音楽や映画といったカルチャーのいいところだなと感じてます。俵さんのお話しされた「よみ人しらず」は理想的ですね。

廣田優輝

廣田 クリエイティブって「食べられるかどうか」や「売れるかどうか」の前に、楽しいことが大事だと考えていて。クリエイターが創作を続けられる世の中であり、創作を楽しみながら仕事をできる環境が作れたらいいなと感じています。我が家では日曜日になると、子供たちがピアノを弾いて、一緒にセッションをするんです。それが僕にとって豊かな時間で。お父さんの仕事や音楽を通して「働くこと、作ることは楽しいんだよ」と伝えられたら、子供たちも「仕事したいな。音楽をやってみたいな」と興味を持ってくれると思いますね。僕、学生時代は国語が得意じゃなかったんですけど、世一さんや俵さんのお話を聞くと、自分も何か執筆してみたくなるんです。楽しみながら何かに取り組んでいる人がいると、おのずといい刺激を受けるんですね。創作はそうやって伝達していくし、楽しめる大人が増えていけば社会も豊かになる。40歳になったら早期退職の対象になって大変だとみんなが言っていたら、大人になるのが嫌になるじゃないですか。そうじゃない世の中にするためには、創ることも働くことも楽しめる、元気な人たちがいる社会が必要だと思います。

左から世一英佑、俵万智、廣田優輝、マツザカタクミ。