福本大晴が1stシングル「恋の上昇気流」をリリースした。
本作には王道アイドルソングに仕上がった表題曲をはじめとするバリエーションに富んだ7曲を形態別に収録。福本は「自分自身でやるからこそダメなときも納得できるから」と、このシングルの全収録曲の作詞作曲に参加している。
2024年夏にNEW EVIDENCEへの所属を発表し、ソロアイドルとして活動を開始した福本。明るく闊達なパブリックイメージとは裏腹に、“本当の自分”を「不安症でネガティブ」と形容する彼がアイドルとして活動することに強いこだわりを見せるのはなぜなのか。ニューシングルの制作裏話とともに、本当の自分とアイドルの狭間で揺れ動く福本に、率直な胸の内を聞いた。
取材・文 / 小松香里撮影 / 映美
本当はめっちゃ自信ない、だから明るく振る舞う
──福本さんがソロ活動をスタートされてから約8カ月が経ちます。率直にここまでの活動はいかがですか?
作曲や作詞もやらせてもらっていて、ピアノも弾き始めて、まだわからないことだらけなんですけど、だからこそ楽しいなと思うことが増えてきています。僕、心配性ですぐ自分のライブ動画とかを観返して「ここ大丈夫だったかな?」って確認しちゃうんですけど、家でもずっと映像を観ていて、「セルフプロデュースってオフがないんかな」と思っています。ずっと「何かこの時間でやれることがあるんじゃないか」とか考えちゃう。この前、ふと「自分、がんばってないわ」って呟いたら、スタッフさんには「え、めっちゃやってるやん。今日ずっとピアノの練習してたし」って言われて。そう言われてみると、確かにずっと弾いてたなと気付くみたいな。
──なぜ「がんばってない」と思ったんでしょう?
楽しいからがんばってる感覚がないんですよね。ひたすら練習するのって最初はしんどいんですけど、やっていくうちに楽しさが勝つ瞬間が来て。それが一番気持ちいいです。でもライブでは「あそこ全然盛り上がらんかった」と思うときもあって……ちゃんと落ち込んでもいます。
──今はホールツアーの真っ最中ですが、ライブもセルフプロデュースされているんですか?
はい。今回のツアーは演出家の方がいてくれて、その方とスタッフさんと一緒に内容を詰めていきました。自分のエゴが強すぎてもうまくいかないと思っていて。ツアーに限らずですが、いろんな方からの意見を取り入れることで長く活動を続けられると思っています。
──言われた意見で特に勉強になったものは?
僕、自信があるように見せているけど本当はめっちゃ自信ないんですよ。不安症だしネガティブだし。でもそれを悟られたくないから明るく振る舞うタイプだと自分では思ってて。例えば、自分が映ってるライブのオープニング映像に対して、「この映像だと間が持たない」と思ってしまう。実際に「前半パートをカットしたほうがいいと思います」って意見を出したんですが、演出家さんは「ファンの人はめっちゃ盛り上がるから大丈夫」と言ってくれて。そうやって励まして、自信を付けてくれるんです。
なぜ「アイドル」にこだわるのか
──ネガティブ思考であるにもかかわらず「1人でアイドルをやっていこう」と決めた一番の理由はなんだったんでしょうか。
僕が一番やりたいことは「ファンの人に喜んでもらうこと」なんです。どうやったら喜んでもらえるかを考えた結果、ソロとして活動することに決めました。
──自信がないのであればなおさら、ついてきてくれるファンの方はとてもありがたい存在ですよね。
ありがたいですね。ライブでファンの人から声援を送ってもらえると、めっちゃ自信が湧いて「みんなに気持ちを全部ぶつけるぞ」という気持ちになります。終わったあとはすぐ「大丈夫だったかな?」って心配になるんですけどね。でも、だからこそいい作品が作れる側面もあると思っているので、自分のその部分は否定したくないです。
──自信のなさが成長の糧でもあるという。
そうですね。自分が作った作品に関しては自信があります。曲作りはまだまだ初心者なので、スタッフさんとコライトで作ることが多いんですが。最初に作詞をしたときは、恥ずかしすぎてスタッフさんに見せたくない気持ちがありつつ、がんばって書いたから評価をされたいという気持ちもあって。いざ見てもらったら「めっちゃいい! センスある」って言ってもらえたけど、あまりにも褒められすぎて「気を使われてるわ」とも思ってしまったんですよね(笑)。だから「ここはこうしたほうがいいよ」って駄目なところも指摘してもらえるほうが気持ちいいですね。信頼できるスタッフさんと一緒に曲作りができているのも活動の原動力の1つです。
──ソロのアイドルとして活動するにあたって、作詞や作曲を自分でしようと思ったのはどうしてだったんですか?
自分でできることは全部やらないとアカンと思ったからですね。エンタメの世界に“正解”はないと思うけど、自分自身でやるからこそダメなときも納得できる。まだまだできないことはたくさんあるので、まわりの人の力を借りながら、できるだけのことをやりたいと思っています。その都度自分の100%を出して、その100%をどんどん大きく、濃くしていきたいですね。あと、自分で曲を作ることで説得力も出ると思うんですよ。最初「よんもじ」という曲を作るにあたって、より説得力をもたせるためにピアノも始めました。
──アーティストとアイドルの境目が曖昧になってきていると思いますが、福本さんにとってのアイドルとは?
ファンの人や興味を持ってくれた人にポジティブな影響を与えられるのがアイドルだと思っています。だから自分はアイドルとしてがんばりたいんです。アーティストは「音楽を売る人」かなと思っているんですが、アイドルは曲のよさももちろん大事だけど、生き様とか、その人そのものがプロダクトになるというか。ファンの方々が僕のことをアイドルだと感じるならアイドルだと思いますし、アーティストだと感じるならアーティストなのかなと。僕がアイドルかどうかを証明するのはファンの人かなって。
──アイドルは“その人”が歌ってるからこそその曲に魅力が出るというか。
そういうことです。最近言われてうれしかったのが、1stシングルの「恋の上昇気流」を「大晴が歌ってるからこそ輝く曲だよね」っていうこと。僕にしか歌えない曲を発表していくことが今後の課題だと思っています。
僕のパブリックイメージに合うように
──「恋の上昇気流」は王道のアイドルソングですが、どんなイメージで作られたんでしょうか?
ライブで披露する曲、というのが前提にあったので、一聴して覚えられるキャッチーさが必要だと思いました。幅広い年代に聞いてもらうためにシティポップ調にして、ファンの人に喜んでもらえるように、僕のパブリックイメージに合うような「恋に浮かれている、ちょっとおバカっぽい曲」にしました。J-POPのアイドルソングど真ん中の曲やなと思っています。最初、1stシングルの表題曲は別の曲だったんですよ。「Unspoken Love」っていう曲があって、その曲は「恋の上昇気流」をよりキラキラした超王子様曲なんです。ファンの人はめっちゃ喜んでくれるだろうけど、僕としては、CDとしてリリースするのであれば幅広い人に聞いてもらえそうな曲がいいんじゃないかと思って。スタッフさんに電話して「リード曲を『恋の上昇気流』に変えませんか?」と提案したんです。
──「恋の上昇気流」の振付は歌詞とリンクしたキャッチーなものになっていますね。
振付はTAIGAさんという方に作ってもらいました。すごくキャッチーな振付で「プロや!」と思いましたね。僕はダンスについてはパフォーマーに徹していて、どれだけ自分のものにできるかをとことん考えて向き合っています。いつか自分でも振付を作ってみたいんですけどね!
──1stシングルには全形態合わせて6つのカップリング曲がありますが、どの曲もキャッチーですよね。「SUPER LADY FIRST」にはラップも入っています。
そうなんです。すべてが「ライブでいかに盛り上がるか」という視点で作り始めた曲です。最初は全曲かわいいアイドルソングでいくという話になってたんですが、僕としてはバラエティ豊かなシングルにしたくて。「ダンス曲も作りたい」と伝えた結果、「SUPER LADY FIRST」をスタッフさんと一緒に作ることになりました。最近流行りの重低音を強調したようなダンス曲じゃなくて、ほかのアイドルの曲の中に混じっても違和感がないようなサウンドにしたかった。「SUPER LADY FIRST」は「LADY FIRST」だけだったら物足りなさがあったから、スーパーを付けたらどうかなと思って。「単なるレディーファーストならまだしも、“超レディーファースト”は僕にしかできないでしょ?」っていう。
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ファンのために生きるアイドルとは相反する