福田明日香|新たな一歩を踏み出す「Sing」

J-POPへの回帰と大滝詠一のナイアガラサウンド

──「Sing」はポップで耳なじみのいい楽曲がそろった作品だなと感じました。福田さんとしては、ソロ1作目を作るにあたり、どのような作品にしたいと考えていたのでしょうか。

ここ何年かは渋めの音楽を聴いていましたけど、ソロで出す作品は、広く認識されている福田明日香像から遡ってスタートしなきゃいけないと思ったんです。自分の持ち味を考えたとき、ブラックミュージックの要素もあるとは思うんですけど、お客さんの反応を聞いていると「バラードがよかった」とか「高音の声質がよかった」という声が多かったので、そこを際立たせた作品にしようと。あと、全体的な方向性としては「1990年代のJ-POPっぽいものにしたい」と思っていて。

──それは福田さんのルーツということでしょうか。

そうですね。私は1990年代のJ-POPが大好きで、そこからどんどん掘り下げて考えるうちに、大滝詠一さんに行き着いたんです。大滝さんはJ-POPにつながる日本の歌謡曲の土台を築いた作品を数多く残されたんだなと思っていて。1曲目の「80's」は、私は大滝さんのサウンド、ナイアガラサウンドが好きなので、その要素をどんどん盛り込んでみました。「まずカスタネットの音は絶対必要だよ」とか言って。「もっとThe Beach Boysみたいにしたいね」とか。

──なるほど。あの福田明日香さんと大滝詠一やThe Beach Boysの話をする日が来るとは思っていませんでした(笑)。

あはは(笑)。でも、こういうポップな方向になったのは、いろんな影響があると思うんですよ。モーニング娘。の20周年企画に参加したり……昔はロックバンドも10年といかず活動休止したり解散したりしてましたよね。20年スパンで振り返ったとき、「小学生の頃は車でよくお父さんがサザンオールスターズや山下達郎さんのアルバムを聴いてたな」と思い出して。今やモーニング娘。もきっと、そういう存在になっているんだろうなと思って、長く親しまれる音楽とはどんなものなのかを自分なりに研究してみたんですよ。長く親しまれる音楽には、幅広い年齢層の人たちを一体化する空気があって。私を知っている人も年齢層は幅広いから「広く親しまれる音楽にしたい」というのを第一に考えていきました。

──「80's」は確かに、大滝さんが自身のアルバム「A LONG VACATION」(1981年3月発売)やほかのアーティストの作品で追及していた1960年代ポップスの再解釈に近いオールディーズ感があります。

例えばお父さんが買った「Sing」を車の中で子供たちと聴いたとき、なんとなく聴けちゃうようなものになってくれたらいいなと思って。

福田明日香
福田明日香

子供の寝顔で浮かんだ「フリージア」

──5曲のうち2曲は福田さんが自ら作曲を手がけていますが、曲作りの際にはそういったファンの意見を考慮しつつ?

はい。私はメロディから先に作ってあとで詞を乗せるんですけど、メロディだけどんどん溜まってしまったんです。つたないながらも断片的にどんどん作って、ピアノを弾きながらTERRAちゃん(PEACE$TONEのボーカリスト。作詞作曲を主に手がける)に歌って聴かせて。とにかくバーッといろんなメロディが浮かんできたので聴かせてみたら「ちょっと待て。一気に言うな。1つひとつ作っていこう」って言われて(笑)。

──2曲目の「スタイル」は福田さんの作曲ですね。

この曲は最初、男女のデュエットで考えていたんです。私はウオーキングが好きなんですけど、歩いているときになんとなくイメージが膨らんできて、ホーンセクションがあってハッピーな……米米CLUBみたいなイメージが浮かんだんですね。でもなぜか作っているうちにThe Beatlesの話になって(笑)。「Rubber Soul」(1965年12月発売のアルバム)の3曲目「You Want See Me」みたいな感じを目指しつつ、最初に浮かんだホーンの要素も残しました。歌詞も同時進行で作っていったんですけど、PEACE$TONEがよくやる「僕らの日常はこんな感じだぜ」みたいな、ただの自己紹介でいいんじゃないかなって。最終的にTERRAちゃんがまとめてくれたので、歌詞は再起$TONE(TERRAの作家ユニット)名義になりました。「ネコちゃん」にするか「ネコさま」にするかで議論したりしながら(笑)。

──3曲目の「フリージア」は作詞、作曲共に福田さんです。母親としての気持ちが素直に表現されたバラードですね。

最初に形になったのが3曲目の「フリージア」なんです。ある日メロディを考えながら子供の寝顔を見ていて……今はこんなに「ママ、ママ」と言ってくれるけど、私も十代の頃はクソガキだったし(笑)、この子もいつか「ママ、うるさい! あっちに行って!」とか言うんだろうなと思ったら、すごくセンチメンタルな気分になっちゃって。その翌朝にできたのがこの歌詞です(笑)。

福田明日香

──なるほど。

まあ私はそういう心境で書いたんですけど、つらくてつらくてどうしもうない状況下にある人が「明けない夜はない」と感じるような、広く前向きな気持ちになれる曲を目指しました。

──歌声は十代ですでに完成されていたと思ってましたけど、「フリージア」では年齢や経験を重ねたなりのおだやかさを特に感じて、そこが素直なメロディや歌詞と相まってすごくいいなと思いました。

素直で優しい歌を歌うのは恥ずかしい部分もあったんだけど、喜んでもらえるならこんなにありがたいことはないんだから、とことん優しい気持ちで作ってみようと思ったのが「フリージア」ですね。

──4曲目の「みんな旅人」はPEACE$TONEの定番曲を“卒業ソング”としてリニューアルしたものですが、PEACE$TONEのレパートリーから1曲選んだのはなぜなのでしょうか。

「みんな旅人」はかれこれ5年ぐらい歌っている曲なんですけど、メロディがあっちに行ったりこっちに行ったり、すっごく難しい歌で。テクニックが問われる曲だから、毎回戦うように歌っているんです。オリジナルはロックロックしていて、歌うのがしんどくなるんですよ(笑)。鬼気迫ると言うか、それはそれでいいんですけど、もう少しみんなで軽く歌えるようなアレンジで歌ってみたくて。歌詞も「みんなで歌ってもらいたい」という思いから少し変えました。これはちょっとしたギミックなんですけど、「Never Forget」に出てくる「東京で見る星も ふるさとでの星も 同じだと教えてくれた」というフレーズと沿わせているんです。

福田明日香「Sing」
2018年3月14日発売 / おせちRECORDS
福田明日香「Sing」

[CD] 1500円
ORCL-1005

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 80's [作詞・作曲・編曲:再起$TONE]
  2. スタイル [作詞:再起$TONE / 作曲:福田明日香 / 編曲:再起$TONE]
  3. フリージア [作詞・作曲:福田明日香 / 編曲:再起$TONE]
  4. みんな旅人 [作詞・作曲・編曲:再起$TONE]
  5. Never Forget [作詞・作曲:つんく / 編曲:再起$TONE]
福田明日香(フクダアスカ)
福田明日香
1984年12月17日、東京都生まれのシンガー。1997年にテレビ東京系「ASAYAN」から生まれたアイドルグループ・モーニング娘。に初期メンバーとして参加し、1998年1月にシングル「モーニングコーヒー」で13歳にしてメジャーデビューを果たす。メンバー最年少とは思えない憂いを帯びた歌声と確かな歌唱力で注目を集める中、翌1999年4月にはグループを卒業し、芸能界を引退した。以降しばらく表舞台に立つことはなかったが、2011年に男女混声ボーカルグループ・PEACE$TONEのasukaとして音楽活動を再開。2018年に個人名義でのアーティスト活動をスタートさせ、3月にソロデビュー作となるミニアルバム「Sing」を発表した。