映画やドラマ、小説から受け取ったイメージを
──7カ月連続リリースは、「グッドラックが聞こえない」に始まり「koi」に着地するという順番がすごくいいなと思ったんです。「グッドラックが聞こえない」は力強いメッセージソングのようで、「koi」は先ほどもおっしゃっていたように小さな初恋の思いがつづられていますよね。
「グッドラックが聞こえない」を書いたときには、まだ7カ月連続リリースの終わり方は全然考えていなかったんです。そもそもは「夢見るだけなら」が曲としては先にできていたんですよね。なので1作目は「夢見るだけなら」にしようかとも考えたんですけど、「グッドラックが聞こえない」の主人公のほうが「夢見るだけなら」の主人公よりも、なんというか……より自我がなかったというか。誰かが手を差し伸べてあげないとすぐに消えてしまうような、そんなイメージが「グッドラックが聞こえない」には強くて。なので、そういう弱い心から始めたいと思って、リリースの1作目は「グッドラックが聞こえない」にしたんです。
──なるほど。フジタさんご自身にとって「グッドラックが聞こえない」の主人公は差し伸べられる手を必要としている、弱さを抱えた人だったんですね。
これは意図していたわけではないんですけど、むしろ7作目として最後に出した「koi」は初恋の歌ではあるけど、主人公である彼女の自我はすごくしっかりしているんですよ。追いたい対象があって、絶対に叶わなくても、絶対にあきめたくない……そんな強い意志を持っている子なんですよね。
──確かに。
作っている中で「koi」は7作連続のエンドロールという役回りを担ってもほしいという思いもあったので、どこかで「グッドラックが聞こえない」と「koi」は1つの物語のオープニングとエンディングのような関係になったのかもしれないです。
──「グッドラックが聞こえない」の主人公像に関して、何かしら設定はありましたか?
彼女は上京中の子なんです。上京と言っても、地元は東北や九州のような遠い場所ではなくて、群馬とか山梨とか、そのくらいの距離感。実家とは電車で2、3時間くらいの距離で、東京で一人暮らしを始めた子で。ただ地元には上京しない子たちもいるじゃないですか。そういう子たちの中には、東京に行ける主人公のことをうらやましいと思っている子もいるかもしれないし、なんなら妬ましいと思っている子もいるかもしれない。そういう中での上京の日の朝、というイメージがありました。でも、この曲は主人公の子の顔も髪型も、私はわからないんですよね。
──主人公の顔や髪形は、決めようと思ってそうしているというよりは、自ずと想像できるかどうか、なんですね。
そうなんです。
──フジタさんご自身は東京出身で、上京しているわけではないですよね。そんなフジタさんがそこまで詳細に上京してきた人の心境を想像し得ているということが、すごいなと思います。
なんでなんだろう(笑)。どこかで、今まで観てきた映画やドラマ、読んできた小説などのイメージもあるんだと思います。写真的にでも覚えている場面が頭の片隅に残っているのかな。
ヒロインになれる瞬間を切り取りたい
──アルバムの1曲目は「ho-pe」というインストゥルメンタル曲になっていますが、これまでのEP作品にもイントロやアウトロを担うようなインスト曲が入っていましたよね。そうした曲を必要とするのはなぜですか?
自分がライブを観に行ったときに入場SEを入れているアーティストが多いなと思っていて。音が鳴って、演者がステージに入ってきて、準備をして深呼吸する時間。そういう時間が私はすごく好きなので、アルバムにもあってほしいなと思ったんです。オープニングかエンディングで、スポットが当たり続けているわけではない束の間の何かを表現することができればいいなと。「ho-pe」は、KOSAMEさんというバイオリンとピアノのユニットと一緒に作らせてもらったんですけど、2曲目から10曲目までの主人公たちを想像したフレーズを9種類入れていて。彼女たちが送っていく生活のダイジェストというか、予告映像というか、そういうものを作りたいという気持ちもありました。
──タイトルはなぜ「ho-pe」になったんですか?
アルバムの収録曲すべてに共通して、形は違えど、淡い期待や淡い希望があるなと思っていて。ただ、最初は「hope」という表記にしようとしたんですけど、それが必ずしも主人公である彼女たち自身にとって本当の望みなのかどうか、はたまた私にとって本当の望みなのかどうかは定かではないなと思ったんです。その曲の中にいる人たちが「これは私が叶えたい望みだ」と思っていたとしても、私から見たら「それはダメ。やめたほうがいいよ」と感じるような曲もあって。そういう意味でちょっと曖昧さを入れたくて、間に「-」を入れました。
──曲の主人公の望みとフジタさん自身の望みに乖離がある曲というと?
それは3曲目の「スポットからにげて」に顕著に出ていると思います。ステージを題材にしている曲で主人公の目線はアーティスト側なんですけど、彼女は歌の中で「シンデレラに折れたヒールは くたびれたスカートはいらないの」と言っていて。その“ヒール”や“スカート”は彼女にとって守り抜きたかったことだと思うんです。それが守り切れないから、結局彼女はステージから逃げてしまう。でも、私は彼女のようには思えなくて。彼女の幸せはステージを降りることだったけど、私はそうは思わなかったんですよね。私はシンデレラじゃなくても、ヒールが折れてしまっても、それでさえも輝いていられると思う。曲の主人公は結局ステージから降りてしまうけど、それが私は悲しかった。やめないでほしかったし、ステージから降りないでほしかった。でも、それは止められないから。この曲のデモを録っているときは、悲しくて泣きながら録りました。
──作り手である以上、主人公の結末を自由に書き換えることはできそうですが、そういうことではなかったんですね。
そうですね。今回のアルバムのコンセプトは主人公たちが彼女たちの生活の中でヒロインになれる瞬間を切り取りたい、ということだったんですけど、もう1つルールとしてあったのは、そこに私が介入しないということだったんです。彼女たち自身で結論を出してもらいたい、というコンセプトを自分の中では設けていたんです。「スポットからにげて」も、主人公である彼女自身が出した結論だと想像したので、邪魔はできないなと思いました。
弱さも魅力的に見せられるような歌を
──7カ月連続リリースを通してフジタさんの認知は高まっていったと思うし、「かなしくないよ」がTikTokなどを通してたくさんカバーされているという状況もありますが、ご自分の音楽や名前がどんどんと広がっているという実感はありますか?
目の前のことに必死すぎて、広がっているという感じは全然ないんですよね。ただ、「HEROINE」の曲たちは主人公の生活感が出たらいいなと思って作っていたけど、カバーしてくれる人によって、その人自身の生活感が出るというか、主人公が増えているというか……また違う側面の主人公が、それぞれのカバーから表れているような気がして。それは見ていてめちゃくちゃ面白いです。
──ご自身の曲のカバーはチェックされますか?
たぶん全部見ています(笑)。そのくらい調べています。
──この先の展望はありますか?
曲に登場する主人公が、自分のことを「人生の主人公だ」と実感できるような曲も作りたいなと思っていて。あと、誰を主人公にするにしても、弱さであったり、ちょっと周りに言いたくないような感情を魅力的に見せられるような歌を書いていきたいなと思います。必ずしも私の実体験ではなくても、もっと幅広い人たちにフォーカスして作っていきたいです。
──余談ですが、映画や小説など音楽以外のもので影響を受けているものはありますか?
本で言うと、恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」という小説がずっと好きで。ピアノコンクールの始まりから終わりを描いた小説なんですけど、ずっと臨場感があって自分がピアノコンクールに来ているような感覚になるんです。曲を作っていて、「なんか曲に入り込めないな」とか「俯瞰して見ちゃっているな」と思ったときには、読むようにしていますね。
プロフィール
フジタカコ
東京都出身、22歳のシンガーソングライター。2021年6月に1st EP「遠雷とファンファーレ」をリリースする。この年は3月と6月に自主企画、9月にワンマンライブを東京・下北沢MOSAiCにて開催して全公演がソールドアウトとなった。2022年3月に2nd EP「グッバイ・エキストラ」を発表。2024年2月には1stアルバム「HEROINE」をリリースし、東京・WWWでワンマンライブを成功させた。