フジタカコ「HEROINE」インタビュー|22歳のSSWが1stアルバムで描く“ヒロインになる瞬間”

東京都出身、22歳のシンガーソングライター・フジタカコが1stフルアルバム「HEROINE」をリリースした。

彼女にとって初のアルバムとなる「HEROINE」は、昨年4月に実施した7カ月連続リリース企画の楽曲に、新曲2曲を加えた1枚。それぞれの楽曲には主人公が設定されており、どの曲でも“ヒロインになる瞬間”が描かれている。この特集では、フジタのインタビューを通して彼女の音楽的ルーツ、「HEROINE」に込められたこだわりやメッセージを紐解いていく。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 梁瀬玉実

フジタカコが歌い始めたきっかけ

──フジタさんはどのような経緯で音楽を始められたのでしょう?

中学生の頃に合唱部に入ったんですけど、パート決めのときに先生から「こうやって声を出すんだよ」と言われてから出した声が、自分にとって思ってもみないものだったんです。先生にも「すごい声が出るね」と驚かれて、それで調子に乗って歌い始めました(笑)。

フジタカコ

──そのときに出た歌声は、フジタさんの今のボーカルにも通じているものなんですか?

そうだと思います。例えば裏声の高い部分は、それがルーツになっていると思いますね。

──ご自身で曲を作り始めたきっかけは?

初めて曲を作ったのは中学校3年生の頃なんですけど、当時はSNSを通じて知り合った友達の路上ライブを観たり、カバー動画をよく観たりしていて。カバー動画をSNSに上げている人たちも1曲くらいはオリジナル曲を持っているんですよね。それを見て私も「曲を作らなきゃいけないんだな」と思ったんです。

──SNSを通じて同じように音楽活動をしている人との出会いも多かったですか?

そうですね。当時、Twitterを使って「#弾き語り」でひたすら検索していました。いいなと思った人にリプライを送って、やりとりをするようになって。そこで出会った、たまたま近くに住んでいる人と集まって路上ライブをしたりしていましたね。初めて1人で路上ライブをしたのは中学校3年生のときだったんですけど、路上ライブをやる人ってだいたい「〇〇歳、シンガーソングライター」みたいなことを書いた看板をギターケースとかに立てかけておくんです。そこに「15歳」と書いていたので見る人も困惑しただろうけど(笑)、その分優しい目でも見てもらえて。そんな感じで、初めて1人で歌ったときは同情と困惑が入り混じった目で見られたのを覚えています(笑)。

フジタカコ

発信したい何かが自分の中にある

──音楽活動を続けていこうと決心したタイミングは?

「将来は音楽でごはんを食べていくんだろうな」と勝手な決心を最初にしたのは、高校1年生くらいの頃だと思います。事務所の養成所のオーディションを受けて、そこに通うことが決まったときが最初でした。あとには戻れない感があったというか……「音楽で世界を救いたい」みたいな大それた目標はなかったけど、「自分の好きなものでごはんを食べていくには、こういう道に進まないといけないんだ」と思って。そういう決心がありました。

──中学生で歌い始めて、高校生の頃には「これで食べていきたい」と思うほど音楽が好きになっていたということですね。

そうですね……そう思います。音楽って自分で曲を書くことで、誰にも邪魔されずに考えや言葉を発信できるものなんです。ただ学校だとそういうことができる場面は少なかったし、当時の自分にとって誰にも邪魔されずに自分の思いを発表できる場が音楽だった。そもそも私は歌を歌うことが好きというより、前に出ることが好きで。学生時代は委員長をやったり、リーダーをやったりしていたんです。その「前に出たい」という気持ちと、音楽で何かを発信したいという気持ちがうまく一致したんだと思います。

──「前に出たい」という性格は音楽を始める前からのものだった?

そう思います。記憶がある限りはずっと前に出たがっていますね(笑)。人見知りではあるんですよ。それでも、発信したい何かが自分の中にあるという感覚がずっとあります。

フジタカコ
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リスナーにも主人公になってもらいたい

──ちなみに、初めて作った曲のことは覚えていますか?

覚えています。今はもう絶対に歌えないし、恥ずかしくて聴くこともできない曲なんですけど(笑)。中学校3年生のとき、ライブハウスのステージにちょっとだけ立たせてもらう機会があって。私はオープニングアクトだったんですけど、メインアクトは私と同い年の子で。「私はオープニングアクトなのに……」と、その悔しさと嫉妬を書いたのが初めてのオリジナル曲でした。今思うとあまりにも若すぎるし、中学校3年生っぽいですよね(笑)。

──ご自身の音楽活動の中でターニングポイントになった曲は?

何曲かあるんですけど、一番大きいのは「エイプリル」という曲ですね。「遠雷とファンファーレ」(2021年)という1枚目のCDに入っている曲で。私は大学入学がコロナ禍と被ってしまったので、入学式もなくなり、高校の卒業式も満足にできていない。そんな状況の中で作った曲だったんです。同級生に宛てて作った曲だったんですけど、この曲をきっかけに、私が音楽活動をしていることを同級生も知ってくれて。なんというか、音楽活動をしていくうえでの味方が増えたというか……仲間が増えたような感覚がありました。RPGのギルドが大きくなるイメージというか、自分と音楽でつながりを持っていなかった人たちが、音楽を通してもつながりを持とうとしてくれる、そんな特別な感覚があって。そういう意味で大きな転機だったんですよね。

フジタカコ

──「エイプリル」の歌詞には「主人公らしく胸を張れ」というラインがあります。このたびリリースされる1stフルアルバムのタイトルは「HEROINE」となっていますが、“主人公”というモチーフはフジタさんにとって大事なものなのでしょうか?

まさにそう思います。聴いている人が、曲を聴いている間に自分のことを主人公だと思ってほしくて。それは私のどの曲に関しても言えることなんです。私自身、気持ちを奮い立たせてくれるようなミュージカル音楽に救われてきたので、自分の曲を聴いてくれている人にもそういう感情になってほしい。「自分は主人公だ」という感覚になってほしいと思いながら、曲は書き続けていますね。

──その気持ちは「エイプリル」を作った頃から明確にあったものですか?

いや、1年前くらいかな……わりと最近気付いたことです。今まで書いてきた曲の共通点を探してみようと思ったことがあって。そのときに見つけた共通点が「聴いた人に主人公になってもらいたい」という気持ちだったんです。その気付きは曲を書くための芯になっていると思います。

嵐・相葉雅紀に重ねた、自分の中の主人公像

──ミュージカルもルーツにあるとのことですが、それ以外にどんな音楽がお好きだったんですか?

中学生で音楽を始めた頃に一番聴いていたのは嵐でした。彼らが出ている番組は全部観ていたし、テレビの画面をスマホで撮りながら観るくらい好きで(笑)。

──(笑)。嵐の中では誰がお好きだったんですか?

相葉(雅紀)くんが好きでした。嵐ってみんなカリスマ性やスター性があるけど、相葉くんはその中でも、本当に目の前のことを一生懸命やっていたら嵐になっていた、という感じがするんですよね。それが、私が当時抱いていた主人公像に一番近かったのかもしれない。嵐のほかだと、あとは「ハイスクール・ミュージカル」や「glee/グリー」のようなミュージカルの音楽しか耳に入れていないような子でした。音楽を始めてからはいろいろ聴くようになりましたけど。

──聴き手に力強さを与えるような、アップリフティングな表現がお好きだったんですかね。

そうですね。歌っている側も、なんだかんだ主人公の人たちというか。どれだけ苦しい姿を見せていても、どれだけ悲しがっていても、「でも彼らは主人公なんだ」と思えるような……そういう人に、私も憧れているんだと思います。

フジタカコ

楽曲に宿る主人公たち

──アルバム「HEROINE」には2023年に7カ月連続で配信リリースされたシングル曲たちも収録されています。7カ月連続で曲を出す経験はフジタさんにとってどのようなものでしたか? きっと大変だっただろうと推測するのですが。

よくそう言われるんですけど、思ったよりもさらっと過ぎていきました。1曲1曲で書きたいことがサッと決まっていったんです。なので、自分の中ではそこまで根を詰めていた感じもなかったんですよね。

──曲の設定はどのように決めていったんですか?

7人の違う主人公を立てて書いたんですけど、1作目から2作目、2作目から3作目……という感じで、バトンタッチしていくようなイメージで考えていました。「前の曲はこんな子だったから、次はこういう髪の長さで、こういう場所に住んでいて、こういう仕事をしている主人公にしよう」みたいな。

フジタカコ

──曲の主人公の人物設定は、仕事や住んでいる場所などのディティールまで細かく決められるんですか?

ぼやっとしている子もいるんですけど、曲によってははっきりしていますね。今回のアルバムの中ではっきりしているのは、「koi」や「かなしくないよ」「怪物」ですかね。この3曲はモデルはいないんですけど、その分設定はしっかりしていると思います。例えば「かなしくないよ」は大学4年生か社会人1年目の、私と同い年くらいの子を想像していて。世田谷区の端っこのほう、小田急線の経堂や豪徳寺あたりの駅に住んでいるんですよ。

──そんなところまで(笑)。

そこで一人暮らしをしていて、髪は大学の友達に合わせて1回染めたくらいで……というイメージがありました(笑)。

──「怪物」はどうですか?

「怪物」は社会人、OLですね。徹夜をしている子の曲なんです。彼女は自分を作り込んでいる子で、髪は長いと乾かすのが面倒臭いから肩までしか伸ばさない、目がすごく悪くて、渋谷の隣の駅の神泉のあたりにある会社で働いていて(笑)。社会人としては2、3年目くらいです。もっと詳細に考えると、テレビやエンタメ業界で企画書とかを書く仕事をしてる(笑)。

──なるほど(笑)、「koi」は?

「koi」は初恋の歌なんです。高校1年生とか2年生くらいの、垢抜け切っていない子ですね。制服はセーラーではなくリボンがついたブレザー。学校の場所までは想像していなかったけど、すごく大人しい人なんです。いじられもしないし、いじめられてもいない、ただただ大人しい子。前に出るわけでもないし、部活に入っているわけでもないし、成績がそこまでいいわけでもない。大人しいからって、図書委員とかでもないんですよ。学校でなんの役割も担っていないような、まっさらな子を想像していました。

──「koi」の主人公は、10代の頃のフジタさんが重なるというわけではなさそうですね。

そうですね、まったく違います。私は女子高出身で恋バナもしていなかったので。むしろ私の憧れの初恋像かもしれない。私にとってはちょっとファンタジーが入っているような感じですね。「koi」は私自身から一番遠い曲かもしれないです。

──逆に、一番自分に近いと思う曲はどれですか?

「かなしくないよ」か「天使になったら」だと思います。

──「天使になったら」のモチーフはすごく気になりました。

「天使になったら」は、友達の大事な人が亡くなってしまって、その友達を悲しませたくないと思って書き上げた曲なんです。友達や先輩とこの曲について談義する機会が多いんですけど、あるときに、もし私がこの曲の主人公のように死んでしまったとして、そのときに私が周りの人に宛てたい言葉をつづった結果が「天使になったら」なんじゃないかと言われて。それを聞いて確かにと思ったんですよね。私が根を詰めすぎて全部を投げ出したくなったときに、それでも投げ出さない理由って周りの人がいるおかげなので。そんな周りの人に宛てた言葉としては、「天使になったら」は私そのものなんじゃないかと思うんです。