「聴きたい」の声にベストを尽くす
──藤巻さんが2018年5月に独立されたことも今作にリンクしてますか?(参照:藤巻亮太が事務所離れ独立「人生の大きなチャレンジです」)
そうですね。レミオロメンのときからいろんな方に支えてもらって音楽活動をしてきましたけど、何を任せられて何を甘えちゃいけないかが見えづらくなってくるんです。30代後半になって、「このまま寄りかかってたら見えない景色があるんじゃないか」「僕自身が見えてない部分、本当に大事にしなきゃいけないものはなんだろう」と直感的に思いました。3rdソロアルバムの「北極星」を出して、ツアーを回ったあとのタイミングで。
──「北極星」で自分なりにやりたいことができて達成感があったからこそ、そう思えたのでしょうか。
はい。誰かに導いてもらうんじゃなく自分自身で歩いて、やるべきこと、歌うことを探して行く。そういう道を歩かなかったら、これから先はけっこう煮詰まるだろうなと思ったんです。最終的には音楽のためですね。本当の意味で、僕は自分の名前でしっかり活動していきたい。挑戦するなら今だろうなって。
──新しくホームページを立ち上げたときに「やりたいことよりも、やるべきことを」と書かれていましたね(参照:藤巻亮太 オフィシャルサイト メッセージ)。
レミオロメンの楽曲を再び歌い始めた頃からの使命につながるんですけど、僕のエゴなんかよりも、この時代に生で歌えることの意義が改めてわかった感じで。自分が歌いたいとか以前に、そういう環境があるのに歌わない選択肢はないと思ったんですね。「聴きたい」の声に応えてベストを尽くして届けていくことはやるべきことなんだろうなって。やっぱり音楽そのもののために。音楽の力に気付いたと言ってもいいかなと思います。
──やりたいことのほうは?
本当にシンプルで、「いい新曲を作りたいな」「いいライブしたいな」とかですよ(笑)。今はやるべきことの先にやりたいことが見えてくるイメージです。「Mt. FUJIMAKI」も自分の原点的な意味合いがありますね。僕は山梨で生まれ育って、あの場所だからこその感覚をもらえて、それがレミオロメンや藤巻亮太の楽曲になっていったと思うので。こんな気持ちも今ゆえですが「ルーツのために何かできることはないかな?」っていうことですかね。これだけ音楽をやらせてもらってるんだし、山梨の方にいい音楽を身近で聴いていただける機会を作りたいと考えました。ツアーだとなかなか足を運んでもらえない土地ですし。あとは自分の体の一部とも言える山梨の魅力ももっと知りたいんです。それを県外の方に届けるなんて、やっぱり音楽をやってるからこそできることだと思っています。まだまだ始まったばかりだけど、40代では本当の意味で恩返しできるようにしたいですね。その中で歌いたいことがまた見つかって、音楽をずっと続けていければ素晴らしいですよね。
39歳なりの純粋さを大事に
──セルフカバーアルバムの選曲についても聞かせてください。
まず、多くの方に認知してもらいたいので「3月9日」「粉雪」のような代表曲は入れたい。そして、ファン投票のリクエストにもちゃんと応えたい。あとは、やってきたアコースティックライブを踏まえてアレンジがイメージできる曲を形にしたい。この3つだけを考えましたね。
──「楽曲のリクエストに勇気付けられた」というコメントもありましたね。
たくさんの人が聴きたいと投票してくださったことが励みになったし、これからも歌っていこうと思いました。ファン投票で人気だったのは「ビールとプリン」「永遠と一瞬」「Sakura」「恋の予感から」あたりです。
──レミオロメンの楽曲と向き合ってみて、どんなことを感じました?
「こんなふうに作ってたなあ」「こんな状況だったよな」とかですね。メジャーデビュー作品の「電話」から5thアルバム「花鳥風月」に入ってる最後の「恋の予感から」まで、リリース順に並べてあるので何かと記憶が甦る感じでした。渦中にいるときは客観的に自分を見られないですけど、10年くらい経ってみて当時悩んでたことや考えたことがいい悪いじゃなく、「それがあって今があるんだな」とすごく肯定的に思えます。いろいろ考えたおかげでスキルアップできただろうし、もう1回同じことを悩むかと言ったらたぶん悩まないですね。考え方もきっとどんどん変わっていくでしょうし。
──今は客観視できているんですね。
そうですね。「ビールとプリン」という曲なら、コンビニまでビールを買いに行きたいけれど、ビールだけじゃなんとなく忍びないから、彼女にはプリンを買っていくかと考える僕がいる。で、「寒いなあ」って帰ってきたら、「どうして買ってくんのよ、太っちゃうじゃない!」なんて言いながら彼女はバクバク食べてるみたいな(笑)。あんな感覚って、39歳だとあまりないと思うんですね。やっぱり付き合いたての大学生のような感覚というか、今聴くと「就職はどうするんだろうな」なんて思ったりもして。もし次に「ビールとプリン」的な曲を作るとしたら、テクニックになっちゃう気がします。当時はピュアな中にこの情景があった。まさに音楽の一回性で、そのときじゃなければ書けなかった曲ですね。だからこそ、今歌うなら年相応でいいと思います。20歳は20歳なりの純粋さがあって、39歳は39歳なりの純粋さがあって、そういうものを大事に今後も音楽を作っていこうと思えたのは大きいですね。
──代表曲もたくさん悩んだ末に生まれたわけですか?
そりゃあもう! 20代は売れたい思いが強かったですから。「粉雪」なんてバリバリですよ(笑)。あのときは焦りや期待がすごかったです。売れるチャンスなんてそうあるもんじゃないので、きっとタイミング的にここしかないと思ったし、あそこでいい曲を作れなかったらレミオロメンの活動の規模はかなり変わっていたはずです。ドラマ「1リットルの涙」の挿入歌に決まるまでは紆余曲折あって、「もしかしたら使ってもらえるかもしれない」みたいな状況でした。チームのみんなもがんばってくれていたから自分がいい曲を作らなきゃって、焦りながら必死だったのは覚えてますね。
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ソロをやってきた1つの証
- 藤巻亮太「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」
- 2019年4月3日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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[CD] 3240円
VICL-65156
- 収録曲
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- 電話
- 昭和
- ビールとプリン
- 3月9日
- 五月雨
- 春景色
- 永遠と一瞬
- 粉雪
- 太陽の下
- 茜空
- もっと遠くへ
- 透明
- 蛍
- Sakura
- 恋の予感から
- 藤巻亮太(フジマキリョウタ)
- 2000年12月にレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」など数々のヒット曲を発表したのち、2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表する。同月に初のソロシングル「光をあつめて」、10月には1stアルバム「オオカミ青年」をリリース。以降もソロ活動を活発に展開し、2016年2月に初の写真集「Sightlines」を発売。同年3月に2作目となるオリジナルフルアルバム「日日是好日」を、2017年9月には3rdアルバム「北極星」をリリースした。2018年4月には初のソロライブDVD「藤巻亮太 Polestar Tour 2017 Final at Tokyo」を発売。2019年4月にレミオロメンの楽曲をセルフカバーしたアルバム「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」をリリースした。同年9月、自身が主催する野外音楽フェス「Mt. FUJIMAKI 2019」を山梨・山中湖交流プラザ きららにて開催する。