「FINAL FANTASY VII REBIRTH Original Soundtrack」特集|劇伴の中核を担う浜渦正志(コンポーザー、アレンジャー)はどのように名作と向き合ったのか 劇中劇「LOVELESS」、“普通のサウンド”へのこだわりを明かす

キャリアが生かされた劇中劇「LOVELESS」

「REBIRTH」の中では劇中劇として、「LOVELESS」という舞台が繰り広げられるシーンがある。オリジナルの「FF7」では「LOVELESS」の内容は具体的に描かれておらず、「7」の派生作品に断片的に登場するなど、含みを持たせた要素として存在していたこの舞台が、「REBIRTH」では本格的に描かれる。そして浜渦はこの「LOVELESS」の音楽すべてを担当した。作中で古典的な作品として位置付けられるこのシーンを、浜渦はどう彩ったのか。

鳥山さんから「LOVELESS」の概要を聞いたときは「これは大変な作業になるぞ」と身構えました(笑)。劇伴というより、オペラや歌劇のような劇そのものを作る必要がある。モーツァルトとかヴェルディの世界ですよね。まさかゲーム音楽を作る仕事の中で、そのレベルのものが求められるとは思っていなかったので驚きました。ただ鳥山さんのラフイメージを共有してもらいながら、ゲーム本編と違って舞台芸術をわかりやすく表現すればいいんだということに気付きまして。例えばセリフはわざとらしいし、物語の展開もわかりやすい。なので、作業を始めてみると音が思い浮かびやすかったですね。

劇中劇「LOVELESS」はミニゲーム的な要素を含んでおり、ただ観劇するだけではなく、プレイヤーは劇の主人公・アルフリードになりきり、“悪竜王”や“地獄の番犬”と戦うことになる。一種のアクション要素を含んだスピーディな展開もこの劇の魅力であり、やり込み要素の1つとなっている。シーンが目まぐるしく変わる展開を、音楽を担当した浜渦はどう捉えていたのか。

展開がどんどん変わるというのは間伸びしなくていい分、音楽的には作りやすかったですね。例えば、淡々と10分、20分も戦うシーンの音楽を作るならば、どこかで飽きさせないようにする工夫を施さなければならない。「LOVELESS」の場合はセリフの進行とともにシーンも音楽も変わるから、次の1つの曲に対するアイデアがそこまで必要ない。なので、曲の構成や長さで苦戦するようなことはありませんでした。けっこう大変だったのは、プレイヤーの操作によって微妙に展開が変わるため、リズム感やノリがそこで大きく変わらないように気を付けたところ。例えばプレイヤーの操作によって10秒長く1つのシーンが続いたとして、その場合は曲のつなぎ目をどうするか、音楽的に間伸び感が出ないように複数のデータを用意して組み合わせて鳴らすようにするのが大変で、ちょっと取り乱しちゃいそうになりました(笑)。サントラに収録されているのは1つのキレイなパターンですが、実際のゲームに実装するにはそれだけではない細かいデータを管理しなければなりませんから、それはけっこう大変な作業でした。

また「LOVELESS」制作時には浜渦が東京藝術大学に所属していた頃の経験が大きく生きたという。作曲畑の人間として知られる浜渦だが学生時代は声楽科に進んでおり、今作の音楽制作では、声楽科で学んだ知識が取り入れられている。

幸い大学時代に声楽をやっていたので、オペラや歌劇を学ぶことができる時期があり、その経験が案外「LOVELESS」の音楽制作に生きたのは幸いでした。一応僕は声楽科に進んでいたけど、すぐに作曲のほうが楽しいと思うようになり、声楽の勉強をサボって曲ばかり書いていたんですよ(笑)。これまでは劇伴が多かったので声楽の知識や歌に関する勉強が直接役に立つことはそこまでなかったけど、今回のような本物のオペラに近付けた音楽作りではダイレクトに役立ちました。「モーツァルトのあのイメージ」「ここはレオンカヴァッロのような音」みたいなイメージが浮かんできたので制作の助けになりましたね。歌手の選定やレコーディングのディレクションに関しても、具体的に「レオンカヴァッロ『道化師(Pagliacci)』の最初の歌のようなイメージ」と伝えやすかったので、声楽をやっていたことが仕事で初めて役に立ったんじゃないかな。それと歌手の選定では大学の先輩でもある宮野(幸子)さんにも手を貸していただきました。「本当はハイバリトンの人に歌ってもらいたいけど、ハイバリトンでこういう曲を歌える人は日本でいないだろうからテノール歌手を探そうか」という僕の悩みを聞いてくれたときに「知性を感じさせるような歌い方というのはバリトンの特権だから、この曲では世界でハイバリトンの歌手を探したほうがいい」という話で一致しまして、宮野さんもそう思うならこの曲はハイバリトンだな、と確信が持てました。もし宮野さんに相談していなかったら、もう少し軽めの曲に落ち着いてしまったかもしれないですね。

「セフィロスの曲は外してほしい」

前作「REMAKE」で「運命の番人 -降臨-」「運命の番人 -輪廻-」「運命の番人 -特異-」と、物語のクライマックスにて連作のボス曲を手がけていた浜渦。今作「REBIRTH」ではクライマックスで対峙するセフィロス戦のBGMを制作している。物語の重要な局面の音楽を担当する心境について、浜渦は「ここだけの話にしてほしい」とこぼしつつ、こう語ってくれた。

最初に鳥山さんとどの曲を担当するか話したときに、「セフィロスの曲(「片翼の天使」)は外してほしい」と言ったんですよ(笑)。曲が嫌いとかそういう意味ではなくて、セフィロスの曲は何度もアレンジされているものだし、すでにできあがってる曲だから、これ以上僕が何かアイデアを出して作れるものじゃないだろうと思って。でも気付いたら終盤のセフィロス戦を僕が担当することになっちゃった。どうしようかなと思っていたけど、セフィロスの曲を正面から自分1人でアレンジする作業は初めてだったので、思っていたよりも苦労は大きくなかったのかな。

「FINAL FANTASY VII REBIRTH」より。
「FINAL FANTASY VII REBIRTH」より。

オリジナル版の「片翼の天使」制作時に、合唱のレコーディングに参加していた浜渦。今回のサウンドトラックで彼が手がけた「リバース=セフィロス -再臨-」といったBGMには、「片翼の天使」のテーマがちりばめられている。

「ここでセフィロスのあのメロが鳴ったらカッコいいだろうな」みたいな感覚はあったから、ゼロから新しい旋律を生み出すよりも作りやすい部分もありました。もう少し若かったら「こんなにいじっていいのかな」みたいな迷いがあったかもしれないけど、さすがに長くやってきたからさじ加減もわかっているし、これくらいのことだったら怒られないだろう、というのがわかってた。どういじり倒して面白くしようかを考えて、今回ならではの盛り上がる曲が作れたと思います。それと、これはセフィロス戦の曲に限らないことですけど、やっぱりラスボスの曲を担当するのってすごく大変なことで。今まで無数に終盤のボス曲とか、ラスボス曲を手がけてきたので、その大変さはずっと繰り返しているし、キャリアを重ねたからといって楽にもならないですね。以前の自分が作った曲と同じようなものでいいわけではないので違うことをしなければならないし。「REMAKE」の「運命の番人」も、こんなデカくて長いボスの曲を作っちゃったら、もう2作目のボス曲なんて書けないよ、と思っていたんですよ(笑)。前回の時点では正直もうアイデアは出し尽くした、と思っていました。

「FF7」のリメイクは三部作であることが発表されており、残り1作が将来的にリリースされる予定だ。これまで数多くの楽曲を担当してきた浜渦は次回作の音楽制作スタッフとしても参加することが予想される。大きな作品が連作で続いていくことに対して、浜渦は最後に笑顔でこう語ってくれた。

次も控えているから今回の音楽はちょっと抑えておこう、みたいなことは考えたことがないんですよね。毎回、そのときに考え得る最高の盛り上がり、壮大さを持たせようとして作って「もう超えられないかも」と思うけど、次の作品と向き合ってみると、不思議とその作品ならではの音楽が書ける。「REBIRTH」でも「REBIRTH」なりのラスボス曲が書けたという手応えがあります。まだ何も決まっていないけど、もし3作目をやることになったとしたら、そのときに考えればいいかな。あまり先のことを考えるとしんどいので(笑)。

プロフィール

浜渦正志(ハマウズマサシ)

1971年生まれ。作曲家、編曲家、プロデューサー、映像作家など、さまざまな肩書きを持つ。東京藝術大学音楽学部声楽科在籍時より作曲活動を始め、1996年にスクウェア(現・スクウェア・エニックス)に入社。「ファイナルファンタジー」「サガ」など人気タイトルのサウンドトラックに携わる。スクウェア・エニックス退社後はアニメや映画、CMの音楽を手がけ、国内にとどまらず、アジア、ヨーロッパ、アメリカなどでもライブやイベントを行っている。


2024年4月10日更新