今年2月に全世界で発売され、多くのゲーマーを虜にしているスクウェア・エニックスのRPG「FINAL FANTASY VII REBIRTH」。このゲームのサウンドトラックが4月10日にリリースされる。
「FINAL FANTASY VII REBIRTH」は、1997年に発売され世界的な人気を博した「FINAL FANTASY VII」のリメイクプロジェクトの第2弾作品で、主人公・クラウドやセフィロスといった主要キャラクターはもちろん、シリーズを通して高い人気を誇るザックス・フェアといったキーパーソンたちが登場。プレイヤーたちは、オリジナル版では描かれなかった物語をさまざまな角度から楽しむことができる。その壮大なストーリーを彩るのが、植松伸夫を筆頭とする多彩なコンポーザーたちが生み出した音楽だ。
音楽ナタリーではサントラの発売に合わせて、ゲームの中核を担う音楽を手がけた浜渦正志にインタビュー。「FINAL FANTASY VII」やゲーム音楽との向き合い方、東京藝術大学音楽学部声楽科卒というキャリアが生かされた劇中劇「LOVELESS」の制作エピソードについて聞いた。
取材・文 / 倉嶌孝彦
昔のものをよみがえらせるような感覚はない
オリジナル版「FINAL FANTASY VII」(以降「FF7」)の「片翼の天使」にバスコーラスパートで参加したほか、2006年発表のゲーム「DIRGE of CERBERUS -FINAL FANTASY VII-」のメインコンポーザーも務めるなど、「FF7」シリーズとは浅からぬ縁がある浜渦。彼は前作「FF7 REMAKE」にて、オリジナル版の「FF7」には登場しなかった謎の存在・フィーラーのテーマ曲やゲーム終盤のボス曲である「運命の番人」など重要なシーンの音楽を手がけてきた。「REMAKE」「REBIRTH」と続けて、世界的に知られる「FF7」という大作のリメイクを手がけることに対し、浜渦自身はどういう思いを抱いているのか?
最近はゲームに限らず、いろんな作品がリメイクされる時代ですから、あまり大げさに捉えるようなことはしていなくて。すでに大まかな世界観を把握できているゲームだったので、まったくゼロから作り上げるようなプロジェクトと比べたら逆にやりやすかったと感じています。どういう方向性の曲が合いそうか、逆に言えばこういう音楽は存在しなくてもいいだろうな、みたいなことは最初から把握できていて、とっかかりの部分ではスムーズでした。
「REMAKE」「REBIRTH」には、新たに用意された楽曲が多数存在するが、植松伸夫が過去に手がけた楽曲のリアレンジとして収録されている楽曲も多い。前述した「FF7」関連の楽曲のみならず、「FF10」「FF13」といったナンバリング作品の楽曲制作も担当してきた浜渦は、今作の仕事で向き合うことになる「FF7」の原曲をどう感じているのか。
確かに26年前のゲームの曲ではありますが、例えばオーケストラコンサートなどで「片翼の天使」はよく演奏されますし、たびたび耳にすることが多いですよね。なので、過去のものを現代によみがえらせるような感覚もあまりなくて、時代とともにずっと聴かれ続けている曲の延長線上にある感覚。植松さんの曲のアレンジ自体もこれまで何度もやってますし、特別「7のリメイクだから」ということで張り切ったり、みたいなこともあまりなかったですね。
「REBIRTH」のサウンドトラックの収録曲は175曲。シリーズを重ねるごとに膨大になる楽曲制作を今作では鈴木光人、島翔太朗、中村佳紀、牧野忠義ら多数のコンポーザーが手がけている。各シーンごとのBGMをコンポーザーたちはどのように制作しているのか?
わかりやすく言うと完全な分業制ですね。主にシナリオデザインを手がける鳥山(求)さんから「浜渦さんにはここをやってほしい」という、役割が決まった状態で依頼が来るので、実は横の連携みたいなものはあまりなくて。もしかしたらほかのスタッフにはあったかもしれないけど、僕にはなかったかな。発注の際、鳥山さんとは長い付き合いなのもあって、「おそらくこういうことをしてほしいんだろうな」と察することはありました。これはありがたくもあり、同時にプレッシャーを感じることでもあるんですが、だいたい僕はすごく重要なシーンを任せていただく傾向にあるんですよ。例えばオーケストラがガンガン鳴るような曲が肝になりそうな壮大なシーンとか。今回も鳥山さんからの話を聞いて「また大変なところを任されたな」と思いましたが、これまでの経験からどういう曲にすれば期待に応えられるかはなんとなく把握してますから、必要以上には身構えず、フラットな状態で音楽制作に取りかかれました。
ゲームと一緒に、楽曲は“育つ”
「REBIRTH」のプレイヤーたちが最初に耳にする浜渦が作曲した楽曲は、サントラのDISC 1に収録されている「もうひとつのバスターソード」。この曲は主人公・クラウドではなく、ザックス(クラウドの宿敵であるセフィロスの後輩)を操作する際に鳴るものであり、浜渦はこの曲以外でもザックスに関連した楽曲を多数手がけている。オリジナルの「7」と異なる要素としても重要なファクターであるザックスの曲を、浜渦はどう作り上げたのか?
楽曲を発注してくる鳥山さんからはあまり具体的なオーダーがないんですよ(笑)。もちろん、シーンやキャラクターの説明はありますが、僕の作り方はあまり考えすぎないというか、とりあえず絵と展開を見て、こんな感じだったら合うかなという音をまず鳴らしてみる。この段階ではまだ絵やシーンが完成していないから、ブラッシュアップされてゲームがより鮮明にできあがってきたところで、楽曲もそのキャラクターに合うようにアレンジしていく。その繰り返しで曲を作っています。ザックスのシーンに関しては“普通のサウンド”がいいなと考え、曲を作りました。リスナーの中には「この音が際立っている」と感じられるシーンもあるかもしれませんが、僕としてはストレートに作ることがザックスには合うのかなという感覚がありました。特に「FF7」は人気のある作品だから、プレイヤーの中には強い思い入れがあるキャラクターもいると思うけど、僕は作り手として無闇やたらには構えないタイプかもしれませんね。「このキャラはこういう音」などこちらが決めてしまうと、プレイヤーやリスナーの楽しみが減ってしまうような気がしますし。なので僕は曲を作りながら、アレンジしながらキャラクターを理解していくような感覚に近いです。ザックスにしても、ダイン(左腕に改造銃をつけた処刑人。主要キャラクター・バレットのかつての親友)にしても、特別な感じはあまりない。インタビューでこういうこと言うと、盛り上がらないとは思うんだけど(笑)。
「特別な感じはあまりない」と言いながらも、浜渦の作る曲はどの曲もストーリーに寄り添っている。「普通に作った」と話したザックスの楽曲と異なり、物語中盤で“反神羅”という側面ではクラウドたちと同じ立場にいながらも相対することになるダイン戦で流れる「決別の銃弾」「モロトフカクテル」「憎しみの果て」は、重厚感がありつつ、どこか悲しい過去を漂わせるような曲調が物語を彩っている。
確かに、ダインの曲は“おっさん臭い音選び”になった気がしますね。普通にオーケストラっぽい音を使ってはいるけど、そこにシンセを混ぜるようなこともしていて。途中で1回激しくなる展開は偶発的に出てきたシンセのメロディを入れて、ちょっと気の狂ったような空気感を演出しています。でも、そこばかりを目立たせるのではなく、いい塩梅にちりばめることで“尖りきれないおっさんの哀愁”みたいなところにつながっているような気もします。
浜渦は長期にわたるゲーム開発の中での楽曲制作について、たびたび「楽曲を育てる」と表現する。ゲームの映像が徐々に完成していく中で、浜渦はその完成度に合わせて楽曲のアレンジを施し、同時並行でゲームを仕上げていく。その楽曲制作の過程を、彼は育成になぞらえていた。
曲を作り始める当初は映像がほとんどできていませんから、同時に制作を進めて一緒に成長していこう、みたいな感覚がありますね。曲も最初に浮かんだメロディやイメージが正解というわけではなくて、ゲームとの兼ね合いで旋律が合わなくなって外すこともありますし、曲の骨格部分を変えることもあります。最初は先入観を持たずに曲を作り始めても、曲を育てていく中で、最終的にはどの曲も似たり寄ったりにならず、そのキャラクターらしく落ち着く感覚がありますね。こういう感覚はただ普通に作曲を担当しているだけでは味わえない、ゲームの音楽を作っているから感じることかもしれません。
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キャリアが生かされた劇中劇「LOVELESS」
2024年4月10日更新