音楽ナタリー Power Push - 「ミステリヤ・ブッフ」三浦基(地点)×空間現代 対談
音の洪水が描く革命劇
“銃撃”と“洪水”
──11月には新たな共演作「ミステリヤ・ブッフ」の上演も始まりますが、こちらはどのような作品になるんでしょうか?
三浦 まず「ファッツァー」とはまったくの別物になると思うよね。
古谷野 空間現代にとっては音のぶつかりとか、楽器の音が響く中でどうやってせりふが聞こえるようにできるかって戦いですね。
三浦 音でっかいもんね……。
山田 アンダースローで音鳴らしてもまず「うるさい」って言われるよね(笑)。
古谷野 「ファッツァー」ではまず音が銃撃として捉えられる、ということで作品作りが進んだので、その音で登場人物が撃たれるっていうルールが演出の中で出てきました。だからこそ成り立ったところも多くて。でも「ミステリヤ・ブッフ」は別の設定でやっていかないといけない。
野口 今回はまず曲を作って、それを演奏していく中でせりふが聞こえるよう調節していこうかなと。「ファッツァー」はどのように音楽を入れていけばいいかわからないところから始まったので、まずは我々でフレーズを考えて持っていって、そのフレーズを細かく“分割”して演奏するような作り方をしたんです。対して「ミステリヤ・ブッフ」は1つの曲の中に“空白”を入れていく、というスタイルでやっています。ただこれだと演奏とせりふが重なったときに聞こえづらいという問題もあって、そこを工夫しないといけない。
三浦 “分割”と“空白”の違いって?
野口 意識的な話になるんですが、「ファッツァー」の無音部は演奏がストップしているんだけど、「ミステリヤ・ブッフ」の場合は音が出ていない空白の部分でも演奏を続けているというか。「ファッツァー」は異物感もあるけど演劇とフィットしているっていう、難しい塩梅でできたように感じたんです。「ミステリヤ・ブッフ」はどこまでいけるかわからないんですけど、また違った音楽の在り方を定められるよう探っているところです。「ファッツァー」と同じスタイルにもしたくないし、かといって普通にやると音楽の役割がただの伴奏やBGMになってしまうかもしれない。だから1つのアイデアとして、無音の部分でも演奏はキープさせるという工夫は使えるかもなって思っています。
三浦 「ファッツァー」には伴奏みたいなシーンもあったんだけど、音楽で発砲音を表現することで劇とうまく組み合わせることができた。「ミステリヤ・ブッフ」の場合は洪水がやってきて世界が沈んで、方舟に乗って地獄や天国、“約束の地”を巡るっていう話だから、今度は音楽で洪水を表現するんだよね。
野口 劇場実験のときに「波みたいに満ち引きがあってもいいんじゃないかな」っていうアイデアが出たんですけど、ボリュームに強弱を付けて弾いてみるのも今回は効果的に使えるんじゃないかな。三浦さんともそういうモチーフで構成を考えられたら面白いかもね、って話になったし。音の小さい大きいもリズムを作るためのものとしてトライできたら、「ファッツァー」とは違うものができると思うんですけど……。うちらは常にマックスの音量で演奏しているので、ピアニッシモとかフォルティッシモとか、そういう強弱表現はまったくやったことがないんですよ。だから我々にとっても挑戦だなと。本来、音の強弱は音楽の要素としてあるわけだから、普段の僕らの音楽に還元できるような気もするので、今回は真面目にリズムにおける音の強弱について考えていこうかなと思っています。
三浦 今の話、山田がすごい嫌そうな顔して聞いてたんだけど(笑)。
山田 3年に1回ぐらい「弱く叩けるといいんじゃないか」って言われるんですよね。それで竹串みたいなのとか猫じゃらしみたいなよくわかんないスティックを買ったりするんですけど、「まず見た目が悪い」とか指摘されて……。
野口 俺らがダメ出しするんだよね(笑)。
古谷野 弱くしないといけない理由がないとできないんだよね。
山田 それこそ会場で大きい音が出せないとか。毎回問題になるたびに「あーあ……」って思ってきたことでもあるから。今回はあらかじめ録音しておいて、本番ではそれを再生するっていう手もありかもしれない。
三浦 「ファッツァー」で得た方法からバリエーションを考えるのがベターなんだけど、それだと二番煎じになってどんどんダメになってしまう。でも「ファッツァー」とは全然違うことをやろうっていう発想自体が真面目すぎるのかもしれない。
古谷野 僕たち自身、同じ手法を続けると飽きちゃうっていうところもあるんでしょうね。
“わかっている憂い”があるからこそ、上演する意味や面白さがある
──会場の使い方も、「ファッツァー」とは違うスタイルになるんでしょうか?
三浦 今回は円形の劇場でミラーボールを20個ぐらい使って、さらに音も大きくて。
古谷野 情報量が多いんですよね。
三浦 そういう意味ではチャレンジになるんじゃないかな。物語自体は階級闘争などの連続で成り立っていて。ロシアの十月革命の1周年を祝祭する演劇として、これから労働者が平等に生きていける……っていう、時代的に盛り上がった作品なんですね。だけど共産主義とか社会主義によって成立している国がほとんどなくなった現在から見ると、悲哀を感じざるを得ない作品となるのは間違いない。
──当時とはまた違った観点だからこそ楽しめる作品になると。
三浦 そういえば以前地質学者の方とトークを行ったんですけど、彼は月について本を出すほど研究をしていたんで「月に行きたいの?」って聞いてみたんです。そしたら「月はもういいです。生物がいないっていうことも調査済みだから。木星には行ってみたいんですけど」と話してくれて。月にアポロが着陸して、写真が撮られたことは私たちも知っている。だから彼にとっても、すでに月には上陸していることが研究の前提になる。つまり月は攻略済みってことになるんだよね。同じように「ミステリヤ・ブッフ」も革命劇なんだけど、すでに共産主義が失敗したことを私たちは知っていて、「みんなが幸せになる」のは無理だったという知識も刷り込まれている。その“わかっている憂い”があるからこそ、「ミステリヤ・ブッフ」を今上演する意味や面白さがあるんだと。いろんなモチーフが出てくる分高度で難しい作品ではあるんだけど、音楽とせりふでいかに表現することができるかが勝負になると思います。
- 地点×空間現代「ミステリヤ・ブッフ」
- 地点×空間現代「ミステリヤ・ブッフ」
2015年11月20日(金)~28日(土)
東京都 にしすがも創造舎
作:ヴラジーミル・マヤコフスキー
演出:三浦基
音楽:空間現代
出演:安部聡子 / 石田大 / 小河原康二 / 窪田史恵 / 河野早紀 / 小林洋平
- ゾンビオペラ「死の舞踏」イラスト:古泉智浩
- ゾンビオペラ「死の舞踏」
2015年11月12日(木)~15日(日)
東京都 にしすがも創造舎
コンセプト・作曲:安野太郎
ドラマトゥルク:渡邊未帆
美術:危口統之
出演:浅井信好 / 岸本昌也 / 左藤英美 / 新大久保鷹 / 滝腰教寛 / 東金晃生 / 中村桃子 / 長屋耕太 / 八重尾恵 / 山崎春美
収録曲
- 同期 / Mark Fell
- 不通 / Hair Stylistics
- 痛い / ZS
- 通過 / Takeshi Ikeda(core of bells)
- 通過 / 蓮沼執太(feat. 古川日出男)
- 誰か / Oval
- 誰か / 宇波拓
- 不通 / 湯浅学
- 同期(相違remix) / OMSB
三浦基(ミウラモトイ)
演出家。地点代表。1999年から2001年まで文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在。帰国後、劇団・地点の活動を本格的に開始する。2005年には東京から京都へ活動拠点を移し、2013年に地点の稽古場兼アトリエ施設「アンダースロー」を開場。同施設を軸足に、国内外の公共劇場やフェスティバルで演劇作品の上演を行っている。
空間現代(クウカンゲンダイ)
2006年に野口順哉(G, Vo)、古谷野慶輔(B)、山田英晶(Dr)の3人によって結成されたロックバンド。一定のリズムやフレーズを反復するようなアレンジを特徴とする。2009年に1stアルバム「空間現代」、2012年に2ndアルバム「空間現代2」、2014年にライブアルバム「LIVE」を発表。今年9月には、これまでに配信リリースされたリミックス曲をまとめたアルバム「空間現代 Remixes」を発売した。地点のほかECDや飴屋法水、灰野敬二、Phewなどミュージシャン、演出家、ダンサーとのコラボライブも数多く実施している。