音楽ナタリー Power Push - 「ミステリヤ・ブッフ」三浦基(地点)×空間現代 対談
音の洪水が描く革命劇
生き字引みたいな人も絶賛してくれた
──そして「ファッツァー」は国内以外にもモスクワや北京でも公演が行われました。
三浦 出世作だね!
古谷野 ありがたいことです。
山田 モスクワで演奏したときはこんなに盛り上がるんだって驚いた。
古谷野 観劇中に観客がよく話していたのも面白かったし。「あそこなんて言ってるんだろう?」って話し合ってるみたいで。すごいダイレクトな感じはしました。
三浦 「ファッツァー」の本番ってあまりにも緊張が走るし、音量もうるさいぐらいだからものすごいショックを受けるんだよね。
古谷野 耳塞いでる人もいましたし。
三浦 そういうショックはどの国の人も受けているんじゃないかな。昔ダムタイプ(1984年に京都市立芸術大学の学生を中心に結成されたアーティストグループ)の作品で「重低音のため健康に害を及ぼすおそれがありますがご了承ください」ってアナウンスが入るのがあったんだけど、「ここまでやるんだ」ってぐらいすごい音だった。でも「ファッツァー」はあれを超えちゃってるかも。しかもアナウンスなし。年寄りがかわいそう……。
古谷野 あんな大きな音を聴くことになりますからね。
三浦 かなり地点の作品を観てくれてるお年を召した方もいて、ほぼ僕のやろうとしていることを理解している人でも「『ファッツァー』だけはよくわからない」って言ってたね。あれは体感的に受け付けられないんだと思う。でもその気持ちはわかる。
山田 面白いとかそういう話以前の問題というか。
三浦 そうそう。だから「ファッツァー」はお年寄り受けが悪かった。普段ライブハウスに行かない人が「ブレヒトだ」「マヤコフスキーだ」って文学的要素に惹かれてこれらの作品を観に来ると痛い目に遭う。会場で「爆音なので」ってアナウンスしても、来る人にとってはもう手遅れだよね。
山田 それはその通り(笑)。
三浦 申し訳ないとも思うよね……(笑)。でもロシアではそういう演奏に関しての問題はなかった。しかも「昔ブレヒトの作品を観た」っていう生き字引みたいな人も絶賛してくれて。だから舞台やってるときにおしゃべりされてても嫌な感じしないよね。参加して確認しているみたいな。
古谷野 確かに。
三浦 以前地点ではチェーホフの作品を本家であるロシアで上演したんです。向こうの観客みんなが知っているような作品をリメイクしているから、当時は「大丈夫かな」って思っていたけど評価してくれて。でも「ファッツァー」は未完の戯曲で、ロシア語の出版もされていない作品だからたぶんダメだろうなって思ってた。だから大評判で驚いたよ。彼らは彼らの文脈で、革命や敗北のことについてわかっている上で観てくれたのも伝わってきたし。空間現代のライブもやったんですけど、演劇を観てくれたお客さんがけっこう来てくれたよね?
山田 おばあちゃんとかおじいちゃんとかも来て、「よかったよ! 孫に伝えとくから!」って言ってくれたり(笑)。
古谷野 マトリョーシカくれたり(笑)。
野口 家族で来てくれた人もいたよね。
山田 むしろお年寄りからのほうが反応よかったぐらいのイメージで。
古谷野 ロシアの居酒屋って爆音で音楽流れてたよね? そういうの慣れてるのかも。
探したり観ること自体もがんばらないといけない
三浦 一方北京は蓬蒿劇場っていう若者向けのところだったんで、みんな真面目に観てくれましたよね。
古谷野 質問とかもすごい人数来てましたね。
三浦 アフタートークって日本だと2、3人質問者がいればいいほうだけど、北京だとみんな手を上げて。あれは異常だった(笑)。上演中は日本での公演のときに近くて静かだったけど、すぐスマートフォンで調べてるのがすごかった。
野口 ネットでかなり情報を集めてる印象がありましたね。
古谷野 ネット環境が規制されてて、YouTubeとかGoogleを見るのも苦労してるみたいで。
野口 探したり観ること自体もがんばらないといけない。
三浦 あと、北京でインディペンデントな劇場はあそこしかないんだよね。だから会場に集まってきた人たちはエリートが多かったのかも。服装もおしゃれな感じで、貧乏臭いところもなかった。そういう生真面目さもありつつ、作品を観たいっていう“飢え”も感じました。
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- 地点×空間現代「ミステリヤ・ブッフ」
- 地点×空間現代「ミステリヤ・ブッフ」
2015年11月20日(金)~28日(土)
東京都 にしすがも創造舎
作:ヴラジーミル・マヤコフスキー
演出:三浦基
音楽:空間現代
出演:安部聡子 / 石田大 / 小河原康二 / 窪田史恵 / 河野早紀 / 小林洋平
- ゾンビオペラ「死の舞踏」イラスト:古泉智浩
- ゾンビオペラ「死の舞踏」
2015年11月12日(木)~15日(日)
東京都 にしすがも創造舎
コンセプト・作曲:安野太郎
ドラマトゥルク:渡邊未帆
美術:危口統之
出演:浅井信好 / 岸本昌也 / 左藤英美 / 新大久保鷹 / 滝腰教寛 / 東金晃生 / 中村桃子 / 長屋耕太 / 八重尾恵 / 山崎春美
収録曲
- 同期 / Mark Fell
- 不通 / Hair Stylistics
- 痛い / ZS
- 通過 / Takeshi Ikeda(core of bells)
- 通過 / 蓮沼執太(feat. 古川日出男)
- 誰か / Oval
- 誰か / 宇波拓
- 不通 / 湯浅学
- 同期(相違remix) / OMSB
三浦基(ミウラモトイ)
演出家。地点代表。1999年から2001年まで文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在。帰国後、劇団・地点の活動を本格的に開始する。2005年には東京から京都へ活動拠点を移し、2013年に地点の稽古場兼アトリエ施設「アンダースロー」を開場。同施設を軸足に、国内外の公共劇場やフェスティバルで演劇作品の上演を行っている。
空間現代(クウカンゲンダイ)
2006年に野口順哉(G, Vo)、古谷野慶輔(B)、山田英晶(Dr)の3人によって結成されたロックバンド。一定のリズムやフレーズを反復するようなアレンジを特徴とする。2009年に1stアルバム「空間現代」、2012年に2ndアルバム「空間現代2」、2014年にライブアルバム「LIVE」を発表。今年9月には、これまでに配信リリースされたリミックス曲をまとめたアルバム「空間現代 Remixes」を発売した。地点のほかECDや飴屋法水、灰野敬二、Phewなどミュージシャン、演出家、ダンサーとのコラボライブも数多く実施している。