スカパー!が新たな取り組み「スカパー!オンデマンド エンタメ応援プラン」をスタートさせた。音楽、演劇、伝統芸能などのステージ・イベントの主催者に向けた同プランでは、通常は主催者が支払う配信手数料や回線費用などをスカパー!が負担。映像は動画サービス「スカパー!オンデマンド」で配信され、視聴者がコンテンツを購入すると、クレジットカード決済手数料を除く売上すべてが主催者に還元される仕組みだ。エンタテインメントを支援する目的で行われているこのプランは、スカパー!の若手スタッフによって立案、運営されている。
音楽ナタリーではこの取り組みのスタートを記念し、9月にOAUとしてキャンプイベント「New (Lifestyle) Acoustic Camp 2020」を入場者数を規制して開催、10月にはBRAHMANとして初のオンラインライブ「ONLINE LIVE "IN YOUR【 】HOUSE"」を行ったTOSHI-LOW(BRAHMAN / OAU)にインタビューを実施。コロナ禍におけるバンドマン、表現者の在り方、オンラインライブの手応え、「スカパー!オンデマンド エンタメ応援プラン」に対する期待などについて語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 朝岡英輔
「スカパー!オンデマンド エンタメ応援プラン」とは?
演劇や音楽、伝統芸能など、さまざまなステージイベントの主催者を対象としたエンタテインメント業界向けの支援施策。コンテンツの配信手数料や回線費用などをスカパー!が負担し、クレジットカード決済手数料を除く各コンテンツの売り上げをイベント主催者に還元する。
生配信・収録配信どちらも対応可能で、販売価格はコンテンツ提供者が決定できる。スカパー!での放送がないコンテンツも販売可能。視聴者は無料の会員登録をするとコンテンツの購入が可能になり、決済方法はクレジットカードのみとなっている。
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対象期間:2020年8月から12月31日受付分まで(配信・放送は2021年3月頃まで)
利用対象:ステージ主催者(音楽、演劇、伝統芸能などのコンテンツ)
配信手数料:0%(別途、クレジットカード決済手数料2%)
回線費用(ネット回線):スカパー!負担
どういう覚悟でやってたの?と思ってしまう
──コロナ禍による影響が2020年後半になっても続いています。まず、春の自粛期間中はどんなことを考えていたか教えてもらえますか?
ラッキーだなと思ってたよ。生産性を求めないで、何もしないでいいなんて、こんな幸せなことないなと。昼から飲んだり、子供と一緒に過ごしたり。休みがあれば「何をやろう?」と考えてしまいがちじゃない、現代の人は。でも、休みは休むためにあるのであって、温泉に行くとかゴルフするなんて、全然休みじゃない。
──自粛期間中は本当の休みだった、と。
うん。しかも誰も外出できなかったから、人に対して「うらやましい」とも思わなかったし(笑)。
──一方で音楽や演劇などは大きなダメージを受け、業界に関わる人々は収入が激減する不安も抱えていたと思いますが。
そういう人たちは、今までは不安じゃなかったのかな? こういう仕事、つまりエンタテインメントに携われば、明日の保証がないという不安は当然あって。そのリスクと共に仕事を選んでいるわけだし、コロナだからといって騒ぐって、どういう覚悟でやってたの?と思ってしまう。ただ、今回は誰も予期していなかった事態になったというだけで。
──TOSHI-LOWさん自身も、いつ何が起こるかわからないという覚悟で活動してきた、と?
ずっと贅沢だと思ってるから、音楽で食えること自体が。自分たちがやったことに対する評価は欲しいけど、これが当たり前だとは思ってないし、未来永劫ずっと続くなんてことはないから。今まで通りの活動ができないのであれば、頭を使って、自分らしく生きる方法を考えるしかない。音楽に関して言えば、ギター1本あれば1日中遊んでいられるんだよね。没頭して弾いてるうちに、新しい曲ができるかもしれない。究極の遊びだから。今までは「あのフェスに出るために」とか「CDを売りたい」とか生産性の競争みたいにして曲を作っていた人が、コロナ禍になって本来の遊びに戻れたと考えたら、全然悪いことじゃないなって。お金を稼げないこと以外はね。
潰れるところは潰れる。でも、やりたい人は何があってもやる
──10月9日にはBRAHMANの初のオンラインライブ「ONLINE LIVE "IN YOUR【 】HOUSE"」が開催されました。会場は札幌 KLUB COUNTER ACTIONでしたが、そもそもオンラインライブをやろうと思ったのは、どうしてなんですか?
ライブができないこと自体はストレスではないんだよね。ウソではなく、常に「これが最後かもしれない」と思ってやってるし、「今日も4人でライブがやれた」ということがすべてなので。オンラインライブに関しては、コロナ禍のときにTHA BLUE HERBのBOSSとシングル(BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」)を制作したから、現状を踏まえて、自分たちがやれる最大限のライブをやろうと探った結果。自分たちにとっては新しい試みだったし、それはそれで楽しかった。ただ、「これからもオンラインライブを続けるか」「毎回、配信を取り入れるか」と聞かれたら、答えはNO。演劇は劇場で観るものだし、ライブはライブハウスで感じるものだからね、本来は。(そばを通りかかった、女優の妻・りょうに向かって)りょうさん、次の舞台(「両国花錦闘士」)はオンラインもあるの?
(りょう) どうでしょうね。先日受けたPCR検査の結果はスタッフ、キャスト全員が陰性でした。まずは今日から稽古ができるのでがんばります。
ありがとう。今のも使ってください(笑)。
──わかりました(笑)。BRAHMANのオンラインライブは全国のライブハウスで無料中継されました。ドリンク代のチャージでライブハウスを支援する試みでしたが、このスタイルは全国初ですよね。
そうかな。どうせなら誰もやってないことをやりたいタイプなので。これは座右の銘なんだけど、「0から1までの距離は、1から1000への距離より大きい」というユダヤの言葉があって。物を創るというのは0から1を生み出すことだし、それが面白くてやってるの。今回の配信ライブもそうで、営業してないライブハウスがあるんだったら、そこで観れるようにすればいいんじゃないかと。今回はドリンク代だけだったけど、チケット代を払ってもらって配信ライブをやれたら、1日で全国ツアーと同じ数の人が観られる可能性もあると思う。スマホで観るよりも、音響設備がしっかりしていて、迫力ある画面で観たほうがいいだろうし。
──なるほど。そういう試みが増えれば、ライブハウスが生き残る可能性も少しずつ高まりますね。公共の支援は決して十分とは言えないので……。
うん。今回のことで、文化や芸術が社会に必要とされてないことが露呈したでしょ? ライブハウスでライブを観ること、劇場で演劇を観ること、映画館で映画を観ることが好きな人は実は少数派で、単なる趣味だと思われている。だから不要不急と言われて、「そんなものやらなくていいだろ」って叩かれたんだよね。ただ、俺はそれで致し方ないと思ってるの。ロックもそうだけど、カルチャーはもともとアンダーグラウンドなものだし、だからこそ社会の常識とは関係ない表現が生まれてきたわけで。それがどんどん商業化されて、大きなバジェットがかかるものになってしまったんだけど、コロナ禍で「おまえらはマイノリティだ」と言われたことで、元に戻りつつあると思う。残念だけど、潰れるところは潰れる。でも、やりたい人は何があってもやるからね、地下に潜ったとしても。今はそのための準備期間じゃないかな。
──言葉を選ばずに言えば、淘汰されるのも仕方ないと。
少なくとも「テレビで見たあの人を近くで見たい」という感じでライブハウスに来てた人は、来なくなるだろうね。ビジネスのことしか考えてない大人もいなくなって、そこで初めて、新しい人たちが出てくると思うんだよね。俺らが想像もつかないような発想を持った人たちが面白いことをやり始めるんじゃないかなと。表現を必要とする人は必ずいるし、それを届けようとする人も絶対にいなくならない。それはお金を稼ぎたくてやることとはまったく質が違うものだから。
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ニューアコ開催は反骨心もあった