コミュニティが武器になる
──「Enjoy Music!」の応募者に対して、保本さんはどんなアーティスト像を求めていたんですか?
何もないんです。こちらからイメージを限定してしまうと偏ってしまうので、「なんでも来い」という状態でした。そうしたら、ものの見事にまったくバラバラな方向性の子たちが集まりました(笑)。そんな中で「君はこの子と一緒にコラボしてみたら?」と提案してみたりして、そういったことで可能性も広がっていきますよね。
──プロジェクトが1つのコミュニティになっていると。
そう。この状況下でアーティスト1人きりで戦っていくのはあまりにも酷なので、チームやコミュニティがあることはアーティストにとっても武器になるんじゃないかと思って、そういう枠組みにできたらと思ったんです。まあ、これは後付けの話ですけどね(笑)。
──さまざまなアーティストが集まってくれたからこそ、新しく見えてきた道があるという。
なので、この先のビジネスなんかについては何も考えていないんですよ。あくまで僕発信でやってきたことですし。でも、面白いことが起きそうな予感があるんです。
──それが今の時代には合いますよね。“まず動く”という。
そうなんですよ。言わばスピード感です。SNSでどんどんやりとりしていくし、本人同士だけじゃなく周りもその様子を観ている。そもそも「Enjoy Music!」を始めたのは5月24日。僕がプロデュースしている三上ちさこの配信ライブの日にスタッフと話していて決まったことなんですけど、スタートしてからまだたったの5カ月なんですよ。でも、その間に音源もどんどん集まって、コンピやライブといったアウトプット先も見えてきたという。
どうやって自分の殻を破るか
──年内にリリースされるコンピアルバム「Enjoy Music! New Wave Generations Vol.1」の収録曲は決まっているんですか?
もう決まっています。今ちょうど連日レコーディングをしているところですよ。
──参加者の作品をブラッシュアップしているということですか?
そうですね。アマチュアのアーティストはよくも悪くも自分のペースで活動をしていた人がほとんどで、それはそれでいいんですけど、プロの仕事というのは他人が必ず介入してくるものなので、人の意見を受け止めてどうやって自分の殻を破るかということを、曲をブラッシュアップしながら教えています。それがうまくいかない子は離脱していくんですけど、がんばっている子たちは残っていて。
──コンピには何曲ぐらい入りそうですか?
17曲です。ちなみに、もう「Vol.2」の準備も進んでいて、今現在31組のアーティストの曲を僕がアレンジしているんですよ。
──このプロジェクトは保本さんにとって1000本ノック的なワークかもしれませんね。でも、逆にプロデューサーとしての感覚が研ぎ澄まされるところもありそうです。
そうなんですよ。だからすでに「Vol.3」もやりたいと思っていますので(笑)。引き続き募集中です。
──この輪がどんどん広がっていくのは、SNSで自ら情報発信をしているからこそですよね。
今の子たちはみんな、自分でミュージックビデオを作ってきたりもするんですよ。「これいくらで作ったの?」と聞いたら「5万円で作りました」とか。よくよく聞いてみるとアーティスト本人がSNSで映像クリエイターを探してコラボしていたりするので、そういう姿にリアリティを感じています。みんな工夫しているんだなって。
次世代の音楽シーンのヒント
──今の話もそうですけど、若手の音楽シーンはアーティスト本人が自己発信力を付けてきているという面で妙に成熟している部分があるように思います。クリエイティブのイニシアチブをアーティスト本人がちゃんと担えるかどうかは、すごく大事なポイントだと。
そうですね。本人のアイデアを大事にするという今の音楽業界が忘れている要素でもありますよね。それに今はTuneCore Japanといった個人で楽曲を配信できるデジタルディストリビューションもありますし、その気になれば自分で作ってすぐに配信できますから、旧来の音楽業界のスピード感とは違う。そこに次世代の音楽シーンのヒントを感じています。「Enjoy Music!」を立ち上げてからもそれを感じていて、楽曲を募集するときも特に広告を打ったりしていないし、ただTwitterで「音楽を聴かせてください」とツイートしているだけで曲が届く。そして届いたら僕もすぐに返信してアドバイスしたり。そうやってもう600曲以上は聴いていますから。さすがに腱鞘炎になりましたけど(笑)。
──まさにSNSの口コミのすごさを感じます。
「Enjoy Music!」はプラットフォームとなるホームページすら作っていないんです。ビジネスビジネスしていないんですよ。音楽ありきで“実”を取りたいというか、「Enjoy Music!」のみんなにはそこにシンパシーを感じてほしいなと。
──保本さんお一人で一気通貫しているのもわかりやすいですし、熱量とスピード感が伝わりますよね。
そうですね。判断も自分ですぐに出せますからね。
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