EGO-WRAPPIN'|6年ぶりとなるオリジナルアルバムを完成させた2人が語る“これからのエゴ”

EGO-WRAPPIN'が9枚目のオリジナルアルバム「Dream Baby Dream」を5月22日にリリースした。

本作には、「CAPTURE」や「裸足の果実」といったタイアップソングに加え、リズムボックスを取り入れたエキゾチックな「Arab no Yuki」、美しいメロディの隙間からほのかなサイケデリアが漂う「timeless tree」、都会的な雰囲気漂うディスコロック「Shine Shine」、スウィートなロックステディ「心象風景」など、EGO-WRAPPIN'の真骨頂とも言えるジャンルレスな11曲が収められた。中納良恵(Vo)が声帯炎を患い一時レコーディング中断を余儀なくされたものの、オリジナルアルバムとしては前作「steal a person's heart」から6年ぶりとなる充実の新作を作り上げた2人は今、何を思うのか。音楽ナタリーはアルバムを完成させたばかりのEGO-WRAPPIN'に話を聞いた。また特集の後半には吾妻光良(吾妻光良 & The Swinging Boppers)、磯部涼、tofubeats、Bose(スチャダラパー)、安田謙一によるクロスレビューを掲載。多角的な視点で作品の魅力を浮き彫りにする。

取材 / 加藤一陽 文 / 望月哲 撮影 / 西槇太一

自分が聴きたいものを作りたかった

──いろんなエゴらしさが詰まった素晴らしいアルバムだと思いました。中納さんの喉の不調もあったので、そういう意味でもドラマチックに聴けた部分もあって。オリジナルアルバムとしてはひさびさのリリースになりますよね。

森雅樹(G) はい、6年ぶりです。

──アルバムの制作はいつ頃にスタートしたんですか?

中納良恵(Vo) 20周年が終わったぐらいからですかね。

──じゃあ2017年に入って、すぐ。

 そうですね。そこから準備に入って。

──エゴのレコーディングって、どういうところから作業が始まるんですか?

 まずは2人で音遊びみたいなことを始めて。音を出し合うというか。

EGO-WRAPPIN'

──今回のアルバムでいうと、どのあたりの曲になるんですか?

 「Arab no Yuki」「心象風景」「裸足の果実」とか、そのあたりですかね。最初はリズムで遊んでいくのが中心やったかな。「Arab no Yuki」で使ってるリズムボックスのあの感じとか、すごく新鮮やなと思って。「裸足の果実」も今まであんまりやったことのないリズムやし。エゴでは、新しいリズムをアルバムの中で出していきたいという気持ちが常に自分の中にあるんです。例えば今まででいったら、「GO ACTION」や「BRAND NEW DAY」だったり。「裸足の果実」とかは、その延長かな。シンプルでそれほど展開もなく、ワングルーヴで進んでいくみたいな。エチオピアの音楽とか、どこかエキゾチックな雰囲気をイメージしましたね。リズムに対するホーンの絡み方とか……つまり響きですね。音の響き。今回はリズムと音の響きで、今までなかったような感じを出したいなと思って。それがすなわち、自分が弾きたい、やりたい音楽になっていくんです。

──お二人が今やりたいことを、音を通して確認していく作業というか。

 そうそう。音の出し合いですね。(ドラムを叩く仕草で)「ドンッ・ドン・タン、ドンッ・ドン・タン……どう、よっちゃん?」みたいな(笑)。

中納 せやな(笑)。

 そこに自分でベースを重ねてみたり。そういうところからメロディが生まれることもあって。まあ音遊びですよね。まずは2人が楽しめるか、というところから始まって。で、次に聴いてくれる人のことを考え始める(笑)。僕らが面白いと感じてるこの感覚を、聴いてくれる人にどうやって伝えるか。それが次のステップですよね。

──そういうふうに制作のモードが切り替わっていくんですね。

 そうです。特に今回は20周年を盛大に祝ってもらったあとのアルバムだったんで、次のステップに注目が集まるところがあるじゃないですか。あれだけ20周年を盛大に祝ってもらったら(笑)。さらっとやってもらったら別に気にせえへんかもしれないですけど。で、次のステップに向かうにあたって、これまでの20年を振り返ったとき……ふと、僕らは聴いてくれる人のことを常に先に思いながら活動してきたような気がしたんです。それがいいか悪いかは別にして。これからは自分が弾きたいとか、自分が聴きたいとか、むしろ、そういう感覚を優先していったほうがいいなと思うようになったんです。

──そうだったんですね。

 うん。そっちのほうがいいなって。こっちが楽しんでる姿を見てもらったほうがリアルやなと思った。今までも決して楽しんでなかったわけじゃないんですけど、今回はモードがちょっと違うというか。作品はもちろん、ライブも同じく、自分が観たいと思うようなライブをやっていきたいなと。あとは、自分が聴きたいよっちゃんの歌とか……うん、今回は自分が聴きたいものを作りたいという気持ちが強かったかもしれないですね。

──中納さんは、そういった森さんの意識の変化についてはいかがですか?

中納 今話してくれたようなことって、森くんは普段全然言わへんから、「へえ、そうやったんや!」って思いながら話を聞いてました。

 ははは(笑)。

中納 森くんは俯瞰でディレクションをする人やから、いろんなものが見えてるんでしょうね。基本的に自分たちがドキドキワクワクするものを作りたいという気持ちはありつつ、でもお客さんから求められてることっていうのは私よりは森くんのほうが全然考えてると思う。ライブの曲順とか曲の感じとか。

 ああ、そうかもしれへんね。

20周年を迎えて考えたこと

──中納さんは20周年を機に考えたことは何かありますか?

中納 そうですね、とりあえず……続いていくんだなっていう(笑)。目の前にあることをやるのみやなって。エゴに関しては、あんまり未来のこととか考えてないかも。暮らしのこととかはときどき考えますけど。音楽に関しては今自分ができることとか、今やれることって感じでやっていってええんちゃうかな。

──その時どきで自分から出てくる感覚に正直に。

中納 うん。「それでいいんだ」という感覚は年々強くなってます。でもそれは、長い間続けてきたことで裏付けされてるところもあって。人の好みとか趣味とかってわかれへんから、憶測ではあるけれど、自分なりの伝え方をして、それを受け取った人が笑ってくれたりしたらいいなという思いはあります。

──20周年を経て、お二人共に少なからずの気付きがあったわけですね。

中納 そうですね。20周年はいろんなことを考えるきっかけになりました。そもそも、あんなに盛大に祝ってもらったこと自体すごくうれしかったし。

──森さんはいかがでしたか?

 あ、僕? もちろんうれしかったですよ。

──20周年を目前にしたインタビュー(参照:EGO-WRAPPIN' 結成20周年特集)では、お二人共、「あまり大々的に祝ってもらうのは照れくさい」という感じでした。

 ああ、言ってましたね(笑)。

中納 でも武道館でのライブはやっぱりうれしかった。

 うん、武道館は本当に楽しかったな。

EGO-WRAPPIN'

歌えること自体奇跡

──そんな意識の変化がありつつ迎えた今回の制作、冒頭で少し触れましたが、中納さんが喉を痛めてしまったのが、2018年でしたっけ?

中納 そうですね。

──それを受けてライブ活動を中断することを余儀なくされて。アルバムの制作もストップしたんですか?

中納 そうなんです。歌えないから、曲も作れないし。だから作業を止めちゃったんですよね。みんなに迷惑をかけてしまって。

──治療にはどれぐらいかかったんですか?

中納 結局1年とか? けっこうかかりましたね。

──昨年末のキネマ倶楽部のライブで完全復活を宣言されていましたね。

中納 そうですね。年末に東京で3日、大阪で2日、ライブをやったんですけど、「今年は5日間やめとこか?」みたいな声もあったんです。でも、いい先生に出会えて。その先生が「何言ってるんですか、やれますよ!」って言ってくれはって。「僕が責任持ちます」って。

──おお、そうだったんですね。

中納 で、治療を受けつつ年末のライブに臨んだら、ちゃんと歌えたから、すごく自信につながって。「これからもやれる!」って思えたんです。声が出るようになって、まず、しゃべれることがすごいなと思ったんです。なんせ声が完全に出えへんかったから。歌えること自体奇跡やなって思いました。自分はこれまで、すごいことをやってたんやなって。だから歌うことをもっと大事にしようと。

──ちなみに喉の不調を経て歌い方が変わったりは?

中納 喉に負担がかからない歌い方を先生に教えてもらって。それでだいぶよくなったかな。人間の体って本当に不思議やなと思って。声帯って、直接効く薬がないらしいんですよ。要するにしばらく喉を休めたら、そこからは、いい歌い方をしていくのみなんですって。だから、ひたすら歌い方の訓練を積み重ねていって。なんか……人間の体って面白い(笑)。

──そこまで立ち返りましたか(笑)。

中納 うん。めっちゃ謎やなと思います。人体って奇跡ですよ。記憶とか、内臓のシステムとか、あと感情もそうやし。人間ってすごいなと思いました。別にお医者さんみたいに研究したわけじゃないんですけど。音を奏でて音楽を作るということ自体、むっちゃ謎やなと思ったし。それで人がライブを観に行って歓喜するとか、ホンマ奇跡じゃないですか。今まで普通にできていたことが全部奇跡やなと思って。この感覚は忘れたらあかんなと思うし、そういう喜びをこれからも音楽を通じて伝えていけたらいいなと思うんですよね。

 うん。

中納 音楽はやっぱりすごいと思う。

──喉の不調を乗り越えられた中納さんの口から聞くと説得力があります。

中納 あはは(笑)。でも本当にそう思うんですよ。

──声が出なくなったことを中納さんから聞いたとき、森さんはどう思いましたか。

 びっくりしました。でも最終的に信頼できる先生に出会えてよかったなと思います。体調が悪いときって、いろんなことに対して疑心暗鬼になっていたと思うんですね。気持ちの部分も関係してるかもしれへんし。僕とかが「行けるんちゃう?」とか言っても、「何言ってんのよ!」みたいになっていたと思うんです。あと、よっちゃんにしてみたら当然、先を見据えてるわけじゃないですか。歌を歌っていくことは、よっちゃんにとって一時的なものじゃないから。この先、おばあちゃんになっても歌っていくわけで、これから渋くなっていく過程やのに。

中納 そうそう。私は死ぬまで歌いたいから。

 そうなってくると、みんな気持ちは一緒ですよ。とにかく治療に専念してほしかった。

中納 森くんが「やめとこ」って言ってくれたんです。でも森くんだって、エゴの活動が止まったら極端な話、食いっぱぐれてしまうわけじゃないですか。でも、そういうことを咎める人はスタッフにも誰1人としていなかった。こういう人たちと一緒にやれてて本当によかったなと思いましたね。