イヤホンズ|インタビューでも実験!? 普通じゃない5年間の普通じゃない“進化論”

テレビアニメ「それが声優!」メインキャストの高橋李依、長久友紀、高野麻里佳による声優ユニットとして2015年に結成されたイヤホンズ。当時声優としても駆け出しだった3人は、新人声優がユニット活動に奮闘するさまを描いた「それが声優!」の世界とリンクする形でデビューを果たし、アニメが終了したあとも「それが声優!」のその後を体現するかのように活動を続けてきた。声優ならではの“声”に焦点を当てた実験的な楽曲にも果敢に挑み、ユニットとしての独自性に磨きをかけている彼女たち。デビュー5周年を迎えたこの夏リリースされる最新アルバム「Theory of evolution」では“進化論”の意味を持つタイトルの通り、イヤホンズがこの5年の歩みで培ってきた成長や変化が、新曲と既発曲のリメイクで表現されている。独立した2曲を同時再生することで1曲になる「循環謳歌」、1人の人間の人生をメンバー3人が演じる「記憶」など実験的な要素も多いこの作品に、彼女たちはどう向き合い、イヤホンズ流の“音楽の進化論”を証明したのか。メンバー3人に話を聞いた。

そしてイヤホンズの実験は、このインタビューの中でも行われた。取材時にはアルバムはまだ完成しておらず、1曲目は空白のまま。取材のためキングレコードのスタジオに集まったイヤホンズの3人の前には、それぞれレコーディング用のマイクが置かれていた。ディレクターはこのインタビューでイヤホンズが語るリアルな言葉を用い、三浦康嗣(□□□)のエディットによるオリジナル楽曲としてアルバムの中に収めたいという。アルバムの冒頭を飾る「記録」には、3人の話した言葉がカットアップされている。どのような仕上がりになっているのかは、アルバムを聴いて確かめてほしい。

取材・文・インタビュー撮影 / 臼杵成晃

「イヤホンズって普通じゃないですよね」

──イヤホンズはテレビアニメ「それが声優!」の劇中ユニットとして2015年夏に誕生し、実際に新人声優だったお三方が現実でもユニットを組んでデビューしました。アニメ発の企画ながら放送終了後も活動は続き、この夏ついに5周年です。いわゆる声優アーティストともキャラソンユニットとも違う独特な立ち位置という印象ですが、ご本人たちとしてはいかがですか?

長久友紀 独特なのかなあ。私はほかにユニットをやっていないので、イヤホンズが特殊だとは思ってないというか、ほかと比べて独特なのかどうかがわからないんです。

高橋李依 確かに、このイヤホンズで育ったからこそ培った……プロンプ(ステージ上で歌詞やセリフなどを表示する装置。プロンプター)を見ないとか、私たちにとってのマイルールが意外とイヤホンズだけのこだわりだったんだ、みたいなことはあって。あとあと知っていくことが多かったかもしれない。

長久 プロンプないのが当たり前だと思ってたから、ほかの現場でプロンプがあるとつい見ちゃう(笑)。「あ、ここに文字があるんだ!」とついつい目が行きすぎちゃって、それを直すのが大変だった。

高橋 イヤホンズで根性が付いた感じはします(笑)。

高野麻里佳 私は最初から「普通じゃないな」と思ってた。最近5周年を記念してコメントを求められる機会が多いんですけど、私はまず「イヤホンズって普通じゃないですよね」って書こうとしてたの。でも普通じゃないと思っているのが私だけで「2人は普通だと思ってるかも」と考え直して消したんです。女性の声優アーティストのイメージって、例えばMVを撮るときはかわいくてポップで、キラキラしたものを撮るという印象だったんです。だけど私たちは1本目からすごく「声優!」って部分を前に出して、マイクに囲まれたところで撮って……。

高橋 マイクの本数多かったね。謝罪会見みたいな(笑)。

高野 あのときから「この現場、普通じゃないぞ!」って思ってた(笑)。でもそれが、イヤホンズが目指すアーティストらしさ、新しい声優アーティストとしての歩みなんだなって。それを貫いてきたな、と5年経っても思います。

──普段キャラクターの心を表現している声優が、自分自身を表現するのが声優アーティストだと思うんです。でもイヤホンズは、それぞれが演じるキャラクター、声優という職業が持つキャラクター、さらには自分自身のキャラクターと、現実・非現実をすべて混ぜたところで勝負しているような特殊性があるなと。

高橋 確かになー。「声優を表現している」みたいなところあるよね。

──先ほど高橋さんがおっしゃっていた「プロンプを見ない」といったイヤホンズならではのルールは自然とできあがったものなんですか?

インタビューの様子。

高橋 おそらくなんですけど、先輩のAice5(アイス)さんからの伝統を受け継いだものだと思うんです。デビューしてすぐのイベントでご一緒させてもらったりする中で(参照:イヤホンズ vs Aice5、前髪むしり合う姉妹対決でユニットの絆深まる)。

──「それが声優!」という作品自体が、Aice5のメンバーである浅野真澄さん原作によるものでした。声優としての関係も、レーベルでの関係においても直属の先輩にあたるわけですね(参照:イヤホンズ×Aice5 ニューシングル同時発売記念特集)。

長久 あと、イヤホンズはEVIL LINE RECORDSが初めてプロデュースする声優アーティストだったので、それまでのEVIL LINEのルールに則ったやり方が従来の声優アーティストとは違ったんだと思います。声優アーティストとしての変化もそこから生まれたんじゃないかなって。

──声優アーティストを多く抱えているレーベルとは違うルールで動いてたんですね。

高橋 はい。そういえば、最近になって衣装さんがインナーを持ってきてくれるようになったよね。衣装の下に下着が透けないように履くフリフリのパンツとか、あれは家で洗濯して自分で持ってくるものだと思っていたから、インナーも用意されてるし靴下もあるんだ!みたいな(笑)。

高野 最初に衣装を作るフィッティングのときに衣装さんから「下着はなるべく柄物じゃなく肌色で、フリフリが付いてないもののほうが体のラインがきれいに見えるよ」って言われて、それから大量に集めたんです。ほかの現場のフィッティングにそれを着ていくと、めっちゃありがたがられる。

高橋長久 わかるー!!

高野 使えるかわからない話ですけど、タンスの引き出しの中が肌色の下着でいっぱい(笑)。

高橋 女子の理想の引き出しって感じじゃないと思うけど、ユニットをやっていると便利なんです(笑)。あとイベントの日だと前開きのパーカーを着てくるとか。便利さを重視してかわいいコーデとか考えてないから、入りの時間はファンの方に見られたくない(笑)。

大きな分かれ道

──イヤホンズ結成当時は、5年後、10年後のビジョンを持っていましたか?

高橋 結成当時はとにかく「それが声優!」という作品を走り切ることしか考えていなかったので、ユニットとしてどうなりたいかまでは全然考えていなかったかなー。

長久 付いていくのに精一杯でした。いろんな出来事に。

左から高橋李依、高野麻里佳、長久友紀。

高野 作品のことばかり考えていたかも。イヤホンズはアニメーションでキャラクターがどのように歌って踊るのかわからないところから、歌も覚えて振りも覚えて……という状態で始まったんです。今では経験を積んでいるから「このキャラクターならこう踊るかな?」とかイメージできますけど、あのときは目の前にあることを学んで吸収する“ザ・新人”みたいな感じでしたね。

高橋 Aice5さんと一緒にライブをやらせていただいた頃、アニメが終わったあともイヤホンズを続けるかどうかを選択するタイミングが来たんです。でも、ライブを体験して「このままじゃ終われないな」って私は思った。先のことを考えたのは、あのときが初めてかも。「それが声優!」が終わっても続けるか続けないかは大きな分かれ道で、私が続けたいと思った理由は「このままじゃ終われない」という悔しさでした。

長久 Aice5さんのパフォーマンス力がすごくて、「私たちにはこんなふうにはできないよ!」ってひしひしと感じた。ファンの方たちの盛り上げ方もすごかったし、会場全体の一体感を生んでいらっしゃったのはAice5さんで、私たちはおつまみ程度にそこにいたみたいな感じだったから、あのときを振り返るとちょっとつらい。

高橋 苦い。

長久 苦い。悔しい。そんな思いもあって……。

高橋 イヤホンズを続けるかどうかというときに、さらに覚悟を固めたというか。パフォーマンスがうまくなりたいという気持ちは前々からあったけど、Aice5さんの唯一無二のパフォーマンスを見たことで「私たちはなんなんだろう?」と。「AKIBA'S TRIP -THE ANIMATION-」(2017年1~3月放送のテレビアニメ)のイベントのときも感じたんですけど、「イヤホンズには何ができるんだろう」というのはアウェーのときに定期的に感じる。

4年目の決断

──この5年間の中で「これはイヤホンズにとって大きかったな」という出来事をそれぞれ挙げるとすると、どんなことがありますか?

長久 私は3年目の終わり。「それが声優!」をいっぱいいっぱいで乗り切ったあと、3年目に「AKIBA'S TRIP」でまたこの3人でメインキャラクターを担当させていただいたんですけど、そのあと4年目のイヤホンズの予定がまっさらになったんです。そのとき私は正直、2人がどう思っているかすごく心配で。私はイヤホンズを続けたい気持ちが強かったんです。プロデューサーも変な人だし、りえりー(高橋)もまりんか(高野)もいい意味で変な人じゃん(笑)。

高橋 褒められてんだよね?(笑)

長久 みんな変な人なのよ! 私もきっと変だし。そんな変な人たちが変な音楽を作って、それを面白いと思ってくれるファンの人がいて……それで4年目に何もないなと思ったときに、まだ音楽で何か生み出せるんじゃないかなと思っていて……ハッ、泣きそう。

高野 えーっ! 今?

高橋 がっきゅ(長久)、あのときそんなこと考えてたの?

長久 考えてたの。で、まりんかとりえりーが……あー! この2人が「続けたい」って言ってくれたんですよ。事務所やプロデューサーから1人ひとりヒアリングがあったじゃない? そのとき、私だけじゃなくみんなが「続けたい」と言ったから、4年目からのイヤホンズがあったわけじゃない? そのとき初めて安心できたというか、もしかしたら2人は「もうイヤホンズはいいんじゃない?」って言うんじゃないかという心配があったのよ。ちょっとだけね。でも4年目を走らせてもらえるんだと思ったときにすごく安心したし、自分の中でよりイヤホンズが大好きになって。こうやって5周年を迎えられたのも、あの3年目のヒアリングで、これからも5年目、6年目、4年目……あれ、減っちゃったけど(笑)、7年目、10年目とこの2人と一緒に歩んでいけるなと自信が持てました。まる。ううう。

高橋 私はそのとき二つ返事だったと思うんだよね。「全然続けますけど、なんで今聞くの?」みたいな。Aice5さんとのライブのときすでに心固めてたし。あと私は1周年ライブのときに足を怪我してしまって、そのときに支えてもらったから、この2人のためならいつでも支える……「1人だけでがんばる」ということをやめられる存在だったから、ずっと続けていきたいという気持ちはもう固まってた。

高野 私は……ヒアリングされたか覚えていない。

長久 えーっ!(笑)

高野 私にとって4年目は個人的に事務所が変わったり激動の年だったので、あまり覚えてなくて。でも3年目の終わりにサンリオピューロランドでライブをできたときに(参照:メンバー感激!イヤホンズ新曲がピューロランドXmasイベントテーマソングに)、すごく夢が叶った感じがしたんです。私が声優に興味を持ったのは、お父さんお母さんの読み聞かせで物語に触れたのがきっかけで。家族での触れ合いが物語との触れ合いだったんです。

──サンリオピューロランドは親子で楽しむ物語の世界を現実に作り上げたような空間ですよね。

高野 そういう場所に携われたのが初めてのことだったんですよ。なので、3年目で私は声優人生やイヤホンズとしてのやりたいことを1回叶えてしまったような気持ちになって。そもそも私は声優というお仕事を重い気持ちでやりたくないというか……もちろんずっと続けていきたい気持ちはあるんだけど、何かうまくいかなくなっちゃったときにつらくなるのが嫌だから、1球1球を投げるたびにこれが最後かもしれない、イヤホンズがもし明日辞めますとなっちゃってもいい、いつ終わってもいいという気持ちでやっているんです。だから4年目がまっさらになって「この先はありません」と言われても悔いが残らないようにというか、どこでも決着がつけられる気持ちで接している部分もあったので、続けていられることは純粋にうれしいですし、それを叶えてくれているのはメンバーであったり、支えてくださっているスタッフさんやコマクちゃん(※イヤホンズファンの呼称)たちなので。これからも常に次の目標を定めながら進んでいきたいです。