音楽ナタリー PowerPush - 志磨遼平(ドレスコーズ)×尾崎世界観(クリープハイプ)

似たもの同士?のフロントマン対談

それぞれのバンド観

──お2人とも活動初期から互いの音楽に触れていたということですが、自分と似ていると感じるところはありますか?

尾崎 似てるのはメンバーが変わったってことですよね(笑)。

志磨 はい、そうですそうです(笑)。当時はどういう状況でしたか?

尾崎 うーん……なんだろうなあ……。たぶん自分の足りないところとか責任を押し付けてたんですよね、今思えば。みんなが全部できてしまうと不安なんだけど、できてないとできてないで文句言う。バンドがうまくいかない状況とか、なんでお客さんがいないんだとか、そういうことをメンバーにぶつけるっていう。

志磨 うんうんうん。

尾崎世界観

尾崎 それで、曲は作れるんだけどうまく演奏できないとか、どうやってバンドで表現したらいいかわからないってことが続いて……。それはずっと悩んでましたね。僕は当時マリーズ観てて「“バンド”って感じするなあ」って思ってたんで、解散すると知ったときはいろいろあるんだなってびっくりしました。

志磨 僕に何も求めなかったんですよね、あのメンバーは。とにかく、僕がやることをなんでも許可してくれた。そういう存在って、ねえ。ずいぶん助かるじゃないですか。で、彼らには音楽的な主張なんてないから(笑)、そのぶん……なんて言うのかな。いわゆる“バンドマジック”みたいものは発生しなかった。

尾崎 そういう“バンドマジック”っていうものに対する憧れが?

志磨 うん、すっごい憧れがあった。意見をぶつけ合う、とかやりたい!っていう。

尾崎 ああー、そういう感じだったんですね。

──クリープハイプは2008年9月から約1年間、尾崎さんの1人ユニットだったそうですね。今のドレスコーズと同じ状況です。

尾崎 僕はそのときからバンド形態でやってましたけどね。サポートメンバーは今のメンバーなんで、そんなに変わりはなかったです。1人の名義にしただけで。

志磨 なんで名義を「クリープハイプ」のままにしたんですか? ……って、今僕いろんな人にめっちゃ聞かれてるから聞き返したくて(笑)。

尾崎 やっぱり、うまくいかないことの一番の象徴というか……。バンド自体がどうしてもうまく進まなくて、メンバーも変わってしまうっていう、すっごいダメなもののすべてがこのバンド名に入ってるんで、それを変えたらもう終わるなと思って。

志磨 へえー!

尾崎 だから逃げちゃいけないなと。あとはまあ単純に愛着があったっていうのもありますね。

志磨 尾崎くんにとってすごい大事なものなんですね、クリープハイプって。

左から志磨遼平、尾崎世界観。

尾崎 そうですね……大事というか、変なものですね。それにすごい苦しめられるし。いいことももちろんあるんですけど、悔しかったり悲しかったりすることは全部、クリープハイプをやってるから起こることなんですよね。「なんでこんな結果が出ないんだ」とか、なんでだろうって思うことって、もうバンドのことでしか起こらないし。

志磨 そっかそっか。

尾崎 だから、うん……素直には言えないけど、バンドがなくなっちゃったらもう何もなくなってしまうというか。志磨さんはどうですか?

志磨 うーん……僕は、なんかとにかくコンプレックスがあって。「僕」っていうのが諸悪の根源で、僕っていうものになりたくなくって。だからまだ「ドレスコーズ」って呼ばれたいのかな。「志磨遼平」って書いてあるCDなんか見たくもないもん。

尾崎 ああ(笑)、なるほど。

志磨 んで、僕にとってのバンドって、僕の理想で。だから(マリーズは)すごい早く解散した。それが例えば落ち目になったりするのなんか見たくなかったし。今回のドレスコーズはちょっとまさかの、だったけど……。

尾崎 でもやっぱりそこには志磨さんの色がすごく出てるじゃないですか。不思議ですよね、そこは。バンドに隠そうとすればするほど、自分が出てくるんでしょうね。

志磨 ね、ね、ね! そう。不思議ですね。

歌声と気持ち

志磨 あとは、声が変わっていると言われがちですね、我々は。

尾崎 そうですね(笑)。自分の声がモニターとかから流れてくると「高いなー」って思う。そもそも歌うのがすごく好きとか、歌さえ歌ってられたらいいみたいなことは思ってないですね。疲れるし、苦しいし。

志磨 喉にも気を付けなあかんしねえ。

尾崎 そうなんですよ。楽しく歌えたことなんかほとんどないんですけど……歌わないと伝わらないので。自分の場合は歌うっていう行為が好きなわけじゃなくて、歌うことによって届くことがあるからやってるというか……。だから自分の声を好きにはなれないんですよね。

志磨 僕は、さっきのコンプレックスの話につながるんだけど、自分以外の人の声はみんな好きで。

尾崎 あはははは(笑)。

志磨 それなのになんで歌ってんねやろっていうのはいまだにわかんないです。ドラムとかやりゃいいのに、音楽好きなら。まあもう麻痺というか、慣れましたけどね(笑)。バンドのメンバーが変わったり、お1人になったときって、歌声変わらなかったです?

尾崎 歌声は確実に変わってますね。

志磨遼平

志磨 僕も今回1人で作った曲の歌入れをして。エンジニアさんがずーっと録ってくれてる人で、いつものマイクを立ててくれたんだけど。それで歌って、「どうです?」って聞いたら「うーん……マイクが単純に合わなくなってる」って言われたの。

尾崎 ああー。声が変わって?

志磨 えー!って、衝撃でしたね。声ってギターの音色とかメンバーの演奏によって変わる、相対的なもんなんだって。まあ当たり前なんですけどね、おしゃべりでも話す相手によって声変わるし。だから今回のアルバムの曲は全部独り言のときの声なんですよ。誰ともしゃべってない声。

尾崎 なるほど。でも本当に、気持ちはすごく声に出ますよね。不安なときは声が震えるだろうし、自信ないと小さくなるだろうし、怒ってるときは大きくなるだろうし。今回のアルバム聴いて、志磨さんの歌声は、なんて言うんだろうな……てっぺんに何もないってわかってるんだけど楽しく山登りしてるみたいな。

志磨 ああー。

尾崎 そういう切なさがあるんですよね。ないってわかってるけど、それを歌うっていう。なんかさみしいし、悲しいけど、絶望してるわけじゃないというか……。それをすごい感じましたね。

ドレスコーズ ニューアルバム「1」2014年12月10日発売 / EVIL LINE RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / KICS-93146 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3240円 / KICS-3146 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 復活の日
  2. スーパー、スーパーサッド
  3. Lily
  4. この悪魔め
  5. ルソー論
  6. アニメみたいな
  7. みずいろ
  8. 才能なんかいらない
  9. もうがまんはやだ
  10. 妄想でバンドをやる(Band in my own head)
  11. あん・はっぴいえんど
  12. Reprise
  13. 愛に気をつけてね
初回限定盤DVD収録内容
  • 「スーパー、スーパーサッド」MUSIC VIDEO
  • 「ワン・マイナス・ワン」DOCUMENTARY VIDEO
クリープハイプ ニューアルバム「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」2014年12月3日発売 / UNIVERSAL SIGMA
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / UMCK-9709 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 2970円 / UMCK-1498 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 2LDK
  2. エロ
  3. ボーイズENDガールズ
  4. そういえば今日から化け物になった
  5. 大丈夫
  6. 百八円の恋
  7. 本当
  8. のっぺらぼう
  9. 寝癖
  10. 社会の窓と同じ構成
  11. (※タイトル表記なし)
  12. 二十九、三十
初回限定盤DVD収録内容
  • 「ストリップ歌小屋~浅草ロック座~」

※ストリップ劇場「浅草ロック座」で行われたアルバム収録曲“全曲”ライブ収録

ドレスコーズ

ドレスコーズ2012年1月1日に志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、同年2月に山中治雄(B)が加入する。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に採用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月にフジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマ「トートロジー」を含む2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発売。2014年9月にキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSへの移籍第1弾作品として5曲入りCD「Hippies E.P.」をリリースし、同時に丸山、菅、山中の脱退を発表した。ドレスコーズは志磨の単独体制となり、同年12月にフルアルバム「1」をリリースする。

クリープハイプ

クリープハイプ尾崎世界観(Vo, G)、長谷川カオナシ(B)、小川幸慈(G)、小泉拓(Dr)からなる4人組バンド。2001年に結成し、2009年に現メンバーで活動を開始する。2012年4月にアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」をメジャーレーベルからリリースし、同年10月に発表した1stシングル「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」がオリコンCDシングル週間ランキングで初週7位にランクイン。2013年5月の3rdシングル「憂、燦々(ゆう、さんさん)」は資生堂「アネッサ」のCMソングに採用された。2014年12月に3rdアルバム「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」をリリースした。