ナタリー PowerPush - DREAMS COME TRUE カバーアルバム発売記念
中村正人(DREAMS COME TRUE)×水野良樹(いきものがかり)対談
DREAMS COME TRUEデビュー25周年を記念し、ドリカムの楽曲をカバーしたアルバム「私とドリカム -DREAMS COME TRUE 25th ANNIVERSARY BEST COVERS-」と、新作シングル「AGAIN」が3月26日にリリースされる。「私とドリカム」にはいきものがかり、JUJU、SCANDAL、中島美嘉、水樹奈々、miwaら13組のアーティストが参加。四半世紀にわたり日本の音楽シーンを彩ってきたドリカムの名曲に新たな息吹を与えている。
ナタリーではDREAMS COME TRUEの中村正人と、アルバムで「未来予想図II」をカバーしたいきものがかりの水野良樹の対談を企画。「未来予想図II」にまつわるエピソードはもちろん、J-POPに対する思い、曲作りのスタンス、女性ボーカルとの接し方など存分に語り合ってもらった。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 田附勝
怖くてステージのセンターには立てない
水野 中村さんとはたぶん「NHK紅白歌合戦」の現場でご挨拶させていただいたくらいですよね? 僕ら紅組で出ると頼れるのが中村さんくらいしかいないんですよ。うちの吉岡(聖恵)は何度か……。
中村 そうだね。彼女は僕の番組に来ていただいたりね。でも音楽番組って、アーティスト同士の会話ってあまりないよね。
水野 そうですね。僕は自分から話しかけられないんで……。もう1人の山下(穂尊)がすごく積極的なんですよ。いつも社交的な部分は吉岡と山下に任せているので、こういう対談はすごく緊張します。
中村 ああ、そうなんだ。じゃあ水野くんにとって貴重な機会だね。僕のいきものがかりに対する印象から話すと、いきものは作詞作曲もそうだし、3人の関係、ビジュアル、あとチームの雰囲気も含めて、すべての面においてプロだなって。多くの人に受け入れられるものをプロフェッショナルな感じを出さずに作っている、選ばれたバンドっていう感じがデビューのときからしてました。
水野 そんなふうに言っていただけると何も言えなくなっちゃいますけど……。ありがとうございます。
中村 関係者というか同じクリエイターみんなそう言うと思うけどね。スタッフのチームワークもあるんだろうけれど、いきものがかりは最初から大勢の人のハートに届くものを作っている。僕はドリカムでデビューしたのが30歳のときで、それまではセッションミュージシャンとかコマーシャルの音楽作家とかいろんなことをやっていたから、業界に慣れ親しんでいるところはあったんだけど。デビューする前にプロでやってたことある?
水野 いや、何もないです。ただ今中村さんがおっしゃってくださったチームワークっていうのはたぶん僕らにとって一番の強みだと思っていて。実際表に出ているのは3人だけれども、どうやってほかの人の力を借りてプロジェクトとしてやっていくかっていうのが自分たちにとってすごく重要ですね。僕ら歌を作ることと歌を歌うこと以外本当に何もできない3人なので。逆に僕にとって中村さんは、それこそプロフェッショナルのミュージシャンそのものの姿なんですね。中村さんが見ている範囲っていうのは、サウンド面はもちろん、ライブのステージセットや演出、録音機材についての知識など多岐に及んでいて。さらにマネージメントも含めてすべての範囲に目を配っていて、それらをコントロールしながらなおかつ自分の意志を全部浸透させているという。
中村 いや、なかなか浸透しない……(笑)。
水野 あはは(笑)。でもそれを長い間やり続けていらっしゃって。しかも職人になりすぎて孤高の人みたいになってしまうわけでもなく……。
中村 そういうときも一時期あったんだよ(笑)。
水野 でもいろんな道を通ってきているのかもしれないですけども、それこそ今回のカバーアルバムに関してもGOサインを出すのがすごいと思っていて。あれほど素晴らしい吉田美和さんというシンガーがいて、DREAMS COME TRUEというグループがあって、変な言い方かもしれないけど、そんな危ないことをしなくてもいいじゃないかと思うんですよ。でもデビューしてから25年経った今でもドリカムの世界観の外側にあるものとつながっていこうとする姿勢を持っているということが僕は素晴らしいなと思います。
中村 いや、まあ水野くんより25年長生きしてるからね。さっきスタッフのチームワークっていう話があったけど、僕も水野くんと同じで恵まれていたと思いますよ。僕らも30歳くらいのときにエピックのディレクターにたまたま見出されて。それまでセッションミュージシャンをずっとやってきたんだけど、DREAMS COME TRUEとして活動するようになって何も知らなかったことに気が付いたね。ライブひとつとってもまったく違う。
水野 ステージ上から見える景色は違いました?
中村 まったく違う。びっくりしたね。
水野 ライブをするときに、よくうちのバンマスの本間(昭光)さんが「君らと60本も70本もツアーを一緒にやっているけど、君たちが見てる景色と僕が見てる景色は違うんだっていうことを認識しないといけないと思っている」っておっしゃっていたんですね。そこはフロントに立つ人間とサポートする人間が違うんだみたいな意識なのかなと思っていて。
中村 まさにそうでね。それはドリカムの中でもあって、僕は今でも吉田のバミリの位置(立ち位置)には怖くて行けない。
水野 わかります。センター怖いですよね。
中村 そうだよね。センターと僕たちの立ち位置は違うし、やっぱり女性のリードシンガーっていうのは本当にしんどいと思うんだよ。その重圧がスタッフや同じバンドでもわからないところで1人で戦っているから、僕は吉田には曲作りと歌うことに集中してもらえればそれでいいかなって思っていて。うちはもともと西川(隆宏)と俺で吉田を世間に出していこうっていうコンセプトから始まったバンドで、その感覚がずっと続いているだけなのね。俺は25年間その環境を作り続け、整え続けてきただけでしかない。でもやっぱり、成功するバンドって必ずバンドの中でプロデューサーがいて、アーティストがいて、マネージャーがいるよね。
水野 そういうものなんですか。確かに僕らもデビューする前の21歳とか22歳くらいの頃に、例えばライブハウスとの交渉とかそういうことは俺らがやって、吉岡には歌のことだけに集中してもらおうって山下と話したことがあります。ちょっとおこがましいんですけど、すごくリンクしました。
才能のある人には才能を入れる器が必要
水野 実は以前「サウンド&レコーディング・マガジン」で読んだ中村さんのインタビューの話を今日はしようと思ってきたんですね。そのとき印象に残ってたのは、「僕は吉田美和っていうシンガーを預かっている」っていう表現をされていたことなんです。それを読んだときに中村さんの覚悟がすごく感じられて。僕はそれがドリカムとして活動していく中で少しずつ思うようになっていったのか、それとも最初からだったのかを聞きたいと思っていたんですけど、最初からだったんですね。
中村 まあね。僕は吉田のマネージャーをやろうと思ってセッションミュージシャンを辞めるつもりだったから。吉田とたまたま出会って、彼女の才能にすごくびっくりしたんですよ。で、僕は吉田のマネージャーとしてひと儲けしてやろうと。
水野 自分の表現物を作ろうみたいな気持ちにはならなかったんですか?
中村 俺なんかたいしたことないミュージシャンだと思っていたから。ただいきものもそうだと思うけど、才能のある人って才能を入れる器が必要だと俺は思っているのね。ジャニス・ジョプリンしかり、ジミ・ヘンドリックスしかり、ジャコ・パストリアスしかり、本当の天才って夭折している人が多いでしょ。人間として壊れちゃうと思うんだよね。で、成功してる人を見ると事務所であったり、レコード会社であったりバンド自体であったり、必ず器がしっかりしていると思うのよ。だから俺はその器になりたいと思ったんだよね。
- V.A.「私とドリカム -DREAMS COME TRUE 25th ANNIVERSARY BEST COVERS-」/ 2014年3月26日発売 / EPICレコードジャパン
- [CD] 3059円 / ESCL-4182
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収録曲 (カッコ内はカバーアーティスト)
- うれしい!たのしい!大好き!(E-girls)
- 未来予想図II(いきものがかり)
- LOVE LOVE LOVE(miwa)
- 決戦は金曜日(HY)
- すき(JUJU)
- ROMANCE(大塚愛)
- 大阪LOVER(SCANDAL)
- 笑顔の行方(水樹奈々)
- WINTER SONG(Ms.OOJA)
- やさしいキスをして(中島美嘉)
- IT'S SO DELICIOUS(倖田來未)
- サンキュ.(BENI)
- 何度でも(Flower)
- DREAMS COME TRUE ニューシングル「AGAIN」/ 2014年3月26日発売 / UNIVERSAL SIGMA
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1680円 / UMCK-9666
- 通常盤 [CD] 1155円 / UMCK-5468
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CD収録曲
- AGAIN
- HAPPY HAPPY BIRTHDAY - 25th Anniv. Mix -
- AGAIN - INSTRUMENTAL -
DVD(※初回限定盤のみ)
- 「AGAIN」ミュージックビデオ
- 「この街で」ミュージックビデオ
DREAMS COME TRUE(どりーむずかむとぅるー)
吉田美和(Vo)と中村正人(B, Arrange, Program)の2人によるポップバンド。1989年にメジャーデビューし、1992年発売の5thアルバム「The Swinging Star」は当時の日本記録となる300万枚以上のセールスを記録。その後もシングル、アルバムともにミリオンヒットを連発し、ソウル / R&Bを基軸にしたサウンドが老若男女問わず幅広い層から支持されている。デビュー20周年を迎えた2009年3月、アニバーサリーアルバム「DO YOU DREAMS COME TRUE?」を発表。2014年3月26日にデビュー25周年を記念して、さまざまなアーティストがドリカムの楽曲をカバーしたアルバム「私とドリカム –DREAMS COME TRUE 25th ANNIVERSARY BEST COVERS-」と、日本テレビ系「NEWS ZERO」のテーマソングとして現在オンエア中のニューシングル「AGAIN」を同時リリース。8月23日から全国13都市32公演におよぶ全国アリーナツアーを開催する。なお1991年より4年に1回のペースでライブと移動型遊園地を合体させたベストヒットライブ「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND」を開催。エンタテインメントを追求した企画内容は、多くのファンを魅了している。
いきものがかり
吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(G)、山下穂尊(G, Harmonica)の3人組ユニット。1999年結成。当初は地元・神奈川での路上ライブを中心に活動し、2003年にインディーズで初CDをリリース。2006年に発売したメジャー1stシングル「SAKURA」がスマッシュヒットを記録し全国区の人気を獲得する。2007年3月には1stフルアルバム「桜咲く街物語」を発表。切なくて温かい等身大のポップチューンが老若男女問わず幅広い層から強い支持を集めている。2010年には初のベストアルバム「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」をリリースし、ミリオンセラーを記録した。2012年にはNHKロンドンオリンピック放送のテーマソング「風が吹いている」でグループ史上最長となる7分40秒の大作に挑戦。2013年7月に26thシングル「笑顔」と6thアルバム「I」を発表。9月から12月にかけて全国アリーナツアー「いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2013 ~I~」を開催した。