ナタリー PowerPush - 童子-T

俺のリアル

フィーチャリングの美学

──「T's MUSIC」も含め、童子-Tさんの諸作はつくづくヒップホップマナーで作られていると思うんですが、ご自身は現在のヒップホップシーンをどのように見ていますか?

童子-T

ヒップホップがカウンターカルチャーであり、レベルミュージックであるというのもわかるんだけど、表層的な“リアル”だけじゃなくて、アーティストとしての“リアル”も知ってほしいんだよね。ヒップホップで食べていくんだったら、がむしゃらに働かなきゃいけない。朝9時から夜9時まで一生懸命働いている普通の人よりも稼ぎたいんだったら、その普通の人より努力しなくちゃいけないんだよ。

──童子-Tさんは、以前はハーコーなスタイルでしたね。

確かに。でも、俺はシンガーをフィーチャーしてラブソングを歌うっていうのを、1995年からやってるんだよね。当時はキングギドラとかブッダ(BUDDHA BRAND)とかカミナリ(KAMINARI-KAZOKU.)とかハードなヒップホップが全盛で、ラブソングなんてどう考えてもNGだったんですよ。でもフィーチャリングボーカリストを迎えて曲を作るのが、俺のスタイルなんだよね。ハードなアルバムと思われてる「第三の男」でさえ、JUJUをフィーチャーした「In-mail」みたいな曲をやってますから。最初からうまくいったわけじゃないけど、やっぱり俺にしかできないことでシーンに一石を投じていきたいじゃないですか。

──自身のスタイルに手応えを感じ始めたのはいつ頃ですか?

2006年の「better days」かな。あの曲でようやく何かが見えた感じがしましたね。95年からずーっとボディブロウを打ち続けてきた結果、ようやく足にきたか、みたいな感覚でした(笑)。

──ボディブロウを打ち続けてる時期、つまり目に見える結果が出なかった頃はどんな心境だったんですか?

孤独だったよ。仲間もほとんどいないし。またシーンに戻って、自分のスタイルなんか捨てて、みんなとやってるほうが楽しいんじゃないかと思ったこともあった。大人の言うことを聞いていろんな人と協力してもみたけど、全然ヒットなんか出ない。ヒップホップは普通のポップスとは違うからヒット曲を出すのが余計難しいんですよ。でも、だからこそ俺はブレずにずーっとボディブロウを打ち続けたんです。若いB-BOYたちに言いたいのは、何かにトライして結果が出なくてもすぐに諦めないでほしいということ。俺なんて「童子-Tはフィーチャリングばっかして」って揶揄されてるけど、まだ自分のスタイルを続けてるわけで。

──今回のアルバムも多彩なゲストを迎えていますしね。

多いよね(笑)。でももうあえて多くしたんですよ。わかりやすく「俺のスタイルはこれだ!」って伝える感覚で。もちろん、いろんなこと言われると思う。でもそれはかまわないよ。こっちも織り込み済みというか。無視されるよりはよっぽどいい。

SHINGO★西成や般若のようなマインド

──たとえ「セルアウト」と言われても。

もの作ってる人間にしてみたら、スルーされる程つらいことはないから。でも、みんな「セルアウト」って簡単に言うけど、そんなに甘くないよ。ラッパーが女性シンガーをフィーチャーしてラブソング作れば全員売れるのか?って言ったら、絶対そんなことはないからさ。

童子-T

──確かにそうですね。

「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」という曲で北乃きいちゃんとやってるんだけど、彼女はすごく骨のある人で、レコーディングにおける準備もすごかった。ストイックなんだよね。俺自身がテレビ番組に出てる時期にも、そういう感じでいろいろ言われたよ。でもさ、そういう批判って表面的すぎると思うんだよ。

──どういった部分が?

たとえば「ミュージックステーション」に出てみるとさ、あの番組にはものすごい数の大人たちが関わってて、プロフェッショナルたちがすさまじい労力と時間をかけて作り上げているものだってわかるんだよ。ストリートの子たちは「テレビ番組に出るとかだせえ」とか簡単に言うけど、ここ日本でヒップホップでメシを食うというのは、そういう甘くない芸能の世界の中で、生きていくってことなんだよ。もちろんそれは1つのやり方、俺なりのやり方でしかないんだけどさ。

──その意味でいくと日本は、まだ本当にヒップホップビジネスの表面的な部分しか見えてないのかもしれませんね。

そう。売れていくことへの抵抗もわかるけど、だったら自分たちなりのやり方で成功の事例を作ってほしいんだ。ハングリーになれる環境がないんだったら、自分でそういう環境を作ればいい。「童子-Tだの、誰だの、あいつらはみんなダセえ。あんなのは成功って言わねえんだよ」って。「俺が新しい成功の形を見せてやる」っていうアーティストがもっともっといっぱい増えてほしい。今SHINGO★西成や般若は、自分たちなりのやり方でそれを作ろうとしてる。AK-69とかもそうだよね。そしてもっと言うなら、SHINGO★西成や般若みたいなマインドをもった若い子たちが出てきてほしいんだ。

──アメリカでは18、19歳くらいのラッパーが成功しますもんね。

そうそう。俺は「すっげー、こいつ。超ラップかっけーし、超うめーし。すげえな。すげースター出てきたな」って思える19歳くらいのラッパーを見たいんだよ。やりようによっては絶対出てくると俺は信じてる。でも今はそういう子を見つけづらい。みんなストリートの深いところにもぐってしまうから。

──なぜ若いラッパーである必要があるんですか?

19、20歳くらいの子がラップやって金持ちになるなんて、夢があるじゃない。そしたらラッパーやDJになりたいと思う絶対数が増えると思うんだよ。本田圭佑とか香川真司みたいな人がいるから、なりたい職業ランキングでサッカー選手が上位にくるのと同じことだよ。それにヒップホップに古くから携わってる人間として、俺たちの世代が35歳くらいでメシが食えるようになったんだったら、下の世代は30で、その下の世代は25でってなってほしいじゃない。俺もいつまで現役でやってるかわかんないけど、でもやってる間は少しでもそういうことの手助けをしていきたいと思ってるよ。

童子-T
ニューアルバム「T's MUSIC」 / 2014年3月19日発売 / 3150円 / EMI RECORDS / UPCH-20342
「T's MUSIC」
収録曲
  1. T's MUSIC
  2. Runner feat. 遊助, Mummy-D
  3. ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)feat. 北乃きい
  4. 誰よりも feat. 中島美嘉
  5. Turn Me On feat. ダイアナ・ガーネット
  6. HOLE!feat. KOHEI JAPAN, LITTLE, hy4_4yh
  7. Tonight feat. Alice
  8. 真夏の夢
  9. My Favorite Song feat. UNIST
  10. さよなら
  11. あなたがいたから feat. TOKINE
  12. Sorry
  13. 未来へと feat. 當山みれい
童子-T(どうじてぃー)
童子-T

日本のヒップホップ黎明期から活躍するラッパー / プロデューサー。MC仁義が中心となって結成されたヒップホップグループZINGIのメンバーとして活躍した。DOHZI-T&DJ BASSというユニットを経て、2001年にソロデビュー。1stシングル「少年A」はMummy-D(RHYMESTER)がプロデュースを手がけた。当時は無名だったJUJUや清水翔太といったニューカマーたちを客演シンガーとして積極的にフックアップし、ラップ+シンガーというスタイルを作り上げた。2008年にリリースしたシングル「もう一度…feat.BENI」が約30万枚を超えるセールスを記録し、同曲を収録したアルバム「12 Love Stories」は約50万枚を売り上げた。その後もCHEMISTRYなどさまざまなアーティストとの共演曲を発表し、2014年3月に6thアルバム「T's MUSIC」をリリースした。