ナタリー PowerPush - DJ TASAKA
長いキャリアを経てついにたどり着いた、初めての「オリジナルアルバム」が完成
KAGAMIとともにDISCO TWINSとしても活動し、ヒップホップ仕込みの巧みなスクラッチを駆使して臨場感あふれるアッパーなエレクトロを作り出してきたDJ TASAKA。彼が前作「GO DJ」から実に4年ぶりとなるニューアルバム「Soul Clap」を7月22日にリリースする。しかしひさびさに届けられた今回の新作は意外にも、リスニングにも対応したストイックなミニマルテクノだった。このインタビューでは彼がいかにして深化を果たし新たな境地に達したのか、その秘密に迫った。
なお今回のインタビューは2部構成で、前半が「Soul Clap」についてのインタビュー、後半には特別企画「DJ TASAKA presents 俺の妄想フェスティバル」を掲載する。
取材・文/橋本尚平 インタビュー撮影/中西求
初めて「アルバムです」って言えるものが作れたと思う
──今回のアルバム、これまでと比べてかなり雰囲気が違いますよね。例えば何の情報もなくレコードショップでこれを見かけて、「あっ、DJ TASAKAの新譜だ! 聴いてみよう!」っていう人は、たぶん買って帰ってから家でCDを聴いてビックリするんじゃないかという気がするんですけど。
周りの友達には早い段階から聴いてもらってたんですけど、やっぱり「変わったね」って言われるし、スタッフにも「全然違うね」って言われましたね。でも一方で「まったく変わってないですね」っていう人もいたりして、いろんな反応があって面白いなと思ってます。
──TASAKAさんの作風といえばアッパーで、BPM高めで、面白いサンプリングがいっぱい入っててと、そういうイメージを持っている人が多いんじゃないかと思うんです。でもこのアルバムは、これまでTASAKAさんにあった一般的なイメージから考えるとかなりディープで体温が低いサウンドだなと。
昔からこういうのも好きで聴いてたし、前作から時間も経ってるので、急に舵を切ったつもりは全然ないんですよ。
──ということは前作「GO DJ」が発表されてから、この4年の間にDJの現場で徐々に今のスタイルになっていったということなんでしょうか。
そうですね。たとえば1回のDJで80枚のレコードを持っていくとして、今日はこの80枚、次はこの80枚、って毎回レコードを総入れ替えしてるわけじゃなくて、選手が1人引退したら新人が1人加入してチームのメンバーが入れ替わっていくみたいに、DJでかけるレコードは時間をかけて徐々に変わっていくんです。だからアルバム出すのがひさしぶりだと、ガラッと変わった印象を与えるんでしょうね。
──なぜこういった方向性になったんですか?
2年前に、2~3年ぶりにベルリンでDJをしてきたんですよ。そのときに「あれ? なんか自分のDJって展開が多いな」って気がしてきて。お客さんはもっとずっと一本調子で行きたそうなのに、俺だけ忙しそうにセカセカしてるなと。なんか急いでいる奴がブースに立ってるぞー、みたいな気持ちになって(笑)。こういう現場で「もっとどっしりと構えてたほうが楽しいんだ」ってことに気付かせてもらったのが大きいですね。
──やっぱり日本と海外ではDJに対する反応が違うんでしょうか。
ここ10年くらいずっと、ベルリンは世界中のテクノの首都みたいな存在なので、やっぱり反応も違いますし行くたびに発見はありますね。でも今回のアルバムが最近のDJの感じを100%表したものかというと、それはまたちょっとそれは違ってて。CDアルバムを作るってことに対する考え方が、昔よりもうちょっと明確に見えてきたっていうか。
──というと?
これまでのは全部DJミックスということで曲間を繋いでたんですけど、今回はそういうことをしようって発想すら浮かばなかったんです。初めて「アルバムです」って言えるものを作ったっていうか。じゃあ今までのはアルバムじゃねえのか、って話ですけど(笑)、でも自分が初めてそういうモードになったっていう感じは自分の中にすごくあるんです。
──「GO DJ」も収録されてるのはすべてオリジナル曲ですけど、最終的に観客の前でライブミックスした音源がCDに収録されてましたしね。確かにそういう意味で言えば、曲ごとに分かれてる「Soul Clap」は今までで一番オリジナルアルバムらしい作品ですね。
そうなんですよね。だからマスタリング作業のときに、曲間っていうものをどれくらいにしたら良いのか初体験だからさっぱりわかんなくて(笑)。今まではエンジニアの人に「これってどこからが次の曲なんですか?」なんて聞かれて、「いやー、どこだろう? それがわからないように混ぜてるからなぁ」って答えてたんですけど(笑)。今回は「普通って曲間は何秒あけるんですか?」みたいなド新人みたいな質問を、3枚目のアルバムにして言ってるっていうね。
──DJって曲間をいかになくすかですもんね(笑)。ちなみにこういった「オリジナルアルバムらしい作品」を作ろうという思ったのはなぜですか?
この中で最初に作った「Heart Shaped One」という曲は、2年前に「RISING SUN ROCK FESTIVAL」から帰ってきて、その印象をなんとか音にしたいと思ってできたものなんですが、ちょうどその頃からやっとラップトップじゃなくてデカめのデスクトップを使い始めたんですよ。それで環境が整ってきたので、作ったものをそのままプールしてきちんと整理できるようになって。それまでは「あ、容量が足りない! もうこれ消さなくちゃ! どうしよう! じゃあもう曲にして焼いちゃおう!」って感じだったんですけど。
──ギリギリでいつも生きていたわけですね(笑)。
だからせっかくデスクトップ買ったんだし、どっしり構えて“作品集”を作ろうって気持ちになってきて。というか、そのあたりから周りのスタッフからも「いつ次のアルバム出すの?」みたいな話すら出なくなってきて。せっつかれすらされなくなってくるモードになると、もうどっしり構えざるを得ないっていうか(笑)。
短距離走から長距離走に競技が変わったんですよ
──アルバムの5曲目「Wayback」は今回唯一の歌ものですね。
そうなんです。しかもその曲もボーカルはVOCALOIDで作ったものなので、このアルバムはゲストが完全にゼロなんですよ。声優の声で自由にボーカルを作れる「初音ミク」ってあるじゃないですか? あれの海外版の、スタジオシンガーみたいな人の声が出せるソフトを使ってて。
──えっ、全然気が付きませんでした! ずいぶん自然に作れるものなんですね!
人が歌ってるっぽいでしょ? まあ、人が歌ってるのと一緒なんだったらじゃあ人を呼べ、って感じだけど(笑)。でもね、誰もかかわってないと気を使わなくて良いんですよね。人間のゲストボーカルを入れるとなると、部屋を片付けなきゃなんないとか、灰皿山盛りじゃマズいとか面倒なことがあるんですけど、VOCALOIDだったら夜中の3時でも全く同じ声を出してくれるんでね(笑)。素晴らしいですよ、何しても怒らないし、腹減らないし(笑)。
──前作がリリースされた段階ではまだVOCALOID技術は今ほど発展していませんでしたし、そういった意味でも制作環境の変化が表れたわけですね。
VOCALOIDってやっぱり面白いですよね。「初音ミク」は持ってないけど、もっといろんなバリエーションが出たら良いのにと思います。例えばジェームス・ブラウンとか、マイケル・ジャクソンとかが出たら、きっと200万円くらいでも買う人いるでしょ。ちょっと疲れたときのマイケルだったり、いろんな「フォウ!」が出せるという(笑)。
──それさえあれば亡くなった今でもJBやマイケルの新曲が聴けるわけですね(笑)。ところで先ほど「どっしり構えて“作品集”を作ろうと思った」と仰ってましたが、そのために「曲を繋がない」ということ以外に、具体的にサウンド面で意識を変えたところはありますか?
DJとしてやってることをアルバムで伝えるっていうよりは、今回はもうちょっと別の機能を持つものを目指していた感じですね。実際、これまでだったら僕の作品は爆音であればあるほど楽しんで聴いてもらえる感じだったんですけど、今度のは小さい音で、例えばホテルでテレビに繋いで聴いても楽しめるものができたかな、っていう気はしています。
──確かに過去の作品を振り返ってみると、曲の盛り上げ方ひとつを取ってみてもTASAKAさんが現場でやっているDJプレイがダイレクトに反映されていたように思いますが、今回の作品にはそういう部分があまりないかもしれませんね。
これまでのものとはぜんぜん別物だと思います。前の「GO DJ」はね、やっぱり「当時の記録」っていう側面が強かったんですよ。「何月何日のDJ TASAKA」っていう。で、それだと自分ではあんまり聴かないっていうことに気がつきまして(笑)。
──あ、そうなんですか。
だから、まだ完成してからそんなに時間は経ってないけど、通して聴く回数は断然「Soul Clap」のほうが多いんじゃないかなって思います。前作が完成してからの同じ期間を思い出しても、すでにこっちのほうが何回も聴いてる気がしてますし。
──今のお話を聞いて、これまでの作品はDJという立場で作ったものだったのに対し、今回のものはクリエイターというか、トラックメイカーとしての立場で作ったアルバムなのかなと感じました。
ああ、そういうとこはありますね。まぁ、もう「DJ TASAKA」って名前で世に出てしまったものですから、いまさらDJってのを消すわけにもいかないんですけど(笑)。ちなみに今のところ周囲の人から言われた評として自分が一番しっくりきたのは「短距離走から長距離走に競技が変わった」でしたね。これはもう「くうねるあそぶ」「おいしい生活」に匹敵する名キャッチコピー(笑)。
CD収録曲
- Day For Night
- You Are Welcome
- Wood
- Waterside
- Wayback
- Purple People
- Like A Rolling Stoner
- Count To Go
- Glocal Soul
- Baiu
- Heart Shaped One
- Opener
DVD収録曲(初回盤のみ)
- DJ TASAKA / Heart Shaped One (2009)
- DJ TASAKA / STREET STARS BREAKIN' (2002)
- DJ TASAKA / Speaker Typhoon (2005)
- DISCO TWINS / Juicy Jungle feat.吉川晃司 (2006)
DJ TASAKA(でぃーじぇーたさか)
1974年生まれ東京出身のテクノDJ。10代の頃にヒップホップに傾倒していたこともあり、テクニカルなスクラッチを多様した独自のプレイスタイルに定評がある。2000年に発表された電気グルーヴのアルバム「VOXXX」でサポートメンバーとして重要な役割を果たし、2001年に初のミックスCD「LOOPA MIX mixed by DJ TASAKA」、2002年に1stミニアルバム「PASSPORT FOR DISCO」をリリース。ドイツの屋内レイブ「MAYDAY」など国内外のイベントに出演し、パーティ感覚あふれるアッパーなDJでフロアを盛り上げる。一方でアルファとのユニット「アルファ&DJ TASAKA」や、KAGAMIとのユニット「DISCO TWINS」などの活動も精力的に展開。2009年7月には、前作「GO DJ」以来4年ぶりとなるニューアルバム「Soul Clap」がリリースされる。