今の時代に適したメッセージ
──1曲目にデズリーの「You Gotta Be」を持ってきたのはなぜですか?
20周年ということで、ミックスCDからの先行曲は自分の20年の中でも特に思い入れのある曲をカバーしたかったんです。自分のルーツは90'sのR&Bなので、この曲がいいかなと思いました。あと歌詞がすごく好きなんです。この曲は女性に向けて「大丈夫だよ」と歌った曲なんですが、デズリーが1990年代にオリジナルをリリースしたとき、多くの女性がこの曲のメッセージに共感したんですよ。僕はこの「大丈夫だよ」というメッセージは今の時代にもすごく合うなと思ったんです。
──確かに昨今は差別が問題になっていますよね。アメリカのミュージシャンもこぞってトランプ大統領を批判する曲を発表しています。
ちょっと話は逸れてしまうのですが、トランプ大統領の件は僕自身も思うところがあって。選挙のときは、アーティストはみんなヒラリー・クリントンを支持していましたよね。ビヨンセ、テイラー・スウィフト、レディー・ガガ……僕らは向こうのアーティストの政治的なメッセージや差別に抗議の姿勢をカッコいいと思ったし、それに憧れてもいた。でも結局、国民から過半数の支持を得られずに負けちゃった。自分にとってはすごくショックだったんですよ。
──アーティストの発するメッセージが届いてなかったということですもんね。
そう。でも僕は今アメリカのミュージシャンたちがトランプを批判する楽曲を発表することもあまり好きではない。トランプのことを茶化した画像を作ってSNSで拡散したりとか。人をこき下ろすことでは、世の中はよくならないんじゃないかなと思って。そういう意味でも「You Gotta Be」はすごく今の時代に発信するメッセージとして適していると感じたんですよ。あとチャンス・ザ・ラッパーの音楽的なスタンスは新しいし、すごくカッコいいと思いますね。
──無料でアルバムを発表してグラミー賞を受賞、しかもその後1億円以上を公立学校に寄付しちゃうという。
音楽業界の頭のよさそうな人たちは、彼がフリーでアルバムを発表したことに対して「マネタイズはどうなってるんだ?」とか「いや、あれはマーケティングとして……」とか言ってたわけじゃないですか? そんな人たちを尻目に彼は公立学校に1億円寄付しちゃった。
──ヘイトでもラブでもないけど、絶対的にカッコいいことをやってますよね。
もちろん戦略的な部分もあるんでしょうけど、彼はそもそもお金を欲しいと思ってないというか、価値の持ち方が完全に新世代だと思うんですよ。人を喜ばせる、他人に貢献することに本当に価値があるとわかっているんでしょうね。あとポーター・ロビンソンが自腹でPVを作ったことも象徴的だった。彼は自分の音源が大ヒットしてたくさんのお金を手にした。普通だったら高級車とかを買うけど、彼はそういうのに全然興味なくて、自分が大好きな日本のアニメ制作会社と組んでPVを作った。それが彼らにとってのぜいたくなんでしょうね。
「日本人が好きなR&B」がある
──DJは最先端の音楽を誰よりも先に紹介する立場にいると思います。特にR&Bはトレンドの流れもすごく早いと思うのですが、そういった最先端の音楽を日本に紹介する際、どんなことを意識していますか?
「日本人が好きなR&B」っていうのがあるので、最先端の音をプレイするときでも、そこは意識してますね。
──具体的には?
最近だとブルーノ・マーズがモロ日本人好みだと思います。ハーモニーより主となるメロディが強いもの。アメリカの由緒正しいR&Bはまずコーラスがあって、歌手はアドリブを歌うんです。でも日本ではそういうのじゃなくて、独唱のほうが好かれる。テンポ感にしても最近のトラップっぽいものよりは、90~100BPMくらいの感じが根強く愛されてる感じはしますね。
──なるほど。
カセットテープでミックスを作っていた頃からそういうことは意識してました。僕はブラックミュージックが大好きです。でも、その中でも特に今言ったような日本人が好むメロディアスなものや、ポップス的な曲が好きだという自覚が昔からあって。だから自分でDJをするときもできるだけオープンな雰囲気で楽しめる、クローズドではない曲をかけようという意識があります。
──でもR&Bやヒップホップの現場には「クローズドであることこそリアル」みたいな考え方は根強いですよね。
(笑)。僕は渋谷のHARLEMというクラブで16年くらいレギュラーのイベントをやっているんですが、始めた当時はお店の人がほかのイベントのDJの人に「なんでR&Bのイベントなんかやってんの?」って文句を言われてたみたい。でも当時の店長は「いや、DJ KOMORIのイベントはレギュラーとして絶対に続けるんで」とかばってくれたんですよ。その店長は今、HARLEMの社長なんです。
──イベントとして16年も続いてるということは、KOMORIさんが正しかったということですよね。
文句を言っていた方とはそれ以降会っていないですね。
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自分で作るものはポップスにしたい
- DJ KOMORI「20th Anniversary Ultimate Mixtape」
- 2017年3月15日発売 / Victor Entertainment
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[CD]
2808円 / VICL-64711
- 収録曲
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- You Gotta Be feat. Ashley / DJ KOMORI(DES'REE Cover)
- Really Into You feat. Tina Novak & J-Cast / DJ KOMORI
- Miracles feat. T-Boz of TLC [DJ KOMORI Remix] / Lil Eddie
- Waterfalls / TLC [DJ KOMORI Remix]
- Sound of Love feat. Cassie / DJ KOMORI
- Spotlight feat. Latifa Tee? / DJ KOMORI & REDFOO
- Alive / Mya
- Love's Doors feat. Faith Evans / DJ KOMORI
- September/Earth, Wind & Fire [DJ KOMORI Remix]
- How to Love feat: Wynter Gordon / DJ KOMORI
- Heaven feat. Lil' Eddie / DJ KOMORI
- Hundred Birds feat. KAREN AOKI / DJ KOMORI
- Blue Magic(2017 Remix)feat. 日之内エミ / DJ KOMORI(New Remix)
- I WISH YOU LOVED ME [DJ KOMORI REMIX] / Tynisha Keli
- Vacation feat. Jessica Sanchez / DJ KOMORI
- Cry No More / DJ KOMORI
- BABYGIRL JUST SAY I DO[DJ KOMORI In The 90s Remix] / J-CAST
- Stay With Me [DJ KOMORI REMIX] / Dru
- Searchin' For Love feat. Mya [DJ KOMORI Remix] / Lil Eddie
- All I Want Is U [DJ KOMORI REMIX] / YOSHIKA from SOULHEAD
- DJ KOMORI「20th Anniversary Ultimate Mixtape」
- 2017年4月5日配信 / Victor Entertainment
- 収録曲
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- You Gotta Be feat. Ashley
- Blue Magic (2017 Remix) feat. 日之内エミ
- FLASH feat. CHiE (Foxxi misQ) & EMI MARIA
- Blue Magic feat. 日之内エミ(original version)
- DJ KOMORI(ディージェーコモリ)
- 1992年公開の映画「ジュース」のDJシーンに衝撃を受け、1996年にDJ活動を開始。2001年には東京・HARLEMにて、自身がレジデントDJを務めるR&Bパーティ「APPLE PIE」をスタートさせる。現在は「APPLE PIE」を含む都内レギュラーイベントや全国各地のクラブイベント、国内の大型フェスなど年間200本を超える現場スケジュールをこなす。これまで数多くのミックスCDをリリースしており、2008年と2010年にはビクターエンタテインメントよりR&BのミックスCDシリーズ「WHAT'S R&B?」を発表した。2017年3月には音楽活動20周年を記念して製作されたベストアルバム「20th Anniversary Ultimate Mixtape」が発売された。