DJ KOMORIがベストアルバム「20th Anniversary Ultimate Mixtape」をリリースした。この作品は、彼がこれまでプロデュースしてきた音源などをノンストップでつなげたミックスCDだ。本作の発売を記念して、20年にわたり日本のR&Bシーンをリードしてきた彼にこれまでの活動を振り返ってもらった。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 寺沢美遊
きっかけはすべて徐々に、少しずつ
──DJ KOMORIさんにとって、この20年でもっとも変わったことはなんですか?
いろいろありますけど、僕はDJなんでテクノロジーの進化という部分はすごく大きいですね。実は僕がDJプレイにパソコンを取り入れたのは、かなり早かったんですよ。新しい機材やソフトがすごく好きなので。当時はまだ「誰も見たことない」みたいな感じでした。今DJ用ソフトとして有名なTraktorのプロトタイプのFinal Scratchを使ってましたね。説明書の日本語版がなくて、DJやってるときにフリーズしちゃうこともありましたよ。今は音が止まっちゃうと大変だけど、当時は「それもあり」みたいな空気はあったと思います(笑)。
──最近は比較的誰でもDJが始められる環境になっていますが、20年前は技術的な部分も含めて誰でもDJになれるわけではありませんでした。
確かに。でも僕は誰か先輩DJの下について、レコードバッグ持ちをしたことはありません。
──DJブースで後ろに先輩がいてミスるとブースの下で見えないように思い切り蹴られる、みたいな。
そうそう(笑)。でも今でもありますよ、そういう感じ。僕、昔から嫌いなんですよ、体育会系のノリが。
──DJ KOMORIさんはどうやってシーンとつながったんですか?
最初はミックステープですね。当時はカセットテープでした。とにかくクラブカルチャーの体育会系ノリが嫌だったから、ひたすら自分でミックス音源を作ってました。それが徐々に話題になっていって、小さいクラブでDJをするようになりました。僕の20年のDJ生活すべてに言えることなんですが、何か1つが爆発してそれがきっかけになるのではなくて。本当に徐々にという感じですね。
──ミックステープも現場も毎回丁寧に手を抜かないという感じですか?
そうですね。でも初期の頃の僕は本当に謎のDJだったんですよ(笑)。90年代後半なんてまだインターネットが全然発達してないし、僕は自分の顔をカセットテープのジャケットに載せてなかった。しかもミックスにけっこう古いR&Bも使っていたから、聴いてる人は僕が「若いのかベテランなのか?」「男か女か?」って感じだったみたいです。あの頃の僕に関する情報はカセットテープだけだったので。
買う意味のあるものを丁寧に作らないといけない
──本作のタイトルに「Mixtape」というワードを入れたのはなぜですか?
カセットテープが自分の原点だからというのがあります。あと今のシーンで使う「Mixtape」という単語は、当時とは全然意味が違いますよね。そこに引っかけて、「昔からあるもの」でありながら「フレッシュでもある」というダブルミーニングでこのタイトルにしました。あとネガティブな意味ではなく「最近変わったよね」と言われることが多いので、「このミックスCDを聴いてもらえればわかると思うけど、全然変わってないよ」とアンサーしたかったというのもありますね。
──ミックスCDを制作するうえでこだわったことを教えてください。
不協和音を極力消すことを意識しました。
──不協和音とは?
曲と曲が被ったときにキーが合ってないとか、コードがぶつかってるとか。それが気持ちよくぶつかってるならいいんですけどね。以前AZUL by moussyというアパレルブランドとコラボしたことがあって。僕のミックスを1カ月お店でかけてもらえるという企画だったんです。そうすると店頭で働いてる人は1日8周くらい僕のミックスを聴くことになる。で、計算するとたぶん100回くらい聴き続けなくてはならないわけです。
──それはアパレルショップあるあるですね(笑)。
そう考えると聴いてて気持ち悪い部分はなくしたい。本当に101回目にようやく「ここはちょっと嫌かも」って部分に気付くくらいの精度とというか。もちろん現場でDJするときはそんなこと考えてないですけど、こういう作品の場合はそれくらいシビアに考えています。
──今回のミックス音源はCDでリリースされますが、Apple MusicやSpotifyに代表されるサブスクリプション型の音楽サービスについてはどう考えていますか?
実は僕もスウェーデン発のSpotifyはすごく使っているんです。プレイリストの質はいいし「これはみんな使っちゃうよね」と思う。一方でちゃんとアルバムを買ってほしいという思いもあって。どっちがいい悪いっていう話じゃないんですけど。ただやはり作る側としては、ちゃんとお客さんが買う意味のあるものを丁寧に作らないと、買ってもらえないなという思いはありますね。
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今の時代に適したメッセージ
- DJ KOMORI「20th Anniversary Ultimate Mixtape」
- 2017年3月15日発売 / Victor Entertainment
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[CD]
2808円 / VICL-64711
- 収録曲
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- You Gotta Be feat. Ashley / DJ KOMORI(DES'REE Cover)
- Really Into You feat. Tina Novak & J-Cast / DJ KOMORI
- Miracles feat. T-Boz of TLC [DJ KOMORI Remix] / Lil Eddie
- Waterfalls / TLC [DJ KOMORI Remix]
- Sound of Love feat. Cassie / DJ KOMORI
- Spotlight feat. Latifa Tee? / DJ KOMORI & REDFOO
- Alive / Mya
- Love's Doors feat. Faith Evans / DJ KOMORI
- September/Earth, Wind & Fire [DJ KOMORI Remix]
- How to Love feat: Wynter Gordon / DJ KOMORI
- Heaven feat. Lil' Eddie / DJ KOMORI
- Hundred Birds feat. KAREN AOKI / DJ KOMORI
- Blue Magic(2017 Remix)feat. 日之内エミ / DJ KOMORI(New Remix)
- I WISH YOU LOVED ME [DJ KOMORI REMIX] / Tynisha Keli
- Vacation feat. Jessica Sanchez / DJ KOMORI
- Cry No More / DJ KOMORI
- BABYGIRL JUST SAY I DO[DJ KOMORI In The 90s Remix] / J-CAST
- Stay With Me [DJ KOMORI REMIX] / Dru
- Searchin' For Love feat. Mya [DJ KOMORI Remix] / Lil Eddie
- All I Want Is U [DJ KOMORI REMIX] / YOSHIKA from SOULHEAD
- DJ KOMORI「20th Anniversary Ultimate Mixtape」
- 2017年4月5日配信 / Victor Entertainment
- 収録曲
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- You Gotta Be feat. Ashley
- Blue Magic (2017 Remix) feat. 日之内エミ
- FLASH feat. CHiE (Foxxi misQ) & EMI MARIA
- Blue Magic feat. 日之内エミ(original version)
- DJ KOMORI(ディージェーコモリ)
- 1992年公開の映画「ジュース」のDJシーンに衝撃を受け、1996年にDJ活動を開始。2001年には東京・HARLEMにて、自身がレジデントDJを務めるR&Bパーティ「APPLE PIE」をスタートさせる。現在は「APPLE PIE」を含む都内レギュラーイベントや全国各地のクラブイベント、国内の大型フェスなど年間200本を超える現場スケジュールをこなす。これまで数多くのミックスCDをリリースしており、2008年と2010年にはビクターエンタテインメントよりR&BのミックスCDシリーズ「WHAT'S R&B?」を発表した。2017年3月には音楽活動20周年を記念して製作されたベストアルバム「20th Anniversary Ultimate Mixtape」が発売された。