デジナタ連載 Technics×「レコードの日」|「レコードとの出会いは冒険」安部勇磨(never young beach)が熱弁する、奥深く魅力的なアナログレコードの世界

年々音楽ファンの間で注目度が高まっているアナログレコード。リアルタイムでレコードを楽しんでいたベテラン、最近になってレコードを聴き始めた若者たち……世代を問わずレコードを愛する者にとって楽しみな「レコードの日」が今年もやってくる。音楽ナタリーではこの「レコードの日」に向けて、レコード愛好家の1人、never young beachの安部勇磨を招いて、レコードとの出会い、レコードに対する思いなどを伺いながら自作や愛聴盤を聴いてもらった。

この日使用したのは、Technicsのターンテーブル「SL-1200G」とTechnics最新鋭のフルデジタル構成のインテグレーテッドアンプ「SU-G700M2」、そしてグランドクラスのスピーカーシステム「SB-G90M2」。自室とはまったく違う聞こえ方をするオーディオシステムに安部は大興奮し、Technicsのスタッフを質問攻めにする一幕も。安部の音楽に対するピュアな愛情と探究心が伝わってくる取材になった。

取材・文 / 村尾泰郎撮影 / 須田卓馬

Technics「SL-1200G」

Technics「SL-1200G」

音楽好きにリスニング用機材として愛されている“グランドクラス”シリーズのターンテーブル。ダイレクトドライブシステムの課題を解決し安定した回転を実現する、Technicsが開発したコアレス・ダイレクト・ドライブモーターを搭載。Blu-rayディスクの制御技術が盛り込まれたことにより、回転制御がブラッシュアップされている。カラーはシルバーの1色展開。

Technics「SU-G700M2」

Technics「SU-G700M2」

リファレンスクラスSU-R1000で開発された技術を継承した、Technics最新鋭のフルデジタル構成のインテグレーテッドアンプ。フルデジタルアンプ「JENO Engine」のポテンシャルをさらに引き出すため、高速応答・低ノイズ電源「Advanced Speed Silent Power Supply」が採用されている。スピーカーの特性に合わせアンプの特性を最適化する負荷適合アルゴリズム「LAPC」などにより、幅広い種類のスピーカーを理想的な振幅・位相特性で駆動できる。

Technics「SB-G90M2」

Technics「SB-G90M2」

点音源・リニアフェーズ思想を受け継いだ、3ウェイ4スピーカー構成のスピーカーシステム。新開発の同軸ユニットを採用し、明瞭な音像定位と広いサウンドステージを実現した。粒立ちのよい音、立体的な音場を楽しむことができる。

レコードの日

「レコードの日」ロゴ

アナログレコードの魅力を伝えることを目的として2015年より毎年11月3日に開催されているアナログレコードの祭典。東洋化成が主催、Technicsが協賛している。イベント当日は全国各地のレコード店でさまざまなイベントが行われ、この日のために用意された豊富なラインナップのアナログ作品が販売される。

レコードとの出会いは大冒険の始まり

──安部さんは1990年生まれなのでCD世代ですよね。家にレコードはありましたか?

うちにはありませんでした。周りには、両親が音楽好きでレコードが家にあった、という人もいますけどね。10代の頃に音楽を聴くようになったんですけど、ずっとCDで聴いてました。

──そんな中でレコードとはどんなふうに出会ったんですか?

友達から誕生日プレゼントにもらったんです。D.A.N.の櫻木大悟くんが「これ好きなんじゃない?」って細野(晴臣)さんの「泰安洋行」をくれて。細野さんの名前は知ってたんですけど、作品を聴いたのはそれが初めてでした。「泰安洋行」を聴くためにプレーヤーとか機材をそろえたんですけど、音楽も音像も今まで聴いたことがないものだったのでびっくりしました。

安部勇磨

──機材をそろえるのは大変だったのでは?

とにかく安くあげたかったので中古品店を回りました(笑)。機材に関する知識がまったくなかったので、プレーヤーとアンプが一緒になっているのと別なのは何が違うのかとか、どんなケーブルがいいのかとか、いろいろ調べながら店を回るのが大変だったけど、すごく楽しかったですね。

──何かを始めるときってそうですよね。面倒なことも楽しくて、失敗してもいい思い出になる。すべてが冒険みたいな。

そうそう、当時の僕にとっては大冒険でした。高いものを買ってハズレを引いても楽しい。プレーヤーを買ったことで、「レコードで聴きたい!」と思うアーティストがいっぱい出てきたんです。

──自分で最初に買ったレコードはなんだったんですか?

はっぴいえんどの「ゆでめん」(1stアルバム「はっぴいえんど」の通称)だったと思います。

──細野さんからはっぴいえんどにさかのぼったわけですね。安部さんにとってレコードで聴く楽しみって、どんなところですか?

まず音ですね。音が温かい。CDだと音がきれいすぎる気がするんですよ。あと、レコードにまつわる機材ってデカいじゃないですか。それに重いし、壊れるし。でも、そこに愛着を感じるんですよ。

──レコード自体、CDに比べて大きいですもんね。

そうですよ。集めると場所を取るし。それが大変だって言う人もいるけど、僕はその場所を取るところが楽しくて。あと、レコードって傷とか埃で音が悪くなったりするじゃないですか。それも楽しいんですよ。予想外の出来事で音が変わるって、今の配信やCDでは味わえない経験で、それも冒険だと思うんです。レコードは音が悪くなったとしても、悪くなったなりのよさがある。ノイズの音も嫌いじゃないし。

安部勇磨

──そういう視点で見るとレコードって生き物っぽいですよね。手間がかかるところも含めて。

最近の人間が作るものって、どんどん合理的になって手間を省くようになっている。でも、手間や無駄も大事だと思うんですよね。そういうものから気付かされることがいっぱいある。いいことも悪いことも予想できないことって、のちのち自分の糧になって創作に生かされるなって思います。例えばレコーディングって、音にこだわりすぎるとダメなんですよ。細かいことにこだわって雑味がなくなると面白くなくなる。今の世の中も細かいところを突きすぎて息苦しくなっている気がして。みんな「埃をとりたい!」と思っている時期なのかもしれないですけど。

──確かに今の世の中、細かい埃を見つけては炎上しているようなところはありますね。レコードはノイズも味わいになるところがありますが、CDがスキップするとなぜかイラッとしてしまう。

そうそう、それ、不思議ですよね。

CDだけ聴いてたら、今やっているような音楽にはならなかった

──それを考えると今の社会はデジタル的なのかもしれませんね。話は戻りますが、「ゆでめん」以降、レコードは定期的に買ってました?

ちょくちょく買ってました。「ゆでめん」とか「泰安洋行」の時代(1960~70年代)の音楽が好きなんですよ。ただ、僕は再発盤よりオリジナル盤を聴くのが好きで。やっぱり、その人が当時作ったものを鮮度を保った状態で体に入れたいっていうのがあるんですよね。リマスターとかで第三者の手が入ったものじゃなくて、なるべくピュアなものを聴きたい。だからバイトしたお金を貯めて、「HOSONO HOUSE」のオリジナル盤とかを買ってました。高いけど、どうしても聴きたくて。

──アナログと並行してCDも買ってたんですか?

はい。

──CDとレコードでは聴くときに気持ちのうえでの違いってあります?

全然違いますね。CDだとざっくり聴くんですけど、「この曲いいな、なんでいいんだろう?」と思ったらレコードを買って聴き直すんです。そうすると、CDとは違うものが伝わってくるんですよね。それを感じて、そういうものを自分でやってみようと思ったりして。

──レコードを聴くことが曲作りに反映されているんですね。

それはめちゃくちゃあります。CDだけ聴いてたら、今やっているような音楽には絶対ならなかったと思います。

──ちなみにストリーミングでも聴かれているんですか?

聴くは聴くんですけど、ちゃんと聴く気になれないし、簡単に聴ける分、簡単に聴かなくなるような気がするんですよ。もちろん、ストリーミングでいい出会いもあるんですけどね。オススメされて聴いてみて「いい」って思ったら「じゃあ、レコード買ってみようかな」となる。

──CDと同じで最終的にいいものはレコードで聴く。

ストリーミングが好きな人はそれでいいし、どっちがいいとか悪いじゃないんですけどね。単純に自分に向いてるかどうかっていうだけで。

──ストリーミングってTwitterをチェックしているような感じもありますよね。目の前を情報が流れていく感じというか。

ホントそう。ネットでパッと調べていろいろ聴くのが好きな人もいるんでしょうけど、僕はそれが落ち着かなくて。いまだにレコードを探して聴いちゃうんです。

──レコードは手間がかかる分、音楽に集中できるのかもしれないですね。ちゃんと音楽と向き合っている気持ちになるというか。ひさしぶりに聴くレコードは、古い友達に再会したような気がしますし。

確かにレコードってそういうところがありますね。そのレコードを買ったときのことを思い出したりして。友達と「このレコード、いくらで買ったの?」とか「それ見つかったんだ!」って話をするのも楽しい。そういうのはサブスクでは味わえないじゃないですか。友達の家に行くと、そいつがどんなレコードを出してくるか楽しみなんです。

──大瀧(詠一)さんが学生時代に初めて細野(晴臣)さんの部屋に遊びに行ったとき、細野さんがステレオの上にわざと置いていたThe Youngbloodsの「Get Together」のシングルにすぐに反応した、という伝説のエピソードを思い出します。

はいはい。そういうのって確かにあるんですよ。「うわ、それ出してきたか!」っていう。レコード棚を見ると持ち主のキャラクターもわかるし(笑)。

──ちなみに安部さんは自宅ではどんな環境でレコードを聴いているんですか? オーディオにこだわりはあります?

オーディオは詳しい知人に話を聞いてそろえました。アンプはイギリス製のもので、スピーカーは70年代の陶器製のもの。性能はもちろんですけど、見た目も大事なんですよ。やっぱりカッコよくないと(笑)。

──わかります(笑)。ちなみに、レコードをよく聴くシチュエーションってありますか? 寝起きとか風呂上がりとか。

天気がいい日の昼下がりとかかなあ。最近、環境音楽をよく聴くんですけど、そういうのをレコードで聴きながら、「ああ、気持ちいいなあ」って。

Technics「SL-1200G」で持参したレコードをかける安部勇磨。

──極楽ですね(笑)。環境音楽にハマってるんですか?

コロナが始まってからソロアルバム(「Fantasia」)を出すまで、ずっとアンビエントな音楽を聴いてたんです。最近ではコンガの音だけ入ってるのとか、鳥の鳴き声だけ入ってるのとかをひたすら聴いてます。そういうシンプルなもののほうが、どんなマイクでどんな環境で録っているのか、音のことがよくわかる。それに心も浄化される気がして(笑)。それで最近では、どんどん音数が少ないものを聴くようになってますね。

──歌詞やメロディがあると感情が動かされてしまいますが、環境音楽とかフィールドレコーディングものだとニュートラルな気持ちで音に接することができますよね。

そうなんですよ。音楽の研究というか勉強をしたいときは、そういうもののレコードを聴くようにしてます。