音楽ナタリー Power Push - DEEMO
Miliインタビュー
海外発の音ゲーアプリで鳴らす 日本人の音
日本人が本当に得意なのはクラシック
──Kasaiさんは「DEEMO」がリリースされる以前から、同ゲームを制作したゲーム会社・Rayarkの音楽ゲーム「CYTUS」に楽曲を提供していたんですよね?
「CYTUS」にはHAMOという名義で楽曲を提供していました。これはもともとニコニコ動画で使っていた名前なんですけど、HAMOのときはあまり深いことを考えずに作りたい曲を提供していたんです。でもMiliを立ち上げてからはユニットのブランディングなども意識しながら楽曲を作るようになりました。
──Kasaiさんが考えるMiliのブランディングはどういうものですか?
Miliは1970年、80年代のジャパニメーションを彷彿とさせるユニットだと思っています。僕、「AKIRA」とか「攻殻機動隊」とかのアニメが大好きで。日本で作られたアニメの空気感って、すごく独特だと思うんです。Miliではその国の人間が作ってるからこそ表現できる特殊な音楽を目指して楽曲を作っています。
──具体的にどういうサウンドが、日本人ならではの音楽になるんでしょうか?
もともと僕は、J-POPというか日本の音楽は洋楽に似たものが多すぎると思っていて。オリジナリティを感じさせる音楽って難しいんですけど、さかのぼっていくと日本人ってクラシックが得意で、特に印象派で名を馳せた人が多いんです。要はメロディが強くて、すごく緻密に作り込まれた繊細な音楽を作るのが得意。例えば坂本龍一さんのように、現役の日本人でもクラシック由来の音楽で世界に受け入れられるものを作っている方がいるわけですし。そういう特徴って、ほかのジャンルの曲にも反映されていくと思うんです。例えばエレクトロニカは海外由来のものですけど、日本人が作るとより緻密なものになって独特の空気感が出るんですよね。
──Miliとして発表している楽曲は確かに緻密ですけれど、ちゃんとキャッチ―さもある印象があります。
クラシックが得意で緻密なところが長所だとしても、やっぱりポップス化することが重要なんです。いろんな人が気軽に聴けて、歌があって、面白い。さらにクラシックも掘り下げてみたいと思えるような音楽が作れたらいいなと思ってます。
「このゲームで人気になれなかったら、いつチャンスがあるんだ」
──もともと音ゲー作家ではなかったKasaiさんが、なぜ「CYTUS」「DEEMO」とRayarkの作るアプリに楽曲を提供することになったんですか?
Rayarkとの接点は、「CYTUS」がアプリで公開されてすぐのタイミングで僕からコンタクトを取ったのが最初ですね。まだ全然人気がなかった頃にゲームを見つけて「連絡取ったら僕の曲を使ってくれるかもしれない」と思いまして。会社宛てに音源を送ってみたら、Rayarkの社長から返事が来て「ぜひ使わせてほしい」と言ってもらったところから交流が始まったんです。「CYTUS」が流行してから「DEEMO」が生まれるまでの数年は新曲ができればRayarkに送る、ということを繰り返していて、僕にとっては修業期間のような感じでしたね。
──同じ会社が作っているとはいえ、この「CYTUS」と「DEEMO」はパッケージや収録曲などけっこう毛色が違うゲームだと思います。「DEEMO」のほうがよりファンタジー色の強い設定や世界観のゲームですが、「DEEMO」という作品の概要を伝えられたときにどう感じましたか?
「DEEMO」の概要をもらったとき「僕らがこのゲームで人気になれなかったら、いつチャンスがあるんだ。絶対人気になってやる」って思いましたね。というのも、僕がMiliで表現したかったスタンスやビジュアルイメージみたいなものが「DEEMO」のゲームの世界観とマッチさせやすかったんです。それに「CYTUS」の頃から楽曲を送って返事をもらうというやり取りをずっとさせてもらったうえに、「DEEMO」のスターティングメンバ―に選んでもらって。これは楽曲で恩返ししなきゃいけないと思って、気合いを入れて曲を書きました。
──「DEEMO」にはピアノの音色を聞かせると成長する木が登場しますし、ゲーム内でピアノが重要な役割を果たしていて、ピアノをメインにした曲が大多数を占めています。「ピアノ」というお題ありきで楽曲を作ることは難しくなかったですか?
わりと自由に書かせてもらっているので、そんなに大変ではなかったですね。「DEEMO」に向けた曲を作る前にRayarkからYouTubeのリンクがいくつか送られてきて「こういう雰囲気の曲を書いてくれ」っていう指定があったんですけど、僕は全然その通りに書かなくて(笑)。もちろんピアノをメインにはしていますが、やっぱりプレイしてみて楽しいものを意識しつつ、自分が作りたい音楽を形にしていきました。
──実際にゲームをプレイしてみるとMiliの楽曲は主旋律を奏でるだけではないんですよね。パーカッション的にボタンを押す部分があって、音楽ゲームとしての仕上がりを意識して曲が作られていると感じました。
ピアノって主旋律も奏でられますけど、単純に伴奏に徹することもできる楽器ですから。Miliはバンドの形を取っているのでボーカルがいるんですよね。ボーカルが主旋律を歌っている中で、それとは別の伴奏を弾いてる感じを楽しんでもらおうと狙っているところもあります。とはいえシンプルな伴奏だと面白くないので、けっこう技巧的なピアノが多いかもしれないですね。
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- V.A.「『DEEMO』SONG COLLECTION VOL.2」 / 2016年4月20日発売 / 3000円 / EXIT TUNES / QWCE-00578
- 「『DEEMO』SONG COLLECTION VOL.2」
収録曲
- Untitled2 / FabricFactory
- Walking By The Sea / Edmund Fu
- Beyond The Stratus / Ice
- Sairai / Shinichi Kobayashi
- Entrance (Deemo Version) / Ice
- Metal Hypnotized / EARTHBOUND PAPAS
- Rainy Memory / Rabpit
- Peach Lady / Yuk-cheung Chun Trevor Lin feat. Silvia Su
- Hey Boy / Jerry Barnes Katreese Barnes Rodger Green
- Pilot / Rabpit
- Friction / HAMO from Mili
- I Race the Dawn / Kevin Penkin feat. Michiyo Honda
- Moon Without The Stars / Jerry Barnes Quiana
- Sanctity / Rabpit
- Hua Sui Yue / V.K
- Fable / Mili
- Past the Stargazing Season / HΔG Remixed by Mili
- Ephemeral / Mili
- Rosetta / Mili
- Witch's Invitation / Mili
<日本盤ボーナストラック>
- Lune / M2U / Arranger: M2U × Nicode
Mili(ミリ)
クラシカルなサウンドを土台に幅広いジャンルの楽曲を手がけるコンポーザーYamato Kasai(G)を中心にmomocashew(Vo)、Yukihito Mitomo(B)、Shoto Yoshida(Dr)、Ame Yamaguchi(Stylist, Art Director, Designer)、Ao Fujimori(Illustrator, Animator, Videographer)の6名からなる音楽制作集団。2013年11月にリリースされた音楽ゲームアプリ「DEEMO」に多数の楽曲を提供し、人気のトラックメーカーとしてその認知度を広める。2014年9月に1stフルアルバム「Mag Mell」を発表した。