DAOKOとMIYAVIによるコラボレーション楽曲「千客万来」が7月3日に配信リリースされた。
「千客万来」は、蜷川実花が監督を務める映画「Diner ダイナー」の主題歌として書き下ろされた新曲。藤原竜也演じる主人公・ボンベロの激情や、玉城ティナ扮するヒロイン・オオバカナコのたくましさからインスピレーションを受けて制作されたという。
蜷川監督のラブコールによって実現した2組のコラボ。音楽ナタリーでは、これまで多彩なアーティストとタッグを組んできた両者に、「相見えることのないキャラクター同士」と語る所以や互いの共通点、幾度もやり取りを重ねて完成した「千客万来」の制作エピソードを語ってもらった。
取材・文 / 内田正樹
きっかけは蜷川実花の妄想
MIYAVI (二人、ソファで横並びに座って)髪、長いね。あと、すげえいい香りがするけど、何これ、シャンプー?
DAOKO えっ、何だろ? 香水も付けていますけど(笑)。
──そう言うMIYAVIさんも、ナタリーのインタビュー時は毎回かなりいい香りがしていますけどね(笑)。お二人が初めて出会ったのは、同じ放送回(※2017年11月17日)に出演した「ミュージックステーション」の現場だったそうですが。
MIYAVI うん。でも、そのときはほとんど話せなかった。
DAOKO 慌ただしい現場なので、ご挨拶程度でしたね。
──では、今回の制作で、初めてちゃんとコミュニケーションを交わしたんですか?
MIYAVI そう。去年の冬だったかな。11月か12月くらい。
DAOKO 寒い頃でした。
──この「千客万来」は、蜷川実花監督の新作映画「Diner ダイナー」の主題歌です。つまり、このお二人の顔合わせが実現したのは……。
MIYAVI そう。多分、すべては蜷川実花の妄想から始まった(笑)。お互い、思いもしなかったよね。
DAOKO そうですね。蜷川さんも、「ずっと2人のことが好きだったから思い付いた」みたいな話をされていました。蜷川さんらしい、意表を突く“ブッ込み”だなって思いました(笑)。でも、確かに「Diner ダイナー」の雰囲気と合いそうな2人だとは思いました。
──MIYAVIさんの前作「SAMURAI SESSIONS vol.3 - Worlds Collide -」(参照:MIYAVI「SAMURAI SESSIONS vol.3 - Worlds Collide -」インタビュー)は、蜷川さんがジャケット写真とアーティスト写真を撮影しました。つまり、両者は最近、フォトグラファーと被写体という関係性でのセッションがあった。
MIYAVI オフィシャルでの撮影は前作のアルバム「SAMURAI SESSIONS Vol.3」が初めてだったけど、それ以前から、そもそも彼女とは友人だったんです。俺のバースデーパーティにも来てくれたりして。ほら、俺、鋤田正義さんとか操上和美さんとか、わりと巨匠のフォトグラファーとご縁があったでしょ?(笑) 実は女性に撮られる機会が意外と少なかったんだよね。
──なるほど。DAOKOさんは、蜷川さんとは?
DAOKO 以前から共通のスタイリストの友達を通じて、「今度、一緒に遊びたいね」みたいな話はしていたんですが、撮影はまだなかったんです。なので、今回の打ち合わせで初めて実際にお会いしました。
オーダーは「Slap It」みたいな曲
──「千客万来」の制作にあたって、映画本編はお二人とも事前に観られたのですか?
MIYAVI 試写で観ました。
DAOKO 私も試写で。あと、その前に台本も読んで。
──ちなみに、この「Diner ダイナー」はホラーではありませんが、DAOKOさんは、ホラーやバイオレンス性の強い作品については?
DAOKO ダメです。
MIYAVI そうなんだ? むしろ出演していそうなのにね(笑)。
DAOKO 「好きそう」とはよく言われますけど(笑)。本当、まったくダメです。
MIYAVI まあ、俺もホラーはほとんど観ないですね。そもそも観る意味があまりよくわからない(笑)。ああいうのって、ストーリーを通じて非日常を体験して、「俺たちは無事でよかったなー」っていう面白さなのかな?(笑) でも「Diner ダイナー」も、けっこうグロいシーンがあったけど、大丈夫だった?
DAOKO 花びらを使ったり、アート性の強い描写だったから、大丈夫でした……。あと、女性らしさを感じる部分もかなりあったので。だからセリフも頭に入りやすかったですね。歌詞作りでは、台本がかなり参考になりました。まず蜷川さんと実際にお話しをして、そのイメージを踏まえつつ、台本の言葉を情報として収集して。そのあとに映画を観て、すべてをつなげていったという感じでしたね
──DAOKOさんは、蜷川さんとどんな会話をされたんですか?
DAOKO 蜷川さんからは、「映画を観終わったあとに、同世代の若い子たちが、背筋をしゃんと伸ばして劇場を出ていけるような作品性を大事にしたかった」というお話があって。同世代とか、女の子の強さといった話題が上った覚えがあります。だから私も、自分と同い年ぐらいというか、「自分のこととして歌詞を考えるのがいいのかな?」と思って。ヒロインのオオバカナコ(玉城ティナ)の気持ちと自分の気持ちを照らし合わせながら歌詞を書きました。
──一方、MIYAVIさんと蜷川さんは?
MIYAVI 実花さんは、もともと俺の「Slap It」という曲をずっと聴いてくれていて、今回、最初は「あの曲みたいなのを!」と言われて(笑)。でも、同じような曲は作れないしね。そこからさらに話していくと、「あの曲の、邦楽と洋楽がぐにゃってなっているような感じが好きなの」という話があって。歌詞は日本語だけど、サウンドは激しめな洋楽というかね。で、試写の、さらに1つ前のバージョンみたいな状態の本編を観てみたら、DAOKOちゃんが言う通り、カナコの強さや健気さは、きっと日本の女の子たちに響くものだと感じました。だから、そこを真ん中に据えつつ、さらに主人公のボンベロ(藤原竜也)が持つ激情から受けたインスピレーションも俺なりに切り取って、交えていきました。ボンベロがカナコに与えるスパイスのような刺激や、突き放しながらも抱きしめているように絶妙なバランス感を、どう音楽にすればいのか? そこを考えながらトラックを作っていった感じです。
共感性の高い歌詞
──先にMIYAVIさんからDAOKOさんへ曲を提案して、そこにDAOKOさんが歌詞を付けたという流れですか?
MIYAVI 基本はそうですね。っていうか、最初、まったく異なる2つのトラックを作って送ったんだよね? で、最初はDAOKOちゃん、「千客万来」じゃないほうのトラックが好きだったんだよね(笑)。最終的にはこっちになったけど。
DAOKO (笑)。
──ちなみに、そのもう1つのトラックとは、どんな曲調だったんですか?
MIYAVI ビートとしては、GorillazとかJurassic 5っぽい、グランジ×ヒップホップみたいな感じだったかな。「Slap It」とはまったく違うタイプの曲調だったけど、DAOKOちゃんはそっちが好きだったみたい(笑)。今回、歌メロとかは、DAOKOちゃんがいつも一緒にやっているチームの人たちも手伝ってくれたんだよね。
DAOKO はい。私のアルバムでメロディやトラックを整えてくれているチームの方々に参加してもらって。
MIYAVI DAOKOチーム内では、DAOKO像というものがすごく明確に、しっかり共有されているという印象を受けました。そのDAOKO像と、この楽曲をどうバランスよく交わらせていくか、何往復もやり取りをしたね。
DAOKO そうでした。突き詰めるまで、けっこうな回数を重ねましたね。
MIYAVI しかも俺はロス(※MIYAVIはアメリカ・ロサンゼルス在住)での作業だったから、時差もあってね。間に入っていたスタッフの皆さんは苦労したんじゃないかな(笑)。
DAOKO サウンドにも、もちろん意見は言わせてもらいましたが、私のチームにはチームなりのバランスがあるので、特に今回は、サウンドについてはチームのジャッジに委ねていましたね。その分、私はより歌詞に集中していた気がします。
──アレンジやメロディから導き出されたリリックはありましたか?
DAOKO あったんじゃないかな。私は普段から思いついた言葉をストックしていて、その中から曲に似合う言葉を引っ張っていくという作り方が多いんですけど、今回はオオバカナコという明確なキャラクターも存在したし。MIYAVIさんの曲もアレンジもすごくカッコよくて、これまで私がやったことのないタイプの音楽性だったので、そこに合わせて声色を変えてみたり、力強さを含んだ言葉を選んだりしましたね。
MIYAVI けっこう、言葉を詰め込むメロディとアレンジだったもんね。
──確かに「どこでブレスを入れるの?」といったフロウですが。
DAOKO そこは多少キャラクターやストーリーを意識する程度で、あまり頭では考えていませんでしたね。自然と出てくるフロウを尊重するというか、レコーディングのときに触発された感情そのままに歌っているというか。サウンドに引っ張られることも、いい影響を及ぼしていると思います。
MIYAVI この曲は、ぜひ歌詞を読みながら聴いてほしいね。今は便利な世の中だけど、そのせいで逆に生きづらい部分もあるというか。外に出なくても人とつながることができるし、あらゆることが耳に入ってきちゃう。でもそこで悶々としている子たちだってたくさんいるはずだし、この曲の歌詞みたいな思いを感じている子、めちゃめちゃいると思うから。
DAOKO うれしいです。
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「最高!」以外、何も言っていなかった