Creepy Nuts|しこたま場数を踏んできた俺らのフレックス「Case」

仮タイトル「ポジティブ30」

──「グレートジャーニー」で「小忙しMC、小忙しDJ」なんて言っていたときと比べて、今は忙しさも大きく変わりましたよね。

R-指定 俺がラップで生きようと思い始めた19、20歳の頃は、ちょうどUSだとリル・ウェインが覇権を握ってた時期なんですけど、何かのインタビューで、レコーディングして、MV撮って、スタジオ入って、ツアーに出て、その行った先で客演作って……みたいな嘘みたいなスケジュールが語られてて、そこに「彼は生き急いでるようだ」って見出しが付いていたんです。

──ミックステープやフリーダウンロードで新曲をバンバン出していた時期ですね。

R-指定 当時は「そんなスケジュールあるかい!」と思ってたんですけど、今の自分の生活もリル・ウェインほどじゃないだろうけど、「あ、ホンマに寝る暇ないぐらい忙しい生活ってあるんや……」って(笑)。制作だけで考えても、クリーピーの曲、梅田サイファーの歌詞、客演……って、去年今年ととにかくリリックを書きまくってるし、もうその“忙しい”ってことがカマしになるレベルやし、せめてカマさせてほしい(笑)。でも制作をするたびに、ラップがうまくなっていってる実感はあるし、いまだにラップを楽しいって思えるのは幸福なことです。

──それはまさに「のびしろ」で書かれていたことですよね。では「のびしろ」を制作するに至った経緯は?

R-指定 去年、松永さんが30歳になって、そこで「ヤバ!」「キモ!」って言ってたんですけど(笑)。

DJ 松永 「オジサンだ! キモ!」って(笑)。

Creepy Nutsワンマンツアー「Case」大阪城ホール公演よりR-指定。(Photo by orz_____rio / Retouch by hiroyabrian)

R-指定 で、自分も今年の9月で30になるから、10代からお互いに知ってる2人が三十路を迎える節目の曲を作ろうと、去年の段階で考えてたんですよね。でもそのことはすっかり忘れてて。だけどアルバムの構成をまとめていく段階で、「風来」と「デジタルタトゥー」「15才」の間にスペースが空いてたんですよね。

DJ 松永 流れとして、「風来」からいきなり「デジタルタトゥー」に入るのは急すぎるなと。

R-指定 「風来」で「バックレるか」ってテーマを書いたあとに、めちゃめちゃ暗いテーマが来たら起き上がれる?って(笑)。

──逃げて沈んでじゃ救いがないですよね(笑)。

R-指定 それに前半はラッパーとしての顔が中心になってるんだけど、「風来」ではいち人間をテーマにしたんで、もう1曲そういう部分を書きたいと思ったんですよね。それで「そういえば30歳をテーマにしたアイデアがあったな」と。実際、歳を重ねることに対してはポジティブに捉えてるし。

DJ 松永 仮タイトル「ポジティブ30」だったもんね(笑)。

R-指定 そういうポジティブに人間を捉える曲を入れようと。それが見事にアルバムのど真ん中になってくれましたね。

──「くくれなかった たったの3文字で」というリリックはすごく今っぽいとも感じます。

R-指定 やっぱり理解しようとしたときに、“括る”っていうのは便利なんですよね。

──名前を付ける、差異化することで“取っ手”を付けるというか。でもそれは非常に乱暴な手付きになることもあるし、その乱暴な切り取り方を止めようという風潮になっていますよね。

R-指定 乱暴に自分が括られることに対して「ふざけんなよ」って思ってるはずなのに、そうやって括ってくる側に対して、こっちも乱暴に括ったり。それは梅田サイファーのテークエムも同じようなことを「LABEL MUSIC」って新譜で歌ってるんですよ。「括る」ような強権的な態度に対して、レベルミュージックであるはずのヒップホップが、「不良」とか「マチズモ」とか「文系」みたいにカテゴリーで一番分けがちじゃないかってことで「LABEL MUSIC」という曲を作ったんですけど、同じクルーやと同じようなことを考えるんやなって(笑)。括ったり、ひと言で表せないからこそ音楽を作ってるはずなのに、“大人と子供”とか、“男と女”とか。

DJ 松永 “都会と田舎”とかね。

R-指定 そういう3文字で括りがちやなって。

Creepy Nutsワンマンツアー「Case」大阪城ホール公演より。(Photo by umihayato / Retouch by hiroyabrian)

──この曲が「デジタルタトゥー」「15才」の前にあるのは大事だなと思って。

DJ 松永 「15才」や「デジタルタトゥー」で書いた負の部分を「のびしろ」として許されようとはしてないんですよね。むしろ「のびしろ」でこれから先にワクワクするような気持ちを書いてるけど、その人も脛には傷があるってことを書きたくて。

──だから「だがそれでいい」的なアプローチでは決してないよなって。

R-指定 「俺は改心しました」ってことを言いたいわけじゃないんですよ。酷い言葉、凶器となる言動は確実にあったし、今は気をつけてはいるけど、恐らくこの先もそういった発言はするやろうなと予想してる。「のびしろ」で歌ったような乱暴な括り方もしてしまうかもしれない。ちょっとずつ視野は広げてるつもりだし、修正もしているけど、それゆえの新しい傷つけ方をしてしまうかも知れないし、配慮を欠いた行動もするんやろうなって。だから、それだけ自分には加害性があるし、言葉の凶器を振り回していることに自覚的になったという意識ですね。後悔や申し訳なさを感じることもあるけど、「反省しました、改心しました、許してください」ではない。これからも誰かを傷つけることはあるだろうし、その加害性は一生ついて回るものだと、せめて自覚はしておこうというか。

──なるほど。「のびしろ」からの「デジタルタトゥー」のトラックの展開もすごいですよね。ポップから一気にダークに落ちるというか。その意味でも、アルバム全体のトラックの幅はすごく広いし、それもDJ 松永流のフレックスなのかなって。

DJ 松永 「どんなトラックでも作れる」ってことを自慢したいという気持ちはありましたね。ちょっと前にトラック作りにハマり倒していた時期があって、そこで得たことで大きかったのは、「カッコいいと思える曲のレンジ」が広がったこと。視野が広がったというか。そうするとトライしようする曲の幅も広がるし、トライすることで新しい技術を会得してっていう好サイクルが生まれて、それでトラックの幅がどんどん広がっていったんです。

──カラーは全部違いますよね。

Creepy Nutsワンマンツアー「Case」大阪城ホール公演よりDJ 松永。(Photo by orz_____rio / Retouch by hiroyabrian)

DJ 松永 全部作りたいんですよね、マジで。Rにも「どんなトラック欲しい!? 教えて! 俺全部作るから!」って迫ったりして(笑)。

R-指定 俺も雑食やから「こんなんいいっすね」っていうオーダーもバラバラやったと思う。

DJ 松永 クリーピーは2人の脳みそで大元を作ってるから、凝り固まろうと思えばミニマムに固めることができる一方、表現の幅も狭まると思うんです。どうしても手癖や根本の好みがあるから、作品を重ねれば重ねるほど、そのグループのカラーは明確になるかも知れないけど、同時にそこから抜け出しにくくなってしまう。それには抗いたいんですよね。1MC1DJという最小単位のミニマムな体制だからこそ、アプローチや可能性は最大幅でありたい。それに、手癖や得意なフォーマットで曲を作ることにテンションが上がんないんですよね。今はゼロから打ち込みで作るのに興味があるし、そこでもっと技術を体得したい。もしくは生のミュージシャンと密接に制作できるようになれば、そこでサンプリングにも再帰するかもしれないし、そうやっていろんなアプローチを試したいんですよね。

アリーナに立てるヒップホップグループが増えれば増えるほど楽しくなっていく

──現在はツアー真っ最中で、松永さんの地元長岡への凱旋公演があり、そして最終公演は横浜アリーナになりますね。

DJ 松永 ありがたいですね。横アリはイベントで立たせてもらったことはあるけど、ワンマンでは当然初だし、まだワンマンで立つイメージができていないです。

R-指定 そうやなあ。イベントで立ったときは「ここでワンマンできたらどうるんやろ」って思ったけど、そのときは「うわ! 魔が差した!」って感じやったもんな。

DJ 松永 スケベな想像しちゃった感じだよね。「こんなこと想像してしまった!」っていう(笑)。でもそれが実現できるんだよ?

R-指定 だから楽しみですね。それこそZORNさんも、延期になってしまったけど予定通り行えていればBAD HOPも、今年は横アリでライブをしていて。アリーナに立てるヒップホップグループが増えれば増えるほど音楽シーンは楽しくなっていくと思うし、その中に自分たちもいれたらなって。そして俺らのやり方で、あの空間をどう支配するか。

DJ 松永 どんなでかい舞台でも、2人でできればいいなって思ってたけど、本当にそれが実現できるとはね。だから楽しみだし、楽しみにしていてください。

Creepy Nutsワンマンツアー「Case」大阪城ホール公演より。(Photo by umihayato / Retouch by hiroyabrian)

ツアー情報

Creepy Nuts ONE MAN TOUR「Case」
  • 2021年9月20日(月・祝) 大阪府 大阪城ホール
  • 2021年9月25日(土)千葉県 森のホール 21 大ホール
  • 2021年10月7日(木)兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
  • 2021年10月9日(土)福岡県 福岡市民会館 大ホール
  • 2021年10月17日(日)愛知県 名古屋国際会議場 センチュリーホール
  • 2021年10月28日(木)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2021年10月31日(日)新潟県 長岡市立劇場
  • 2021年11月14日(日)神奈川県 横浜アリーナ
Creepy Nuts(クリーピーナッツ)
Creepy Nuts
MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」大阪大会で5連覇、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で3連覇を成し遂げた経歴を持つ大阪出身のラッパー・R-指定と、DJの世界大会「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP FINALS 2019」バトル部門で優勝した新潟出身のDJ 松永によるユニット。観客が投げたお題でR-指定がフリースタイルを披露する“聖徳太子フリースタイル”などを織り交ぜた、オーディエンスを巻き込む形のライブパフォーマンスで人気を集める。2017年11月にソニー・ミュージックエンタテインメントよりメジャーデビューシングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」をリリース。深夜ラジオ好きでも知られ、2018年4月には自身の冠番組「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)」がスタート。同月、初のフルアルバム「クリープ・ショー」を発売した。2020年8月にミニアルバム「かつて天才だった俺たちへ」、オールナイトニッポン0のイベントの模様を収めたDVD「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0 『THE LIVE 2020』 ~改編突破 行くぜ HIP HOPPER~」を同時リリース。同年10月に初のレギュラーテレビ番組「イグナッツ!!」がテレビ朝日系でスタートした。11月には初の東京・日本武道館公演を開催。2021年3月に「顔役」「バレる!」、4月に映画「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」の主題歌「Who am I」を配信。9月に2ndフルアルバム「Case」をリリースした。