「Coming Next Artists」の連載コラム第6回では 音楽を作る側としてレコードレーベルで働くスタッフをフィーチャーし、アーティストがメジャーデビューを果たすまでを追っていく。これまで数々のアーティストを手がけ、2月7日に新人アーティスト・ましのみをメジャーデビューさせたポニーキャニオンのレコードディレクター中西克仁氏に取材を行い、アーティストの発掘からメジャーデビューまでを時系列に沿って語ってもらった。なお、ましのみ本人へのインタビューは「Coming Next Artists」第20回(参照:“奇才”シンガーソングライターの頭の中|インタビュアー:Tom-H@ck)に掲載している。

取材・文 / 倉嶌孝彦 写真提供 / ポニーキャニオン

レコードディレクターとは…
アーティストと二人三脚でヒットを目指す
CD作りの責任者

シングルやアルバムなど作品単位で制作を手がける職種で、音源制作における現場の責任者。CDの制作に関するスケジュール管理や音源の制作はもちろん、アーティストのビジュアルイメージの考案なども行う。ポニーキャニオンでは1人のディレクターがデビューから数年以上続けて、そのアーティストを担当することが多い。

レコードディレクター 中西克仁(なかにしかつひと)
中西克仁
株式会社ポニーキャニオンのミュージッククリエイティヴDiv. 制作1部に所属するディレクター。1987年にポニーキャニオンに入社し、営業職を経て制作に携わる。これまで、デビュー当時の奥華子や阿部真央などのアーティストを手がけており、新人の発掘からアーティストのプロデュースまでを担当している。
アーティスト ましのみ
ましのみ
1997年生まれのシンガーソングライター。2015年1月に東京・下北沢LOFTで初ライブを行い、大学に通いながら都内で精力的にライブ活動を行う。2016年3月、音楽コンテスト「Music Revolution 第10回 東日本ファイナル」でグランプリを獲得。同年9月には東京・恵比寿天窓.switchで自身初のワンマンライブ「ましのみ 初ワンマンライヴ~サブタイトルなんてつけたくない~」を実施した。2017年10月、東京・WWWで行われたフリーライブでポニーキャニオンからのメジャーデビューを発表。2018年2月にメジャーデビューアルバム「ぺっとぼとリテラシー」をリリースした。
  • 201612

    メジャーデビュー
    1年2カ月前
    発掘
    2016年3月に行われたコンテスト「Music Revolution 第10回 東日本ファイナル」の様子。

    ほかのレコード会社に決まる前に動き出す

    僕がましのみを初めて観たのは、彼女が出演した2016年12月の東京・Shibuya eggmanのライブでした。その当時、女性のシンガーを探していて、彼女のマネジメント事務所であるヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスのディレクターに相談してみたら「面白い子がいるよ」って、彼女を紹介してくれたんです。すでにミューレボ(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスが主催する音楽コンテスト「Music Revolution」)でグランプリを取ったあとだったのでほかのレーベルの方も目を付けてたと思うんですけど、幸いまだ決まったレコード会社がないようでしたので、すぐに契約に向けて動き出すことに決めました。

  • 20172

    メジャーデビュー
    1年前
    契約

    出会って2カ月で契約

    2017年の2月には事務所と正式に話をして、ましのみのメジャーデビューに向けた契約の話をほぼ固めていました。最初にライブを観てから2カ月でここまで話が進むのはけっこう早いケースですけど、すぐに動かないとほかのレーベルと契約してしまうと思ったので。それから3月に事務所のスタッフを交えてましのみと食事をしながら、「メジャーデビューに向けてがんばろう」という話をしました。

  • 20174

    メジャーデビュー
    10カ月前
    準備

    シーンの中で埋もれない音楽を

    4月には、ましのみが作ったデモテープを元にレコーディングの準備を始めました。彼女の場合は前後半の2回に分けてレコーディングをしようと決めていました。その理由は、メジャーデビュー前のアーティストってレコーディングをしていく中でどんどん成長するので、短期間で作業を終わらせてしまうのがもったいない気がしたからです。

    曲作りの際にすごく悩んだのはアレンジでした。普通のバンドアレンジにしても音楽シーンの中ですぐに埋もれてしまう気がしたので、インディーズの頃の彼女にはなかったアプローチではありますが、基本的にエレクトロな感じにしてみることを提案したんです。本人は最初は違和感があったようですが、結果「いいものになった」と満足してるようでした。

  • 20176

    メジャーデビュー
    8カ月前
    レコーディング前半
    レコーディングブースでのましのみ。

    半年にわたるレコーディングのスタート

    契約の段階でメジャーデビューのタイミングを2018年2月に決めていたので、それを見据えると2017年の秋頃にはプロモーション用に何曲か作っておかなければなりませんでした。そういう事情もあり、6月には「プチョヘンザしちゃだめ」という曲を録り始めていました。レコーディングの序盤は、彼女が作りためていた曲や、本人から新たに出てきたアイデアを形にしていく作業でした。アレンジのアイデアについては、宣伝やPRを担うアーティスト担当のスタッフにも時に意見を求めます。そうする中で「ピアノを弾いている姿が浮かぶようなアレンジがもっとあってもいいんじゃないか」という話になって、エレクトロ調にしつつもデモにおける本人のピアノのフレーズを生かし、ちょうどいい落としどころを探りながらアレンジをしていきました。

  • 20179

    メジャーデビュー
    5カ月前
    レコーディング後半
    2017年10月に行ったコンベンションライブの様子。

    コンベンションライブは大事

    レコーディングの後半は、基本的に前半と変わらない作業になりましたが、僕から彼女に曲の方向性のリクエストすることもありました。彼女はピアノの弾き語りを得意としていたので、それが伝わるような曲を新たに作ってもらったんです。レコーディングを進行していく一方で、メディア関係者を呼び込んでコンベンションライブを行ったのもこの頃です(参照:ましのみ、ファンに囲まれメジャーデビュー伝えたフリーワンマン)。コンベンションライブをやる理由は大きく2つあって、1つはライブを観てもらうため、もう1つはレコーディングした曲を関係者に配るためです。コンベンションライブを皮切りに、この時期に業界向けのプロモーションを始めました。

  • 201712

    メジャーデビュー
    2カ月前
    撮影
    アーティスト写真およびジャケット写真撮影の様子。

    ビジュアルイメージは「新しいSSWが降りてきた」

    ディレクターは音源作りだけでなく、アーティストイメージの方向性も考えなければなりません。例えば、録り終わった楽曲をもとにアーティスト写真をどうするかを本人と相談して考えていくようなこともあります。僕はましのみを「新しいシンガーソングライターが降りてきた」ようなイメージにしたくて、意外な組み合わせである工場を背景にメインビジュアルを撮ろうと提案しました。ただ彼女が「普通にカッコいいだけだとヤダ」と言うので、足元に工場の形を模したペットボトルを置いてちょっとした違和感も演出することにして。楽曲もアートワークも、結局はアーティストの名前で発表するものですから、やはり本人のアイデアが入っていたほうが絶対いい。ディレクターサイドからいろいろ提案をすることもありますけど、僕の場合は最終的にはアーティストの決断に任せることが多いです。

  • 20181

    メジャーデビュー
    1カ月前
    稼働

    アーティストとレコード会社、両輪のプロモーション

    12月にはアルバムが完パケして、アルバム制作の作業がすべてひと段落した頃です。ここまでくるとホッとするんですけど、ここからはますますどう売っていくかを考えなければならない時期でもあります。本人の意向もあり、1stアルバムは彼女のいろんな面を知ってもらうことを第一に考えて作りました。収録曲にバラエティを持たせるのはもちろん、彼女の同世代に向けた曲、恋愛の曲、大学の授業について歌った曲などが収録されています。どれか1曲でも気になる曲を見つけてもらえたらうれしいですね。それと彼女はSNSを活用して自分でプロモーションをしてくれるので、そういった点は僕らとしても助かる部分です。ちなみにTwitterやYouTubeで公開されている「ましらっぷ」という動画は、本人が自発的にアップしているんですよ。いろいろ試行錯誤して、どういうものが喜ばれるかを考えながらコンテンツを作っているみたいです。今の時代、情報発信は誰でもできますからアーティスト本人のプロモーションとレコード会社が仕掛けるプロモーション、両輪で行うことでより効果的なアピールができると考えています。

  • 20182

    メジャーデビュー

ディレクターは自分の思いを形にできる仕事

自分が思い描いたものが形になっていくのがレコードディレクターのだいご味です。もちろんレコード会社によるとは思いますが、やりたいことができて、自分の思いを形にできる仕事がディレクターだと思っています。自分が手がけたアーティストが世間に知られて、しっかり売れてくれたら大満足。メジャーデビューしたばかりのましのみもJ-POPの真ん中で売れてほしいと思ってやっています。

ましのみ(写真中央)と彼女を支えるスタッフたち。
ましのみ「ぺっとぼとリテラシー」
2018年2月7日発売 / ポニーキャニオン
ましのみ「ぺっとぼとリテラシー」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3000円 / PCCA-04602

Amazon.co.jp

TOWER RECORDS

HMV&BOOKS online

ましのみ「ぺっとぼとリテラシー」通常盤

通常盤 [CD]
2500円 / PCCA-04603

Amazon.co.jp

TOWER RECORDS

HMV&BOOKS online

CD収録曲
  1. プチョヘンザしちゃだめ
  2. ナンセンスに逆戻り
  3. 名のないペンギン空を飛べ
  4. エゴサーチで幸あれエブリデイ
  5. やりくりゲーム
  6. Hey Radio
  1. 灰かぶり姫
  2. ミスター
  3. ストイックにデトックス
  4. リスクマネジメント失敗
  5. チャイニーズ再履修 ※ボーナストラック
初回限定盤DVD収録内容
  • 「プチョヘンザしちゃだめ」&「ナンセンスに逆戻り」Music Clip
  • Digest of 「ましのみフリーワンマンライブ@Shibuya WWW(2017.10.14)
  • mashinoMISSion
  • Making of 「ナンセンスに逆戻り」Music Clip & Jacket Shooting

2018年11月16日更新