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物販に長蛇の列、衝撃を受けた女性SSWの世界
──インディー期がけっこう長いんじゃないですか?
9年くらいかな。東京に出てきてから知った女性シンガーソングライターの世界は本当にすごかったです。
──気になる。何がすごかったの?
ライブより物販のほうがお客さんと接している時間が長くて。めちゃくちゃ物販は売れるんですけど、お客さんはほとんど男の人だし、写真も撮るし、お話もするし、列の長さで人気もわかるような感じになっていて……苦痛でした。
──もともとアイドルをやっていた子がシンガーソングライターになることもありますもんね。そういう人からしたら普通のやり方だろうけど。
そうなんですよね。水着の写真集とか出してる子もいたし、すべてにびっくりしました。長野にいた頃、音楽はただただ音楽でしかないものだと思っていたから。物販で写真を撮るとか握手するのが正攻法ではないと感じている出演者は私以外にもいたんですよ。でもその話題をみんなで話すのも嫌でした。そういうふうに言ってて、そこから抜け出せないのは自分の実力なだけなのにって。出てきて3年くらいはきつかったです。
──バンドも最初のうちはきついもんですからね。でもちゃんとカッコいい音楽をやってると、それを発信したいと思う人が必ずいて、「その人が聴いてるなら聴いてみよう」って流れが生まれることもある。
そうですね。私は基本的にライブ活動を続けつつ、とにかく事務所とかレーベルとか大人の人を探してました。
──へえ。もともとメジャー志向だったの?
もともとはメジャーに行ったら「何か変わるかな」ってくらい。でもいろいろな噂を聞くじゃないですか(笑)。契約してCD出しても売れなくて何もできないまま契約が終わっちゃうみたいな。それだったら自分だけでがんばったほうがいいと思ったんですけど、メジャーシーンで精一杯やって、自分がどこまで通用するのかに興味があったし、自分の音楽がもっと広まったらいいなと思って。
バンドは楽しい、弾き語りは楽しくない
──バンドメンバーはどうやって決めたんですか?
前作とほぼ同じメンバーなんですけど、1回スタジオに入って決めてます。遊び心があって音を足すだけじゃなくて、引き算もできるような人たちで、ギターはうちの妹(ひぐちけい)なんですけど。
──Chelsyのサポートとかをやってますよね。
そうです! 妹はバンド編成でやるときは声が似てるからコーラスとかもすごいよくって。あといつもやってるパーカッションの子と、ベースとドラムは探しました。刄田さんみたいに手数が多くて、波のあるドラムが好きなんですけど、そういうスタイルは個人的に3ピースまでしかできなくて。
──なるほど。
レコーディングで楽器が増えてくると、その個性が生かしきれなくなってしまうので。ライブは刄田さんと山崎(英明 / siraph、ex. School Food Punishment)さんとの“最強3ピース”っていうのと、妹とパーカッションとの“前衛的3ピース”っていうのと、あとワンマンライブだと5人編成のバンドでやってます。
──それぞれの編成で楽曲との向き合い方は変わります?
変わりますね。弾き語りだとライブ中に1度も笑わないみたいなときがあって、こんなこと言ったらよくないけど楽しいと思わないんです。
──でも(山下)達郎さんがそういうタイプ。楽曲に向き合って、歌と演奏をしっかりと聴かせることにまず集中するっていう。
弾き語りだと一瞬先の次のところはこう弾きたいとか、こんな感じで歌いたいなみたいなのをずっと考えながらやっているので。だから全体的に楽しいと思うことはないんですけど、バンドのライブは楽しくて。
──ガラッと変わるんですね。
お客さんからも「楽しそうだったね」って言われる(笑)。
──弾き語りとバンド編成で二面性があって面白いですね。今後、一緒にやってみたいアーティストはいます?
やってみたいのは上原ひろみさんですね。
──ジャズとか即興にも興味があるんですか? 先日はベートーヴェンの譜面を開いて練習したってツイートしてましたけど。
上原ひろみさんの演奏が大好きなんです。どうやったらあんなふうに弾けるのか想像も付かないけど。私はずっとクラシックピアノをやってきたので、決まりごとが多い中でそれをどう聴かせるか、表現力を磨けるのがクラシックだと思うんです。
──即興演奏はやらないの?
即興が得意じゃないままだったので最近はやろうと思ってます、ちょっとだけ。
──それこそ“最強3ピース”でやったら面白そう。
山崎さんと刄田さんは即興が好きじゃないんですって。ライブ中に突然振られたときは両手上げて「弾かない」アピールするみたいで(笑)。「決まったことをきれいにやるっていうのが、美徳だと思ってるから」って言っていたから、その気持ちはすごいわかります。
不機嫌になったヒグチアイの「許さない」
──「猛暑です」はメジャーデビュー作「百六十度」にも入っているんですよね。
そうですね。「百六十度」は去年の夏にインディーズで出そうと思っていたんですけど、メジャーの話があってリリースタイミングが11月にずれたんです。でも「猛暑です」はやっぱり夏に出したくて。今回のリリースタイミングでこの曲をシングルカットするって話があったんですけど、シングル自体を私が買わないから出したくなかったので、ミニアルバムになりました。
──「やわらかい仮面」はアニメタイアップ曲(都市伝説を題材にしたショートアニメ「闇芝居」5期エンディングテーマ)ですね。
この曲を書いているとき、嫌なときの気持ちを引きずり出していたんで、すごい機嫌が悪くて1週間くらいずっと人に当たってました(笑)。歌詞に「許さない」って言葉があるんですけど、私は許さないと思うことがあっても、相手を瞬間的に許しちゃうからそうはなかなか言えないんです。でも今回はアニメのために書くっていうプロセスがあったから、「許さない」っていう気持ちを肯定するほうに振り切れました。
──さっきアニメのオフィシャルサイト見たんですけど、フラッシュ全盛期に流行った怖い病院のWebサイトみたいな感じで懐かしかった。
私、実はホラーが苦手で……。タイアップのお話いただいた時点でアニメの雰囲気だけでもと思って、まずサイトを見たんですよ。すごく古い雰囲気のWebサイトだったから、なんなんだろうって思ってましたけどそれだったんですね。何もモチーフなしにこのデザインにはならなそうですよね。
──逆に素でこの感じだったら相当ヤバい(笑)。
アニメの放送も観られないんじゃないかと不安なんですけど……。
──自分の曲がエンディングで流れるし、これをきっかけに意外と都市伝説が好きになるかもしれない。
1人で見るとかなり怖いので、録画して明るい時間に観ようと思います(笑)。
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ストーカーになったことはないです!
- ヒグチアイ「猛暑ですe.p」
- 2017年7月5日発売 / TAKUMI NOTE
- 収録曲
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- 猛暑です-e.p ver-
- 夏のまぼろし
- みなみかぜ
- やわらかい仮面(※アニメ「闇芝居」5期エンディングテーマ)
- ラジオ体操
- 妄想悩殺お手ガール
- 残暑です
2017年8月24日更新