腰掛けに対して同情の余地はない

──2曲目「骨抜きに恋して」のテーマは？

いつか　独身のまま歳をとっても理想が高いままで条件を譲らない、そのくせ自分が変わろうともしないっていう人。客観的に見れば「もう何もしないで選ばれる歳じゃないよ？」ってわかるはずなんですけどね。私の周りにそういう人が3人くらいいると、すぐこういう曲が書けます。

──「《愛されるよりも愛したい》意味はさておき雰囲気すら違う 貴様 まず愛されてから言いなさい」って、本当に容赦のないリリックだなと思いました（笑）。若いうちは自分の条件を満たす相手が恋愛対象になっていたけど、そのままのスタンスでいたらいつの間にか自分だけ取り残された、ということですかね。

ゴンチ　だと思います。

いつか　若いときは容姿がきれいで肌がピチピチしてるっていうだけじゃなくて、まだ自分の考えがそこまで定まってなくて考えが柔軟だから付き合える相手もいるんだけど、大人になっていくと考えも固まって頑固になってくるじゃないですか。自分が歩み寄らずに、歩み寄ってくれる人を待ってるだけってどういうことだろうって。

ゴンチ　白馬の王子様をね。

いつか　「まさか王子様を待ってないよね？ 冗談でしょ？」って思うこと、よくあります。

──これもゴンチさんに当てはまるんですか?

ゴンチ　これこそ当てはまってますね。「人生8割条件だらけ」みたいな歌詞はまさに私ですし（笑）。

──ははは（笑）。3曲目の「腰掛けラップ」は、「お局さんよりも手が焼ける」っていうリリックがあるので「OLest」に収録された「お局ロック」のアンサー的な曲だと思うんですが、「お局ロック」には同情や哀れみのような目線があったのに、こちらは完全に罵倒しかしていないですね。

いつか　そうですね。腰掛けに対して同情の余地はない。

──これは身に覚えがある人が聴いたらかなり面食らうのでは（笑）。

いつか　いや、腰掛けは自覚症状がないからわかんないと思います。お局さんは「お局ロック」を聴いて「あ、これ私のことかも？」ってちょっとイラッとしたりする可能性がありますけど、腰掛けがこれを聴いてもなんとも思わないはず。

──この曲のトラックを作ったbanvoxさんは、今回初めてタッグを組んだんですよね。一緒にやってみてどうでしたか？

いつか　いただいたトラック聴いて「あ、これは絶対ラップの曲にしよう」って思ったんです。こういうトラックにラップを乗せたことはなかったし、私も今回のアルバムの中で一番ラップらしいラップをしてるので、やっていて新鮮で楽しかったです。

ただ怒りたいだけのクレーマー

──次の曲は「PH4」ですが、このタイトルはどういう意味ですか？

いつか　「ちょっと酸性」ってことですね。ちょっと酸っぱいというか、ちょっとイタいみたいな。

──アーバンな曲調自体が皮肉になっていて面白いなと思いました。

いつか　そうですね。夜の都内を車で走ってるみたいな雰囲気のトラックで、「自分に酔ってナンパ待ちしてても時間の無駄」みたいなことを歌ってるんで。

──これもいつかさんの周囲に実際にそういう人がいたんですか？

いつか　そういうわけじゃなくて、これはトラックを聴いてイメージしたシチュエーションです。もともとはカフェで流れそうな、ちょっと“お昼帯”なトラックだったんですけど、リリックが決まってからトラックをさらにいじってもらって、ゴージャスな“夜帯”の曲になりました。

──「GODcustomer」はカスタマーセンターでのクレーム処理をテーマにした曲ですが、やはりお2人も仕事をしていてこういう場に直面することがあったんですか？

いつか　そうですね。私は仕事をしていて実際にクレームを受けることが多かったので。あとレストランやお店でクレームつけてる人を見てても、なんで怒ってるのかよくわかんない人ばっかりですよね。

ゴンチ　「家庭内でのケンカの八つ当たりじゃないの？」ってね（笑）

いつか　そうそう、怒りの発端がそこじゃないだろうから、そりゃ店員さんが謝っても納得しないよねっていう。

ゴンチ　前に不動産屋でバイトしてたときに、すごくクレームが多かったんですよ。その報告は私を通して上に行くので実際に大変な思いをしたのは上の人なんですけど、私は話を聞きながら「なんでこんなに怒ってるんだろう？」ってすごく思ってました。ただ怒りたいだけみたいな人とか、ちょっと話し相手が欲しいみたいな人もたまにいましたし（笑）。

──「FAQ」（質問とその回答）と書いて「ファッキュー」と読ませてるのが、すごく曲の内容に合っていていいなと思いました。

いつか　もともと「FUCK YOU」だったんですけど、そのまま書いちゃマズいってことになって。レーベルとマネージャーさんと話してたら「FAQって書けばいいんじゃない？」っていう案が出たから、「それいい表記ですね」ってことで採用しました。ライブでお客さんと一緒に「ファッキュー！ファッキュー！」って言いたかったからよかったです。やっぱり、私はみんなに歌ってほしいんですよ。自分たちの曲で、手軽に悪態を口ずさめるようになってほしいと常に思ってるんで。