音楽ナタリー PowerPush - CAPSULE

“機能を変えた”中田ヤスタカの思惑

「これってCAPSULEがずっとやってきたことじゃない?」

──そこで中田さんの「気分」を動かしているものというのは、具体的にはなんなのでしょうか?

「Another World」ビデオクリップのワンシーン。

うーん。普通に生活しているだけだから、そのときの気分としか言いようがないんですけどね。ただ、今の自分にはプロデュースと、1人でやっていることと、CAPSULEの3つがあるんですよ。プロデュースというのは、つまりマイクを持って歌っている人のために音楽を作ること。1人でやっていることというのは、映画だったり展覧会だったりCMだったり、何かのために依頼を受けて音楽を作ること。で、CAPSULEというのはそのどっちでもない……ボーカルはいるけど、すべて自分で決められるという意味では唯一の場所なわけです。普通、ボーカルがあると人の意識は歌に向かうわけですけど、自分にとってCAPSULEというのは、こしじまとしこと自分のどちらがメインでもない、ボーカルに意識が向かうこともあるし、音だけに意識が向かうこともある、つまり間奏が間奏にならない曲の作り方ができる場所なんですね。で、今はようやくそういう音楽が認められる状況になってきているなと思っていて。

──リスナーの意識が変化してきたということですか?

そう。そういう音楽の作り方はCAPSULEでずっとやってきたことで、特に今回何かを変えたわけではないんですけど、DJやフェスの現場で変化を感じることがあるんですよ。以前は、歌が抜けたあとって、みんなが次に歌が入ってくる瞬間を待つような感覚があった。それが、最近は歌が抜けても、ずっと盛り上がりが持続するというか、サビ的な部分に必ずしも歌が必要なくなってきていて。「これってCAPSULEがずっとやってきたことじゃない?」って。

──わかります。

歌モノをプロデュースするときはまったく作り方が違うんですよ。15秒のCMで使われるなら、多くは歌が入っているサビ部分ですけど、まずはそこが一番キャッチーに聞こえるように、そのあとで全体を作っていくわけで。CAPSULEではそれとまったく違う作り方の、歌が盛り上がりのピークじゃなくて、その導入部になるような曲も作ってきた。カラオケとボーカルのコンビみたいな、そういうものではないことをずっとやってきたんだけど、それがこれまでで一番受け入れられやすいタイミングが今なのかなって。

「EDMが流行っている」と思ってもらおうとしすぎている

──今言っていることというのは、現在の日本でのフェスの状況だけじゃなくて、世界的なEDMのムーブメントとも密接に関わっていると思うんですけど、中田さんは現在のEDMのムーブメントをどのように捉えていますか? 昨年は日本でもULTRA JAPANのようなEDMのフェスが大成功を収めて、そこに集まった人は、ロックフェスとかに集まっていた人とはまったく違った層だったわけですが(参照:日本初「ULTRA」に4万2000人お台場で熱狂)。

イベントはイベントだと思うんですよ。EDMのイベントに集まっている人って、たぶん、自分の家では別の音楽を聴いていると思うんですね。もちろん、EDMと呼ばれるジャンルの中でもちゃんとしたオーディオで聴くことも念頭に置いた音楽を作っているアーティストもいるし、僕はそこに可能性も感じていますけど。ただムーブメントとしてのEDMというのは、音楽にそこまで興味はないけどイベントを楽しみたいという人が集まっているからあそこまで大きくなったんだと思うんですね。そういう意味では、宣伝はうまいけど、ミュージシャンにとってはちょっと残念なことになっているのが今のEDMだと思います。

──それは、動員はあるけどCDが売れないという意味ですか?

それもありますが、自分が気になるのは、(宣伝する側が)「流行っている」と思ってもらおうとしすぎていること。

──ああ、なるほど。

「Another World」ビデオクリップのワンシーン。

EDMと呼ばれている音楽の中に、自分たちのやりたい音楽を好きな人に聴いてもらえばいいというスタンスでやっているような音楽まで取り込まれてしまって、それによってそのアーティスト自体が「売れたがってる」と思われてしまっている。EDMの本当に面白いところは、EDMのヒットコンピレーションみたいなものに入ってないところにあるのに。そういう面白いところにまでたどり着かないような、音楽そのものというより現象として盛り上がっている宣伝がされていて。そこは端的に言って、もったいないと思いますね。イベントで盛り上がる音楽の楽しさ、家で音楽を聴くことの楽しさ。僕はその両方がやりたいんですよ。でも、今は「最近、何聴いてるの?」って人から聞かれて、そこで答えた音楽を実際には買ってないような状況が生まれていて。イベントで盛り上がるだけじゃなくて、音源として持っていたいと思わせるだけの価値のある音楽も実は増えているんですよ。

──ミュージシャンサイドからは何かと否定的に語られることが多いEDMですが、すごく冷静で的確なEDM評だと思います。

僕は、「たくさんの人に聴かれて売れている音楽」という意味で名前を付けていいのは、「ポップス」だけだと思っているんですよ。それ以外は、ちゃんと音楽の名前を付けようよって。今のEDMってサウンドのジャンルではなく「売れているダンスミュージック」を指すビジネス的な単語のような気がしています。

ニューアルバム「WAVE RUNNER」 / 2015年2月18日発売 / unBORDE
ニューアルバム「WAVE RUNNER」
初回限定盤 [CD2枚組] / 3240円 / WPCL-12019~20
通常盤 [CD] / 2700円 / WPCL-12026
DISC 1
  1. Wave Runner
  2. Another World
  3. Dreamin' Boy
  4. Hero
  5. Dancing Planet
  6. Depth(vocal dub mix)
  7. Feel Again
  8. Unrequited Love
  9. White As Snow
  10. Beyond The Sky
DISC 2(初回限定盤のみ)
  1. Another World(extended mix)
  2. Hero(extended mix)
  3. Feel Again(extended mix)
  4. White As Snow(extended mix)
CAPSULE -"WAVE RUNNER" RELEASE LIVE-
(CAPSULEワンマンライブ)
2015年4月5日(日)大阪府 なんばHatch
2015年5月15日(金)福岡県 DRUM LOGOS
2015年5月22日(金)愛知県 DIAMOND HALL
2015年5月29日(金)東京都 赤坂BLITZ
CAPSULE -"WAVE RUNNER" RELEASE PARTY-
(CAPSULE出演イベント)
2015年3月13日(金)東京都 ageHa
2015年3月14日(土)石川県 AFTERHOURS、DOUBLE
2015年4月28日(火)北海道 alife sapporo
FLASH!!! -中田ヤスタカ(CAPSULE)"WAVE RUNNER" DJ TOUR-(中田ヤスタカ出演イベント)
2015年3月21日(土・祝)岡山県 YEBISU YA PRO
2015年4月10日(金)沖縄県 club lounge saicoLo
2015年4月11日(土)静岡県 Planet Cafe
2015年4月18日(土)茨城県 VOICE
2015年4月24日(金)愛媛県 CLUB BIBROS
2015年5月1日(金)京都府 世界WORLD
CAPSULE(カプセル)

Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラックや映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲、映画「アップルシード アルファ」の日本版メインテーマほか国内外の数々の音楽制作を手がける中田ヤスタカのメインの活動の場となるユニット。1997年にボーカルのこしじまとしことともに結成。2001年にシングル「さくら」でCDデビューした。作詞・作曲・編曲はもちろん、演奏・エンジニアリングなどすべてを中田ヤスタカ自らが手がけるオールインワンなスタイルから繰り出される楽曲群は、音楽界のみならず、服飾や美容、映像などクリエイティビティを共有するシーンからも熱い支持を得ている。2015年2月には通算15枚目のオリジナルアルバム「WAVE RUNNER」をリリースした。