2016年にEPICレコードジャパンからメジャーデビューし、「僕のヒーローアカデミア」「3月のライオン」「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」「真・中華一番!」など数多くのアニメ作品とのタイアップを実現してきたBrian the Sun。順風満帆にキャリアを重ねていた彼らだが、2020年9月、突然バンド活動の休止を発表した。休止前最後のワンマンツアー「Brian the Sun TOUR 2020『LIVE PARADE』」が行われている最中、Brian the Sunは12月に初のベストアルバム「BEST PARADE」をリリースした。音楽ナタリーでは、バンドの歴史を追うようにベストアルバムに収められている各楽曲のレビューを通し、彼らの活動を振り返る。
文 / 山口智男
Suitability
準グランプリを受賞したロックフェス「閃光ライオット2008」でも演奏された、アマチュア時代からのレパートリー。これぞBrian the Sunという思いが当時、メンバーたちにはあったのだろう。実際、叙情的な日本語の歌や攻撃的なオルタナロックサウンド、“愛”を主要テーマにした歌詞という現在も変わらないBrian the Sunの真骨頂が、メンバーそれぞれの主張の強い演奏とともに提示されている。「閃光ライオット」出演から5年を経た2013年6月5日、アマチュア時代の集大成という位置付けでリリースされた1stフルアルバム「NON SUGAR」に収録。
Sister
メンバーチェンジを経て、現在の4人が顔をそろえたBrian the Sunが2012年7月4日にリリースした初の全国流通盤シングルのタイトルナンバー。「Suitability」と同路線のオルタナロックナンバーながら、ポストロックを思わせる間奏やワルツになるアウトロを含め、展開ごとに印象を変える凝った構成は、なかなか挑戦的。そうした曲を初の全国流通盤シングルに選んだところに当時のバンドの向こう意気がうかがえる。絶妙に絡み合う2本のギターもスリリングだ。この曲は1stフルアルバム「NON SUGAR」にも収録されている。
彼女はゼロフィリア
2014年3月12日にリリースされた1stミニアルバムのタイトルナンバー。このミニアルバムには、バンドにとって試練だったという「NON SUGAR」レコ発ツアーの中で感じたさまざまな思いが反映されているという。彼らのルーツの1つであるArctic Monkeysを思わせるギターリフが耳に残るこの曲は、オルタナロックという意味ではこれまでの延長上にあると言えるものの、ぐっとソリッドになったアンサンブルからは持ち前の向こう意気が研ぎ澄まされてきた印象がある。彼らが「NON SUGAR」ツアー中、何を思ったのかがよく表されている。ちなみにゼロフィリアは嫉妬性愛の意。歌詞を読みながら、思わずあれこれと想像が膨らんでしまう。
ロックンロールポップギャング
1stミニアルバム「彼女はゼロフィリア」の1曲目に置かれたBrian the Sun流のパンクロックナンバー。曲中で何度も繰り返される「気に入らない事ばっかりだ。」というサビのパンチラインは、「NON SUGAR」のツアー中に森良太(Vo, G)が感じていたことをそのまま正直に言葉にしたものだそうだが、持ち前の反骨精神やあまのじゃくな性格に加え、「人間なんて灰になって終わり。」という人生観が2分21秒のシンプルな構成の中に凝縮されているような印象がある。ある意味、Brian the Sunの神髄を叩きつけるように見せる曲と言えるかも。ライブではダメ押しのアンコールとして演奏されることが多いのもうなずける。8ビートを刻みながら絶妙に跳ねるベースプレイに白山治輝(B, Cho)のセンスが光る。
神曲
曲作りから時間をかけ、じっくりと作り上げられた2014年12月3日リリースの2ndフルアルバム「Brian the Sun」は、メンバーの思惑通り、楽曲の振り幅も含め(中にはピアノの弾き語りも!)、バンドのステップアップを印象付ける意欲作となった。そこからリード曲に選ばれたこの「神曲」(かみきょく)は、いわゆる歌モノのギターロックという可能性をメランコリックなメロディの魅力とともにアピール。「僕はまだ歌うだろう ずっとずっとずっと」というサビの歌詞は、音楽に取り組む彼らの気持ちがこの時期更新されたことを想像させる。ちなみにタイトルは曲を作っているとき、メンバーが口にした「神曲きたんちゃう?」というひと言から決まった。
シュレディンガーの猫
バンドの注目度アップにつながった「スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2015」出演から、さらなるステップアップを目指すタイミングで、今一度自分たちの原点を見つめ直す必要があったのだろう。2015年11月25日にリリースされた2ndミニアルバム「シュレディンガーの猫」は、アマチュア時代に発表された3曲のセルフカバーと新曲2曲からなる変則的な内容となった。そのタイトルナンバーは2009年7月12日に自主制作盤としてリリースされた1stシングル「Canary」の収録曲。ギターリフが切迫した空気を作る中、4人のアンサンブルが複雑に絡み合う、難易度の高いこのオルタナロックナンバーは、彼らが高校生時代に作ったものだということに驚かされる。
HEROES
2016年6月1日にリリースされたメジャー1stシングルの表題曲。テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」のエンディングテーマというタイアップに真正面から真摯に取り組み、インディーズ出身のアーティストがこだわりがちなエゴを捨て、アニメとコラボレーションする気持ちで挑んだ結果、Brian the Sunが持つ歌モノのギターロックの可能性がさらに磨き上げられた。すっきりと音数を整理したアンサンブルも新境地を思わせる。その後「HEROES」は2017年1月11日リリースのメジャー1stアルバム「パトスとエートス」に収録され、ライブでも重要なレパートリーに。国内のみならず海外のアニメファンにも歓迎され、2019年のアメリカ、メキシコツアーの開催へとつながった。
Maybe
2016年9月7日にリリースされたメジャー2ndシングル曲「Maybe」は、アップテンポのロックナンバーだった「HEROES」から一転、Brian the Sun流のネオアコに。森曰く「自分のためだけに書こう」と思って書いた曲がアニメ「甘々と稲妻」のエンディングテーマに抜擢され、Brian the Sunの隠れた名曲として世に残ったことは、バンドにとってもファンにとっても幸運な出来事だった。味わい深いメロディと惜別の思いをつづったと思しき幻想的な歌詞、それを際立たせる音数の少ないアンサンブルは、曲調こそ違えど「HEROES」の延長上にあるものだ。メジャー1stアルバム「パトスとエートス」にも収録。ギターのボディを存分に鳴らしたコードストロークの音色が耳に残る。
パトスとエートス
メジャー1stアルバムのタイトルナンバー。タイトルでも謳っている2つの軸より、パトス(衝動)サイドを象徴する激しい曲調は、メジャーデビューを機に周囲の期待にもちゃんと応えようとするも、一方で感じずにいられなかった葛藤が大きな反動とともに表れたものだろうか。難易度の高いオルタナロックナンバーという意味では、「シュレディンガーの猫」に通じるものの、4人が一丸となったアンサンブルは音数を詰めながら、洗練が感じられるところにバンドの成長がうかがえる。小川真司(G, Cho)がサビで奏でる、チョーキングからのリードギターがすこぶるカッコいい。
Sunny side up
「パトスとエートス」のリリースツアーを挟んで、2017年7月5日にリリースされたメジャー1stミニアルバム「SUNNY SIDE UP」の収録曲。新たなサウンドを求め、全5曲それぞれに違う曲調に挑んだ「SUNNY SIDE UP」の中で、テレビアニメ「兄に付ける薬はない!」に主題歌として提供されたこの曲は、新機軸と言えるリズミカルなアプローチがポップな魅力につながっている。イントロの軽快なギターのカッティング、サイドギターとリードギターのコンビネーション、そしてリズムが突然裏打ちになるBメロのアレンジに加え、中国人の兄妹を主人公にしたアニメに合わせて中国語で“兄”を意味する「グーグー」(歌詞では「good good」表記)、“妹”を意味する「メイメイ」(歌詞では「銘々」表記)という言葉が使われているのは、リズミカルな語感を意識してのことだろう。そんな遊び心も聴きどころだ。
隼
ミニアルバム「SUNNY SIDE UP」の1曲目に置かれたBrian the Sun流のカントリーロックナンバー。駆け抜けるような演奏が心地いい。「SUNNY SIDE UP」には5曲それぞれに掲げられているテーマとは別に、2019年に発表された楽曲「死」にもつながる“生と死は表裏一体”という大きなテーマが設けられているのだが、「隼」が第二次世界大戦で使われた日本の戦闘機の愛称であることを知れば、“今はもういない君”を思う歌詞も、軽やかな演奏もまた違ったものに聞こえるに違いない。
カフネ
テレビアニメ「3月のライオン」のエンディングテーマとして書き下ろされたバラードナンバー。2017年11月15日にシングルとしてリリースされ、翌2018年1月10日発表のメジャー2ndアルバム「the Sun」にも収録された。バンドサウンドにピアノとストリングスを加え、「The Beatlesっぽい」なんて言葉も頭をよぎる王道のアレンジは、スピッツらを手がけたプロデューサー・笹路正徳とのタッグチームによるものだ。個人的にはリリース前にライブで初披露されたとき、胸をわしづかみにされた記憶がある。ポルトガル語で愛する人の髪にそっと指を通すしぐさを意味するタイトルや歌詞から浮かび上がるのは幸せな風景であるにも関わらず、曲そのものは切ないというところに、作詞・作曲を担当した森ならではの作風が出ている。
the Sun
メジャー2ndアルバム「the Sun」のラストを飾るクラシックロック調のバラードナンバー。アルバムを作るにあたって、彼らはポップなメロディ、カラフルなサウンド、そしてわかりやすいメッセージを意識したそうだが、アルバムの全11曲中、この曲が最も胸を打つのは、メンバー全員で歌い継ぎながら「太陽に僕らなれますように」と語るメッセージだ。当時結成10周年を迎え、バンドの存在理由と使命を改めて感じるようになり、それをファンに伝えようとしていることは明らか。だからこそ、メンバー全員で歌うことに意味があった。Brian the Sunは活動休止を発表したが、彼らが歌った「生まれ変わっても もういちどバンドをやろうぜ」という言葉を信じている。
Lonely Go!
アルバム「the Sun」から1年ぶり、2019年1月9日にリリースとなったメジャー4thシングルの表題曲。テレビアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のオープニングテーマとして書き下ろされただけに「HEROES」に通じるアップテンポのロックナンバーになっている。しかし、主人公の気持ちを代弁した「HEROES」とは違って、森がここで歌っているのは改めての所信表明。「the Sun」発表から1年の間で周囲の期待に応えることをやめて、「自分が120%やりたい音楽を作ろう」と腹を決めたそうだ。4人だけの音に回帰したバンドサウンドも「HEROES」に比べ、より力強いものになっている。2019年3月13日発売のメジャー3rdアルバム「MEME」にも収録。
まじでうるせえ
「Lonely Go!」に引き続き、多くのバンドを手がけるサウンドプロデューサー・江口亮とタッグを組んで作られたアルバム「MEME」の収録曲。1990年代のオルタナロックの影響のみならず、むき出しのバンドサウンドで原点に回帰したこのアルバムから、田中駿汰(Dr, Cho)の前ノリのドラムをはじめ、もっともパンク色の濃いこの曲が選ばれたのは、もしかしたらサウンドのインパクトよりも歌詞のメッセージが決め手になったのかもしれない。Brian the Sun流パンクロックという意味では、「ロックンロールポップギャング」を連想させるところもあるが、この曲にはそこから重ねてきたキャリアにふさわしい成熟が感じられる。タイトルはいかにもパンクで投げやりだが、歌っているのはBrian the Sunによるポジティブな“Going My Way”宣言。そして、現在の彼らは自分たちのファンに対する愛を叫ぶことも忘れない。
パラダイムシフト
2019年11月20日にリリースされたメジャー5thシングル曲。2020年2月26日発表のメジャー2ndミニアルバム「orbit」にも収録された。イントロがどこかオリエンタルな旋律になっているのは、テレビアニメ「真・中華一番!」エンディングテーマとして書き下ろされたからだそう。ドラムの16ビートをはじめ、新境地と言えるファンキーかつダンサブルなアプローチも聴きどころ。これはアメリカとメキシコでライブを行った際、観客の反応からリズムをグルーヴさせる気持ちよさを感じ取った経験が自然に反映されたそうだ。軽快なカッティングを含め、小川のギタープレイからは、そういう曲を演奏するにあたって、かなり研究を重ねたことがうかがえる。メロディアスなフレーズをたたみかける持ち前のプレイもかなり洗練されてきた。
春風
「春風」はBrian the Sunが今年4月のコロナ禍にリモート形式でレコーディングし、YouTube上で発表した新曲。ベスト盤収録にあたり、改めてスタジオで録音された。ミドルテンポのフォークロックというところは変わらないものの、揺れるように鳴るオルガンの音色とギターのリバーブ感が作り出す幻想的な音像が面白い。ずしっと重たいリズムも含め、メンバーが語った「2020年の春のなんとも言えない雰囲気」が表現されているのだろう。森によるアコースティックギターの弾き語りに、3人が即興風に音を重ねたリモートレコーディングバージョンと聴き比べてみるのも面白いかも。森はコロナ禍の中で、改めて「なぜ自分が歌うのか」を確認したようだ。
Love and Hate
「BEST PARADE」でCD初収録となる新曲。ブリッジはあるものの、サビらしいサビがない構成からは、リフレインするメロディに対する自信がうかがえる。曲をこねくり回す必要などなかったのだろう。そんなことを想像させるストレートなロックナンバーとなっている。メンバーそれぞれに主張しながら、それらが1つに溶け合うような絶妙なアンサンブル。活動を休止するタイミングではあるけれど、Brian the Sunの今後に期待せずにいられない。歌詞はラブソングに思えるが、かつて森は「男女の恋愛と思わせ、音楽に対する情熱を歌っている」と語ったこともある。果たして、この曲は⁉