ほぼ“大喜利”と化したレコーディング
──前作「FICTION」のときは、縛りを与えていたからこそクリエイティブになっていたところもあったと思うんですよ。そこを取り払ったことで、逆に迷いが生じたりはしませんでしたか?
高木 それはなかったですね。むしろ制約を取り払ったことで、“今何ができるか”が可視化されたと思います。例えば前のアルバムではサポートを入れずに5人だけで演奏したから、「じゃあ今回はホーンセクションも入れられるし、ひさしぶりにそれでやってみよう」とか「クリックを使えるから、それを生かしたハウスっぽいグルーヴを『魔法』で試してみよう」みたいなことができた。
──ずっと自由な状態ではなく、縛りを経て再び自由になったことでより飛躍できたわけですね。
高木 そうなんです。だから、これを繰り返したらいいんじゃないかなと思いましたね。次は制約をかけて、その次は制約を外して……みたいに(笑)。実際のところ、制約をかけて作るのも面白いんですよ。それによって、今まで思いつかなかったアイデアが出てくるから。ただ、前作を経ての今回のアレンジは、より面白くなってると思います。アナログテープを楽器に通す一方で、超最新のテクノロジーもたくさん導入してる。
いけだ 僕は今回、「ラブコメディ」と「LUCKY STRIKE」で実機のクラビネットを弾きました。「ラブコメディ」は、スティーヴィー・ワンダーが「Superstition」でクラビを何台も重ねているのに触発されて、3台くらい重ねています。「LUCKY STRIKE」ではクラビや生のローズピアノを歪ませたり、アップライトの蓋を開け放ってそこにマイクを立てて録音したり。
Kanno ドラムも「魔法がとけるまで」は完全に打ち込みだけど、逆に生ドラムだけで録った曲もある。「乱痴気」はスネア、キック、ハイハットは生で、タムは電子ドラムを使ってます。「L・G・O」は、電子ドラムでエレクトロっぽい音にしたり、キックを手で叩いたりしてるんですよ(笑)。
高木 ギターも設定を変えた2台のギターアンプをステレオマイクで録って不思議なステレオ感を出すとか。過去イチ複雑なことをやっていますね。
サトウ 後半はもう大喜利みたいになってたよね(笑)。それも前作で制約を設けてレコーディングしたからこそ、そうなったんだと思います。亀仙人(マンガ「ドラゴンボール」のキャラクター)の甲羅あるじゃないですか。めっちゃ重いから外すとその分高く飛べる、みたいな。そこで初めて見えてくる景色がある感じに近い。
高木 わかりやすい(笑)。例えば「L・G・O」ではもともとチェロを入れようと思ってたけど、「ここは俺がフレットレスベースで弾いたほうがいいかな」と思い直したんですよ。前作で制約をかけたことで安直なことをやらなくなったから、その分今回も的確な選択ができるようになったのかなと。
林 そうだね。それは制約をかけた前作があったからこそだと思う。
“クラシック脳”と“ジャズ脳”の使い分け
──個人的に「眼差し」がとても好きなのですが、この曲はどんなふうに作っていったんですか?
高木 今回、僕が事前にデモを作ったのは「ブレイクスルー」と「L・G・O」、それから「眼差し」の3曲で。今回のアルバム制作は2022年12月から2023年初頭と、2023年8月以降に分かれていて、その間はずっとライブをやっていたから曲をなかなか作れなかったんです。そんな中「眼差し」は、そのブランクを経てやっとできた曲でした。自分は幼少期の記憶が人より少ないんですけど、自分の母親、メンバーやスタッフのお母さんの顔を思い浮かべて、泣きながらデモを作りました(笑)。「母の眼差し」がテーマの曲です。
──この曲の中盤のシンフォニックでドリーミーな展開はまさにBREIMENの真骨頂だと思います。こういうアイデアは、高木さんのどんな引き出しが開くことで生まれるのでしょうか。
高木 うーん、どうなんだろう。母親がクラシックのフルート奏者、父親がジャズ出身のフラメンコギタリストで、幼少期から家ではクラシックやジプシージャズなど変な音楽ばっかり流れていたんですよ。俺自身の原体験というか、音楽を聴いたり楽器を弾いたりし始めた頃に夢中だったのはレッチリ(Red Hot Chili Peppers)なんですけど、それより以前の、記憶の片隅にあるものが、最近はより自然と出始めている気がします。
──「yonaki」のような、不協和音スレスレの摩訶不思議なコード進行は?
高木 あれはどちらかと言えばジャズの影響ですかね。俺の中に“クラシック脳”と“ジャズ脳”が混在していて、それを使い分けているのかもしれない。
林 そういう意味では、楽器のチョイスもジャンルのミックス具合も曲ごとに違っていて。カツシロが最初に言ったように、これだけバラバラの楽曲がよくアルバムの中でまとまったなと。ジャンルも質感も全然違うけど、この5人がアレンジを考えて演奏しているから、なんとか1枚のアルバムに収まったような気がしています。
高木 今回、エンジニアが佐々木優さんだけでなく3人いて。しかもアシスタントエンジニアのような若手のエンジニアも合わせると5人以上関わってくれているんですよ。
林 控え選手がベンチで待機してる、みたいな状態(笑)。
高木 スタジオにこもる時間が長くて、てっぺんも平気で越えちゃうから、入れ替わり立ち替わり作業してくれました。夜通しギターソロを録ったり、急遽オルガンソロを入れたくなったり、いろいろ無茶なお願いもしたけど、「BREIMENなら俺がやりたい」と言ってスケジュールを調整してくれて。このアルバムはエンジニアさんのおかげで完成したようなものです。
俺らが楽しめるライブにしたい
──本作を引っさげてのツアーも控えていますが、これをステージで再現するのは大変そうですね。
林 そうなんですよ。BREIMENのアルバムって「FICTION」以外はホーンセクションがふんだんに入っているけど、ライブでは俺が1人で再現しなければならない。「ああ、ライブだとしょぼくなっちゃうんだな」とは絶対に思わせたくないけど、そのための方法を考え始めるとゲボが出ちゃうので(笑)、現段階では何も考えていません!
いけだ 考えると出ちゃうからね(笑)。鍵盤もそうだよ。「棒人間」(「TITY」収録曲)を出した頃のBREIMENは「ライブで再現可能な、オーガニックなサウンドを鳴らそう」というコンセプトだったから、俺も「よっしゃ!」と思ってメンバーになったんですよ。でも「Play time isn't over」くらいから「音源とライブは別。レコーディングに命を注ぎ込み、ライブのことはあとからゆっくり考えよう」みたいな状況が続いていて。最近は“手の空いてる人がなんらかの音を担当する”という、コラージュアートみたいなライブをしていたけど、今回はだいぶ違うニュアンスになる気がします。お客さんには「全然違うじゃん!」と、笑顔で驚いてもらえるとうれしいですね。
高木 ライブでのお客さんのリアクションを想像しながら作った部分もあるのに、まったく違うアレンジにしてしまう可能性は大いにあるからね(笑)。基本的にまず俺らが楽しめるライブにしたい。このバンドはうまいバランスで成り立っていて、林やいけだのように「忠実に再現しよう」と考えてくれるメンバーがいるおかげで、俺やカツシロ、そうちゃんはわりかし自由に演奏できるんですよね。しかも今回は“踊れるアルバム”を目指したので、きっと楽しいステージになるんじゃないですかね。「乱痴気」だけベースが激ムズなので、やらない可能性はあるけど……。
いけだ みんな、いつ「乱痴気」をやってくれるか楽しみにしてるから(笑)。
サトウ あ、でも昨日「乱痴気」をやっている俺たちの姿をイメージしてたら……。
高木 お、いけそう?
サトウ 気持ち悪くなってやめた。
一同 (笑)。